2023年も数多くの完全ワイヤレスイヤホンが登場した。蓋を開けてみれば、ソニー「WF-1000XM5」、Bose「QuietComfort Ultra Earbuds」、アップル「AirPods Pro(第2世代)」という、ノイズキャンセリング機能搭載で3万円クラスのハイエンド完全ワイヤレスイヤホンが話題の中心にあった1年だった。
ソニー「WF-1000XM5」、Bose「QuietComfort Ultra Earbuds」、アップル「AirPods Pro(第2世代)」(今回の検証ではLightning版を使用)
僕は価格.comマガジンでこの3機種について過去いくつかの記事で評価してきたが、今回はその総まとめ。音質やノイズキャンセリング機能について改めて3機種をチェックしたうえで、3機種所有している僕の使い方についても語っていきたいと思う。
2023年に最も話題になった完全ワイヤレスイヤホンは? と問われるなら、やはりソニーのノイズキャンセリング機能搭載完全ワイヤレスイヤホンの最上位モデル「WF-1000XM5」だろう。世界最高*を打ち出したノイズキャンセリング機能に、LDACコーデックや「DSEE Extreme」によるハイレゾワイヤレス再生、マルチポイント接続、LEオーディオ対応、高品位な通話マイクまで、いまどきのハイエンド完全ワイヤレスイヤホンに求められる機能が揃うモデルだ。
*左右独立型ワイヤレスノイズキャンセリングヘッドホン市場において。2023年4月10日時点、ソニー調べ、電子情報技術産業協会(JEITA)基準に則る
話題性がトップだったのはソニー「WF-1000XM5」。2023年7月25日発表、9月1日発売と発表から発売まで少々期間があったことで期待値が高まったことも要因かもしれない
先代の「WF-1000XM4」から大幅に小型化を果たしている
音情報豊富で総合的な音質にすぐれたモデルだが、まず語るべきはサウンドキャラクターだろう。中高域はニュートラルで、美しいサウンドだがメリハリは弱め。歌声は立つのではなく透明感ある聴こえ方だ。包み込まれるような空間の広さと見通しによる臨場感も魅力。低音はパワフルと語られることが多いが、ベースやリズムなどが強く、空気を振動させる重低音とは異なる。特定のジャンルに振り切らないため、クラシックやジャズとの相性もいい。なお、限られた環境だがLEオーディオも利用可能だ。
音質チェックはAndroidスマートフォン「Xperia 1 IV」と組み合わせてLDACコーデックで実施
“世界最高ノイキャン”*を謳って登場したモデルではあるが、室内、路上、電車内などさま
ざまな環境で検証を行ってみたところ、どのシチュエーションでもノイズキャンセリング機能の性能はBoseのほうが効果的に働いているように感じてしまった。これはソニーがJEITA基準で発表していることと、人間の耳とのテスト条件の違いだろう。とはいえ、ノイズキャンセリング機能そのものは市場全体で見れば優秀な部類。特に違和感の少ないノイズキャンセリング機能を求めるなら選びたいモデルだ。
*左右独立型ワイヤレスノイズキャンセリングヘッドホン市場において。2023年4月10日時点、ソニー調べ、電子情報技術産業協会(JEITA)基準に則る
2023年10月19日発売でまだまだ話題に上がる機会も多いBoseのノイズキャンセリング機能搭載完全ワイヤレスイヤホンの最新モデル「QuietComfort Ultra Earbuds」。「Bose Immersive Audio」による空間オーディオと、Snapdragon Sound対応によるaptX Adaptiveコーデックによる音質面でのアップデートが主な特徴。基本的には2022年発売の「QuietComfort Earbuds II」のアップデートモデルという扱いで、独自の「CustomTuneテクノロジー」によって、耳の形に合わせてサウンドとノイズキャンセリング機能を自動で最適化してくれる。
2023年10月19日発売と、今回取り上げる3機種の中で最も新しいBose「QuietComfort Ultra Earbuds」
イヤホン本体のサイズは「QuietComfort Earbuds II」からほぼ変わらず。サイズはやや大きめだ
「QuietComfort Ultra Earbuds」のサウンドは、重低音がズンズンと響くBoseらしいサウンドを継承している。空気を振動させるようなディープな重低音と、鮮やかだが大味な中高域、空間を拡張するような音の広がりとメリハリを効かせたサウンドが特徴的だ。原音忠実ではないが、ダンスやロック、J-POPやアニソンなどのジャンルにはハマる。「iPhone」シリーズ(AACコーデック)で聴いたサウンドは先代と大きな変化ないが、初搭載のaptX Adaptiveコーデックでは中高域のフォーカスが定まり音質アップ効果も狙える。
