dts Japanはメディア向けに「DTS AUDIO視聴会」を開催し、JBL「BAR 1000」、ゼンハイザー「AMBEO Soundbar | Plus」という「7.1.4ch」サウンドバーを用意してDTSの映画音響の魅力を伝えるデモンストレーションを行った。その内容と、dts Japanの視聴室で高級サウンドバー2種を、聴き比べたインプレッションをお伝えしよう。
視聴会に用意されたJBL「BAR 1000」(前)とゼンハイザー「AMBEO Soundbar | Plus」(後ろ)
家庭用メディアの変遷とともに、DTSの技術もアップデートされてきた。DVD時代には「DTS」、ブルーレイには可逆圧縮の「DTS-HD Master Audio」、Ultra HDブルーレイにはオブジェクトベースのオーディオ技術を取り入れた「DTS:X」をリリース。いずれも現在も使われている、AVファンにはおなじみの技術だ
ご存じの人に向けては説明不要のはずだが、DTSとは、映画などで活用される音声記録・再生技術のこと。1993年の「ジュラシック・パーク」で初めて映画に採用されてから2023年で30周年を迎えた。
それを記念して世界各国でさまざまなイベントが行われているほか、YouTubeには特別コンテンツがアップロードされている。
上の写真のようにDTSは30年にわたって家庭用AVを支えてきた。特に可逆圧縮コーデックである「DTS HD-Master Audio」はブルーレイディスクの93%に採用されていたという。
現在は仮想サラウンド再生技術「Virtual:X」などのポストプロセッシング技術をテレビなど各種ハードウェアに提供していることもDTSの重要な活動のひとつだろう。DTS音声収録の映画を見ていなくとも、DTSの技術が家庭用イマーシブ体験を支えているのだ。
この視聴会では、テレビやサウンドバー、AVアンプ向けのポストプロセッシング技術を実装する予定も明かされた。やはり映画や音楽体験を支える新たな提案のようだ。2024年にはリリースされるそうなので、こちらも楽しみに待ちたい。
DTSの技術は世界20億以上の家庭用機器で導入されているという。直近では最大12chのサラウンド音声を無線伝送できる「DTS Play-Fi Home Theater」を発表したばかり。日本国内での製品実装が待たれる
冒頭のとおり、DTSの音声をデモンストレーションするために用意されたのはDTS:Xのデコードにも対応する高級サウンドバー2機種。どちらも既発売製品のため、改めてにはなるが製品概要だけ確認しておこう。
JBLの「BAR 1000」は、本体脇のスピーカーが脱着可能で、取り外したスピーカーをそのまま無線サラウンド(リア)スピーカーにできるという7.1.4ch仕様のサウンドバー。無線でつながるサブウーハーもセットのオールインワンだと言える。
JBLの輸入元担当者によれば、スピーカーをいくつも置くのはハードルが高い、仮想サラウンドに頼ったサウンドバーはサラウンド効果が弱い、という弱点を払拭するための新提案が「BAR 1000」とのこと。クラウドファンディングでの展開を経て一般発売され、金額ベースでは日本でいちばん売れているサウンドバーであるという。
本体脇のスピーカーを外して、視聴位置の後方に置けばそれがサラウンド(リア)スピーカーになる。手軽かつ本格的にサラウンド再生ができるとあって、好意的に市場に受け入れられているようだ
いっぽうのゼンハイザー「AMBEO Soundbar | Plus」はあくまで「1台の中に」7.1.4chのサラウンドシステムを搭載した世界初のサウンドバーとして発売された。
欧州最大の科学技術研究機関であるというフラウンホーファー研究機構と共同開発された立体音響技術「AMBEO(アンビオ)」を使い、1本のサウンドバーでも広がりのある立体音響を実現する。こうした音響処理のためには確かな測定が前提となっており、すぐれたマイクメーカーとしても知られるゼンハイザーの知見も存分に生かされているという。
なお、無線で接続できる低音増強用のサブウーハー「AMBEO Sub」は別売。この日は「AMBEO Sub」を接続した状態で視聴を行った。
ユニットはあくまで自社開発という部分にもこだわったという「AMBEO Soundbar | Plus」。7基のフルレンジユニットが上や左右にも向けられていている。再生にはビームフォーミング(壁や天井からの反射を利用する)技術も取り入れ、サラウンドを再現する
さて、ここからはDTS音源を収録したコンテンツ推薦人として、2名が登壇し、それぞれにセレクトしたブルーレイ、Ultra HDブルーレイを紹介してくれた。DTS HD Master Audio5.1chもしくはDTS:Xを収録したディスクたちだ。
登壇した伊尾喜大祐氏、飯塚克味氏は映画に精通しているだけでなく、自宅でAVを実践する、ホームシアター愛好家でもある。
伊尾喜大祐氏。1999年からDVD制作事業をスタートし、のべ250タイトルを超えるパッケージディスクを制作している。近作は「映画イチケイのカラス」「バスカヴィル家の犬 シャーロック劇場版」など。AV、ホームシアター専門誌へディスク評を寄稿するライターとしての一面も持つ
●伊尾喜氏セレクション
ブルーレイ「ルパンの娘 劇場版」DTS-HD Master Audio 5.1ch
ブルーレイ「バスカヴィル家の犬 シャーロック劇場版」DTS-HD Master Audio 5.1ch
Ultra HDブルーレイ「すずめの戸締まり」DTS-HD Master Audio 5.1ch
