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約40万円! 片耳12ドライバー構成の超ハイエンドイヤホン「Layla」レビュー

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アルティメットイヤーズ(UE)の創設者であり、モニター用イヤホンの生み親とも呼ばれる、イヤホン界の重鎮ジェリー・ハービー氏。そんな氏が、初めてスタジオグレードのモニター用イヤホンを手掛けた。その上位モデルが、今回紹介するJH Audioの「Layla Universal Fit(レイラ・ユニバーサル・フィット)」(以下、Layla)。プロユースのモニター用イヤホンといえば、耳型をとってオーダーメイドで作る自分専用のカスタムモデルが主流。だが、Laylaはカスタムではなく、誰でも使えることを前提にしたユニバーサルモデル。とだけ書くと、一般的なイヤホンと同じようなイメージを持つかもしれないが、このイヤホンは、いい意味で普通ではない。店頭価格は驚きの37万円と、国内で購入できるカスタムIEM(インイヤーモニター)の高額モデル(25万円前後)のさらに上をいく価格設定になっているのだ。そんなゴージャスな製品であるLayla Universal Fitの秘密は何か。紹介していこう。

JH Audio「Layla」

JH Audio「Layla」

リファレンス用として設計されたイヤモニ

Laylaは、レコーディングスタジオなどでのスタジオマスタリングのリファレンス用として設計されたモデル。音をモニタリングするためのモニター用イヤホンで、いわゆるインイヤーモニター(イヤモニ)と呼ばれる製品だ。「THE Sirenシリーズ」に属しており、JH Audio初のユニバーサルモデル「Roxanne(ロクサーヌ)」を置き換えるモデルとなっているが、そのサウンドコンセプトは大きく異なる。Roxanneゆずりの多ドライバー構成をベースとしながらも、低音域から高音域にわたってフラットさを追求した進化モデルだからだ。これまでのモデルは、低音域と中低音域を若干強調したロックミュージシャンを対象とする演奏者用のステージモニター(プレイバックモニター)であるのに対し、Laylaは、スタジオエンジニア向けのスタジオモニターとなっている。

JH Audioを主宰するジェリー・ハービー氏によれば、「まるでレコ―ディングスタジオのミックス・ポジションで聴いているかのように、スタジオエンジニアやプロデューサー、そしてミュージシャンがリスナーに聴かせたいサウンドを、正確に届けてくれる」という。そんな性格を持つイヤホンなのだ。

さらに、Laylaには、その妹分となる「Angie」(アンジー)が下位モデルとしてラインアップされている。Angieについては次回でくわしく取り上げるが、Sirenシリーズは、LaylaとAngieのほかに、現行のRoxanneの計3モデルから構成されている。以下に、各モデルの主な仕様をまとめておこう。

独自のミニクワッドドライバーで片耳12ドライバー構成を実現

続いて、音質の決め手となるドライバーや独自技術、Laylaの本体デザインについて紹介しよう。

搭載ドライバー数は、イヤホン製品の中でも最大クラスとなる12基。国内でお披露目された12ドライバーモデルは、Unique Melody×Mixwave(国内代理店)が共同開発したユニバーサルタイプ「MASON」と、1964EARSのカスタムIEM「Λ12」だ。イヤモニのメインストリームモデルの多くが4から6ドライバー、上位モデルでさえ8から10ドライバー構成であることを考えれば、12ドライバー構成は超ハイエンドモデルに位置付けられる。

また、Laylaは、同社がパテントを取得している4基のドライバーを1つにしたミニクワッドドライバー「soundIVe テクノロジー」を用いるのも特徴。どのようなドライバーが使われているかはわからないが、汎用品をただ組み合わせているだけではなさそうだ。ドライバーは、低音域(Low)、中音域(Mid)、高音域(High)の3ウェイ構成で、それぞれの音域ごとにミニクワッドドライバーを備えることで計12ドライバー構成を実現した。

同社は各ドライバーについて、「高域用ドライバーは歪を最小限に抑え遮るものなく伸びる」「中域用ドライバーはマイナス5kHzまでは完全なるフラット」「低域用ドライバーは急峻な減衰特性を有するローパスフィルタにより、事実上歪のない設計」と説明している。

次に目を向けたいのが、Laylaのクロスオーバーネットワークだ。マルチウェイドライバーの各帯域をバトンタッチさせる役割を持つクロスオーバーフィルターに、ピュアオーディオのハイエンドスピーカーに匹敵する4次(≒24db/oct)の急峻なスロープを採用しているのだ。db/octとは1オクターブ(周波数が2倍または1/2の倍)あたりの信号が減衰する度合いで、この数値が大きければ大きいほど各ドライバーで余計な音を拾わず音像をシャープにする。ドライバーやクロスオーバーネットワークなどを見ても、特定周波数帯域の激しい浮き沈みをなくし、広帯域にわったてフラットな音を目指しているのがわかる。

また、ノズル部分にも独自技術が使われている。それがステンレス製のチューブだ。これは耳までの音の通り道で発生する遅延を0.001ミリ秒以内に抑えるとともに、各帯域の位相ずれを正確に制御するというもの。多ドライバーで問題になりがちな位相ずれや遅延もしっかりケアしている。

このほか、ケーブルには0〜+13dBの範囲で調節できる低域調整機能を搭載し、低域を一番下げた状態でフラットになるように設計されているというこだわりぶり。また、付属ケーブルには、2.5mm 4極のAstell&Kernのハイレゾプレーヤー「AK240」「AK120II」「AK100II」用バランスケーブルも同梱されている。Astell&Kernとのパートナーシップ契約を結んだならではの付属品だ。

