レビュー

ヒマラヤDAC搭載TWSなどHIFIMANの注目新製品3モデルを一気レビュー

HIFIMANは平面磁界型やプラナー型と呼ばれる振動板を採用した高級ヘッドホンがいちばんの有名どころだが、近ごろはイヤホンやヘッドホンアンプにも積極的で、さまざまな製品を矢継ぎ早にリリースしている。

そんなHIFIMANから、このたびハイエンド完全ワイヤレスイヤホン、密閉型の高級ヘッドホン、ユニークなデザインのDAC内蔵ヘッドホンアンプという3つの新製品が登場。それぞれ注目に値する上質かつ個性的な製品となっているので、本稿で一気に紹介させていただこうと思う。

ヒマラヤDAC搭載TWSなどHIFIMANの注目新製品3モデルを一気レビュー

ヒマラヤDACを搭載した完全ワイヤレスイヤホン「Svanar wireless」

まずは、4月29日に開催された「春のヘッドフォン祭 2023」にて国内初披露され、6月20日に発売されたばかりの最大の注目株である、完全ワイヤレスイヤホンの「Svanar wireless」から紹介していこう。

完全ワイヤレスイヤホン「Svanar wireless」

完全ワイヤレスイヤホン「Svanar wireless」

本製品、中国ではつい先日販売が開始されたばかりなのだが、あっという間に売り切れて現在はバックオーダーを抱えている状態だという。そんな状況の中、中国について販売がスタートするのが日本となる。アメリカ市場を比較的重要視するHIFIMANが、彼の地よりも先に日本で販売スタートするのは異例のこと。それだけ、「Svanar wireless」の日本での反響が大きかったのだろう。

実際、「Svanar wireless」は特異なポジションに位置する完全ワイヤレスイヤホンだ。まるでジュエリーのようなデザインを持つイヤホン本体と充電ケースは、確かに高級感がある。そのあたりは、MASTER & DYNAMICやB&W(Bowers & Wilkins)、Bang & Olufsenなどにも見られるような、機能性だけではない、身につける製品としての上質さも考慮されている印象だ。製品を実際に手に取ってもらえるとわかるが、シルバーを基調としたイヤホン本体は、さながらシルバーアクセサリーのよう。分類的には“バータイプ”などと呼ばれている形状だが、“うどん”と呼ばれるような微妙なデザインではなく、とてもスマートな印象にまとめ上げられている。充電ケースも、貝のような開き方をするユニークな構造で、上質な佇まいだ。

シルバーアクセサリーのような高級感のあるデザインが印象的

シルバーアクセサリーのような高級感のあるデザインが印象的

凝ったジュエリーケースのような独特の造形が特徴的な充電ケース

凝ったジュエリーケースのような独特の造形が特徴的な充電ケース

とはいえ、そこはHIFIMANならでは、デザイン至上主義にならず、あくまでも音質を重視した製品づくりがなされている。まず、イヤホン本体は特徴的でスマートなデザインの外側に対して、耳に触れる内側はインイヤーモニター然とした造形となっており、良好な装着感を実現している。これによって高い遮音性を確保し、ピュアな音が楽しめるようになっているわけだ。この形状のおかげもあってか、アクティブノイズキャンセリング機能に関しては-35dBというかなりの高性能さを実現している。

耳に触れる内側はインイヤーモニターのような立体的な造形で、耳へのフィット感も良好だ

耳に触れる内側はインイヤーモニターのような立体的な造形で、耳へのフィット感も良好だ

オーディオパートにも、同社ならではの独自技術がいくつも採用されている。まず、ドライバーは10mm口径のダイナミック型を搭載、さらに振動板表面に特殊なメッキ処理を施す「トポロジーダイヤフラム」を採用することで、低域の迫力とボーカルの伸びやかさが巧みに両立した良質なサウンドを作り上げているという。また、DACはBluetoothチップ内蔵のものではなく、同社独自のR2Rラダー方式「ヒマラヤDAC」を搭載。標準的なBluetoothレシーバー内蔵の1ビットDACよりも、明瞭なサウンドが楽しめるという。

