ハーマンインターナショナルは2016年7月14日、AKGの高級カナル型イヤホンの新作「N40」を8月上旬から発売すると発表した。AKGでは史上初となる、ハイレゾ音源の再生に対応しているほか、リケーブル仕様や付け替え可能な3種類のチューニングフィルターを付属するなど、カスタマイズできるハイエンドモデルに仕上がっている。価格はオープンで、公式通販サイトでの販売価格は45,880円(税別)。今回、短時間だが試聴することができたので、製品の特徴紹介を交えつつ、音質ファーストインプレッションをお届けしていこう。
AKGでは約5年ぶりの新モデルとなるハイエンドイヤホン「N40」
「N40」は、BA型ドライバーとダイナミック型ドライバーを採用したハイブリッド型のカナルイヤホン。10Hz〜40kHzまでの幅広い再生周波数帯域を実現しており、AKGブランドとしては初めてのハイレゾ対応製品となっている。
「N40」という製品名のとおり、昨年7月に登場した、デザインと音質にこだわったプレミアムシリーズ「Nシリーズ」にラインアップされる製品。AKGのフラッグシップイヤホンとしては、同じくハイブリッド型の「K3003」はそのまま販売されるため、「N40」は「K3003」の下位にあたるNシリーズイヤホンの最上位モデルになる。とはいえAKGのハイエンドイヤホンが投入されたのは、2011年に発売された「K3003」以降5年ぶりなので、まさに久々のハイエンドモデルの登場だ。心待ちにしていたAKGファンも多いことだろう。
また「N40」はAKGイヤホンのラインアップを補強するうえでも重要な存在になっている。現在のAKGイヤホンは、10万円台のフラッグシップ「K3003」の下が、1万円台の「N20」となっており、この間に大きな差がある。「N40」は言わばその溝を埋める存在であり、ライバルで言えばゼンハイザー「IE80」やSHURE「SE535LTD」のようなハイエンド製品となる。
まず2Wayドライバーを内蔵するハウジングから見ていきたい。ハウジングは外側にアルミニウム素材、肌に面した内側にラバー加工を施した樹脂素材を使った複合タイプ。外見はコンパクトなため着け心地がよく、重量も22gと適度にあるためフィット感がよい。
ケーブルは着脱式。MMCXコネクターを採用するため、純製品のほかにもMMCXに対応した汎用的なイヤホンケーブルが利用できる。自分好みの音質を追求できるのも魅力だ。AKGのラインアップではこれまでリケーブルできるイヤホンはなかったが、今回ついにユーザーからの要望にこたえて実装に至ったわけだ。
またケーブルはいわゆる「SHURE掛け」と呼ばれる、耳掛けとなっているのもポイント。こちらもAKGとしては初の試みになっている。
「N40」のハウジング。本体にはアルミニウム素材を採用。「K3003」に比べて背圧を最適化するベンチレーション・システムの穴が大きくとられている
装着方法は耳に掛けて固定する、いわゆる「SHURE掛け」。ケーブルにはアーチ状の加工が付いている
ドライバーは中高域用にBA型、低域用にダイナミック型を組み合わせた2Way構成。ノズル近くにBA型ドライバーを、その後方に8mm口径のダイナミック型ドライバーが配置されている。ドライバーを同じ軸線上に配置することで、同軸スピーカーで聴くような自然な音場感を再現している。
ネジ式のフィルターを外すと、すぐ手前にBA型ドライバーが現れる。その後ろに8mm口径のダイナミックドライバーが配置されている。ちなみに、BA型ドライバーはKnowles(ノウルズ)社製とのこと
ドライバーの内部の構造。BA型ドライバーとダイナミック型ドライバーが同軸上に配置されていることがわかる
さらに、「K3003」同様、周波数帯域を振り分ける電気的なネットワークをあえて搭載せず、すべて筐体設計やドライバーの配置といった物理的な設計によって、音質のチューニングが行われているのも見どころ。音声信号をダイレクトにドライバーへ送ることで、音の鮮度感を損なわない工夫だ。