Androidスマートフォンの一部機種で利用可能なaptX Adaptiveコーデックでは、AACコーデックよりも高音質が狙える
そして新機能の「Bose Immersive Audio」も体験してみたが、こちらも予想以上に楽しめる機能だった。すべての音源を独自の空間オーディオに変換、ヘッドトラッキングも可能となり、空間上に音源が浮かぶスピーカーのようなリスニング体験を楽しめる。音楽を楽しむエンタメ向けの完全ワイヤレスイヤホンとして技術的にもよくできたモデルだ。
2022年発売の「QuietComfort Earbuds II」もノイズキャンセリング効果の高さが大きな話題になるなど、ノイズキャンセリング機能重視で選ぶ完全ワイヤレスイヤホンに必ずと言っていいほど名前があがるBose。最新の「QuietComfort Ultra Earbuds」は「QuietComfort Earbuds II」からノイズキャンセリング性能がアップしたという言及はなかったものの、実機比較では若干の性能アップを確認できた。今回比較した3機種の中でも、電車内の轟音や街中、自宅のPCデスク前などシチュエーションを問わずノイズ低減ができていた。
専用アプリを活用し、利用するシーンに合わせてノイズキャンセリング機能の強度と空間オーディオのモードをあらかじめセットしておけば、イヤホン本体から瞬時に呼び出せるなど、カスタマイズ性も優秀だ
アップル「AirPods Pro」(第2世代)も、2023年9月22日に「iPhone 15」シリーズが登場に合わせてUSB-C版が新たに登場した。発表に際して“「Apple Vision Pro」との組み合わせで20bit/48kHzのロスレス再生を実現”と新機能がアナウンスされたが、以前の検証では音質もノイズキャンセリング機能もLightningと同等だったため、今回はLightning版を使用して検証を行っている。iOSの最新バージョン「iOS 17」の登場により、外部音取り込み機能とノイズキャンセリング機能を状況に応じて組み合わせる「適応型オーディオ」が利用できるアップデートも行われている。アップル純正「H2」チップ搭載なので、「iPhone」シリーズや「Mac」シリーズを利用しているユーザーとの親和性の高さも魅力のひとつだ。
アップル「AirPods Pro(第2世代)」。2023年9月22日に「iPhone 15」シリーズと同時にUSB-C版も登場しているが、今回はLightning版を使用して検証を行った
スティック型のイヤホン本体を採用する「AirPods Pro(第2世代)」。イヤホン本体はUSB-C版とLightning版でまったく同じ外観になっている(写真はLightning版)
過去の記事でも評価したとおり、「AirPods Pro(第2世代)」の音質はUSB-C版とLightning版でまったく変わっていない。ソニー、Bose、アップルの順に検証すると、「AirPods Pro(第2世代)」の音質は若干物足りなく感じる。全体的なサウンドバランスはニュートラルだが、音の解像度が足りずパンチ不足。特に中高域のクリアさがあと一歩ほしいところだ。もっとも、きつい音はしないためリラックスして聴いて不快になることはないし、誰でも快適に聴ける音というのがアップルの狙いなのだろう。
「AirPods Pro(第2世代)」は「iPhone」シリーズと組み合わせて検証を実施
「AirPods Pro(第2世代)」のノイズキャンセリング機能は、単純なノイズキャンセリング性能という意味ではBoseに次いで強力だが、その代わりにノイズキャンセリング機能特有の違和感もかなり強く出る。また、ノイズキャンセリング性能は電車内など周囲のノイズレベルに影響されやすいようだ。耳への密閉度が弱いので極端な騒音下だとやや周囲の音も聴こえてくる。ただ、それらをひっくるめても、ノイズキャンセリング機能はかなり優秀なことは間違いない。
なお、「iOS 17」で追加された「適応型オーディオ」は、ノイズキャンセリング機能と外音取り込みを自動で調整してくれる機能だが、実質的には弱めのノイズキャンセリング機能として働く。「AirPods Pro(第2世代)」にはノイズキャンセリング機能の強度調整がないので、弱めて使いたい人はちょうどよく活用できる。
