2023年の終わりも見えてきたので、年末特別企画として2023年テレビの総まとめをお届けする。
2023年の4Kテレビのいちばんのトレンドは、僕が各社ハイエンドテレビのレビューで繰り返して言及してきた“明るい高画質”で決まりだろう。これはMini LEDバックライト搭載の液晶テレビが多数出回り始めた昨年(2022年)も同じなのだが、今年は有機ELテレビまで“明るい高画質”のトレンドが波及し始めている。また、今年はネット動画対応やゲーミング機能の充実がさらに進んだ1年でもあった。本稿では3つのテーマに沿って改めて2023年テレビを振り返っていこうと思う。
まず、2023年に語るべき“明るい高画質”の代表格が、微細なレンズで光をむだなく取り出すことで輝度を大幅に向上させたMLA-OLED(マイクロ・レンズ・アレイ有機EL)パネルだろう。国内では、有機ELテレビを得意とするパナソニック「VIERA MZ2500」シリーズと、グループ会社がパネル製造を手掛けるLGエレクトロニクス「OLED evo G3」シリーズが発売された。
パナソニック「VIERA MZ2500」シリーズ
LGエレクトロニクス「OLED evo G3」シリーズ
パナソニック「VIERA MZ2500」シリーズ、LGエレクトロニクス「OLED evo G3」シリーズとも価格.comマガジンで詳しくレポートしているので画質評価はそれぞれの記事をチェックしてほしいが、MLA-OLEDパネルの煌びやかなピーク輝度と漆黒の暗部が一画面に共存する美しさはまさに最高峰。有機ELということもあり、明るさの実測値は全白の状態だとやや落ちるが、それでも有機ELの得意な黒の再現性がしっかりと出ており、画面全体のコントラストと緻密さ指向の高画質が際立っている。
有機ELテレビでは、QD-OLEDパネルを搭載したシャープ「AQUOS QD-OLED FS1」シリーズも注目したい。量子ドット技術を用いたサムスン製の第2世代QD-OLEDパネルは高輝度かつ広色域という点が強み。“画質調整の難しそうなパネルだな”というのが僕の感想だが、高輝度で色が抜けないQD-OLEDのポテンシャルはすさまじい。
シャープ「AQUOS QD-OLED FS1」シリーズ
このように有機ELテレビが着実に“明るい高画質”を押し進めているいっぽうで、2023年は液晶テレビもMini LEDバックライト搭載モデルが勢力を急拡大し、こちらも“明るい高画質”が大きく進んだ。
Mini LEDバックライトを搭載したハイエンド液晶テレビの定番となっているのは、TVS REGZA「REGZA Z970M」シリーズとソニー「BRAVIA X95L」シリーズ。また、2023年はパナソニックも同社初のMini LEDバックライト搭載モデル「VIERA MX950」シリーズを投入。ピーク輝度という点では有機ELテレビとの差は少なくなってきているが、画面全体の明るさと色抜けの少なさはMini LEDバックライト搭載液晶テレビのほうが有利だ。
TVS REGZA「REGZA Z970M」シリーズ
ソニー「BRAVIA X95L」シリーズ
パナソニック「VIERA MX950」シリーズ
そして、消費者目線だと、“65V型でも20万円切りのMini LEDバックライト搭載液晶テレビ”としてヒットしたハイセンス「U8K」シリーズ、そして55V型が20万円を割り込んだTVS REGZA「REGZA Z870M」シリーズといった手の届きやすいMini LEDバックライト搭載液晶テレビが充実してきた点も見逃せない。Mini LEDバックライトの分割数などはハイエンドモデルにこそ届かないが、それでも通常のLEDバックライトよりは明るく高画質。そんなコスパ感から価格.com「液晶テレビ・有機ELテレビ」カテゴリーの人気売れ筋ランキングでも上位を占めるようになっている。
ハイセンス「65U8K」シリーズ。Mini LEDバックライト搭載液晶テレビながら、価格.comの最安価格で65V型を15万円以下で購入できる(2023年12月27日現在)
さらに、2023年は高画質化技術に対するアプローチもなかなか面白いものが登場してきた。なかでも注目したいのが、TVS REGZAが有機ELテレビの「REGZA X9900M」シリーズとMini LED液晶テレビ「REGZA Z970M」シリーズで搭載した「ミリ波レーダー高画質」「ミリ波レーダー高音質」。センシング技術で視聴者の位置を検出し、視聴位置に合わせて最適な画質・音質にチューニングをするというものだ。ただ、意外と効果を実感しづらい機能で、今後のメジャー化に注目したいところ。
視聴者の位置を検出して画質・音質を最適化する「ミリ波レーダー高画質」「ミリ波レーダー高音質」
ほかには、LGエレクトロニクスの「パーソナル・ピクチャー・ウィザード」もユニークな高画質化機能だ。同社の有機ELテレビやMini LEDバックライト搭載のハイエンドモデル(α9 AI Processor 4K Gen6、およびα7 AI Processor 4K Gen6搭載モデル)を中心に利用できるもので、簡単な方法で画質を自分好みに調整することができる。
LGエレクトロニクスの新機軸の画質調整機能「パーソナル・ピクチャー・ウィザード」
昨今、テレビ全体の画質ポテンシャルが上がるいっぽうで、“何を高画質と考えるか”も問われ始めている。テレビに映し出される映像は、地デジ、YouTubeなどHD以下の解像度の映像ソースも多い。映像制作用モニターではない民生用テレビとしての高画質を考える取り組みとして今後も注目したい。
