2025年もまだ始まったばかりだが、完全ワイヤレスイヤホン市場に早くも注目の新製品が登場した。1月23日に発売されたTechnicsの完全ワイヤレスイヤホン最新フラッグシップモデル「EAH-AZ100」だ。
2025年1月23日に発売されたTechnicsの完全ワイヤレスイヤホン「EAH-AZ100」
今回、このTechnics「EAH-AZ100」の実力を探るため、同価格帯で展開されているライバル製品を比較用に用意した。
ひとつは完全ワイヤレスイヤホンの定番として「価格.comプロダクトアワード2023」のオーディオ部門で大賞を受賞したソニー「WF-1000XM5」。もうひとつは、2024年9月に発売されたBowers & Wilkins(以下B&W)の「Pi6」、英国の名門オーディオブランドが手掛ける注目のミドルレンジモデルだ(B&Wの完全ワイヤレスイヤホンにはさらに上位の「Pi8」が存在する)。
3〜4万円クラスの3モデルを用意
Technics「EAH-AZ100」とライバルのソニー「WF-1000XM5」、B&W「Pi6」の3モデルの実力を、基本性能&装着感、ノイズキャンセリング機能、音質の順で比較していこう。
まずは今回取り上げる3モデルの外見と基本的スペックを見ていこう。
今回の主役となるTechnics「EAH-AZ100」は、先代モデルの「EAH-AZ80」からさらに進化した高級感漂うデザインが特徴。アルミ製のヘアライン仕上げのデザインは見るだけで質感が伝わるし、ほかにないデザインだ。イヤホン本体も小型化され、「EAH-AZ80」と比べると重量は約16%、体積は約10%小さくなっている。イヤーピースも3層の新構造のものに切り替わった。
ヘアライン仕上げの高級感あるデザインが特徴のTechnics「EAH-AZ100」
「EAH-AZ100」は、「EAH-AZ80」と同じコンチャフィット(コンチャとは、耳の耳穴の脇にあるくぼみのこと)のコンセプトを踏襲しつつ、さらに小型化したことで耳の小さな人でも装着しやすくなった。もっとも、これは装着者の耳の形状にも左右される部分。「EAH-AZ80」がジャストフィットだった僕の場合は、若干ゆるめの装着感だったことは報告しておこう。
Technics「EAH-AZ100」。今回はシルバーモデルを試用した。装着した状態では落ち着いたカラーだが、ヘアライン仕上げでなかなか存在感がある
Technics「EAH-AZ100」の基本スペック
重量:約5.9g(片耳)
防水性能:IPX4相当(生活防水、イヤホン本体のみ)
バッテリー性能:イヤホン単体で10 時間、ケース込みで28時間(いずれもノイズキャンセリングオン、AACコーデック接続時の場合)
その他:Bluetooth 5.3、LDACコーデック対応、3台マルチポイント接続(LDACコーデック接続時は2台まで)
イヤーピース:新設計の3層構造イヤーピース(5サイズ)
3万円クラスの価格帯で最大のライバルとなるのが、ソニーの完全ワイヤレスイヤホンフラッグシップモデル「WF-1000XM5」。発売は2023年9月なので、発売からすでに1年以上経過しているが、今なお価格.com「イヤホン・ヘッドホン」カテゴリーのランキング上位をキープし続けているベストセラーモデルだ。音質やノイズキャンセリング性能に定評のあるモデルだが、時期的にそろそろほかの製品が気になる人も多いことだろう。
完全ワイヤレスイヤホンの定番モデル、ソニー「WF-1000XM5」
イヤホン本体のサイズは、今回取り上げる3モデルの中で「WF-1000XM5」が最小。ニュートラルなデザインも万人向けだ。装着感は耳との相性にもよるが、個人的には小さすぎて、イヤーピースの支えに頼る形になり安定感は今ひとつ。逆に耳の小さい人には最もおすすめしたいモデルでもある。
