レビュー
「このレンズで撮りたい!」と思わせる描写力は必見

超弩級! シグマの“ボケマスター”こと「105mm F1.4 DG HSM」を実写レビュー

シグマの「BOKEH-MASTER(ボケマスター)」こと、「105mm F1.4 DG HSM」をカメラマンの吉村 永氏にレビューしてもらいました。最高レベルの解像力とボケ味を実現した大注目のレンズが生み出す画質は必見です。

シグマの「Art」シリーズの最新モデル「105mm F1.4 DG HSM」。価格.com最安価格はシグマ用が170,100円、キヤノン用が169,999円、ニコン用が170,099円(2018年7月9日時点)

350mlのビール缶よりもボリューム感の超弩級レンズ

シグマから2018年6月に発売された交換レンズ「105mm F1.4 DG HSM」は、高い画質と豊かな表現力で定評のある同社「Art」シリーズの最新作だ。

同社の命名規則から解説すると、「DG」が35mm判フルサイズ対応、「HSM」がAF駆動に超音波モーターを採用していることを意味する。シグマ用/キヤノン用/ニコン用の3種が用意されており、追ってソニーEマウント用が追加で発売される予定だ。

このレンズの登場で同社の大口径F1.4の単焦点レンズArtシリーズが20mm/24mm/35mm/50mm/85mm/105mmと揃った。すでにこのレンズより長い焦点距離となる135mmはF1.8なので、大口径F1.4シリーズとしてはこのラインアップで一応の完成を見たと考えてよさそうだ。

シグマのF1.4単焦点レンズArtシリーズのラインアップ(シグマのWebページより)

シグマのF1.4単焦点レンズArtシリーズのラインアップ(シグマのWebページより)

それでは製品を見ていこう。まず驚かされるのがその外観。350mlのビール缶よりもボリューム感のあるとても105mmの単焦点とは思えない大きさで、特に前玉の直径は驚異的。フードの部分は、CDやDVDなどの直径よりもさらに太いといえば想像してもらえるだろうか? 重量は1645gもあるため、専用の三脚座が付属しているほど。望遠ズームレンズとしてはポピュラーなキヤノン「EF70-200mmF2.8L IS USM II」が1490gであることを考えれば、このレンズの“超弩級”ぶりがうかがえることだろう。

実際にカメラに取り付け、持ち上げると正直、「重い!」と感じるのだが、顔の前に構えてファインダーをのぞくとその重さへの意識は軽くなる。全長が短く、重心が前方に寄りすぎることもないのでバランスよくホールドできる安心感があるのだ。

そしてファインダーをのぞくとその瞬間、視界に広がる雰囲気と空気感のよさに気分が高揚させられる。ピントの山がすっと立ち上がり、とてもクリアに感じられるのだ。マニュアルフォーカシングでもピントがとてもつかみやすいことに加え、幅広のピントリングは指当たりがよく、回転のトルクムラもないので気持ちよくピント合わせが行える。画面周辺部でもピントの見えやすさがあまり変わらないことも特筆していいだろう。

夕暮れ時の海岸でのスナップ撮影。普段なら絞り開放では撮影しないシーンだが、解像力に不安なし。夕暮れ時の光と陰のコントラストもうまく再現された
キヤノン「EOS-1D X Mark II」使用、F1.4、1/2500秒、ISO100、ホワイトバランス:5300K、Adobe Lightroom Classic CC7.4にてストレート現像
撮影写真(5472×3648、8.93MB)

使いこなしの面で気をつけなくてはいけないのが最短撮影距離。一般的に、単焦点レンズの最短撮影距離は焦点距離のおよそ10倍。本製品もご多分に漏れず約1mなのだが、これは最近のズームレンズに慣れている人からはちょっと使いにくいと感じるかもしれない。テーブルの上の料理を撮るのならば多くの場合、立ち上がらなくてはいけないだろうし、赤ちゃんの寝顔を撮影するときも手を伸ばしても届かない距離からの撮影となる。これはこの製品特有の問題ではなく、あくまでも「中望遠単焦点レンズ」の一般的な性質なのだが、購入を検討する前に理解しておきたい点だ。