そのうえ、音の出口となるノズル部は付け替え可能。付属している3種類のフィルターに交換することで、音の違いも楽しめる。フィルターは、サウンドバランスを重視した「REFERENCE(リファレンス、装着済み)」、シンバル/ピアノ/バイオリンなどの高域をクリアに表現する「HIGH BOOST(ハイブースト)」、ベースやドラムの低音域をアップさせる「BASS BOOST(バスブースト)」の3つだ。
付け替えできる3種類のフィルター。すかして見ると、「HIGH BOOST」は金属メッシュのみの透過率が最も高く、次が1種類のフィルター材を備えた「REFERENCE」となっている。「BASS BOOST」には、「REFERENCE」で使われているフィルター材のほかに、異なるフィルター材を1種類加えているという。すけ具合がもっと暗いのは見てのとおり「BASS BOOST」だ
なお、メーカー側では公開していないが、試聴機に付属していたイヤーチップはおそらくSpinFit製と思われるもので、外はやわらかく中はしっかりした感触のものになっている。そのほか、ケーブルは標準のストレートケーブルのほか、マイク付きリモコンケーブルも付属。マイク付きリモコンケーブルはAndroid用とiOS用の切り替えが可能で、iPhoneを始めAndoroidスマートフォンでも使える。なお、ケーブルには布製加工が行われており、衣擦れ音などのタッチノイズに強いものになっている。
上段が標準のストレートケーブルで、下段がAndroid/iOS両対応のマイク付きリモコンケーブル。リモコンは3ボタン式になっている
気になる音質だが、標準で装着されている「REFERENCE」フィルターでの試聴を行った。「N40」を聴いてまず印象的だったのが、2Wayでネットワークのない構成ながら、帯域のつながりが自然なこと。物理的な設計だけとは思えないほどスムーズなつながりだ。また、頭の中で音が鳴っているような不自然な頭内定位もさほど感じないので、解放感のある心地よいサウンドが楽しめる。
また、ハイレゾ音源対応らしいクリアできめの細かい音になっており、中高域にBA型を備えるため、ハイレゾ音源ではシンバルやピアノの鋭さがよく出ているように感じられる。加えて低域はダイナミック型らしいボリューム感のある音が特徴的。ボワ付いたりはしないが、タイトさよりも躍動感の高さが印象的である。
ちなみに、イヤーチップによって、低音の加減が変わるシビアな面もあるようで、サイズが合っていないときは高音の鋭さが目立つようなサウンドになっていた。また、音圧感度は109dB/mWだが、体感ではもっと小さく感じるため、ボリュームを少し高めで聴いたほうがよい。
AKGイヤホン久々のハイエンドモデルとなる「N40」は、フラッグシップモデル「K3003」で培ったノウハウが投入された製品に仕上がっている。「K3003」に比べて搭載ドライバー数は2基と少なめでダイナミック型ドライバーも小口径だが、BA型とダイナミック型を組み合わせたハイブリッド式を採用するうえ、音質面でのチューニングにおいても、電気的なネットワークに頼らず物理的な設計にするなど、上位モデルと近いコンセプトが感じられる。
さらに、AKGでは初となるハイレゾ音源に対応したほか、ユーザーからの熱い要望にこたえたMMCXコネクターを採用したリケーブル仕様にするなど、カスタマイズしやすい点も大きな魅力だ。他社製品に比べてしまうと遅れている感じは否めないが、これまでのAKGとは一味違う製品になっているのは確かだ。音についても自然なつながりと定位感にすぐれた、聴きやすいサウンドに仕上がっていると思う。
なお、今週末の7月16日から17日の2日間、東京・秋葉原で開催されるポータブルオーディオイベント「ポタフェス2016」にも出展予定。ハーマンインターナショナルのブースで実機を試聴できる。気になる方は立ち寄ってみてはいかがだろうか。