レビュー

REGZAの有機EL「X9900N」と「X8900N」の画質差はどれほどなの?

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少し前にTVS REGZA「Z870N」シリーズのレビュー、全録機能である「タイムシフトマシン」のレビューをしたばかりだが、ここではさらに有機ELテレビ「X9900N」シリーズを紹介する。

REGZAの最上位モデルである「X9900N」シリーズは、最新の高輝度有機ELパネル、最上位の映像処理エンジン「レグザエンジンZRα」を搭載した注目作。ここで気になるのは、有機ELテレビのスタンダードモデル「X8900N」シリーズとの画質の違いだろう。本レビューでは「X8900N」シリーズも同時に視聴しているので、両モデルの機能的な差異や画質・音質の違いについても解説していく

メーカーから55V型モデル「55X9900N」を借用し、レビュー。画面サイズ違いではあるが、同時に65V型の「65X8900N」も借用できたので、あわせて画質の違いをチェックする

メーカーから55V型モデル「55X9900N」を借用し、レビュー。画面サイズ違いではあるが、同時に65V型の「65X8900N」も借用できたので、あわせて画質の違いをチェックする

「X9900N」シリーズのラインアップ
●65V型「65X9900N」 解像度:4K(3,840×2,160)
●55V型「55X9900N」 解像度:4K(3,840×2,160)

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2024/10/04 07:00

「X9900N」シリーズはどんなテレビか?

●「タイムシフトマシン」を搭載したTVS REGZA最上位テレビ
●高精度映像処理エンジンとミリ波レーダーで映像を最適化
●最新高輝度パネル「マイクロレンズアレイ有機ELパネルモジュール」搭載

REGZAの最上位モデルとあって、指定したチャンネルのテレビ番組をまるごと録画する「タイムシフトマシン」を搭載。本機能の詳細は関連記事をご覧いただきたい

REGZAの最上位モデルとあって、指定したチャンネルのテレビ番組をまるごと録画する「タイムシフトマシン」を搭載。本機能の詳細は関連記事をご覧いただきたい

冒頭のとおり、有機ELテレビ「X9900N」シリーズはTVS REGZAが展開するテレビの最上位モデル。大きな特徴の1つは「タイムシフトマシン」を搭載していること。別売りの外付けUSB HDD(もしくはSSD)を使用して指定したチャンネルのテレビ番組を最大6チャンネルまですべて録画できる機能だ。ブランドの最上位モデルとあって、画質・音質の充実だけでなく、機能的にも強力になっている。

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2024/10/15 09:09
映像処理エンジンは「レグザエンジンZRα」。同エンジンは「X9900N」シリーズのほか、液晶テレビのフラッグシップモデルとされている「Z970N」シリーズに搭載される

映像処理エンジンは「レグザエンジンZRα」。同エンジンは「X9900N」シリーズのほか、液晶テレビのフラッグシップモデルとされている「Z970N」シリーズに搭載される

画質の面で注目すべきは、映像処理エンジンが「レグザエンジンZRα」であること。自動で映像の最適化を図るAI機能を強化し、より自然でリアルな映像再現を可能にするほか、自動車が歩行者の検知や衝突防止などで採用するミリ波レーダーを採用。視聴者のいる位置を検知して最適な画質・音質調整を行うといった機能も備えている。

有機ELパネルは、LGディスプレイ製の最新MLA(マイクロレンズアレイ)パネル。高輝度が特徴で、「X9900N」シリーズのピーク輝度は2,000nit程度とのこと

有機ELパネルは、LGディスプレイ製の最新MLA(マイクロレンズアレイ)パネル。高輝度が特徴で、「X9900N」シリーズのピーク輝度は2,000nit程度とのこと

そして、有機ELパネルは最新仕様の「マイクロレンズアレイ有機ELパネルモジュール」を搭載している。これはパネルの全面に微小なマイクロレンズアレイ層を備え、パネルの光を効率よく取り出すもの。

さらに独自の3層のアルミ層を持つハイブリッド高冷却システムを組み合わせることで、大幅な高輝度化を実現している。この仕組みで、高輝度化だけではなく視野角も向上しているという。このほか、外光の映り込みなどによるコントラスト低下を抑える低反射コートも採用しており、画質に徹底してこだわったパネルだと言えるだろう。

「X8900N」シリーズはどんなテレビか?(「X9900N」シリーズとの違いは?)

