LGエレクトロニクスの「G4」シリーズから、55V型の「OLED55G4PJB」を借用。本機の画質・音質をレビューする
LGエレクトロニクスのフラッグシップテレビである「G4」シリーズをレビュー。テレビ向けの大型有機ELパネルを開発・製造するLGディスプレイをグループ会社に持つ、言わずと知れた有機ELテレビメーカーの最新作だ。
「G4」シリーズのラインアップ
●97V型「OLED97G4PJA」 解像度:4K(3,840×2,160)
●83V型「OLED83G4PJA」 解像度:4K(3,840×2,160)
●77V型「OLED77G4PJB」 解像度:4K(3,840×2,160)
●65V型「OLED65G4PJB」 解像度:4K(3,840×2,160)
●55V型「OLED55G4PJB」 解像度:4K(3,840×2,160)
●最新高輝度パネルを使った有機ELテレビのフラッグシップ機
●83V型、97V型の超大型もラインアップ
●AIによる多彩な映像最適化処理を実現
「G4」シリーズは、サイズバリエーションが豊富。レビューする55Vのほか、65V型だけでなく、77V型、83V型、97V型(写真左端)という超大型サイズもラインアップする(ただし、97V型のみパネルの仕様は異なる)
LGエレクトロニクスの「G4」シリーズは、同社の 有機ELテレビの基本ラインアップで最上位となるシリーズだ。有機ELパネルにはLGディスプレイ製の最新高輝度パネル「MLA+」を搭載(97V型を除く)。
2023年初のCESでLGディスプレイが発表した「MLA」の資料。小さなレンズを列にしているので、マイクロレンズアレイと呼ばれる。77V型ではレンズの個数は424万に上るという。最新の「MLA+」ではレンズの角度を最適化し、高効率での発光を実現した
進化のポイントとして最も注目すべきは映像処理エンジン「α11 AI Processor 4K」だ。従来の「α9 AI Processor」比でAIパフォーマンスが4倍、グラフィックエンジン性能が1.7倍、プロセッサー処理速度1.3倍となる高性能エンジンで、それらのパワーを映像と音声の最適化処理に生かしている。
上段が「G4」シリーズに搭載される「α11 AI Processor 4K」。映像処理エンジンのグレードが下位モデルとの大きな差の1つだ
具体的な映像処理として、「AI Super Upscaling」などが紹介されている。これは映像信号の品質をAIが判別し、解像度などに応じてそれぞれに最適な処理を行うもの。分析結果に基づいて各種ノイズリダクションなどを施す。アップスケーリング処理では1ピクセル単位の超解像処理が行われ、高精度な4K画質を得るとしている。
さらに、人物の顔の領域には「ナチュラル表情エンハンサー」処理を加え、感情まで伝わる自然な表情を再現するという。
AIによる映像の最適化を前面に押し出す。シーンやオブジェクトを自動判定し、各部に応じた最適化を施すという
また、人物の顔や身体、車や動物といったオブジェクトを検出してより最適な処理を行う「オブジェクトエンハンサー」、AIによる映像分析で制作側の意図を類推してよりナチュラルな色を再現するという「AIディレクター処理」などの機能も持つ。
本来はこうだったのではないか、という色の再現を行う「AIディレクター処理」
HDR映像のリアルタイム最適化処理である「OLEDダイナミックトーンマッピングプロ」では、映像を1フレームごとに分析し、その1フレームを5,000以上に分割してブロックごとにトーンカーブを最適化。そしてグレースケール分析によりさらに輝度を高めるなど、高精度な処理を行っている。
高性能エンジンによる映像処理はLGエレクトロニクスだけでなく他社も力を注いでいる部分だが、高性能なLSIを使って演算処理の質を高めているのがLGエレクトロニクスの特徴だ。