小型デザインも特徴のソニー「WF-1000XM5」
ソニー「WF-1000XM5」の基本スペック
重量:約5.9g(片耳)
防水性能:IPX4相当(生活防水、イヤホン本体のみ)
バッテリー性能:イヤホン単体で8時間、ケース込みで24時間(いずれもノイズキャンセリングオン、AACコーデック接続時の場合)
その他:Bluetooth 5.3、LDACコーデック対応、マルチポイント接続
イヤーピース:独自開発したノイズアイソレーションイヤーピース(4サイズ)
最後は英国の高級オーディオメーカーB&Wが手掛ける「Pi6」。音質マニアの間では上位モデルの「Pi8」が人気ではあるが……価格.com最安値でも6万円台後半もするので、今回は「EAH-AZ100」と同価格帯の「Pi6」を比較対象としてチョイスした。
B&W「Pi6」。光沢感のあるデザインで、今回使用したストーム・グレーだと周囲がよく映り込む
イヤホンはシンプルながら耳元できらりと輝く光沢感のあるデザイン。今回取り上げる3モデルの中では「Pi6」が最も背が高いため容積があるが、外見の印象は「EAH-AZ100」のほうが大きいかもしれない。幅のある楕円形の本体が僕の耳にはよくフィットし、装着安定性はとても優秀だった。
B&W「Pi6」。シンプルながら高級感あるデザインだ
B&W「Pi6」の基本スペック
重量:約7g(片耳)
防水性能:IP54相当(防塵・防水、イヤホン本体のみ)
バッテリー:イヤホン単体で8時間、ケース込みで24時間(いずれもノイズキャンセリングオンの場合)
接続:Bluetooth 5.4、aptX Adaptiveコーデック対応、マルチポイント接続
イヤーピース:ソフトシリコン製イヤーピース(4サイズ)
「EAH-AZ100」も含め全体的にイヤホン本体の小型化が進んでいる。ただ、実際に装着してみると小型化が進んだ結果、むしろ耳へのフィット感はイヤホン本体の形状に左右されるケースが増えてきている。今回3モデルを同時に試したが、装着時の安定感としてはイヤホン本体のサイズが最も大きな「Pi6」がよかった。ただ、これは耳の形との相性もあるので、購入する前は店頭などでぜひ試着して確かめてほしい。
3万〜4万円クラスの完全ワイヤレスイヤホンでは、ノイズキャンセリング機能はもはや当たり前になりつつあり、今回取り上げた3モデルにもしっかりと搭載されている。製品によってノイズキャンセリング性能がどれほど違うのか、今回は最も利用機会が多く、ノイズの量、そして含まれるノイズの種類ともに難易度の高い電車内でノイズキャンセリング性能を比較してみた。
Technics「EAH-AZ100」、ソニー「WF-1000XM5」、B&W「Pi6」のノイズキャンセリング性能を比較
今回の主役であるTechnics「EAH-AZ100」は、耳への装着状態や周囲のノイズレベルに応じて自動でノイズキャンセリング強度を最適化する「アダプティブノイズキャンセリング」を搭載している。
実際にTechnics「EAH-AZ100」を装着して電車内でノイズキャンセリング性能を確認してみたが、これが思った以上に強力で、電車走行時の重低音ノイズは完全に消し去るほど。ガタガタと鳴る中域の走行音ノイズもしっかりと抑制し、かなり気になりにくくなる。さらに、車内アナウンスなどの人の声への効果の高さも特筆するべきポイントだ。聞こえる音量が小さくなるだけでなく、遠くの音のように角の取れた聞こえ方になり、聴感上気になりにくくなっている。ただ、「アダプティブ」の状態ではわずかにノイズキャンセリング特有の違和感が残っていた。気になる人は、あえて「アダプティブ」をオフにし、手動で強度を調整してみるとよさそうだ。