ここで、オーディオに詳しい人だったら必ずビックリするはず。そう、完全ワイヤレスイヤホンという小さいボディに大量の抵抗チップが並ぶ、R2R方式のDACを搭載しているのだ。そもそもR2Rラダー方式DACとは、1bitごとに対向を配置することでマルチビットDACと同じ機能性を持たせるもの。基板の面積が広くなってしまうこと、抵抗の品質をシビアに揃えなければならないこと、24bitの分解能を持たせるには大量の抵抗が必要になることなど制約は多いものの、その分自然で聴き心地のよいサウンドを実現できると言われている。

一般的には、据え置き型の高級DAC、それもごく一部の製品に採用されている特殊なタイプだが、HIFIMANでは比較的小面積にまとめ上げた「ヒマラヤDAC」を作り上げ、ヘッドホンアンプやBluetoothレシーバーに搭載している。そんなたいそうなDACが、完全ワイヤレスイヤホンの小さいボディに詰め込まれているのだ。内部構造を確認していないのではっきりとしたことは言えないが、これまでにない画期的な試みであることは確かだ。メーカーも“総額300,000円の「Svanar」と「EF400」の組み合わせを完全ワイヤレスイヤホンで実現、音質も約95%近いレベルを達成した”とアピールしている。

なお、イヤホン本体での連続再生時間は、HIFIモードで約4時間、アクティブノイズキャンセリングモードで約6時間、通常モードで約7時間とのこと。充電ケース併用では、最大28時間(通常モードの場合)の使用ができるという。音質を最優先したR2R方式DACを採用しているためだろう、連続再生時間は決して長くはないが、それでも必要十分な長さは確保されている。

今回、製品版が間に合わず最終サンプルでの試聴だったため、音の傾向は参考にする程度に留めてほしいが、それでもメリハリのよさと階調表現のきめ細やかさが巧みに両立していること、R2RならではHIFIMANならではのクリアネスで耳なじみのよい自然な音色に驚かされた。完全ワイヤレスイヤホンとしては格別のサウンドと言える。ぜひ、皆さんも製品を手にとって試聴してみてほしい。

プラナー型振動板ドライバーを搭載した密閉型の高級ヘッドホン「Audivina」

Audivina」は、HIFIMANが得意とするプラナー型振動板ドライバーを搭載した密閉型ヘッドホン。スタジオモニターを標ぼうすることから、正確な再現性と客観的な音表現を追求したモデルであることがうかがえる。

密閉型ヘッドホン「Audivina」

密閉型ヘッドホン「Audivina」

ハウジング部は、音響を追求したデザインを木材で作り上げている(材質は非公表)。その内部には、HIFIMANお得意のNEO Supernano振動板やステルスマグネットを採用したブラナー型ドライバーが搭載されている。

ハウジング部は木材で、音響を追求した形状を採用したという

ハウジング部は木材で、音響を追求した形状を採用したという

NEO Supernano振動板やステルスマグネットを採用したブラナー型ドライバーを搭載

NEO Supernano振動板やステルスマグネットを採用したブラナー型ドライバーを搭載

また、金属製のヘッドバンドは、CNCマシンによる加工ののち手作業で仕上げたという、なかなか美しい仕上がりを持つ。着脱式のケーブルは、3.5mmステレオ、6.35mmステレオ、XLR4pinバランスの3つが同梱されている。イヤーパッドは合成皮革とスエード調生地のハイブリッド構成で、装着感はなかなかに良好だ。

金属製のヘッドバンドは見た目も美しい

金属製のヘッドバンドは見た目も美しい

さて、実際のサウンドはというと、まず密閉型とは思えない自然な音場的広がりを持つことに驚かされた。左右だけでなく、前後もスムーズに広がってくれるので、楽曲の音場表現がわかりやすく伝わってくる。ライブ音源などでは、会場の空間がしっかりと把握できたりもする。密閉型でここまでの音場表現を持つ製品は、ほとんど存在していない。それだけでも、大きな魅力と言えるだろう。

解像感も高く、細かい部分のニュアンスまであまさず伝えてくれるので、特にアコースティック楽器の演奏は普段よりもリアルに聴こえる。音色は、高域がしっかりと伸びたクリア志向のキャラクターで、このあたりの音色傾向はHIFIMANらしさが存分に感じられる。密閉型ヘッドホンが苦手な人も大いに気に入りそうな、絶妙なサウンドキャラクターを持つ製品だ。

