薄型テレビの2023年秋冬の注目モデルのひとつが、シャープの有機ELテレビ「AQUOS QD-OLED FS1」だ。
シャープ「AQUOS QD-OLED FS1」を実機レビュー
理由はズバリ、搭載するパネルが同社初のQD-OLEDパネル(量子ドット有機EL)であること、そして日本国内で購入可能な唯一の第2世代QD-OLEDパネル搭載テレビであることだ。
有機ELテレビのパネルは、2013年以来、LGディスプレイが開発・製造に成功したW-OLED(白色有機EL)方式と呼ばれる赤緑青に白色をプラスした4色にカラーフィルターで表示する方式が用いられてきた(スマートフォンやPCモニターなどの小型サイズは除く)。長らく一社独占供給が続いていたのは、それだけ有機ELパネルの製造が技術的な難易度が高いためだ。だが、画質の観点からはW-OLED方式には高輝度時に色が抜けるなど固有のクセも指摘されていた。
そんな歴史の中で、2022年にようやく登場した方式がサムスンディスプレイによるQD-OLED方式。こちらは青色単色の有機ELに量子ドット技術を組み合わせて、光波長変換で色を作り出す。量子ドットによる光波長変換はすでに液晶テレビでも採用されていて、白い光源を用いる場合に比べて色純度が高く、より広い色域を再現することができるのがメリット。長らく続いた“大型有機ELテレビにW-OLED方式以外の選択肢がない”という状態に登場したアナザーチョイスであるところも期待が高まる理由だ。
QD-OLEDパネル搭載の有機ELテレビは2022年から出荷されており、第1世代QD-OLEDパネルはソニー「BRAVIA A95K」で搭載されていた。そして、2023年登場の第2世代パネル搭載モデルがシャープの「AQUOS QD-OLED FS1」だ。12月11日時点でソニーを含めて他社から第2世代QD-OLEDパネル搭載の有機ELテレビは国内で発表されておらず、日本国内で購入可能な第2世代QD-OLEDパネルはこの「AQUOS QD-OLED FS1」のみという状態だ。
そんな「AQUOS QD-OLED FS1」の65V型モデル「4T-C65FS1」の実機をお借りすることができたので、詳しくレビューしていこうと思う。
今回は自宅のリビングに実機をセットしてみた。なお、隣に時々見切れて写っているモデルは、TVS REGZAのMini LEDバックライト搭載液晶テレビ、TVS REGZA「REGZA Z970M」の65V型モデル「65Z970M」だ。
今回試用したのは、「AQUOS QD-OLED FS1」の65V型モデル「4T-C65FS1」(写真右)。隣に見切れて写っているのがTVS REGZA「REGZA Z970M」の65V型モデル「65Z970M」だ。写真だと「65Z970M」の色と輝度が大きく変化しているように見えるが、肉眼で見た画面の明るさは「4T-C65FS1」に近い
最初に「AQUOS QD-OLED FS1」を設置した際の実体験をレポートしておくと、65V型モデルの「4T-C65FS1」は思った以上に設置が大変なテレビだった。本体サイズはスタンド込みで144.4(幅)×30.4(奥行き)×89.4(高さ)cmと、65V型テレビとしては一般的なサイズだが、重量がスタンド込みで約40.0kgもあるのだ。
重さの理由は、シャープ「AQUOS」ではおなじみとなっている回転式スタンドの採用で、画面の向きを左右30度回転できる(ロックも可能)。視野角の広い有機ELテレビなのに……と思うところはあるが、少し動かせるというのは配線時などに便利。
約40kgという最近の薄型テレビとは思えないほどの重量級になった理由は回転式スタンドの採用。個人で梱包を解いて設置する場合は最低でも大人2人は必須、腰に爆弾を抱えている人などは素直に業者に設置を頼むのがよさそうだ