・「タイムシフトマシン」非搭載のシンプルな有機ELテレビ
・48V型の“中型”をラインアップ
・映像処理エンジン、パネルのグレードが「X9900N」シリーズとの違い

スタンダードな(MLAではない)LGディスプレイ製有機ELパネルを使った「X8900N」シリーズ。65V型、55V型に加えて48V型をラインアップする

スタンダードな(MLAではない)LGディスプレイ製有機ELパネルを使った「X8900N」シリーズ。65V型、55V型に加えて48V型をラインアップする

同時に借用した「X8900N」シリーズについても紹介しておこう。こちらは「タイムシフトマシン」は非搭載となり、画面サイズは65V型55V型に加えて48V型を揃えた3サイズ展開。映像処理エンジンは「レグザエンジンZR」となる。有機ELパネルは2024年仕様の最新型ではあるが、「マイクロレンズアレイ有機ELパネルモジュール」ではない。パネルやエンジンの違いなど、特に画質の差が気になるところ。両者を比較視聴しながら、どのくらいの違いがあるかを詳しく紹介したい。

AI技術がより自然で質感豊かな映像を描く

コンテンツに合わせた映像最適化処理として「AIシーン高画質PRO」がある。実際に画面に映ったシーンをリアルタイムで判別し、それに合わせた処理を行う機能だ

コンテンツに合わせた映像最適化処理として「AIシーン高画質PRO」がある。実際に画面に映ったシーンをリアルタイムで判別し、それに合わせた処理を行う機能だ

先述のとおり、「X9900N」シリーズは映像処理エンジン「レグザエンジンZRα」で精密な映像処理を行っている。地デジ放送をはじめとするさまざまな映像に対して、映画やスポーツなどのコンテンツタイプ判別をしたうえ、「AIシーン高画質PRO」機能で特徴的なシーンを判別する。TVS REGZAによれば、夜景/花火/格闘技/ゴルフ/サッカーなどの特徴を検出しており、それぞれの場合に独自の高画質処理を行う。

このほか、映像に合わせたコントラスト制御では、パネルの輝度ピークや色ピークを個別に制御して、鮮やかな光と美しい色の再現を高めている。また、新しいディザリングアルゴリズムにより、さらに暗部の階調再現性を改善するなど、映像処理がより高精度になっている。

そして、REGZA自慢の地デジ放送やネット動画、アニメなどの最適化処理もより精度を高めた「PRO」仕様となっていて、緻密なディテール再現性やノイズの低減性能を高めている。

地デジ放送の映像はノイズを抑えられて見通しがよい

映像モード(「映像メニュー」)は「おまかせAI」。部屋の明るさと再生中のコンテンツ両方に合わせて映像を最適化してくれる

映像モード(「映像メニュー」)は「おまかせAI」。部屋の明るさと再生中のコンテンツ両方に合わせて映像を最適化してくれる

実際に地デジ放送を見てみよう。照明をつけた明るい環境で映像モードは「おまかせAI」としている。ニュース番組などを見ても、画面全体の明るさが向上していることがはっきりとわかるし、スタジオ内の明るさと屋外ロケ撮影の明るさ感の違いをリアルに描き分ける。

特に景色の美しい土地を探訪する旅行記のような番組を見ると、美しい自然や街並みを映した風景の見通しがよい。これは映像全体が明るくなって細部まできちんと見渡せるようになった効果もあるが、AIが被写体と背景を判別してそれぞれに最適な超解像処理を行う「AIナチュラルフォーカステクノロジーPRO」の効果も大きいと感じた。映像に立体感が出て、実際にその場所を訪れているようなリアルさが感じられたのだ。

