たまの休日、寝そべりながら娯楽に興じるのは最高の贅沢だ。録り貯めたドラマを一気見したり、タブレットでYouTubeを見たり...しかし、ソファへ横になって見るテレビは45度傾いており落ち着かない。両手で持つタブレットは、うとうとした瞬間胸元に落下する危険がある(経験あり)。いっそのこと天井がディスプレイになれば、そう願う"寝そべり族"は少なくないはず。
BenQの「GV31」は、そんな彼らの切なる願いに応えてくれるモバイルプロジェクターだ。回転機構を搭載し、角度を135度の範囲で無段階調整でき、壁はもちろん天井にも投写できる。バッテリー内蔵ながら重量1.7kgと軽く、オートフォーカスに加え自動台形補正機能を装備、さらには2.1chスピーカーを装備するから、移動先でもすぐに使える。
BenQのバッテリー内蔵モバイルプロジェクター「GV31」。取っ手を持てばスタンドごと持ち運べる
スタンドには磁石が取り付けられ、簡単には落下しなくなった
フォーカスや台形歪みを調整すればOK、開梱からものの5分でセットアップは完了する
このオウム貝を思わせるフォルムは、前モデル「GV30」からほぼ変更されていないが、画質の決め手となる解像度は720pから1080pに向上、モバイルプロジェクターの必須インフラといえる無線LANもWi-Fi 5(11ac)からWi-Fi 6(11ax)へと進化している。同梱のAndroid TVドングル(「QS02」)がNetflixアプリに正式対応したことも、コンテンツの拡充という点で重要だ。
解像度は前モデル「GV30」では720pだったが、「GV31」は1080pに向上
付属のAndroid TVドングルは本体カバーを開けて本体内に格納する形
最大の進化は、なんといってもDP Alt Modeのサポート。同規格に対応するスマートフォンは、ソニー「Xperia 1」やシャープ「AQUOS R7」といったAndroid端末のほか、今秋からアップル「iPhone 15 Pro」と「iPhone 15 Pro Max」が加わり、一気に存在感が高まった。それらDP Alt Mode対応端末とUSB Type-Cケーブル1本でつながり、映像/音声の入力に加え給電(最大18W)までできるというのだから、モバイルプロジェクターとしての活用範囲は格段に広がったと言っていい。
入出力端子はUSB Type-AとUSB Type-C、HDMIが各1系統。USB Type-CはDP Alt Modeに対応
この「GV31」におけるDP Alt Modeのサポートには、さらなる付加価値が。「Nintendo Switch」との接続だ。一般的なDP Alt Mode対応ディスプレイには映像出力できないこのゲームコンソールが、かさばりがちなHDMI変換アダプターなしにUSB Type-Cケーブル1本で接続できるというのだから、その価値を理解できる人間にとってはたまらない。
「GV31」の“「Nintendo Switch」も接続可能なDP Alt Modeのサポート”は、いろいろな夢を見させてくれる。たとえば、天井に映し出された"ティアキン"をソファに寝転び楽しむこと。前モデルの「GV30」でもHDMI変換ケーブルを使えば可能だったが、かさばるNintendo Switchドックは必須、ケーブル1本で映像/音声出力から電力までまかなえてしまう「GV31」とは手軽さの次元が違う。
実際に「Nintendo Switch」をDP Alt Mode対応のケーブルで接続したところ、待てど暮らせど画面が切り替わらない。何度かプラグを抜き挿ししても変化なし、なぜ? ...よく考えてみたら、「Nintendo Switch」はある程度のパワー(7.5W〜39WのPD電力)を確認できないと外部ディスプレイに切り替わらない仕様。プロジェクターの内蔵バッテリーで駆動させる際はそれだけの電力供給が行えないらしく、プロジェクターにAC電源接続が必須となるようだ。
「Nintendo Switch」とUSB Type-Cケーブル1本で接続できるように
DP Alt Mode問題が解決したところで、「GV31」のレンズを天井方向へ向けて投写開始。昼間、しかも南向きの明るい部屋ではさすがに輝度不足だが、キャラクターの動きは確認できるし、文字も読めるレベル。レンズから天井までの距離は約2.2m、目にしているのは85インチ相当の画面ということになるから、映像面の迫力に関してもまずまず。フォーカス調整はリモコンのボタンを押せば2〜3秒で完了、自動台形補正機能で画面の歪みを簡単に解消できる点もうれしい。
昼間の明るい部屋で天井投写を楽しめるかを確かめるべく、リビングモード/最大輝度(300ANSIルーメン相当)で試したところ、スーパーマリオやスプラトゥーンはどうにかOK、地下世界など薄暗いシーンが多い"ティアキン"は厳しいかな、という印象。テーブルの上などに置いて投写距離を縮めれば明るさが増すとはいえ、60V型超の薄型テレビが一般化した現在、プロジェクターを使うからには80インチ超は欲しいもの、本領を発揮するのはやはり夕方以降らしい。