だが、こんな不便も写真の上がりを見れば吹っ飛んでしまう。絞りは開放からとてもシャープ。だがほんの1段絞ると、このうえない解像が得られる。この描写であれば、ちゅうちょなく開放絞りを使えるので、今回の実写では多くを絞り開放で撮影してみた。近接時のピントのよさはもちろんなのだが、驚かされたのは数十メートル向こうの人物や遠景を撮影した場合のシャープさ。これも絞り開放でくっきりとシャープ。それでいて平面的でない、立体感に富んだ描写を見せてくれる。

晴天時にビル街で撮影。適度に絞り込んで撮ったショットだが、画面周辺部までコンクリの質感が失われない解像力の高さに満足した
キヤノン「EOS-1D X Mark II」使用、F5.6、1/1250秒、ISO100、ホワイトバランス:5300K、Adobe Lightroom Classic CC7.4にてストレート現像
撮影写真(5472×3648、9.51MB)

気になるボケの描写は

そして特筆したいのがボケの描写。長焦点で大口径とくればボケが大きいことは誰でも予想がつく。だがボケの大きさではなく、ボケ味のよさがこのレンズの最大のポイントだ。点光源が丸くボケる「丸ボケ」が作りやすいのはもちろん、背景が樹木の植え込みだったりしてもボケ部分がざわざわとうるさくなることが少なく、すっと消えていくような素直なボケを見せてくれる。特に標準〜望遠域の単焦点レンズではボケのハイライト部分に軸状色収差による色づきが気になることが多いが、これをほとんど感じない点には脱帽。人物撮影ではメタリックなペンダントやチェーン、ピアスなどの縁が赤紫や緑色の色のにじみを見せることがないので、すっきりとした印象だ。

小雨の屋外で人物を撮影。かなりの近接撮影だがピントを合わせたまつげの部分はきわめてシャープ。被写界深度はかなり浅く、顔の向かって右部分へとなだらかにボケていくのが美しい
モデル:山口奈々美
キヤノン「EOS-1D X Mark II」使用、F1.4、1/125秒、ISO640、ホワイトバランス:5500K、Adobe Lightroom Classic CC7.4にてストレート現像
撮影写真(5472×3648、9.78MB)

小雨の屋外で人物の全身を撮影。全身位置ともなると絞り解放ではピント合わせもかなりシビアになり、この作例も厳密には微妙に外れている。だが、このロングショットでありながらの立体感は秀逸だと感じた
モデル:山口奈々美
キヤノン「EOS-1D X Mark II」使用、F1.4、1/125秒、ISO800、ホワイトバランス:5300K、Adobe Lightroom Classic CC7.4にてストレート現像
撮影写真(3648×5472、8.53MB)

晴天時にショーウインドー越しにディスプレイを撮影。ガラスへの写り込みの雰囲気が再現できた
キヤノン「EOS-1D X Mark II」使用、F1.4、1/200秒、ISO100、ホワイトバランス:5300K、Adobe Lightroom Classic CC7.4にてストレート現像
撮影写真(5472×3648、8.72MB)

晴天時の植え込みを撮影。背景に直射の当たる葉を配置するとボケがうるさくなりがちなのだが、柔らかく溶け込んで違和感を覚えない。枝に絡む蜘蛛の糸までよく描写されている
キヤノン「EOS-1D X Mark II」使用、F1.4、1/1250秒、ISO100、ホワイトバランス:5300K、Adobe Lightroom Classic CC7.4にてストレート現像
撮影写真(5472×3648、7.23MB)

晴天時に路上のバイクを撮影。ホイール上部にピントを合わせたが、金属ものの周囲に現れる紫と緑の色がきわめて少ない
キヤノン「EOS-1D X Mark II」使用、F1.4、1/1250秒、ISO100、ホワイトバランス:5300K、Adobe Lightroom Classic CC7.4にてストレート現像
撮影写真(5472×3648、6.70MB)

本製品の愛称は「BOKEH-MASTER(ボケマスター)」。欧米ではボケ部分の味を特に評価する文化が近年までなく、いまでは日本語の「Bokeh」が世界標準語として使われているのだが、その部分に注力した設計ということだ。

なお、これだけの大口径な前玉を持つレンズだけに、ちょっと半逆光気味の構図を撮ろうとしても前玉に直射日光が入りがち。なので不要光を遮るためのフードは必ず装着したい。これについても付属のフードは一般的なABS樹脂でなく、耐熱性も高いポリカーボネイト樹脂にカーボンファイバーを含有したCRFP製で軽量(実測約105g)ながら堅ろう性も高い。装着もネジで確実にロックでき、この超弩級レンズ本体に見合った造りのよさだ。

