エプソンから、超短焦点プロジェクターの新製品「EH-LS650B」「EH-LS650W」(以下、「EH-LS650」)が発表された。型番末尾の「B」「W」は本体の色を表しており、内容はまったく同じ。市場想定価格は330,000円前後(税込)。
壁際に設置すれば、壁面やスクリーンに大画面映像を投写できる「EH-LS650」。写真は本体色が白の「EH-LS650W」
まずは念のため超短焦点プロジェクターという製品について説明しておくと、上写真のように壁際において使うプロジェクターのこと。
通常であれば100インチ前後の画面を投写するには2〜3mほどの投写距離を要するところ、超短焦点プロジェクターはそれが極端に短く数十cm程度で100インチ前後の投写が可能。テレビ台のような場所に置けば壁がそのまま画面になるため、「テレビのように使える」とするメーカーもある。ハイセンスなどは同様の製品を「レーザーテレビ」と呼んでいるほどだ。
「EH-LS650」は家庭用だけでなく業務用プロジェクターも取り扱うエプソンらしく、充実したスペックで登場した4K(3,840×2,160画素)表示のレーザー光源モデル。従来モデル「EH-LS300」ではフルHD(1,920×1,080画素)だった表示解像度を4Kまで引き上げ、低遅延入力モードの新設や、HDR映像のダイナミックトーンマッピング(HDR映像に応じたリアルタイム最適化機能)などが盛り込まれた意欲作だ。
なお、ここで言う4K表示とはフルHD素子を使い、いわゆる「画素ずらし」によって映像を時分割して4K相当の解像度を得る方法のこと。多くの10〜30万円前後の「4Kプロジェクター」のほぼすべてが類似の技術で4K表示をしている。
別売オプションとして100インチスクリーン「ELPSC35」が用意される。市場想定価格は143,000円前後(税込)。これは表面にレンチキュラーレンズという特殊素材を使い、照明や外光の影響を低減する耐外光型スクリーン。明るい環境で超短焦点プロジェクターを使う場合に特に重宝する製品だ
従来モデル「EH-LS300」と上位機種「EH-LS800」との比較表。いずれも映像表示のための素子として液晶パネルを3枚使う「3LCD」と呼ばれる方式だ。「EH-LS650」は、レーザー光源はそのままに上位機種に近い機能性を得たと言える。さらに、ダイナミックトーンマッピング機能を持つことは「EH-LS650」が上位機種に勝る部分だ
Android TV OSを搭載しており、Amazonプライム・ビデオやYouTubeなどの再生は単体で可能。Netflixは非対応なので、ユーザーはAmazon「Fire Stick」などをHDMI入力につなぐとよいだろう
そのほかの特徴は写真のとおり。壁(投写面)から約27cmで100インチの投写が可能だ。超短焦点プロジェクターで重要な歪みの補正はアプリで行う。また、従来モデルからの大きな改善点は上位機種「EH-LS800」と同じ画像処理チップを搭載したこと。これにより画質の向上も図った
単に4K表示に対応しただけでなく、レンズ設計も従来モデルから改められた部分だ。結果、投写に必要な壁(投写面)までの距離は少しだけ短くなり、推奨される投写サイズの幅も60〜120インチと広がっている(従来は70〜120インチ)
基本操作用のリモコンが付属する。設定画面から画質調整メニューの呼び出しなど、スムーズに動作していた
外形寸法は従来モデル「EH-LS300」とまったく同じで、467(幅)×400(奥行)×133(高さ)mm(突起部を除く)。外観は従来モデルから変わらないようだが、フロントグリルがパンチングメタルに変更されている。スピーカー構成自体は2.1chで変わらないが、このグリルに合わせる意味もあり、音質チューニングも再検討されているという
テレビ台やローボードに「EH-LS650」を設置すれば、すぐに大画面投写が実現できる。ただし、映像の明るさについては「テレビのように」とはいかないことには留意したい
「EH-LS650」の発表会では、薄暗い会場でのデモンストレーションも行われた。明かりを残した部屋で従来モデル「EH-LS300」と同じ映像作品を比較したところ、明らかに画質が向上していた。
デモンストレーションとあって、試した映像モード(「カラーモード」)は映像の明るさを優先した「ダイナミック」。Ultra HDブルーレイの4Kソースをそれぞれのプロジェクターで投写すると、「EH-LS650」ではしっかりと4Kらしい解像感が出るだけでなく、自然な色の再現性向上やノイズの低減が顕著なのだ。
これには映像モードから「ブライトシネマ」がなくなったこととも関係しているそうだ。明るめの環境で映画を見る場合には「ブライトシネマ」という選択肢だったところ、「EH-LS650」では「ダイナミック」モードを使うべきなのだろう。そのために明るさを優先しても画質が犠牲にならないように再調整されている。
暗室でシビアに画質を見たわけではないが、これだけでも「EH-LS300」からの進化は十分に伝わってくる。HDR再生時の「ダイナミックトーンマッピング」の能力もぜひチェックしてみたいと思わせる期待作だ。
なお、音質についても再チューニングしたというスピーカーの効果は確かに感じられた。短い間のナレーションが再生された程度ではあるが、帯域バランスが調整され、人の声が聞き取りやすくなっていた。真剣に音質を強化しようと思えばサウンドバーなどの導入が想定されるが、これ1台で映像も音も完結できる、この製品企画もユーザーにはありがたいポイントだろう。
映像モード(「カラーモード」)は4種。明るさ優先の「ダイナミック」は明かりのある部屋で、色温度の高い「ビビッド」はテレビ番組などの視聴に、「シネマ」は暗い部屋で真剣に映画やドラマを見るために、同じく暗めの部屋でビデオ撮り作品(ライブ)などを見るならば「ナチュラル」といった使い分けが想定される
注目したいのは「ダイナミックトーンマッピング」。HDR映像が入力された際に、リアルタイムで最適化を図る機能だ。直視型のテレビやディスプレイよりもダイナミックレンジが限られているプロジェクターで特に重要になる
ゲーム用途を想定した低遅延モードを使うには「映像処理」から「速い」を選べばOK。入力遅延が「20ms以下」に抑えられるという