目線を変えて、テレビの高画質化以外の話題も振り返っていこう。
まず、新製品が登場するたびに話題にあがるテーマが“ネット動画対応”と“リモコンのダイレクトボタン”だ。数年前まではYouTubeやAmazonプライム・ビデオ、Netflixなどの定番の顔ぶれだったが、徐々にHuluやU-Next、ABEMA、Disney+などが加わり、2023年はTVerとNHK+、FOD、WOWOWオンデマンドなどもフォローするメーカーが出てきた。
テレビのネット動画対応の象徴とも言えるリモコンのダイレクトボタン
各社ともリモコンのダイレクトボタンの数が年々増加していて、現在の最大ボタン数はハイセンス12サービス(TVS REGZAは12+1ボタンだが、うち2つはカスタマイズ前提のMyChoice)となっている。
テレビでネット動画視聴が定着化しているのは当然として、特に語るべきはTVerの大躍進だろう。テレビ番組を視聴したい人はまだまだ多いようで、放送時間に縛られず、しかも基本料なしで使えるということからニーズが高まってきているようだ。各社ともTVerのサポートを強化しているが、その中でもパナソニックは2023年モデルからテレビの番組表からTVerの見逃し配信に飛べる機能を実装してきた。ユーザーの使い勝手をよく考えた非常に便利な機能で、アイデア賞をあげたいくらいだ。
パナソニックのテレビ2023年モデルは、テレビの番組表からTVerで配信中の過去番組に飛べる新機能を搭載
また、2023年はゲーミング関連機能の充実も目立った。ゲーミング機能の充実度はTVS REGZAのお家芸だったのだが、2023年は各社ともHDMI 2.1で揃った4K/120Hz、VRR、ALLMをほぼカバー。さらに、海外メーカーはゲーミングモニター発のPC向け機能まで取り入れていて、NVIDIA「G-SYNC Compatible」やAMD「FreeSync Premium」まで実装し始めたほか、4K/144Hz対応をうたうモデルまで登場してきている。
「Nintendo Switch」や「PlayStation 5」といった家庭用ゲーム機はともかくとして、50V型以上の大画面でPCゲームをプレイするか!?(画面との距離が近過ぎるのでは……)という疑問は残るものの、さまざまな使い方をするユーザーに向けて多彩なフォーマットをカバーしてくれる点は歓迎したい。
FPS向け機能などゲーミング向け機能もかなり充実してきた
TCL「C845」シリーズ。Mini LEDバックライト搭載チューナーレステレビで、4K VRR 144Hz、1080p/240Hz表示まで対応
最後に、10万円以下で買える格安テレビのトレンドについても触れておこう。
ひと言で述べるならハイセンスとTVS REGZAの大躍進だ。価格.com「液晶テレビ・有機ELテレビ」カテゴリーの人気売れ筋ランキングは型落ちモデルも含まれているが、その中でも10万円以下で買える50V型以上の大画面モデルというのはかなり貴重になってきている。ランキングトップ20に入っているのは、ハイセンスの55V型液晶テレビ「55U7H」とTVS REGZAの50V型液晶テレビ「REGZA 50C350X」くらいだ。
2023年12月27日時点の価格.com「液晶テレビ・有機ELテレビ」カテゴリーの人気売れ筋ランキング。10万円以下で買える格安テレビはかなり貴重だ
ランキング対象をさらに拡大しても、ハイセンスとTVS REGZA以外だとシャープやパナソニックが数製品入る程度。小型モデルや10万円オーバーの製品も含めると、ランキング上位をハイセンスとTVS REGZAがかなり占めており、2社の強さが目立っている。特にハイセンスは海外ブランドでありながら国内での認知度が高まってきており、同じ海外ブランドのLGエレクトロニクスやTCLに比べるとハイセンスの名前が候補にあがることが増えてきている。
「FireTVテレビ」も発売しつつも販路がヤマダグループとAmazon.co.jpに限定されるFUNAIや、白物家電では人気のアイリス・オーヤマなど、ハイセンス以外の低価格を標榜したブランドはいくつかあるが、現在の価格.com「液晶テレビ・有機ELテレビ」カテゴリーの人気売れ筋ランキング見る限り存在感が発揮できていないようだ。
そんな数少ない格安テレビの中でも特に人気が高いのが、2022年発売のハイセンス「55U7H」。倍速液晶パネル搭載で9万円前後と、同等スペックの他社製品と比較してもだいぶ安い。同機種はTVS REGZAと共同開発した高画質エンジンを搭載し、番組表などのUIもTVS REGZAとほぼ同じとなっており、充実の機能性とコスパのよさから選ばれているようだ。
2022年発売のハイセンス「55U7H」は高コスパモデルとして価格.comでも人気が高い
2023年のテレビ市場全体を見ると、実売価格で20万円を超えるような有機ELテレビやMini LEDバックライト搭載の液晶テレビなどのハイエンドモデルはまだまだ国内メーカーの牙城。いっぽうで、価格勝負が求められる低価格帯は、海外メーカー勢のシェア拡大が続く。
消費者目線では高画質・高性能なテレビが安く購入できることは歓迎ではあるが、国内メーカーはシェアを取れないハイエンドのみのビジネスが継続していくのか。来年以降の動向にも注目したい。