このほか、LGエレクトロニクスが独自に開発している「webOS」は、動画配信サービスを含めたさまざまなコンテンツに柔軟にアクセスできるほか、音声入力にも対応するなど快適な操作ができるようになっている。特徴的な機能としては、リモコンが十字キーによる選択だけではなく、ポインティングデバイスとしても使える「マジックリモコン」としているのもほかにはない特徴だ。
OSはLGエレクトロニクス独自の「webOS」。YouTubeやAmazonプライム・ビデオ、Netflixなど、主要ネット動画サービスを再生可能だ。2022年以降の有機ELテレビは5年間で計4回のOSアップグレードを保証してくれる
背面がフラットなデザインで、厚さはすべてのサイズで3cm以下。壁にぴったりと設置できるデザイン性の高さも魅力だ。壁掛け用のブラケットもこのために薄く設計されている
冒頭の写真のように、まずは明るい環境で映像モードを「標準」として地デジ放送などを視聴した
気になる画質は明るくくっきりとしている、という印象だ。一般的なリビングを想定し、かなり明るい環境下で映像モードを「標準」とし、AIによる最適化機能をすべてオンとして地デジ放送などを視聴すると、細かなノイズがよく抑えられ、くっきりと見やすい。
画面全体がかなり明るいと感じるいっぽう、ロケ撮影の映像での陰になる部分や暗部はしっかりと暗く締まっていてコントラスト感にもすぐれる。色鮮やかで見通しがよい映像だ。
ただし、視聴距離が1m以下になるような近接視聴だったこともあり、よく見るとディテールが潰れていたり、細い縞のシャツの模様が太めになったり、やや強調感が強めに感じられることもあった。このほか、条件のよくないロケ撮影とスタジオ撮影、最新の映画と古いフィルム撮影の映像などでの画質差が目立ちやすいなど、元ソースのクオリティの違いがはっきり出やすいとも感じた。
このため、映像に強調感や人工的な感じがすることも少なくない。これはAIによる最適化をすべてオンとしているためであり、「AI映像プロ」などをオフにすると緩和される。比較的遠目の距離で「G4」シリーズを見るならばAIのサポートをすべてオンとしたほうがくっきりと見やすいが、比較的視聴距離が近い(2m以下)場合はAI機能をうまく使い分けるのがよさそうだ。
ネット動画などの低品質な(低ビットレートの)ソースの場合も、AIの最適化をすべてオンとしたほうが見やすいが、比較的質の高いソースや4K解像度コンテンツの場合はAI機能をあまり使わないほうが自然で見やすいとも感じた。このあたりは画質調整を積極的に使うようにするとよいだろう。
AIによる映像最適化は「機器設定」の「AIサービス」から行う。周囲の明るさに応じて映像の明るさを調整する「AI輝度」は、画質調整をする習慣のないユーザーにとってとても有用な機能だ
全暗環境で、Ultra HDブルーレイをチェックする
続いて、映像モードを制作側の意図に忠実な再現をするという「FILMMAKER MODE」として、Ultra HDブルーレイを再生した。今回は視聴に使ったプレーヤー(パナソニック「DMP-UB900」)の都合でDolby Vision収録ソフトもHDR10出力の「FILMMAKER MODE」モードで見ている。
「デューン 砂の惑星 PART2」を見てわかるのは、太陽の眩しい輝きを力強く描く、高輝度表現が得意なタイプだということ。大型スパイス採取船の襲撃シーンでは、陰になる最暗部の黒はしっかりと沈むので違和感はないが、暗部は総じてかなり見やすく明るめの表現になる。
視聴は全暗環境で行っているが、照明をつけた環境でも十分に楽しめると思うくらいの明るさだ。部屋の照明をすべて落とし、外光も遮断して映画館のような環境で映画を見るマニアックな視聴よりも、一般的な明るさの部屋で映画らしい感触の映像を楽しめることを意識していると感じる。あくまで気軽に映画を楽しむ人には見やすいし、暗い部分の細部までよく見える見通しのよさがある。