「iOS 17」で追加された「適応型オーディオ」。こちらはUSB-C版だけでなくLightning版でも利用可能だ
ここまで、ソニー、Bose、アップルのノイズキャンセリング機能搭載完全ワイヤレスイヤホンを詳しくレビューしてきたが、最後にまとめとして、3機種とも所有している僕なりの使い分けをを紹介しておこう。
まず、自宅でいい音で音楽を聴きたい時に持ち出すのは、ソニー「WF-1000XM5」が多い。音質はレビューでも書いたとおり情報量豊富。突っ走ったバランスではなく、総合的に安心して聴けるイヤホンだ。
高音質な音楽リスニング向きはやはりソニー「WF-1000XM5」
いっぽう、自宅では集中する音楽リスニング以外でもイヤホンが必要なことがある。たとえばYouTube動画の視聴やゲームプレイなど“スマートフォンスピーカーではなくイヤホンで楽しみたい”という用途は、アップル「AirPodsPro(第2世代)」の出番が多い。また、家族の声が聴こえるようにイヤホンを付けながら外音取り込みにしておくという時も「AirPodsPro(第2世代)」が扱いやすい。それから、「iPhone」でNetflixなどの映画を視聴する際は、アップルの空間オーディオが便利でよく活用している。
実は細々とよく持ち出すことが多い「AirPodsPro(第2世代)」。Netflix等で利用可能な空間オーディオも魅力
「AirPodsPro(第2世代)」の出番はほかにもあり、「Mac」でビデオ会議をする際には、僕の中では「AirPodsPro(第2世代)」がファーストチョイス。通話マイクの音質が非常に優秀なのと、「Mac」との接続時に画面にポップアップが出るので間違いなく接続されているという安心感があることが理由だ。
ビデオ会議の際は「AirPodsPro(第2世代)」を活用
次に、外出時にどれを持ち出すか? というと、実のところ僕のカバンの中には常に複数の完全ワイヤレスイヤホンが入っている。
取材など電車で外出する時は、Bose「QuietComfort Ultra Earbuds」がファーストチョイス。ノイキャンの優秀さは言うまでもないし、メリハリとパンチの効いたBoseサウンドは、電車の中、駅からの帰り道で音楽を聴くようなシチェーションと相性がよい。「Bose Immersive Audio」による空間オーディオもノリよく聴けて屋外でも音楽に没入できる。
電車内でノイズキャンセリング機能を有効にしながら音楽リスニングを楽しむなら「QuietComfort Ultra Earbuds」が便利
ただ、時々“今日はBoseじゃないほうがいい”という気分になることがたまにある。心当たりがある理由は装着感だ。「QuietComfort Ultra Earbuds」は、イヤーピースの密閉は弱いのだが、本体が大きく装着していると常に耳になにか当たっている感があるのだ。Boseな気分でない時には装着していてラクな「AirPodsPro(第2世代)」を選んだりする。
また、カバンを持たずに手ぶらで出かける際にも、「QuietComfort Ultra Earbuds」を持ち出すのは見送りがち。理由は「QuietComfort Ultra Earbuds」は充電ケースが大きいので、ポケットの中でじゃまになりがちということ。そんな時にも選ぶのは「WF-1000XM5」や「AirPodsPro(第2世代)」だ。
持ち出す気持ちとして意外ときいてくるのが充電ケースのサイズ
改めて書き出してみると、音質はソニー「WF-1000XM5」、ノイキャンはBose「QuietComfort Ultra Earbuds」と評価しながらも、アップルの「AirPodsPro(第2世代)」の出番が意外と多い。これは普段の生活の中の“ガチではない用途”をほぼ「AirPodsPro(第2世代)」が引き受けているから。これは僕が「iPhone」や「Mac」のユーザーでもあるためで(AndroidスマートフォンやWindows PCも併用しているが)、Androidのみのユーザーなら同じ役割をソニーやBoseに任せることになりそうだ。
完全ワイヤレスイヤホンの利用シーンは人それぞれ。僕のようにソニー「WF-1000XM5」、Bose「QuietComfort Ultra Earbuds」、アップル「AirPods Pro(第2世代)」の3機種所有で(実際にはもっと沢山あるが)、完全ワイヤレスイヤホンが増えすぎて困っている奇特な人は、利用シーンに応じて使い分けてみてほしい。