また、外音取り込み機能についてもとても自然な聞こえ方だった。距離感が若干強調されているようにも感じられるが、これくらいなら違和感なく使えるはず。作り込みはなかなかのレベルと言ってよいだろう。
2023年に「統合プロセッサーV2」と「ノイズキャンセリングプロセッサーQN2e」という2つのプロセッサーで世界最高クラスのノイズキャンセリング性能*を謳って登場したソニー「WF-1000XM5」。
電車内でノイズキャンセリング機能を試してみたところ、電車走行時の重低音ノイズに対して特に威力を発揮してくれた。ガタガタと窓の揺れる音などもしっかりと抑え込んでくれる。ただ、車内アナウンスなど人の声に対して若干効果が弱いようで、車内アナウンスが流れはじめると、かえってハッキリと聞こえてしまうところが少々気になってしまった。なお、ノイズキャンセリング機能特有の違和感は本機ではほぼなかったので、圧迫感のあるノイズキャンセリング機能が苦手という人におすすめだ。
外音取り込み機能は、音質や距離感は自然だが、騒音下では高域が強調されてホワイトノイズのように聞こえる音があったことは報告しておこう。
* 左右独立型ワイヤレスノイズキャンセリングヘッドホン市場において。2023年11月1日時点、ソニー調べ、電子情報技術産業協会(JEITA)基準に則る※2024年7月9日に変更
B&W「Pi6」もフィードフォワード方式とフィードバック方式を組み合わせたハイブリッドノイズキャンセリング機能を搭載。周囲のノイズレベルに合わせて自動的に効果を最適化するアダプティブな機能も取り入れられている。
実際にB&W「Pi6」を装着してノイズキャンセリング機能を試してみたが、重低音ノイズは小さく残るももの、全体としては予想以上によくできていた。電車内のガタガタとした走行音ノイズや車内アナウンスの声も遠くで鳴っているように聞こえて気になりにくくなる。全体域で騒音を抑制し、ノイズの残り方にクセがないところも好ポイントだ。なお、ノイズキャンセリング機能特有の違和感はわずかに現れる。
外音取り込み機能も十分実用的ではあるが、マイクで取り込む音の特徴か、中高域が強く、ハッキリ聞こえすぎるかもしれない。外音取り込み機能を多用する人は、あらかじめ実機で確認しておくのがよいだろう。
Technics「EAH-AZ100」、ソニー「WF-1000XM5」、B&W「Pi6」のノイズキャンセリング機能を比較してみたが、ひと括りに「ノイズキャンセリング機能」といってもノイズ低減が得意な帯域やノイズキャンセリング機能有効時の快適性など、製品によってだいぶ異なっていた。
その中でもTechnics「EAH-AZ100」は最新モデルらしく、全方位にノイズを低減し、かなりバランスのよいモデルに仕上がっていた。重低音ノイズを強力に低減したうえで、実用上気になる人の声に対するノイズ低減効果も高い。周囲のノイズレベルに合わせて動く「アダプティブ」だけでなく、アプリで強弱を100段階でコントロールできるので、状況に合わせてうまく活用したいところだ。
最後は音質をチェックしていこう。今回の主役となるTechnics「EAH-AZ100」は、ワイヤレスイヤホンとして業界初となる「磁性流体ドライバー」を投入。B&W「Pi6」は、「バイオセルロース・ドライブユニット」を搭載。これらに定番のソニー「WF-1000XM5」を加え、じっくりと聴き比べてみた。なお、今回はAndroidスマートフォンをプレーヤーとして活用、Bluetoothの接続コーデックはイヤホン側のスペックに合わせてLDACもしくはaptX Adaptiveを用いている。
Technics「EAH-AZ100」の音質をチェック
