2023年4月29日、中野サンプラザで行われる最後のヘッドフォン祭「春のヘッドフォン祭2023」においてヘッドフォン祭としては過去最大規模のブースを出展したfinalは、イベント当時にメディア向けイベントを開催。finalブランドの完全ワイヤレスイヤホン「ZE8000」を所有するユーザーに向けた新サービス「自分ダミーヘッドサービス」、DITAブランド初のスティック型USB DACアンプ「Navigator」、新ブランド「REB」を発表した。ここでは、それぞれの内容を詳しくレポートしよう。
finalの新サービス「自分ダミーヘッドサービス」は、「ZE8000」の発表時にアナウンスのあった専用カスタムイヤーピースを土台とした個人最適化ソリューションだ。専用のカスタムイヤーピースと個人最適化をセットにした形で提供され、サービス提供は7月を予定。費用は1台あたり55,000円を予定しているそうだ。なお、同サービスは、個人最適化したパラメーターを「ZE8000」に搭載するため、手元にある「ZE8000」を一度finalに預ける必要があるほか、全3回finalに来社する必要がある。ユーザー自身の「ZE8000」がメーカー一時預かりになるため、同サービス利用時には代替機が提供されるそうだ。
「ZE8000」ユーザー向けに提供を予定している個人最適化ソリューション「自分ダミーヘッドサービス」。内容にこだわりすぎた結果、全3回finalに来社する必要がでてきたそう。「ZE8000」よりも高価な55,000円という価格設定だが、原価計算をしてしまうとまともなサービスにならないため、今回はその部分をあきらめることで実現しているという。かなりとがったサービスなのは間違いない
これまでにも空間再現や前方定位などにフォーカスしたイヤホン・ヘッドホンの個人最適化ソリューションというものはあったが、今回finalが開発した「自分ダミーヘッドサービス」は、「ZE8000」の持つ“8K SOUND”のメリットを最大化し、音色認識を向上させることにフォーカスを当てて開発した点がほかのサービスと大きく異なるという。
同社が“8K SOUND”と呼ぶ楽器や声のどこに注意を向けても、奥行きも含めてすべてにフォーカスが合うという「ZE8000」の特徴を最大化するために開発されたのが、今回の「自分ダミーヘッドサービス」だ
現実で聴いた音と録音データを聴いた音を区別できないほどの自然な音色というものを実現するためには、使用するイヤホン・ヘッドホンの物理特性はもちろんのこと、使用するユーザーの人体形状特性による物理特性への影響まで考慮する必要があるという。今回発表された「自分ダミーヘッドサービス」が全3回の来社をともなう作業工程を経て精緻な個人最適化を行う形となったのも、使用するユーザーの人体形状特性に合わせた最適化に徹底的にこだわったためだという。
finalが目指す“完全な没入体験”を実現するためには、イヤホン・ヘッドホンそのものの物理特性だけでなく、使用するユーザーの人体形状特性による物理特性もしっかりと考慮する必要があり、今回の「自分ダミーヘッドサービス」では全3回の来社をともなう作業工程になったという
3回の来社時に行う具体的な内容だが、1回目の来社時には上半身と外耳道の形状を測定し、測定データを基に使用するユーザーを模したバーチャルのダミーヘッドを作成。このデータをfinalがバーチャル空間に用意した独自の無響室に配置し、ワークステーションひとりあたり5時間ほどかけて最適なデータを導き出すという。2回目の来社時には専用カスタムイヤーピースの仮合わせと専用イヤーピースを装着したうえで外耳道内の音響物理特性を測定し、さらなる個人最適化を実施。3回目の来社で音響テストによる最終調整を行い、独自の個人最適化パラメーターを書き込む。ここまで終わり、ようやくカスタムイヤーピースを装着した「ZE8000」が手渡される。
1回目の来社時に行われる上半身の3Dスキャンの様子。現在、ユーザー自身で簡易的な個人最適化が行えるソリューションの研究開発も行っており、今後の展開を見据えてiPhoneのカメラを使って測定する形にしているそうだ
耳介や外耳道入口の3Dスキャンの様子。できるだけ高精度な測定データを取得するため、一般的な耳型採取で用いられるインプレッション材を使った測定ではなく、レーザー測定器を使う形になったという
1回目で測定したデータを基にバーチャルのダミーヘッドを作成
独自開発したソフトウェアを活用し、バーチャル空間に配置したダミーヘッドの音響物理量を計算。ここで得られたパラメーターを使い、最適化をさらに進めていく
ちなみに、専用のカスタムイヤーピースも、一般的なカスタムイヤーピースに求められる装着感を高めるという目的ではなく、常に最適な物理特性を得るという目的のためのツールのひとつという認識だという。そのため、今回の専用カスタムイヤーピースでは、一般的なカスタムイヤーピースのような外耳道の奥で密閉する形ではなく、圧迫感を抑えるためにショートノズルを採用し、耳介の形状に合わせて面で密閉を確保できるようにしているそうだ。