付属の三脚座は実測約123gと軽量で、アルカスイスタイプの雲台にそのまま取り付けられる形状のもの。雲台取り付け部うしろにはストラップ取り付け用のバーが装備されており、製品に付属するストラップを取り付けることも可能。だが、少しでも軽量にして使いたい向きにはこの三脚座は取り外せる。外した場合、気になるのがロックピンのむき出しになったレンズ鏡筒部分だが、ここにはエラストマー製のProtective Coverという付属のリング(実測約19g)を装着すればロックピンを隠せ、外観にもまとまりが出る。

SIGMAのArtシリーズのデザインはシンプルでありながら高品位さを表現したもので好評だが、唯一の欠点として焦点距離の表記が小さすぎると感じていた。Protective Coverにはサイド部に「105/1.4」の大きな表記があり、今後こういった大きな表示が標準になればレンズ交換時の間違いも減りそうだと感じた(現時点では、このレンズのとびきりの大きさから間違うことは少ないだろうが)。

CRFP製のフードはネジでしっかりと固定できる仕様。実測約123gの三脚座も付属する

CRFP製のフードはネジでしっかりと固定できる仕様。実測約123gの三脚座も付属する

ロックピンを隠せるProtective Coverという付属のリングを装着した様子。サイド部に大きな文字で「105/1.4」と表記されている

また、さまざまなフィールドでの使用を考慮し、同社の「Sports」シリーズと同等の防塵・防滴に配慮した設計となっている。「135mmF1.8 DG HSM」では「簡易防滴」と称してマウント部のみのゴムシールドだったが、本製品はピントリングの摺動部付近にもシーリングを施して耐候性を高めてある。完全な防水ではないが、荒天時の安全性が高いことは誰にとってもうれしいポイントだ。前述のようにピントリングの動きのスムーズさなどが損なわれていないところもうれしい。

このレンズはフィルター径が直径105mmと恐ろしく大きく、適応するフィルターが少ないことは注意点として挙げておこう。価格もそれなりに高くなり、プロテクトフィルターでも同社のノーマルタイプで17,712円(税込、シグマオンラインショップでの価格)、高級タイプのWR Ceramicタイプだと41,472円(同)にもなる。その代わり、プロテクターをつけなくても汚れが拭き取りやすいよう、前玉には撥水防汚コーティングが施されている。個人的には、これだけ高性能なレンズなのだからプロテクターなしで使いたいところだ。

まとめ

「105mm F1.4 DG HSM」は、とにかくこれまでにない造りと大きさのレンズ。だが、「どうしてもこのレンズで撮りたい!」と思わせるだけの描写力と操作感を持つことも確か。人物撮影にはもちろん、注力した肉眼の視野角に似た画角を持つこともあってスナップ撮影にも独自の立体感、空気感をもたらすレンズとして、多くの人に手にとってもらいたい。

晴天時のビル街でのスナップ撮影。何気ない自動販売機がふわっと浮かび上がるようなコントラストの描写
キヤノン「EOS-1D X Mark II」使用、F1.4、1/200秒、ISO100、ホワイトバランス:5300K、Adobe Lightroom Classic CC7.4にてストレート現像
撮影写真(5472×3648、8.01MB)

こちらも晴天時のビル街でのスナップ撮影。ちょっと気になったものをすっと切り取れる105mmという画角は、個人的にはスナップに向いていると感じている
キヤノン「EOS-1D X Mark II」使用、F1.4、1/200秒、ISO100、ホワイトバランス:5300K、Adobe Lightroom Classic CC7.4にてストレート現像
撮影写真(5472×3648、6.57MB)

海に落ちる夕陽を撮影。絞り開放1/8000という極端な設定での撮影だが、画面に太陽を直接入れた条件でもコントラストの高い描写が実現できた
キヤノン EOS-1D X Mark II使用、F1.4、1/8000秒、ISO100、ホワイトバランス:5300K、Adobe Lightroom Classic CC7.4にてストレート現像
撮影写真(3648×5472、9.38MB)

吉村 永

吉村 永

テレビ番組制作から雑誌編集を経てフリーランスに。音楽ものVideoClipの撮影から雑誌、新聞などの取材、芸能誌でのタレント、アーティストなどの撮影を中心とする人物写真のカメラマン。カメラグランプリ2018選考委員。最近はドローンも飛ばしてます!

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