明るいとはいえ、おそらく色温度は6,500Kあたりに落とされるし、過度な強調感もない。大型機械の質感や砂漠の民の衣装など、ディテールも潰れることなく自然な再現だ。そして、砂漠の民の特徴である青みを帯びた瞳の再現もよくわかる。映画らしい色や質感、ディテールなどは忠実感のある再現なのだ。ただし、映画としては明るめだと感じた。明るめの環境で楽しむ映画の再現としてはよくできているとは感じるが、見慣れた“映画らしい”映像とは少し違うとも感じる。
使った映像モードは基本的に「FILMMAKER MODE」。「シネマ」はより明るめの映像再現のため、こちらは照明のある環境下で映画を見るときに使うとよいだろう
原子爆弾の開発を描いた「オッペンハイマー」を見ても、基本的には同じ印象。全体にやや明るめだが、色や質感はきちんと出ている。原子爆弾の実験を行うシーンを見ると、完全に真っ黒な夜の闇は不自然に浮くことはなく引き締まっている。実験装置を照らすライトの輝きは眩しいほど。もう少し薄暗いくらいのはずの監視小屋の中も十分に明るく見やすいので、室内で何が行われているかもよくわかる。
そして、原子爆弾が爆発する。これはもう暗い室内ではサングラスが欲しくなる明るさで、眩しいどころかそれ以上の明るさが出て驚いた。さすがの高輝度だ。原子爆弾のエネルギーをしっかりと表現するにはこのくらいの高輝度が必要なのだと実感してしまう。こういうレベルの強烈な光が収録された映画は決して多くはないと思うが、夜の街のネオンや車のヘッドライトなど、強い光をしっかり描いてくれる点は、ほかにはなかなかない魅力だ。
有機ELテレビは高輝度の再現が苦手で、mini LEDバックライト採用液晶テレビのほうがすぐれると考えている人は少なくないと思う。そういう人も、「G4」シリーズで「オッペンハイマー」を見ると印象が変わるだろう。数値上の輝度ピークや画面全体の明るさは液晶テレビのほうが有利かもしれないが、真っ暗な夜の闇がきちんと描けることで、コントラストが高まり、驚くほど強烈な光を感じるのだ。まさにコントラスト性能の勝利だし、このダイナミックな輝度再現性は映画館以上と言ってよい。
スピーカーは4.2chとされているが、バーチャル処理で11.1.2ch相当の再生が可能だという
内蔵スピーカーの音質についてだが、画面の下から音が聴こえるような感覚はなく、画面の目の前に音が定位するなど、基本的なところはきちんとしている。しかし、どうしても非力ではある。明瞭な音ではではあるのだが、低音が物足りない。
このあたりは、背面をフラットにした薄型設計を採用している点の影響が大きく、元々割り切った作りではある。ただし、これも考え方次第。HDMI(eARC/ARC)で接続できるオーディオ装置(サウンドバーやAVアンプ)があるならば、テレビに立派な内蔵スピーカーは不要だのだから。他社の同クラスモデルでは内蔵スピーカーに力を注いでいるものが多いこともあって、はっきりと貧弱であると言わざるを得ないが、Dolby Atmosにも対応するし、バーチャル再生ながら11.1.2ch相当のサラウンド再生ができるなど、機能的には充実している。
その代わりか、根本的な音質のグレードアップをするための準備は万全だ。LGエレクトロニクス製テレビと組み合わせることを前提にしたサウンドバー「SG10TY」が用意されているほか、WiSA(2.1ch)に対応しているため、対応ワイヤレススピーカーを簡単に接続できる。
「G4」シリーズの発表会の様子。同社のBluetoothスピーカー「XO2T」を2台接続してデモンストレーションを行っていた。この場合、テレビの内蔵スピーカーをフロント、Bluetoothスピーカーをサラウンド(リア)スピーカーとして、サラウンドを再生できるのだ
ここでは、そうした補助機能の1つであるBluetoothスピーカーを使ったサラウンド再生にチャレンジしてみた。同一のLGエレクトロニクス製Bluetoothスピーカー2台を接続すると、サラウンド(リア)スピーカーとして使えるという特別な機能だ。
ここで用意したのは、「XO2T」2台。メーカー希望小売価格28,600円(税込)の無指向性(360度に音が広がる)スピーカーだ。IP55の防水防じん仕様で浴室やキッチンなどでも使えるし、バッテリーも内蔵するので映画を見るときだけテレビに追加して、ワイヤレスサラウンドスピーカーとして使うこともできる。
