マランツからプリメインアンプ兼ネットワークオーディオプレーヤー「MODEL M1」が発表された。2024年6月中旬発売で、メーカー希望小売価格は154,000円(税込)。eARC/ARC対応のHDMI端子を持っているため、テレビとの連携もスムーズな小型モデルだ。
横幅217mmというオーディオ製品としてはコンパクトにまとめられた「MODEL M1」。AirPlay 2やBluetooth(SBC対応)での音楽再生も可能だ
冒頭のとおり、「MODEL M1」はプリメインアンプ兼ネットワークオーディオプレーヤーであり、マランツでは「ワイヤレス・ストリーミング・アンプ」と呼んでいる。クラスDアンプを搭載し、定格出力は100W(8Ω)×2。独自のネットワークオーディオ機能「HEOS(ヒオス)」に対応しているため、SpotifyやAmazon Musicの再生を自在に行える。
また、eARC/ARC対応のHDMI端子は当然HDMI経由のコントロール機能(CEC)に対応。テレビとHDMIケーブル1本でつないでおけば、テレビのリモコンで入力切り替えや音量調整が可能。接続したスピーカーを“ほぼテレビのスピーカー”にできる。
フロントパネルにはボリューム操作と音楽再生の再生/停止ボタンがあるものの、基本的には「黒い箱」である「MODEL M1」。テレビとつないで使うならば、本体は隠してしまってもよいだろう。
そうでない場合の操作をどうするのか、と気になった方もいらっしゃるかもしれない。「HEOS」アプリで操作できることはもちろん、本機には「リモコンプリセット」なる機能があるという。これは主要テレビメーカーのテレビリモコンを使って、音量調整をするというもの。さらに、「リモコン学習」機能を使えばテレビやブルーレイレコーダー、そのほかのオーディオ機器に付属する赤外線リモコンのコマンドを「MODEL M1」に学習可能。一般的な赤外線リモコンでの“レガシーっぽい”操作にもしっかり対応している。
接続端子はeARC/ARC専用HDMIのほか、アナログ音声入力1系統(RCA)、デジタル音声入力1系統(光)を装備。サブウーハー用のプリアウト(RCA)も用意される
「MODEL M1」は、最近のマランツ製品で人気の2chプリメインアンプにネットワークオーディオ機能をビルトインしたものだと考えられる。アンプの構成や本体の大きさはまったく異なるが、役割としては「MODEL 40n」と同じとも言えるだろう。
これは、オーディオ機器は必ずしも横幅44cmの「フルサイズ」でなくてもよいのではないか、という現代におけるマランツからの提案なのだ。過去においては、オーディオは重厚長大であることが音質に直結する……という考え方が圧倒的に優勢の時代もあった。しかし、たとえばクラスDアンプの採用を積極的に行うマランツでは、より高効率な形でアンプの出力、そして音質を担保しようとしている。それは必ずしも重厚長大にこだわらないアプローチということだ。
振り返ってみれば、マランツのクラスDアンプの追求は、実に10年近くを経ているという。そのはしりは2015年のプリメインアンプ「HD-AMP1」であり、同時期に開発をスタートした次世代のフラッグシッププリメインアンプ「PM-10」(こちらの発売は2017年)。
その後、プリメインアンプでは「PM12」や「PM12 OSE」そして「MODEL 30」、16chパワーアンプ「AMP10」など、マランツのクラスDアンプ搭載機は絶え間なく続いて今にいたる。その内容はどれも異なるが、クラスDアンプを活用するためのノウハウを蓄積してきたことは間違いなく、担当者によれば、クラスDアンプを追求し続けた10年ほどは「MODEL M1」開発のためにあったと言っても過言ではないという。
マランツのクラスDアンプ搭載プリメインアンプの集大成だという「MODEL M1」がどのように製品としてまとめられたのか、その詳細を追っていこう。
クラスDアンプの素子はオランダのAxignから購入したもの。ただし、モジュールをそのまま実装するのではなく、周辺部品などの実装はすべてマランツが独自で行う。パーツも基板も、マランツがよい音質のものを選んで完成させたという。こうした手法は「AMP10」に通じていると言える
まず、クラスDアンプはオランダのAxign(アクサイン)と共同開発したもの。これまでマランツがソリューションとして使っていたクラスDアンプはPWM信号を利用するいわゆる「スイッチングアンプ」だったのだが、今回はいわゆる「デジタルアンプ」。デジタル音声入力が前提となっており、内部ではDSP処理などをすべてデジタルで行う形だ。