飯塚克味氏。1985年大学在学時に東京国際ファンタスティック映画祭に感化され、スタッフとして参加。ドキュメンタリー制作会社勤務などを経て、現在はWOWOWの「最新映画情報 週刊Hollywood Express」の演出を担当。飯塚氏も雑誌に映画評を寄稿している
●飯塚氏セレクション
Ultra HDブルーレイ「ヒックとドラゴン」DTS:X
Ultra HDブルーレイ「ジュラシック・ワールド 新たなる支配者」DTS:X
Ultra HDブルーレイ「スリーピー・ホロウ」DTS-HD Master Audio 5.1ch
JBL「BAR 1000」
まず再生されたのはJBL「BAR 1000」。dts JapanがセレクトしたディスクとしてUltra HDブルーレイ「アポロ13」(DTS:X収録)がかけられたのだが、打ち上げのシーンの轟音がしっかりと部屋を振るわせる。1995年作品のため今風の分厚い音響ではないのだが、劇伴やセリフを損なわない包囲感は立派。
「ヒックとドラゴン」では自然に広がりを持たせた音楽の中に、ドラゴンの低音をともなった羽音が左右上下に移動していく。この音の移動感はさすが「リアルサラウンド」だと感心させられた。DTS:X素材を再生したこともあり、上下方向の移動感も上々。
「ジュラシック・ワールド 新たなる支配者」でも、劇伴が広がる中でバイクのエンジン音が動き回るさまにサラウンドの面白さが詰まっている。無理しない自然なサラウンド感は後方に置いたサラウンドスピーカーの恩恵だろう。
視聴ではサラウンド(リア)スピーカーをスピーカースタンドに載せ、視聴位置後方に置いていた
視聴会に用意されたテレビはソニーの83V型モデル「XR-83A90J」。ここまでの大きさのテレビを一般家庭に導入するのはなかなか難しいが、画面の大きさも相まって、“映画を見ている”という没入感は相当高い。「BAR 1000」を使うならば、プロジェクターを使ってもよいし、ぜひ80インチ以上の大画面と組み合わせてみてほしい。部屋を暗くすることと、音量を上げることは忘れずに。
ちなみに、デモンストレーションでディスクが選ばれるのは、やはり音質面で有利だからだろう。以下関連記事はDolbyのものだが、現状はDTSも同じ。配信は非可逆圧縮が主流のため、映像作品に没頭したいならばディスクに収録されたDTS-HD Master AudioやDTS:X音源(可逆圧縮)が有利なのだ。
「AMBEO Soundbar | Plus」とサブウーハー「AMBEO Sub」を組み合わせて再生。この日の再生モードは「ムービー」
サウンドバーを入れ替えて「AMBEO Soundbar | Plus」でUltra HDブルーレイ「アポロ13」を再生すると、結構な音の違いに驚かされた。こちらは切れ味が鋭く、打ち上げ時の金属音などの抜けがよい。価格が高いだけあり、スピーカーの実力の高さを感じさせる。
サブウーハーの響きが「BAR 1000」よりもひかえめでタイトであるというバランスの問題もある。これは聴き応えよりも再現性を優先したと言えるリニアな表現だと思う。しっかりとした実力のスピーカーを前提に、「AMBEO」での補正でハイファイ再生を狙う、そういうコンセプトの製品なのだろう。
視聴会でも「AMBEO」は“オン”。こうした補正技術は視聴室ではなく、一般家庭でこそ効果的。普通のリビングルームで聴き比べれば差はより大きいかもしれない
サラウンドスピーカーが後ろにある「BAR 1000」と比べると音に包囲される感じは薄めだが、音楽の広がりはあって自然。1本バーとしての完成度は高い。
5.1ch音源「すずめの戸締まり」でも、DTSのアップミックス(イネーブルド/オーバーヘッドスピーカーを使って音場を拡張する)技術Neural:Xを使った再生が良好。このディスクをセレクトした伊尾喜氏曰く、5.1chながら独立したオーバーヘッドスピーカーの音を収録しているかのような再生ができるとのことだったが、確かに、シンセサイザーと思しき劇伴の音が降ってくるよう。音源自体の作りのよさをしっかりと生かした再生だと感じた。
いくつかの作品で感じたのは、中低域の物足りなさ。サブウーハーはしっかりLFEを出しているのだが、バー本体の中低域を少し持ち上げたほうが映画らしい響きになるのではないかと思った。この点、アプリを使ったイコライジングにも対応しているから、追い込みの余地はありそうだ。
JBL「BAR 1000」とゼンハイザー「AMBEO Soundbar | Plus」、どちらも高価なサウンドバーだけあって、“ちゃんとした”サラウンド感と映画への高い没入度が得られる製品だった。
サブウーハー込みの価格を考えれば「BAR 1000」のコストパフォーマンスは非常に高く、視聴位置後方にスピーカーを置く効果は絶大。映画を見るときには脱着式スピーカーを外して所定の位置にセット、という儀式が面倒でなければとてもよい選択肢だろう。JBLらしいと言うべきか、中低域が充実した帯域バランスも好ましかった。
いっぽうの「AMBEO Soundbar | Plus」はよりハイファイ再生を求める人向けだろう。さすがに後ろから音が回ってくることはないが、アップミックスを含めて、上方向の音場再現力は高い。あくまでワンバータイプでとにかく高音質を求めるならば「AMBEO Soundbar | Plus」がよい選択肢になりそうだ。特に響きの多い部屋で使う場合には「BAR 1000」よりも使いやすそう。サブウーハーの大音量は近所迷惑になりがちでもあるので、「普通の人」が選ぶならば(もちろん予算があれば)「AMBEO Soundbar | Plus」がかなり有利なのではないだろうか。