最終的には、個人最適化したパラメーターを搭載し、専用カスタムイヤーピースを装着した「ZE8000」が手渡されるという。なお、個人最適化したパラメーターはユーザー側で切り替えることはできないそう。専用カスタムイヤーピースも取り外すことは可能だが、ひんぱんな付け替えは非推奨とのことだ
なお、今回提供となるサービスのほかに、iPhoneのカメラを使った簡易的な個人最適化も研究開発を進めているそうだが、求めるクオリティを実現するまでには達しておらず、導入されるかどうかは現時点で未定とのこと。finalが目指す“完全な没入体験”をいち早く試してみたいという人は本サービスを利用するのがよさそうだ。
DITAブランドから発表があったのは、ブランド初のスティック型USB DACアンプ「Navigator」。DITAと言えば、世の中にありふれたコモディティ化したものではなく、音質と所有欲の両方を満たす徹底的にこだわった製品開発を得意とするブランドだが、今回発表となった「Navigator」も、かなり強いこだわりを持って製品開発されている。
DITAブランド初のスティック型USB DACアンプ「Navigator」
なかでも注目なのが筐体デザイン。高強度のアルミマグネシウム合金を5軸CNCマシンで切削加工した13個ものパーツを組み合わせて作られている。持ち運んで利用する際に音量ボタンが誤動作するのを防ぐ凹型のボタンや、スマートフォンを立てかけることができる折りたたみ式のスタンドなど、デザイン性や耐久性もちろん、使い勝手に関する部分も手間を惜しまずに作り込んだそうだ。
「Navigator」の筐体にはアルミマグネシウム合金から削り出した13個ものパーツが使用されている
スマートフォンを立てかけられる折りたたみ式のスタンドや、誤動作を防止する凹型の音量ボタンなど、使い勝手に配慮したデザインも「Navigator」の大きな特徴だ
DACについては、ESS社製「ES9219」をデュアルで搭載し、768kHz/32bitまでのPCM、DSD 256までのネイティブ再生に対応。クロックもFPGA制御独立水晶発振器クロックを2基搭載する。ヘッドホン出力は、3.5mmアンバランス出力と4.4mmバランス出力を搭載。最大出力も340mWと、スティック型USB DACアンプとしてはなかなか強力だ。国内は400台限定で2023年夏頃の発売を予定しているそうだ。
ヘッドホン出力は3.5mmアンバランス出力と4.4mmバランス出力の2系統用意。入力端子はUSB Type-Cだ
「REB」は、既存のfinal、agとは異なる“ユーザーの楽しいを実現させる”をコンセプトにした新ブランドだ。同社が定期的に実施している「組み立てイヤホン体験会」や、音を自分好みにチューニングできる「MAKE」シリーズのコミュニティサイト「MAKER’S」、直営ストア「final STORE」での各種イベントなど、これまでにもユーザー同士やユーザーとメーカーのコミュニケーション活性化に向けたさまざまな取り組みを行っていた同社だが、今後は新ブランド「REB」でこれらをさらに発展させていくという。
“ユーザーの楽しいを実現させる”をコンセプトにした新ブランド「REB」
第1弾の取り組みとしては、「MAKE」シリーズのコミュニティサイト「MAKER’S」の一般ユーザーへの開放、直営ストア「final STORE」の「REB」への統合を予定しているという。また、ユーザーの声を反映した新製品やカスタムパーツの開発も進めていくそうで、今回のヘッドフォン祭会場では、今後「MAKE」シリーズで展開を予定している試作機やカスタムパーツが初披露されていた。
「MAKER’S」や「final STORE」の「REB」への統合を通じてコミュニティをさらに活性化させるほか、ユーザーの声を反映したオリジナル製品開発なども担っていくという
ユニバーサルIEMとしてだけでなく、カスタムイヤーピースを装着することでカスタムIEMのような高い装着感を得られるという開発中の「MAKE」シリーズの試作機。イヤホンのコアな部分は従来の「MAKE」シリーズ同様、チューニングパーツを用いて自分好みの音にカスタマイズもできるという
現在開発中の「MAKE4」向けの音導管カスタムパーツ。軸の短い完全ワイヤレスイヤホン向けのイヤーピースの装着を想定したものや、真ちゅう素材を使用したものなどを準備しているそうだ
ほかにも、これまで神奈川県・川崎市にある直営店でしかできなかったイベントを全国各地を回って実施する「REBフェス」の開催、工場見学ツアー、ユーザー参加型の配信イベントなど、さまざまなアイデアを現在検討しているそう。今後の展開にも要注目だ。
PC・家電・カメラからゲーム・ホビー・サービスまで、興味のあることは自分自身で徹底的に調べないと気がすまないオタク系男子です。PC・家電・カメラからゲーム・ホビー・サービスまで、興味のあることは自分自身で徹底的に調べないと気がすまないオタク系男子です。最近はもっぱらカスタムIEMに散財してます。