縦型のユニークな筐体を採用したDAC内蔵ヘッドホンアンプ「EF600」

EF600」は、ヘッドホンスタンドとして利用することもできる、DAC内蔵ヘッドホンアンプ。DACはHIFIMANが得意とする「ヒマラヤDAC」の進化版「ヒマラヤPro」をLR独立のデュアル構成で搭載。同社が指標とする24bit構成を持つマルチビットDACの雄であるバーブラウン「PCM1704」(近年のDACチップは10bitくらいのマルチビットと1bitを組み合わせた構成が多い)を越えるSN比とチャンネルセパレーションを実現したとアピールする。

DAC内蔵ヘッドホンアンプ「EF600」

DAC内蔵ヘッドホンアンプ「EF600」

内部は、ヘッドホンアンプ部までを含むフルバランス回路を採用。同時に、ハイローの切り替えも用意し、そのうちのハイゲインは高級ヘッドホンを鳴らしきる高出力を確保しているという。

正面下部に配置されているヘッドホン出力は、XLR 4pinと6.35mmの2系統用意

正面下部に配置されているヘッドホン出力は、XLR 4pinと6.35mmの2系統用意

多彩な接続方法に対応したのも「EF600」の大きな特徴だ。USBや同軸などのデジタル入力に加え、Bluetooth機能やXLR/RCAアナログ入力も備わっていて、これ1台でさまざまなシステムを構築することが可能。入力セレクターや音量調整も採用しており、プリアンプとして活用することもできる。

「EF600」の背面。USB Type-BやUSB Type-C、同軸といったデジタル入力に加え、RCAやXLRバランス入出力も用意されており、多彩な接続方法が可能となっている

「EF600」の背面。USB Type-BやUSB Type-C、同軸といったデジタル入力に加え、RCAやXLRバランス入出力も用意されており、多彩な接続方法が可能となっている

ユニークな縦長デザインの筐体は、大型トロイダルトランスを搭載しつつ専有面積を小さくすること、電動ファンなしでも効率よく排熱できることを目的として生み出されたようだが、ヘッドホンスタンドとしても活用できる点はありがたい。デスクトップ用ヘッドホンアンプとして、大いに活躍してくれそうだ。

「EF600」は、縦型デザインを生かしてヘッドホンスタンドとして利用できるのも特徴

「EF600」は、縦型デザインを生かしてヘッドホンスタンドとして利用できるのも特徴

さて、そのサウンドはというと、下位モデル「EF400」に対して明らかにSN感が向上している。音のディテールが把握しやすい、きめ細やかな表現だ。ヘッドホンアンプ部はさらに優秀で、高級ヘッドホンをしっかりと鳴らしきってくれる。リファレンスとして利用しているオーディオテクニカ「ATH-ADX5000」は生き生きとしたサウンドを聴かせてくれたし、final「D8000Pro」やゼンハイザー「HD800」などヘッドホンアンプを選びがちな製品も、それぞれの特徴がしっかり伝わる、十全といい切れるサウンドを聴かせてくれた。

ちなみに、「ATH-ADX5000」や「HD800」はローゲインでも十分な音量で鳴ってくれ、「D8000Pro」のみハイゲインのほうがマッチしていた。また、この「EF600」にも「ヒマラヤDAC」シリーズ特有のOS(オーバーサンプリング)/NOS(NOS=ノン・オーバー・サンプリング……ビット数をアップコンバートせずそのままアナログ化する方式)選択が付属しているが、基本的には好みの範疇、個人的にはNOSがメインでよいと思う。そう思えるほど、「ヒマラヤPro」のSNのよさは格別だった。

ゲインのハイ/ローや、OS(オーバーサンプリング)/NOS(ノンオーバーサンプリング)などを切り替えて楽しめるのも「ヒマラヤDAC」を搭載したHIFIMAN製品ならではのポイントだ

ゲインのハイ/ローや、OS(オーバーサンプリング)/NOS(ノンオーバーサンプリング)などを切り替えて楽しめるのも「ヒマラヤDAC」を搭載したHIFIMAN製品ならではのポイントだ

10万円超のプライスタグは決して安価ではないが、音質も使い勝手もその価値が十分にある、優秀な製品だ。

野村ケンジ

野村ケンジ

ヘッドホンなどのオーディオビジュアル系をメインに活躍するライター。TBSテレビ開運音楽堂にアドバイザーとして、レインボータウンFM「みケらじ!」にメインパーソナリティとしてレギュラー出演。音元出版主催のVGP(ビジュアルグランプリ)審査員も務める。

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