感心したのは地デジ放送特有のノイズを抑えながらも質感やディテール情報はきちんと残しているところ。たとえばお年寄りを映した場面では、血色がよく階調も滑らかだが、厚化粧したようにつるっとした再現にならず深いシワや肌のしみなどはそのままに再現する。そのため、変に作り込んだような違和感や人工感がなく、自然な印象なのだ。

また、画面に現れる地名などの文字やテロップなどもノイズの発生などによる荒れた感じがないのも好印象。ノイズ処理などで見やすい映像に仕上げながらも、細部までていねいに再現された映像と感じる。

YouTubeなどでは「バンディングスムーザー」が効果的

主に高圧縮比率で配信されるコンテンツに効果的な「バンディングスムーザー」。オン/オフを切り替えられるので、効果を確かめてみると面白い

主に高圧縮比率で配信されるコンテンツに効果的な「バンディングスムーザー」。オン/オフを切り替えられるので、効果を確かめてみると面白い

ネット動画の画質はどうか。YouTubeで「THE FIRST TAKE」などの動画を見てみたが、こちらもスムーズで見やすい。低ビットレートの映像で目立ちやすい背景のカラーバンディング(グラデーションのような微妙な色の変化が等高線のように急に色が変化してしまう状態)もじっくりと見ないとほとんどわからない

無処理だと嫌になるほど目に付くバンディングノイズを抑えているのは「バンディングスムーザー」だろう。画質設定でオン/オフを切り替えてみると、それらがしっかりきいているのがよくわかる。しかも、クローズアップされた歌い手の表情のディテールはしっかりと再現されている。いくつかの番組を見ていると、「X9900N」シリーズで見るYouTubeはずいぶんと画質がよいなと感心してしまうほど。

黒の階調は滑らかないっぽう、ピークの再現は欲張らない

ここからは外光の入らない部屋で全暗状態にして視聴。映画系の映像モードでシビアに画質を見ていこう

ここからは外光の入らない部屋で全暗状態にして視聴。映画系の映像モードでシビアに画質を見ていこう

では、画質的には元々優秀なUltra HDブルーレイではどうか。「デューン 砂の惑星PART2」を見てみた。ディスクはDolby Vision収録のため、映像モードはDolby Vision専用モードに切り替わる。

デフォルトの「Dolby Vision IQ」モードでは動画補間機能(「倍速モード」)機能がオンになってしまうので、照明を落とした暗室に近い環境として「Dolby Vision Dark」モードで試聴した。大型のスパイス採掘機を砂の民とともに攻撃する場面を再生したが、変に画面全体を明るくするようなこともなく、映画館で見る映像に近い感触だ。

「Dolby Vision IQ」は周囲の環境に合わせた最適化を図るDolby Vision専用モード。明るめの部屋では有効だが、今回は全暗環境での視聴のため「Dolby Vision Dark」に切り替えた

「Dolby Vision IQ」は周囲の環境に合わせた最適化を図るDolby Vision専用モード。明るめの部屋では有効だが、今回は全暗環境での視聴のため「Dolby Vision Dark」に切り替えた

暗い部屋専用モードと言える「Dolby Vision Dark」モード。「倍速モード」は「オフ」としている

暗い部屋専用モードと言える「Dolby Vision Dark」モード。「倍速モード」は「オフ」としている

印象的なのは暗部の再現性で、階調表現がスムーズ。上空からの攻撃を避けるために機械の陰に隠れるのだが、そんな暗い状況下でも表情や服装の細部までよくわかる。

最近の薄型テレビは高輝度化をアピールするために画面全体が明るくなりすぎ、暗部は黒が浮いた印象になってしまうこともあるが、「55X9900N」は黒をしっかりと沈め、暗がりの階調を滑らかに再現する。もちろん日が差した明るい部分と、陰が一画面に混在するシーンでは、陽光のまぶしさと影の濃さがそれぞれにしっかりと出て、コントラスト感の高い見応えのある映像になる。