設定は、「スピーカー設定」から「ワイヤレススピーカーの使用」を選び、ガイダンスにしたがって2本のBluetoothスピーカーを接続するだけ。今回の試聴では、「サラウンド効果」という設定を選び、「XO2T」は視聴位置より少し後ろ側の左右に置いた。全方位スピーカーなのでスピーカー位置はあまりシビアに考える必要はなさそうだ。
「音声」の設定から、「ワイヤレススピーカーの使用」を選んで設定を行った
サラウンドをするためには2台同一のLGエレクトロニクス製Bluetoothスピーカーが必要だ。なお、この機能は2020年以降の有機ELテレビで利用できる
左の「サラウンド効果」を選ぶと、フロントチャンネルの音はテレビから、サラウンドチャンネルの音はBluetoothスピーカーから出力される。Bluetoothスピーカーの音量やディレイの調整も可能だ
実際に音を出してみると、スピーカーとしての実力は十分に優秀で、低音もしっかりと出る。クセのない音なのでチャンネル間のつながりも良好だ。Ultra HDブルーレイの「オッペンハイマー」を見ると、さすがに爆発時の重低音はサブウーハーが欲しくなるところだがそれ以外のシーンでは量感にも不足は感じない。
重要なのは、音の移動感がきちんと出ること。原子爆弾実験開始前、研究員があちらこちらに動き回り、軍の人間が車でやってくると、それに応じた移動感をBluetoothスピーカーがしっかり再現してくれる。このあたりはさすが本格的なサラウンドサウンド。左右の音の広がりや移動感がリアルに楽しめるのだ。
こうした外部スピーカーを組み合わせれば、音質の不満は解消できる。「XO2T」はインテリアとしてのデザインもよくできているので、リビングに置いてもじゃまになりにくい。本格的な大型スピーカーやホームシアターまでは必要ないと考える人にも適しているだろう。
より安価に手に入る製品として、旧製品「XO3」がある。「XO2」より一回り大きいため、音質的には有利かもしれない
問題は、「XO2T」が少々高価なこと。2台揃えるとなると出費が大きい。だが、対応Bluetoothスピーカーを確認してみると、旧モデル「XO3」でもサラウンドは可能。こちらの価格.com最安価格は11,980円(2024年11月8日時点)。かなり手ごろだ。より安価にリアルサラウンドを楽しむ方法として検討するとよいだろう。
LGエレクトロニクスの有機ELテレビは、デバイスの大きな特徴である黒の再現性だけでなく、明るさについても積極的に進化を重ねてきた。「G4」シリーズについて言えば、もはや「有機ELは暗い」とは言えないレベルの明るい映像になったと思う。「G4」シリーズは暗い部屋で映画を見る人だけでなく、明るいリビングで快適に大画面を楽しむ人に適したモデルなのだ。
その半面、有機ELテレビにひたすら高画質ディスプレイとしての性能を求める人にとっては、全体に明るい傾向の絵作りに少々違和感があるかもしれない。
だが、Ultra HDブルーレイ「オッペンハイマー」を再生したときのインパクトはこれまでの映画に対する意識が変わるくらいの驚きがあるし、明るい部屋でも十分楽しめる映画画質というアプローチは決して悪くはない。このあたりは自分の使い方に合わせて選ぶとよいだろう。
LGエレクトロニクスの有機ELテレビは下位モデルの充実もあり、お手ごろな価格で手に入るイメージがあるが、「G4」シリーズは最上位モデルであり、決して安価ではない。この点はよく確認しておこう。
比較的手ごろな価格で購入できる「C4」と「B4」シリーズのレビューは別記事で公開予定
よりお買い得の感のある「C4」や「B4」シリーズも気になるところ。こちらは別途レビュー予定だ。同じ有機ELテレビならば、あまり画質にも違いはないのではないか。となると、安いほうがお買い得なのではないか。そう思う人も多いと思うので、上位モデルとの差異を含めてじっくりと紹介するつもりだ。