外部入力としてはアナログ音声信号入力もあるが、こちらを使う場合は入力直後にA/D(アナログからデジタルへ)変換し、そこからフルデジタル処理される。
プリメインアンプで実績のあったHypex(ハイペックス)や「AMP10」で使われたICEpower(アイスパワー)のソリューション(スイッチングアンプ)を使わないのは、SpotifyやAmazon Musicしかり、HDMIからの信号しかり、再生ソースのほとんどがデジタル音声ということに由来するのだろう。コンパクトな筐体にすべてをまとめるためには、このフルデジタル処理が都合がよいだろうし、このAxignの「デジタルアンプ」には、マランツ独自のフィルター「MMDF」を取り込めることも重要なポイントだという。
「MODEL M1」は4ch分のアンプを内蔵し、内部でBTL接続される。こうして100W(8Ω)のハイパワーを確保している
樹脂を採用したキャビネットはつや消しフィニッシュ。安光りしないので、落ち着いた印象だ
もちろん、「MODEL M1」はアンプ回路だけを見て作られたものではなく、コンパクトな本体に多くの機能を収めることも重要なテーマとなっている。そのために採用されたキャビネット素材は樹脂。
これは小型でも広大な空間表現と開放的なサウンドを実現するためのあえての方策だという。高級オーディオでは磁性体が電気回路に及ぼす影響を避けるため、アルミを削り出して使うのが定番の手法だ。軽く、強度も得られる方法だが、いかんせんコストが掛かりすぎる。コストが掛からない方法として通常用いられる方法はスチール(鉄)を使うこと。言わずもがな、こちらは磁性体である。
「MODEL M1」のような小型モデルでは特に磁性体を避けたいという都合もあり、強度と非磁性体であることを満たす積極的な案として樹脂が選ばれたのだ。とはいえ、シャーシには4mm厚のアルミベースプレートを採用して、放熱性とトータルの剛性を確保している。
ファンレス構成で静音性を重視したことも「MODEL M1」の特徴。天面はメッシュ状になっていて、効率的な放熱を図る。このメッシュはやはり非磁性体のステンレスだ
底面もメッシュ状に多数の穴があり、上下に放熱できるよう設計されている
ちなみに、こちらはマランツの試聴室に常設されているアンプ。開放的なサウンドを優先するために、天面は常に開け放たれている。「MODEL M1」の天面のメッシュはこうした発想が製品にまとめられたものでもあるのだ
D&Mホールディングスの試聴室で、Bowers & Wilkinsの「802 D4」を鳴らす。もちろんアンプは「MODEL M1」だ。これは本製品の開発環境そのものでもあるという
最後に、「MODEL M1」の実機に触れる機会を得られたので、そのインプレッションをお伝えしよう。
まずデモンストレーションされたのは、シーネ・エイのCDを使った、デジタル入力/アナログ入力の聴き比べ。比べてみると、デジタル入力では勢いよく飛び出すホーンが心地よい。アナログではこれがやや丸くなる印象だが、ベースなどが太めに、ずっしりと重心が下がって感じられる。
この日のCDプレーヤーはマランツの「SACD 30n」。しっかりしたCDプレーヤーを使うのだから、アナログ出力(「MODEL M1」のアナログ入力)を使いたくなるのが人情だが、このキャラクターの違いはなかなか悩ましいところ。
CDプレーヤーとはデジタルで接続するほうが余計なA/Dコンバートが入らないのだから、有利なのではないか……などいろいろなことが頭をよぎる。つまりはオーディオ機器らしい楽しみにあふれているということだ。
両者の違いはともかく、どちらもせせこましい感じのしない音場の広がりや雄大さが立派。オーケストラの再生もものともしない。
クリス・ジョーンズの「No Sanctuary Here」では低い帯域のベース、ボーカルが下支えする上に、鮮度の高いギターやきれいなリバーブをともなって漂う。こういうピラミッドバランスの低音の出方と音場の再現性は、まさにハイファイと言えるだろう。
この日は大きさの比較用にマランツの人気ミニコンポ(プリメインアンプ兼CDプレーヤー)「M-CR612」が置いてあったのだが、比較の必要はないでしょう、と担当者はあえてこちらを再生することはなかった。デモンストレーションを受けた側もまったくそのとおりだなと思った次第だ。
価格が違ううえにCD再生機能まである「M-CR612」と音質の比較をするのは元々ナンセンスかもしれないが、両者の性質はそれほどに異なる。小さくてもハイファイクオリティという「MODEL M1」の目的は一定以上に達せられていると大いに納得させられた。
左が「M-CR612」。右の「MODEL M1」はさらにコンパクトにまとめられていることがわかる