砂の民の瞳は青みがかっているのが特徴だが、テレビによっては明るいシーン、暗いシーンでその微妙な青みがわかりにくいこともある。「55X9900N」はこのあたりの再現性にも常に忠実感がある。元々精細な映像の作品だが、それを無理に強調してカリカリの硬い映像にするのではなく、フィルムライクなスムーズさ、精細ではあるが滑らかに感じられる映像となっているのも好ましい。

続いて、HDR10+収録のUltra HDブルーレイ「Train Night View 夜のゆりかもめ 新橋〜豊洲 全線往復」も見てみた。これはゆりかもめの全路線を車内に設置したカメラで撮影した作品。日没間近の夕景の時間に出発し、次第に夜景へと移り変わっていく様子が見所だ。

出発時の夕景は十分以上に明るく映し出されるが、日差しの色の感じや建物の陰になる部分の暗さなどで夕方の感じは出ている。強い光はしっかりと力強く映すが、あまり無理に映像を明るくしようとしないのも自然な感じでよい。

日没後の夜空になっても映像としては全体に明るく見通しがよい。個人的にはもう少し暗くなったほうがリアルな見え方のような気もするが、ビル街のすきまの暗がりが十分に見通せて、ゆりかもめから見える街の様子を眺められるというのは悪くない。煌々と光りだす街灯やネオン、ビルの窓からもれる照明などはピーク感の強い明るさで、夜の街の雰囲気がしっかりと出ている。

一般的なコンテンツの場合、映画向けの映像モードとして「映画プロ」が用意される。Netflixなどの場合は「シアター」と若干名称が異なることに注意

一般的なコンテンツの場合、映画向けの映像モードとして「映画プロ」が用意される。Netflixなどの場合は「シアター」と若干名称が異なることに注意

「X9900N」シリーズの映像を見て、総合的な印象として残ったのは見やすくしかも精細な映像であるということ。地デジやネット動画ではノイズを抑えながらも質感や立体感をうまく残している。パネルの輝度が十分に高いことは、昼間のシーンでのまぶしいほどの明るさや、直射日光などの力強い光でよくわかる。

いっぽうで、階調性重視なのか、ピーク(明るい部分)を無理に伸ばさない絵作りはリアル志向と言ってもよい。映像モードを「映画プロ」にすると、リアル志向はさらに強まり、画面全体の明るさを強調することもなく、暗部をしっかりと再現する。暗い部分でも色が豊かだし、青空や雲のような明部では明るさをあまり欲張らずに階調を豊かに再現する。最新高輝度パネルの性能を生かしながらも、REGZAらしい絵作りに仕上げている印象だ。

「X8900N」シリーズとの大きな違いはノイズの抑制具合や細部の再現性

弟モデルである「65X8900N」と画質・音質を比較。「タイムシフトマシン」が使えないが、「X9900N」シリーズよりも価格がグッと抑えられている

弟モデルである「65X8900N」と画質・音質を比較。「タイムシフトマシン」が使えないが、「X9900N」シリーズよりも価格がグッと抑えられている

ここで、比較した「65X8900N」の印象も記しておこう。まず、地デジ放送やネット動画では画面全体の明るさに差を感じる。これはパネルの輝度性能の差がそのまま現れたのだろう。ただし、確かに画面全体の明るさや見通しのよさに差があるが、バランスは取れていて単独で見るなら明るさが不足しているとか、映像の力感が足りないと感じることはない。

暗部はやや沈み気味にも感じるが、黒潰れして情報が出ていないというほどではない。こうしたバランスのよさは、スタンダードな有機EL(WOLED)パネルを使い慣れているためとも思える。基本的にはやはりREGZAらしいリアル志向なので派手さは少ないが、まとまりのよい画質だ。

気になったのはノイズが目立ちやすいこと。地デジやネット動画の質感やディテール再現に大きな差はないと感じるが、髪の毛や衣服の細かな模様などに付帯する細かいノイズが目に付き、輪郭の乱れなども気になる。同じようにテロップの文字などにもどうしてもノイズが混じるのだ。