ステンレス製のチューブが確認できるノズル部

ステンレス製のチューブが確認できるノズル部

イヤーピースを取り外すと中にあるチューブがうっすらと見える

イヤーピースを取り外すと中にあるチューブがうっすらと見える

低域調整機能が付いたケーブル。付属のドライバーを使って調整する。右耳/左耳をそれぞれチューニングできる

端子に黒いラインがあるほうがAstell&Kern用バランスケーブル(2.5mm 4極)、赤いラインがあるほうが標準(アンバランス)ケーブル(2.5mm 3極)

ケーブルは太いがしなやかな作りでとりまわしはしやすそうだ

ケーブルは太いがしなやかな作りでとりまわしはしやすそうだ

アルミ加工によるロック機能を採用。ユニークなデザインにも注目

続いて、フィット感に関わるボディデザインを見ていこう。

Laylaは、搭載するドライバー数が12基と多いこともあり、本体は大きめだ。耳に付けるとやや重みを感じる。そのため、人によっては、なかなかベストポジションが見つけられないかもしれないが、固定できれば耳にしっかりとはまる印象だ。付属のイヤーピースは、フォーム素材とラバー素材の2種類。大きさは各素材からラージ/ミドル/スモールの3タイプの計6組。標準のものでもフィット感は十分にある。

シェルボディはカーボンファイバー製。もちろんケーブルの着脱に対応しており、アルミ加工によるロック機構を搭載した独自の4ピンケーブルを採用。安全で強固な接続を実現している。

また、デザインに注力しているのも特徴で、ギターのピック形のフェイスプレートを採用。さらに、その周りを囲むフレーム部には、バーナーで焼き色を施したチタン素材を使っている。チタン独特のブルー系の色合いで外観にもこだわった。この焼き付き作業もハンドメイドで行われているので、プレミアム感も高い。

ギターのピックに似た形のフェイスプレート。プレートにはAstell&KernとJH Audioのロゴがあしらわれている。また、フェイスプレートを囲むようにチタンフレームを配置。このチタンはバーナーで焼き色を付けたものだ

接合部はスクリューロック式で、コネクター部にはアルミニウム素材を採用。外れにくく強度も同時に確保した。ピン数は4で、MMCXとは異なっている

シェルはカーボンファイバー

シェルはカーボンファイバー

本体内部は見えない

本体内部は見えない

野村ケンジによる音質インプレッション

カスタムIEM、いや、イヤホン界のゴッドファーザーであるジェリー・ハービー氏がリリースした究極のイヤホンだけに、どんなサウンドかとワクワクしながら聴いてみたところ、あまりの“特殊さ”にビックリ。超高解像度、そしてとてつもない音数の多さを持ち合わせつつも、帯域バランスがかなり特殊なセッティングとなっているのだ。低域はケーブルの途中に付属するダイヤルである程度コントロールできるものの、高域はかなり鋭い、スピーディーなサウンドキャラクターを持ち合わせており、プレーヤーによってはひたすらうるさく感じてしまうだろう。そういった傾向は、AK240を持ってしても同じ。どんな音でもあまさず拾い上げてくれるいっぽうで、雑然としたサウンドに感じてしまう。実のところ、こういった傾向は以前Roxanneで経験済みで、案の定PA卓から出力されたライブ音源を聴いてみると、帯域バランスが見事に整い、まるで生演奏をその場で聴いているかのような、活気に満ちたサウンドを聴かせてくれた。そう、このLaylaもRoxanne同様、ステージモニターとして活用することでその素晴らしさを最大限に発揮してくれる製品なのだ。

とはいえ、使いこなしによっては一般的なポータブル環境でも十分にその魅力を発揮してくれるのが、Laylaならではのアドバンテージといえる。ケーブルを同梱されている2.5mm4極端子に変更し、AK240との接続をバランス駆動に変えると、とたんに整然としたサウンドに生まれ変わってくれるのだ。超高解像度はそのままに、低域、高域ともに制動の利いた表現になることで、ピュアで上質なサウンドを楽しませてくれるようになる。先ほどまでやたらとざらついていたシンバルやハイハットが、ウソのようにしっとりとした響きになってくれる。トランペットなどの金管楽器も騒がしさから解放され、メロディーがよく伝わってくるようになる。

ただし、先に通常(3.5mm3極アンバランス)接続を聴いていると、やや勢いにもの足りなさというか、もう少しメリハリがよくても、と思う楽曲も出てくる。そういった場合は、アナログポタアンを組み合わせるのがいいのだが、2.5mm4極端子のケーブルをそのまま使える製品は、いまはまだ少数派。とりあえずは、中村製作所のライントランス「NXT-2AK」などと組み合わせるのがよさそう。ちなみに、こちらを活用すると、中域にしっかりとした厚みが生まれ、躍動感溢れるボーカルが楽しめるようになる。とはいえ、今度は低域のフォーカス感が(もともと超高解像度ゆえ)ほんの少しながら甘くなってしまったような気もするし、実力の高いハイエンドモデルならではの、すべてを引き出すことの難しさを実感することとなる。

逆にいえば、真の実力をどうやって引き出すか、そのうえで自分好みの音に仕立てて行くにはどうすればいいのか、じっくりと取り組むだけの価値ある製品だし、それがオーナーにとって大きな楽しみを生んでくれそう。そんな、懐の深い製品だ。

銭袋秀明(編集部)
Writer
銭袋秀明(編集部)
編集部の平均体重を底上げしている下っ端部員。アキバをフィールドワークにする30代。2015年4月、某編集部から異動して価格.comマガジン編集部へ。今年こそ、結果にコミット!
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