「AQUOS QD-OLED FS1」のテレビとしての基本スペックは、地デジ/BS/CSが3チューナー、4K放送が2チューナーという仕様。ネット関連はGoogle TVが搭載されていて、定番のYouTube、Netflix、Amazonプライム・ビデオ、TVerなどはもちろん、プリインストールされているサービス以外にもアプリ追加でいろいろと増やすことができるなど、なんでも対応できる安心感がある。Wi-Fi 6対応というスペックもテレビメーカーとしてなかなか先進的だ。
Google TV搭載なので、ネット動画重視のユーザーでも安心して選択できる
付属リモコン。ネット動画系、テレビ系、UI操作系とボタンは盛りだくさん
Google TVなのでテレビのネット動画対応としては完璧に近いが、気になるのはレスポンス。各種アプリの起動速度を計測してみたが、YouTubeの初回起動で約4.5秒、Netflixは2.9秒、Amazonプライム・ビデオは4.7秒となかなかの高速レスポンスだった。
付属リモコン上部に並ぶネット動画サービスへのダイレクトボタンは全部で10つ
QD-OLEDパネルを搭載した有機ELテレビの「AQUOS QD-OLED FS1」と、Mini LEDバックライト搭載液晶テレビの「REGZA Z970M」。電源オフの状態で並べてみると……下記の写真を見てもらうとよくわかるが、「AQUOS QD-OLED FS1」はグレーに見える。
「AQUOS QD-OLED FS1」は電源オフの状態からグレーがかる(写真は肉眼に近くなるように調整済み)
これがマニアの語る“QD-OLEDパネルの黒浮き”。QD-OLEDパネルは表面に円偏光を使っておらず、外光の反射光が散乱することに由来している。外光由来のため暗室では発生しないが、電源が入っていなくても黒が浮いて見えるのだ。なお、「AQUOS QD-OLED FS1」は映像表示時にこの事象を目立たなく補正する技術が働く。
さて、ここからは実際に電源を入れて「AQUOS QD-OLED FS1」の画質をチェックしてみる。第一印象は画面の明るさがとても強烈で、このあたりは“明るい高画質”という2023年の薄型テレビのトレンドに従っている感じだ。
「AQUOS QD-OLED FS1」の出荷時の推奨設定である「AIオートモード」で視聴すると、やはり画面が明るい。これがQD-OLEDのパネル特性かと思うところもあるが、ただモニターではなくテレビなので、画像処理エンジン「Medalist S4X」の意図を持って色彩の再現にはメリハリが付けられている。
たとえば、地デジ放送のニュース番組を視聴してみると、ノイズや解像度はバランスよく整えられているし、色彩についても色バランスが大きく崩れるようなこともなく、コントラストもあって立体感のある映像でとても見やすい。
地デジ放送代わりに価格.comマガジンのYouTubeチャンネルの動画を表示。有機ELらしくコントラスト、立体感のある画質が印象的
ただ、テレビ番組に用いられるCGのテロップは意図して誇張しているのか、鮮やかに蛍光色で再現されていて“これぞ広色域の絵作り”と言わんばかりの色彩だった。CGのテロップ以外もスタジオセットで原色を使っている場合や、照明が強く当たっている箇所も色が拡張される。積極的に鮮やかで美しさを出していく方向性のようなので、好みに合わなければ「映画モード」に切り替えてみてもよさそうだ。
赤や黄色のテロップは強烈な広色域系。この派手な色がQD-OLEDパネルの持ち味
続いて、画面の明るさが最大限出るようにテレビ側の設定を変更し、価格.comのYouTubeチャンネルで公開されている動画を再生した際の画面の明るさを計測してみた。画面に照度計を密着させて測定してみると、ハイライト部は約1776lux、人物の顔が1251lux。有機ELテレビながら、ピーク輝度はかなり明るく伸びている。