地デジ放送のノイズは元々これくらいだろうとは思う。画面サイズこそ違うが、「55X9900N」ではかなりうまくノイズが抑えられていたことに改めて感心する。こうしたノイズは大きな画面ほど目に付くので、65V型を購入する場合は「X9900N」シリーズを選んだほうが、見やすくしかも美しい映像を楽しめるだろう。映像処理エンジンの実力違いを如実に実感できるはずだ。

質の高いUltra HDブルーレイソフトを暗い環境で見ると、パネルの輝度性能の差は目立ちにくくなる。「デューン 砂の惑星PART2」ならば広大な砂漠に浮かぶ日光のまぶしさなど、強い光の再現に違いを感じる程度で、映像の見通しのよさなどは共通している。

暗部の再現性にやや苦しいところもあるが、 「X9900N」シリーズが暗部を含めて明るく見せる傾向なので、「X8900N」のほうが映画館などで見る暗部の沈み方に近いとも言える。黒の締まり自体はよく感じられるし、映画好きならば「X8900N」の暗部の見せ方のほうが好ましいと感じる人も少なくないかもしれない。

「Train Night View 夜のゆりかもめ 新橋〜豊洲 全線往復」でも、夕景の薄暗くなった感じや夜が更けた暗さもしっかりと出てリアルな印象だ。ただし、比較すれば街灯やネオンのまぶしさ、色鮮やかさに物足りなさもある。

暗い部屋での映画鑑賞が主体ならば「X9900M」シリーズも視野に入る

こうして両者を比較すると、より大きな画面で明るいリビングなどで楽しむならば、「X9900N」シリーズが好適だろう。特に視聴するコンテンツが地デジ放送やネット動画が多い人ならば、ノイズ抑制の実力の高さも頼もしい。半面、画質的にすぐれたパッケージソフトを主に暗い環境で見るならば、画質の差は少なくなる。「X8900N」シリーズで十分とは言わないが、今回の視聴では思ったほどの落差は感じなかった。どちらもすぐれた映画画質を実現しているし、「X8900N」シリーズの“映画館に近い雰囲気”を好ましいと感じる人も少なくないだろう。

同じ論理で言えば、映画鑑賞が主体なら(そこまで明るい映像が必要ないなら)2023年モデル「X9900M」シリーズの65V型「65X9900M」も価格がこなれていてお買い得とも思う。要するにテレビを置く部屋が外光の入る明るい空間か、映画館に近い遮光もできるシアター的な空間かが選択の決め手になる。なかなか店頭などで同じ条件で比較するのは難しいが、両者を比較してみると思った以上に明るさに差があることは覚えておこう。

フラット志向のスピーカーは聴き応え十分

「X9900N」シリーズはスピーカー構成も豪華。前向きに設置されたメインスピーカーだけでなく、横と上向きのスピーカーでユーザーを包むような音響効果を目指している

「X9900N」シリーズはスピーカー構成も豪華。前向きに設置されたメインスピーカーだけでなく、横と上向きのスピーカーでユーザーを包むような音響効果を目指している

音質はどうか。「X9900N」シリーズのスピーカーシステムは「重低音立体音響システムXIS(Immersive Sound 360 PRO)」。構成としては5.1.2chでDolby Atmosにも対応する。総数18個(65V型の場合。55V型は14個)のスピーカーを備え、マルチアンプで各ユニットを独立駆動する。65V型と55V型の違いはトップスピーカーとセンタースピーカーが2ウェイ構成になっている点だ。

リモコンのマイクで部屋の音響特性を測定して最適な特性に自動調整する「オーディオキャリブレーション」、ミリ波レーダーで視聴者の位置を検出し、その位置や距離によって音響特性を最適化する「ミリ波レーダー高音質」なども備える。

