ヤマハが「ホームシアターヘッドホン」を名乗るワイヤレスヘッドホン「YH-L500A」を発表した。発売日は2025年4月25日で、市場想定価格は25,000円前後。
“ホームシアター”を冠する理由は、あらゆる音源でサラウンド効果を得る「サウンドフィールド」モードを搭載しているから。アクティブノイズキャンセリング機能や外音取り込み機能などは搭載しておらず、あくまで“ホーム”で映像コンテンツを主に楽しむ人向けの製品と言える。
実際に「サウンドフィールド」モードの効果は大きい。コンテンツへの没入感がグッと高まるので、音楽ライブや映画などをスマートフォン/タブレット、ノートPCで楽しむという人に注目してほしい製品だ。
「YH-L500A」は密閉型のBluetoothヘッドホン。Bluetoothのバージョンは5.4で、対応コーデックはSBC、AAC、aptX Adaptive
ヤマハが「ホームシアターヘッドホン」を発売するのは、初めてではない。2023年には「YH-L700A」という高級機がすでに発売されていて、そちらの市場想定価格は66,000円。この上位モデルから機能を省略し、リファインされたのが「YH-L500A」ということになる。とはいえ上位モデルの発売から2年が経っているわけで、単に下位モデルを発売したのではなく、装着性をブラッシュアップし、より購入しやすく、使いやすいモデルを志向している。「YH-L500A」でブラッシュアップされた3つのポイントを見ていこう。
世界のヤマハ拠点でさまざまなスタッフに装着してもらい、イヤーパッドやヘッドバンドの形状を改良したとのこと
1つめのポイントは、装着性を高めたこと。長時間装着しても疲れないようにするため、イヤーパッドとヘッドバンドの形状を改良。フィット感を高めるだけでなく、音漏れを低減して音質と没入度を高めたという。
また、「YH-L700A」の重さが330gだったことに対して、「YH-L500A」は265gと軽量化も果たした。これは主にバッテリーを小さくしたことによるようだ。それでも連続再生時間は20時間が確保されている。
「YH-L500A」が目指すのは、「TRUE SOUND」。ヤマハのオーディオ製品が一貫して目指すところであり、ブレない基本指針だと言える。何か特別なことをするというよりは、40mm口径のダイナミック型ドライバーを使うというスタンダードな構造を採りつつ、バランスを調整していったようだ。
ハウジング内に「通気Port」を設けて、子音が耳に刺さらないようにチューニングを施したほか、それとは別の「通気穴」でうまくユニットの背圧を抜いて、クリアーなダイナミクスを確保したという。強力な低音が入ったときにもひずまない「DYNAMICS」を再現するための工夫だ。
さらに、ユニットを固定するための補強接着剤を追加し、よりリジッドな設置で高域の歪みを低減したという。こちらは細かなニュアンスによる「SOUND IMAGE」を損なわないための工夫だろう。
最後に紹介するのが「YH-L500A」の目玉と言える「サウンドフィールド」モードについて。簡単に言えば、2ch(左と右のステレオ)音声をサラウンド(マルチチャンネル)化するという機能のこと。ヤマハはAVアンプやサウンドバーの分野でホール音響を再現する「音場創生」の研究を30年続けている。その技術をヘッドホンリスニングに生かしたものだ。
上位モデル「YH-L700A」と比較すると、モード数(種類)が減ったほか、高さ方向の空間拡張をしないこと、ヘッドトラッキング機能がないことが大きな違い。
ただし、単に省略をしたわけではなく、「YH-L500A」にマッチしたチューニングが施されているという。モードの数を減らして2種のみとしたのも、わかりやすさを追求した結果でもあるようだ。
1つめの「サウンドフィールド」モードは「CINEMA」。文字どおり、映画などに向いたモードだ。狭めの空間をイメージした、反射音が強めの音場データを採用しているという。さらに低域をブーストすることで、映画館で聴くような音響を再現するものだ。同時にサウンドバーで使っているクリアボイス機能を応用。セリフはしっかりと分離して、埋もれないような工夫も施された。
もう1つのモードが「MUSIC」。音楽向け、ということになるが、ここで想定される音楽はあくまで映像付きコンテンツ。音楽ライブやミュージカルなどの音楽映画の再生が前提になっている。
「YH-L700A」に搭載されていた「Concert Hall」というモードがベースとされ、開放感のある広い音場とリアルな残響感が特徴とのこと。「YH-L500A」に合わせたチューニングとして、「Concert Hall」モードよりもさらに残響を強めに残し。その中でもボーカル、楽器、歓声などを描き分けるように処理するそうだ。担当者によればかなり“攻めた”チューニングだという。
それなりにコンパクトにたためるので、外に持ち出すことも可能ではある
最後に、短時間だが「YH-L500A」を試聴できたので、そのインプレッションを記しておこう。「CINEMA」と「MUSIC」モードを聴き比べてみると、リバーブ感が強調される「MUSIC」に対して、低音がより余韻を残す「CINEMA」といった具合。明確な差が設けられていて楽しい。
「サウンドフィールド」モードをオフにしても量感がしっかりして、空間の広さを感じさせる柔らかな音色が特徴だろう。耳に痛いところがなく、ゆったりと聴きやすい。音楽向けとは標ぼうされていないものの、長時間装着してあらゆるコンテンツを聴くのに適していると感じられた。
モードの切り替え、音量調整などは本体のハードウェアキーで可能
Apple Musicで配信されている「Apple Music Live: ビョーク」の映像コンテンツを再生してみると、確かにあくまでボーカルの抜けはよいまま、残響やライブ会場を思わせる低音の残り方を再現してくれた。ベースシンセと思われる低音が“ながーい”残響をともなって鳴り響き、没入感を高める。
このビョークのライブは、本来深く沈み込むLFE(サブウーハーch)を含むDolby Atmos音源なのだが、ヘッドホンリスニングへの落とし込み方が非常にうまい。大口径サブウーハーを使うわけにもいかないなど、あらゆる資源が限られた状態で、最大の没入感を得るためのすばらしいソリューションだと思う。
上位モデル「YH-L700A」も面白い製品だったのだが、いかんせん高価だった。その点「YH-L500A」は割り切るところを割り切って、手の届きやすい価格と使いやすさを実現している。現代のライフスタイルにフィットする形に仕上げられた、この新しいサラウンドヘッドホンに注目していただきたい。
付属のケーブルを使った有線接続にも対応する
「サウンドフィールド」モードを使わないときはアプリでイコライジングも可能だ