日立マクセルは2016年6月9日、代々木公園近くにあるカフェにて、ハイレゾ対応ヘッドホン「MXH-MD5000」の試聴会を開催した。6月10日の発売に先駆けて、新製品を試聴してきたので、新製品の特徴と音質インプレッションをお届けする。
MXH-MD5000は、2006年発売の「VRAISON」ブランドのヘッドホン「HP-U48.OH」以来、実に10年ぶりとなるオーバーヘッドタイプのヘッドホンだ。独自の音響技術を搭載した製品にのみ与えられるシンボルマーク「m(エム)」を冠した初のヘッドホンでもある。再生周波数帯域は20Hz〜40kHzとなっており、ハイレゾ再生にも対応する。
ハイレゾ再生に対応した密閉型ヘッドホン「MXH-MD5000」。ハウジング部分には、シンボルマーク「m(エム)」がデザインされている
本機の最大の特徴は、新開発の45mmドライバーの振動板にベリリウムと呼ばれる金属を採用したことだ。ヘッドホンの振動板として用いられている金属素材としては、アルミやチタン、マグネシウムなどがあるが、本機で使われているベリリウムは、それらと比べて音の伝播速度が飛躍的に速く、硬度も高く、比重も比較的軽いという特徴がある。これまで、高級オーディオのスピーカー等で採用実績はあったが、同社によると、ヘッドホンでの採用は本機が初だという。ベリリウムを振動板に採用したことで、高域の再現性が高まり、音の濁りの原因となる振動板の分割振動を効果的に抑えられ、すぐれたレスポンス性能が得られたという。ちなみに、型番の“MD”は、“Metal Diaphragm”を採用していることに由来している。
ベリリウムコート振動板を採用した新開発ドライバユニットを搭載
ベリリウムは、音の伝播速度が音速の36倍という圧倒的な早さが特徴。同社は“マッハ36”とアピールしていた
ベリリウムの速い、硬い、軽いという特性が振動板の素材として非常に適しているという
ハイエンドスピーカーでは採用実績があるが、同社の調べた限りでは、ヘッドホンでの採用はMXH-MD5000が初だという
ハウジング部には、同社が得意とするデュアルチャンバー構造を採用しているのも見逃せないポイントだ。2つの空気層がドライバーの振動を高効率かつ緻密にコントロールすることで、広がりのある音場再生を実現したという。このほか、着脱式のケーブルを採用し、リケーブルにも対応。パッケージには、1.2mと3mのアンバランスケーブル2本が付属しており、シーンによって使い分けができる。なお、ヘッドホン側の接続部分はネジ式の3.5mmミニジャックとなっており、3.5mm4極タイプのバランスケーブルを別途用意すれば、バランス接続にも対応できるとのこと。
デュアルチャンバー構造により、2つの空気層でドライバーを最適にコントロールするという。「MXH-RF550」などでも採用実績があり、同社が得意とする技術だ
ヘッドホン側は3.5mmミニタイプのジャックとなっており、4極タイプのバランスケーブルを接続することで、バランス駆動にも対応する
今回の試聴会では普段使っている音源をあらかじめ持ってきて試聴できると事前に聞いていたので、試聴機には筆者が最近よく使っているONKYO「DP-X1」を組み合わせてみた。音源は、ハイレゾ対応製品ということでハイレゾ音源を中心に聴いている。
MXH-MD5000とDP-X1という組み合わせで試聴。ケーブルは製品に付属している1.2mのアンバランスケーブルを使用している
まずは、アコースティックな音源として、TK from 凛として時雨の「unravel(acoustic version)」(88.2kHz/24bit)を試聴してみた。まず驚いたのが、そのリアルな空気感。サビ部分のパワフルかつ繊細なTKのボーカルとブレスの余韻がほんとに生々しい。ピアノやチェロの響きもちゃんと伸びがあるのに、スッと自然に消える。密閉型ヘッドホンながら、音場も広く、立体的な音像で、長時間聴いても聴きつかれないのが好印象だ。
続いて、花澤香菜さんの3rdアルバム「Blue Avenue」から「こきゅうとす」(96.0kHz/24bit)を試聴。重心はそれほど高くなく、中低域にやや厚みがあるためか、高域が若干硬い印象をうけた。とはいえ、グサっとささる感じではなく、適度に刺さる感じなので、なかなかに心地よい。
最後に、澤野弘之が作曲を担当した「機動戦士ガンダムUC オリジナルサウンドトラック」から「UNICORN」(48.0kHz/24bit)を選択。太くはないけど深い低域のおかげで、打楽器が非常に堂々としている。曲の盛り上がり部分も、フルオーケストラの個々の音が混濁せず、壮大なスケールがしっかりと感じとれた。
なお、装着感についてだが、立体的なイヤーパッドと適度な側圧で、装着感はなかなか良好。重さはコードを除いても260gあるが、思ったほど重さも感じなかった。今回は1.2mmのケーブルで試聴を行ったが、ケーブルの取り回しもしやすい。本体は折りたたんだりすることはできないが、ポータブル用途でも十分使えそうだ。
低反発素材を立体縫製したイヤーパッド。遮音性が高く、低域を逃さないのが特徴だ
ヘッドバンドの長さは金属製のアジャスターで調整可能
日立マクセルとしては10年ぶりとなる久々のヘッドホン、しかもハイレゾ対応ということで、試聴するまでは本当に大丈夫なのかと心配していたが、実際に試聴してみて、その心配は杞憂に終わった。価格は39,800円(税別)となっており、これまでのマクセルのヘッドホン・イヤホン製品と比べるとかなり高価だが、その価格に見合った性能をしっかりと兼ね備え、ハイレゾという時代の流れにしっかりと対応した製品に仕上がっていた。いよいよ本日発売だが、明日6月11日(土)には、秋葉原のe☆イヤホンで試聴会も実施される。気になる方は、e☆イヤホンに足を運んで、ぜひ試聴してみてはいかがだろうか。