昼間、南向きの部屋で「Nintendo Switch」の映像を天井に映したところ。もう少し暗い部屋のほうがよさそうだ
「Nintendo Switch」が1080pで接続されていることがわかる
いっぽう、夕方以降に照明を抑えた部屋で使えば明るさは十分。狭い拙宅に80インチ超の空きスペースがある部屋は限られるが、偶然にもリビングのソファ真上がドンピシャ。色味がオフホワイト調の天井には、少しビビッドな発色に調整された映像モード「リビング」がちょうどよく、念願の"寝ながらティアキン"を堪能できた。
「GV31」には、Android TVドングルが同梱されるから、いわゆるネット動画を外部機器なしに楽しめることは改めて述べるまでもない。前モデル「GV30」ではサポート外だったNetflixが追加され、本体単独で楽しめるコンテンツの量としては申し分ない水準に到達している。
強いていえば、「GV31」がパナソニックのビデオレコーダー・DIGAの視聴アプリ「どこでもDIGA」のサポート外であることは残念だが、ドラマなど一部のテレビ番組は「TVer」で鑑賞できるし、DIGA以外にも多くのビデオレコーダーに対応したネットワーク動画再生アプリ「DIXIM Play」を購入する手もある。寝室に「GV31」を持ち込み、就寝前に録り貯めたドラマを大画面で楽しむ、という贅沢が可能になるのだ。
DP Alt Mode対応のメリットは計り知れない。「iPhone 15 Pro」を接続すればあっけなく外部ディスプレイとして認識され、画面ミラーリングがスタート。iPhoneで見る画面がそのまま「GV31」から映し出される。「Nintendo Switch」とは異なり、プロジェクター本体へのAC電源接続は特に必要ない。アプリを大画面に映し出すもよし、iPhoneで撮影したビデオや写真の鑑賞会に使うもよし。1080pという解像度で文字もくっきり映し出されるから、プレゼンテーションなど仕事にも活用できそう。
USB Type-Cケーブルで接続した「iPhone 15 Pro」の画面を床へ映し出したところ。AC電源を接続していないところに注目
BenQ社内の音響開発チームによる技術を採用した製品はブランド名「treVolo」を冠しており、「GV31」も例外ではない。4Wフルレンジを2基と8Wのサブウーハーを搭載した2.1ch環境は、270度方向に音を放出する。基本的な設計は前モデル「GV30」を継ぐが、「GV31」のワイヤレスオーディオモードはBluetoothではなくWi-Fiを入力に使用する。iPhoneであればAirPlay、Androidであればキャスト機能で再生するというわけだ。
内蔵アプリで映画鑑賞、「Nintendo Switch」をつないでゲームプレイなど「GV31」をいろいろ試してみたが、コンテンツの魅力を全方向に、しかも手軽に引き出す「BenQ流オールインワン」のアイデアに感服した。アイデアそのものは前モデル「GV30」からキャリーしたもので、レンズ部を135度の範囲で回転させる機構など基本設計は大きく変わらないが、レーダーチャート(複数項目を多角形上に表現したグラフ)の全項目をもれなく1ランク引き上げたとでも言えばいいのか、着実な進化を感じさせてくれる。
映像面では、解像度を1080pに向上した効果が顕著だ。720pだった「GV30」では細かい文字が読みにくく、スプレッドシートのようなコンテンツには不向きだったが、無理なくこなさせるように。明るさは300ANSIルーメンで色域はRec.709 98%と、スペック的には変更ないものの、被写体の輪郭がより鮮明に感じられるようになった。スクリーンを使わず壁や天井に向かって手軽に投写して使うことが多いモデルなだけに、この部分は特に重要だ。
夜の寝室でベッドから壁に向かって映像を映したところ。YouTubeの動画タイトルもしっかり読み取れる
解像度が1080pに向上した効果だろう、濁点・半濁点の見分けがつくように
音声面もスピーカーのスペックは「GV30」と同等だが、ワイヤレススピーカーモード時の音質は格段に向上している。ロッシーのBluetoothからロスレス再生可能なWi-Fiへと伝送方式を変更したことは、音楽再生において圧倒的に有利。スペック的には同等といえど、本体カバーを開けるとユニット位置/パネル開口部の変更が見てとれるようにアコースティック面での見直しが実施されており、その効果もあるのだろう。
“プロジェクター”というと、映画やスポーツ番組の視聴を連想する向きは多いはずだが、この「GV31」にはそれ以外にも多くの可能性がある。あるときは「Nintendo Switch」をはじめとするゲームコンソールの映像機器、またあるときはロスレス再生に対応したワイヤレススピーカー、そしてまたあるときはDP Alt Modeで接続したスマートフォン上の文書を映す投影機。映像を映し出す場所も、壁や天井だけでなく、テーブルの端に置けば床すら選択肢に入る。「GV30」と比べ価格はアップしたが、それ以上のベネフィットを実感させてくれるデバイスであること請け合いだ。