実際にテレビ放送を見ても、ニュースのアナウンスやドラマのセリフがきちんと画面に定位し、BGMなどは包み込むように広がる。周波数特性としてもフラット志向なバランスの、自然な聴き心地だ。映画などではさすがに低音が不足するが、地デジ放送なら不満はない。むしろ中低域がやせていないので聴き応えもある。テレビの内蔵スピーカーとしては十分に優秀だ。

タイプとしてはモニタースピーカー的な傾向であまり派手な演出はない。もっと派手というかバリバリ鳴るテレビのほうが店頭などでは印象に残るかもしれないが、「X9900N」シリーズのスピーカーは家で聴いて質の高さを実感できるタイプだ。

なお、サラウンド機能を使うと音の広がり感は増すが、こちらもあまり方向感や移動感を強調するのではなく、自然な包囲感や広がりを感じさせるタイプ。テレビの上や下、横に複数のスピーカーが備わっているが、それらがバラバラに鳴っている感じはなく、チャンネルのつながりは良好だ。

映画ソフトでサラウンド音声を聴くと、前方主体ではあるが高さ感も含めてなかなか立体的な音響になる。音が前後にびゅんびゅんと移動するような派手さはないが、画面の後ろのほうや横にいる人の足音の方向感、群衆の歓声が前後左右から聴こえる感じなど、なかなかよくできている。

映画の重低音は少々物足りないとは書いたが、このあたりはテレビ内蔵スピーカーでは難しいだろう。いっぽうで中低域がしっかりと出ているので、よほどの音量で映画館のような音を期待しなければ十分とも言える。

「X8900N」シリーズのスピーカーも優秀だがさすがに差はある

片チャンネルにつき2つのフルレンジを搭載。そこにツイーターを組み合わせた2ウェイスピーカー構成。そこにパッシブラジエーター(アンプで駆動しないユニット)を組み合わせた比較的シンプルなスピーカーシステムと言える

片チャンネルにつき2つのフルレンジを搭載。そこにツイーターを組み合わせた2ウェイスピーカー構成。そこにパッシブラジエーター(アンプで駆動しないユニット)を組み合わせた比較的シンプルなスピーカーシステムと言える

「X8900N」シリーズの内蔵スピーカーシステムは「重低音立体音響システムXP」。パッシブラジエーターとフルレンジスピーカーを2連装とし、さらにツイーターを備えた合計6個のスピーカーでDolby Atmosにも対応。こちらも、リモコンを使った音場補正機能「オーディオキャリブレーション」を備える。

基本的な音の傾向は「X9900N」シリーズと共通したモニタースピーカー的なもので、派手さはないが質の高さを重視したタイプ。だから、地デジ放送の2チャンネル音源の再生では、よほどの大音量で聴かない限り「X9900N」との大きな差はない。アナウンスやドラマのセリフもきちんと聴こえるし、BGMなども聴き応えがある。

さすがに違いがあるのは、音の広がりやサラウンド再生時の音の包囲感だ。このあたりは、内蔵スピーカーにどこまでの音質を求めるかでも違いはあるし、特にサウンドバーなどを追加する予定がある人ならば「X8900N」シリーズのクオリティで十分とも言える。

なお、「X9900N」シリーズに関しては並のサウンドバーならば無理に追加する必要はない。サブウーハー別体型、さらに理想を言えばワイヤレスリアスピーカーなども備える高級グレードのものでなないと、ダウングレードになってしまうので注意しよう。

【まとめ】明るく万能な「X9900N」は「X8900N」と相応の差がある

「最新の有機ELパネルを使ったモデルならば、パネル仕様の違いはあっても大きな差はないだろう……」そう考える人は少なくないと思うし、価格.comの最安価格をチェックすると「X8900N」シリーズと「X9900N」シリーズの価格差もそれなりにあるので、安価な「X8900N」シリーズが気になる人は多いだろう。

だが、両者を比べてみると価格差相応の違いはあることがよくわかった。特に大画面の65V型モデルを検討する場合はパネル性能の差や映像処理エンジンの違いが顕著になるはずだ。

ただし、暗い環境での視聴がメインとなると、高輝度化を果たした上位パネルのメリットは出にくく、価格ほどの差は感じにくいとも言える。有機ELテレビは映画館のような暗い環境で暗部の階調やデリケートな表現力を楽しむもの。と、割り切れる人ならば、「X8900N」シリーズ(または2023年モデルの「X9900M」シリーズ)はお買い得だ。

価格が近い「X8900N」と「Z870N」の画質差は?