まずTechnics「EAH-AZ100」から音質をチェックしてみたが……高解像度で音の生々しさがしっかりと出ている。YOASOBI『アイドル』では、女性ボーカルの歌声が目の前に浮かび上がるほどリアルで、高域も輝きがあるのに耳障りさがない。すべての音を分離する解像度の高さ、深く沈んだうえで情報量志向の低音も強烈だ。
ダイアナ・クラール『夢のカリフォルニア』は歌声の艷やかさとともに、どこまでも描く抑揚の緻密さが見事。ピアノの音色を意識して聴けばその生音感にびっくりするはずだ。バイオリンの音も繊細な部分までしっかりと再現できており、思わず目を閉じてじっくりと聞き入ってしまうほど見事なサウンドだった。
ソニー「WF-1000XM5」の音質をチェック
ソニー「WF-1000XM5」は、Technics「EAH-AZ100」の後に聴くとまったタイプの異なるサウンドだ。最大の特徴は、ワイドに広がる空間音再現の大きさにある。YOASOBI『アイドル』では、クリアでハッキリと聞き取れる歌声が空間上に浮かび、頭の周りに距離を取って浮かぶようになる楽器の包囲感がユニーク。低音は音の深みこそないが、強めのアタックで躍動感たっぷりに楽しめる。
ダイアナ・クラール『夢のカリフォルニア』だと、頭の中にステージを作り音楽を聴かせる客観性が特徴。ピアノやオーケストラの音もハッキリと距離をもたせたうえで浮かべていて、耳の横まで広がるようなサウンドステージの広さは「WF-1000XM5」ならではの醍醐味だ。
B&W「Pi6」の音質をチェック
B&W「Pi6」は、パワーバランスをセンターに置きながら情熱的かつビビッドに仕上げたサウンドだ。YOASOBI『アイドル』では鮮明に定位するボーカルのパワー感がすごく、歌声のボディまで情熱的に現れる。リズムの低音も深く、帯域感のタイミングの揃いも良好で、楽曲の世界に没入していくような感覚さえ覚える。
ダイアナ・クラール『夢のカリフォルニア』も歌声のビビッドさ、空間上にハッキリと定位するオーケストラの立体感、そしてアコースティックな楽器の再現性がとてもリアルで心地よい。まさにB&Wらしい個性が光るサウンドだ。
さすがに3万〜4万円クラスの完全ワイヤレスイヤホンの実力製品だけあって、音質はいずれもかなりハイレベルな仕上がり。それぞれの特徴をひと言で表現するなら、ソニー「WF-1000XM5」は音楽の空間的な表現に振り切ったタイプ、B&W「Pi6」はセンター寄りで歌声の情感など表現力重視といったところ。
そして今回の主役であるTechnics「EAH-AZ100」は音の再現性が非常に高く、楽曲によって客観的なモニター系であると感じたり、生音の再現を重視しているように聴けたりとさまざまな表情を見せてくれる1台だった。これはイヤホンの音質自体はニュートラルで、音源のポテンシャルをそのまま引き出しているということ。“ありのままの音を届ける”という製品コンセプトどおりの仕上がりと言えるだろう。
今回は最新のTechnics「EAH-AZ100」、そして定番のソニー「WF-1000XM5」、B&W「Pi6」という3モデルを比較してみたが、実機を聴き比べてみるとそれぞれの個性がよくわかった。
Technics「EAH-AZ100」は、磁性流体ドライバーという新技術で音源のポテンシャルを引き出す実力派。ノイズキャンセリング機能も秀逸で、音楽への没入感を追求したい人にぴったりだ。定番モデルとして君臨するソニー「WF-1000XM5」は、空間表現に特化した独自の音作りが魅力。安定感のある性能で、さまざまなシーンで活躍してくれる。そしてB&W「Pi6」は、歌声の情感を豊かに表現し、“音”そのものを魅力として語りたくなるモデルだった。
3万〜4万円という似たような価格帯でもタイプの異なる製品が揃う、これだからワイヤレスイヤホンは面白い。ぜひ本稿を参考にお気に入りの1台を見つけ出してほしい。