4K/HDRの映画モードの画質は、Ultra HDブルーレイ『The Spears & Munsil UHD HDR Benchmark』の4K/HDR映像コンテンツでチェック。明るさについては有機ELとは思えないほど明るく、特に明所のなかのキレのよさが優秀。高輝度部の色抜けもないし、完全暗視の視聴では暗部階調の黒浮きも気にならない。4K/HDRコンテンツについては色が蛍光色になるようなことは少なく、鮮やかな色と呼べる範囲で再現されていた。
4K/HDRの映画モードの画質をチェック。有機ELとは思えないほど画面が明るい
4K/HDRコンテンツでは色が蛍光色になるようなことはなかった。高輝度部の色抜けの少なさはさすがQD-OLEDパネルといったところ
夜景の映像では暗部階調の黒浮きも少なく、コントラストがしっかり出ている
モニターとしての特性を調べるべく、画面が最も明るくなる標準モードの輝度100%でテストパターンを表示して画面の明るさを測定。結果は、白の面積10%で約4160lux、白の面積100%で約774luxだった。白100%は有機ELらしく大幅に落ちるが、白10%でのピーク時の値4160uxという数値はトップでこそないが非常に明るい。
分光測色計の「X-rite i1Pro2」を使った測定では、白10%の映画モードで1113cd/m2、標準モードでは1180cd/m2、白100%の映画モードでは217cd/m2、標準モードでは227cd/m2だった。なお、グレースケールと色域も測定しているので下記に掲載しておく。
グレースケールの測定データ。映画モードで明るさを上げると80%以上でサチレーションが起こるため明るさは±0で測定
色度図。赤のみならずすべての色が過去見たことがないほどの広色域
「AQUOS QD-OLED FS1」はAQUOSの最上位モデルらしく音にもこだわっており、スピーカーシステムには独自の「AROUND SPEAKER SYSTEM PLUS」が搭載されている。アラウンドという名前が象徴しているとおり、画面の上下にスピーカーを配置。画面上部のスピーカーは音を前方向に放出する独自構造で、背面にはサブウーハーも用意されている。
画面下ではなく上にも前傾20度のハイトスピーカーを配置
実際のサウンドを体験してみると、とにかく映像と音の立体感がいい。テレビ視聴に求められる人の声のクリアさを確保しつつ、音の出所はテレビ下ではなく画面位置にビシっときている。テレビ番組やCMのBGMも音の広がりが整えられていて、バランスがよくなかなかの高音質だ。
Netflixで配信中の『ワンピース』(実写版)を視聴してみたが、臨場感のあるサウンドが画面を中心にしっかりと再現されていた。低音はさほどパワフルに出すタイプではないようだが、日本の住環境との兼ね合いとしては十分のクオリティと言えるだろう。
もちろんDolby Atmosの立体音響にも対応している
最後にゲーム関連の画面表示性能もレポートしておく。「AQUOS QD-OLED FS1」をゲームモードに設定して計測したが、4K/60p信号での入力遅延は11.9msだった。なお、映像信号としては4K120Hz入力、VRR/ALLMにも対応。またゲームを検出する「自動ゲームモード設定」の機能も搭載している。
シャープ「AQUOS QD-OLED FS1」は、第2世代となったQD-OLED方式の有機ELネルを搭載したテレビとして期待している人も多いことだろう。実際、「AQUOS QD-OLED FS1」OD-OLEDパネルらしい高輝度かつ高色域を再現できていて、測定からもポテンシャルの高さを見て取れる。ただ、世の中には4K/HDRコンテンツばかりというわけではない。いまだに地デジ放送やYouTubeなど4K解像度未満でSDRまでの対応というコンテンツも多く、明るさはともかく広色域のポテンシャルをどう生かすかは試行錯誤の段階だ。
いっぽうで、Google TV搭載のネット動画対応の充実度や、Dolby Atmosもしっかり再現できるスピーカーシステムなど、全体的にバランスよく仕上がっているのも確か。素直に明るい有機ELテレビとして評価したい1台だ。