少し前に自宅で視聴、レビューを行った「55Z870N」。「タイムシフトマシン」を搭載した高コスパ機だ。価格はタイムシフトマシン非搭載の「55X8900N」と近いが画質はどうなのか?

少し前に自宅で視聴、レビューを行った「55Z870N」。「タイムシフトマシン」を搭載した高コスパ機だ。価格はタイムシフトマシン非搭載の「55X8900N」と近いが画質はどうなのか?

せっかくなので、mini LEDバックライトを搭載した「Z870N」シリーズとの画質の違いも軽く紹介しておこう。比較対象は同じ「レグザエンジンZR」を搭載する「X8900N」シリーズだ。

画面全体の明るさや輝度ピークの伸びでは「Z870N」シリーズの圧勝だ。もし横に並べて見るならば、「X8900N」シリーズは非力で元気のない絵に見えてしまうかもしれない。

「X9900N」シリーズを持ってきてようやく勝負になるレベルだ。暗部の再現性は意外かと思われるが同等。黒の締まり、深さでは「X8900N」シリーズだが、黒の階調性のスムーズさは液晶の「Z870N」が上で、トータルでは引き分け。好みで選んでよいレベルだと思う。

こう言ってしまうと、「Z870N」シリーズは価格的にもお得だし、かなりよいようにも感じるが、「Z870N」シリーズには液晶テレビ特有と言える苦手がある。まずは視野角。大画面になると画面の端でコントラストの低下や色抜けが目に付くようになるので気になるならば視野角を対策した上位モデルを選びたい。

そして応答性。これは比較してようやくわかるくらいの差とも言えるが、カメラのパンニング、あるいはクローズアップされた被写体がうなずくような仕草をしたとき、液晶テレビである「Z870N」シリーズはどうしてもわずかに映像がぼやける。これはゲームをプレイする場合でも気になる点だ。

また、画面が白一色のユニフォーミティ(均一性)はずいぶんよくなったが、「ある程度面積のある均一な色のエリア」でバックライトの分割駆動(ローカルディミング)の弊害で色にムラが出るほか、しみのような色の不安定さが露見することもある。「ある程度面積のある均一な色のエリア」とは、具体的に言うとアニメキャラクターの表情のクローズアップだ。ここで色ムラが出てしまうのはアニメ好きとしては気になる。動くと色ムラがさらに目立つことも指摘しておこう。

mini LEDバックライト搭載液晶テレビ勢には少々厳しいことを言ってしまったが、厳しく画質を追求すると、mini LEDバックライト方式は万能ではなく、まだまだ解決すべき問題が残っていると感じている。このあたりの差を実際に見て、気にならないレベルかどうかを確認するのも大事だ。画面の明るさなども含めて、何が自分にとって重要かを把握して、製品選びに生かしてほしい。

鳥居一豊
Writer
鳥居一豊
オーディオ専門誌の編集スタッフを経て独立。マンガ、アニメ、ゲームをこよなく愛し、視聴取材などでも数多くの名作を取り上げる。ホームシアターのために家を新築して早10年。現在は8.2.4ch構成のDolby Atmos対応サラウンドシステムと120インチスクリーン+プロジェクターによる視聴設備を整えている。ホームシアターは現在でもまだ進化する予定。
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柿沼良輔(編集部)
Editor
柿沼良輔(編集部)
AV専門誌「HiVi」の編集長を経て、カカクコムに入社。近年のAVで重要なのは高度な映像と音によるイマーシブ感(没入感)だと考えて、「4.1.6」スピーカーの自宅サラウンドシステムで日々音楽と映画に没頭している。フロントスピーカーだけはマルチアンプ派。
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