特別企画
動体歪みだけでなくフリッカー光源下での露出むらにも注意

無音・無振動で撮れる「電子シャッター」の課題

最近のミラーレスの多くは、メカシャッターだけでなく「電子シャッター」での撮影も行える。電子シャッターは無音・無振動で撮れるのが便利だが、動体歪みや露出むらなど使い勝手で課題もある。ここでは、メカシャッターと電子シャッターの仕組みを紹介したうえで、フリッカー光源下で発生する電子シャッターの露出むらについてレポートしよう。

※本記事ではフリッカー光源の影響による、1枚の写真の中での明るさ・色のむらを「露出むら」、連続撮影時のコマごとの明るさ・色のばらつきを「露出のばらつき」と表記します。

ソニーのフルサイズミラーレスの最上位モデル「α9」。電子シャッターでの高速読み出し・高速処理によって、AF・AE追従で最高約20コマ/秒の超高速連写を実現している

デジタル一眼カメラのメカシャッターの仕組み

最初に、デジタル一眼カメラのメカシャッターの仕組みを紹介しておこう。メカシャッターを理解しておくことで、電子シャッターの仕組みや課題も理解しやすくなる。

メカシャッターは、物理的な機構を用いてシャッタースピードを制御する方式。いくつか種類はあるが、デジタル一眼カメラではフィルム一眼レフ時代から使われてきた「フォーカルプレーンシャッター」が採用されている。

フォーカルプレーンシャッターは、撮像素子の前に配置した「先幕(さきまく)」と「後幕(あとまく)」の2枚のシャッター幕を使い、それぞれが別々に動くことでシャッタースピードを調整する仕組み。先幕が開いて露出が始まり、後幕が閉じることで露出が終わるようになっている。

フォーカルプレーンシャッターの動作をシンプルに再現したイメージ。先幕が開いて露出が始まり、後幕が閉じることで露出が終わる。なお、デジタル一眼カメラのフォーカルプレーンシャッターは、この画像のように縦方向にシャッター幕が動く縦走りだが、フィルムのM型ライカなどでは横方向に動く横走りが採用されていた

フォーカルプレーンシャッターのシャッター幕の動作速度(幕速)は、カメラにもよるが、フラッシュの同調速度(フラッシュの発光にシンクロできる最速シャッタースピード)と同じかそれより少し速い1/200〜1/300秒前後と言われている。シャッター動作中のわずかな揺らぎはあるものの、幕速はシャッタースピードによらず一定。幕速より速いシャッタースピードは、先幕が開き切る前に後幕を閉じ始めることで、先幕と後幕の間に隙間(スリット)を作って実現する。スリットの幅が小さければ小さいほど速いシャッタースピードが得られる仕組みだ。

幕速を超えるシャッタースピード時の、フォーカルプレーンシャッターの動作をシンプルに再現したイメージ。先幕を追いかけるように後幕を閉じることで2枚のシャッター幕の間にスリットを形成し、幕速よりも速いシャッタースピードを実現する

幕速が1/250秒のフォーカルプレーンシャッターの場合、単純に計算すれば、スリットを全開の半分にして動かせばシャッタースピードは1/500秒、1/4にすれば1/1000秒となる。これを縦24mmのフルサイズセンサーで計算すると、スリットの幅は1/500秒で12mm、1/1000秒で6mm。1/4000秒では1.5mmとかなり小さくなる。デジタル一眼カメラのフォーカルプレーンシャッターは、幕速が速い上位機種では最速1/8000秒のシャッタースピードを達成しているが、いかに高精度にシャッター幕を制御しているかが伝わるだろうか。

「幕速が一定ならシャッタースピードはいつも同じなのでは……」と混乱する方に説明しておくと、シャッタースピードは「シャッター幕の動作速度」ではなく、「撮像素子に光が当たる露出時間」を意味する。「時間」を「スピード」としているのは正確ではなく、「速い・遅い」と表現するのもわかりにくい部分だが、「シャッタースピード=露出時間」と捉え直してほしい。そうすれば、「先幕と後幕のスリットの幅でシャッタースピードを調整する」というのも理解しやすくなるはずだ。

電子シャッターのメリットとデメリット

次に、電子シャッターの仕組みやメリット・デメリットを解説しよう。

電子シャッターは、撮像素子を電子的に制御してシャッタースピードを調整する。物理的な機構が動くわけではないので、無音(※レリーズ時に絞り羽根が動く音はする)で撮れるのと、無振動で機構ブレを抑えて撮れるのがメリット。加えて、メカの制限を受けないため、1/32000秒などの超高速シャッタースピードや高速連写を実現しやすいのも特徴だ。電子シャッターを活用することで、オリンパスのフラッグシップモデル「OM-D E-M1 Mark II」はAF・AE追従で最高約18コマ/秒、ソニーのフルサイズミラーレスの最上位モデル「α9」はAF・AE追従で最高約20コマ/秒という、一眼レフのフラッグシップを超える超高速連写を達成した。

電子シャッターのメリット
・無音撮影が可能
・無振動なので機構ブレを抑えられる
・高速シャッタースピード、高速連写を実現しやすい

デジタル一眼カメラに搭載されているCMOSセンサーは、電子シャッター時に、1ラインから複数ラインを順次露光して信号を読み出す「ローリングシャッター」と呼ばれる方式で動作する。順番に露光していくという点ではメカシャッターのフォーカルプレーンシャッターと似たような動作だが、フォーカルプレーンシャッターに劣っているところがある。それは、撮像素子をスキャンする速度が遅いこと。デジタル一眼カメラのローリングシャッターのスキャン速度は、現時点では、α9を除いて1/20〜1/60秒程度。1/200〜1/300秒前後というフォーカルプレーンシャッターの幕速に対してかなり遅い。

スキャン速度が遅いとスキャンの前半と後半の時間差が大きくなるため、撮影結果に悪影響が出る。よく言われているのが、すばやく動く被写体を撮ったときに、被写体が斜めになったり歪んでしまう「動体歪み」が発生しやすいこと。加えて、蛍光灯やLEDなどフリッカー光源(電源周波数にあわせて高速に点滅する一般的な照明)の影響も受けやすい。フリッカー光源は、家庭用電源の周波数が50Hzの東日本なら100回/秒、60Hzの西日本なら120回/秒で高速点滅するが、スキャン速度が遅いローリングシャッターだと、1回のシャッター動作の中でフリッカー光源の高速点滅を拾ってしまう。結果、1枚の写真の中で、高速点滅の明暗差が縞模様のように写る露出むらが発生してしまうのだ。

フリッカーの影響による電子シャッターの露出むらをわかりやすく撮影した画像。明暗差が縞模様のように見える

原理的には、フォーカルプレーンシャッターも、幕速を超えるシャッタースピードでは被写体の動きや明るさの変化に影響を受ける。だが、フォーカルプレーンシャッターは幕速が速いため、超高速で移動する被写体を除いて動体歪みを気にせずに撮ることができる。フリッカー光源下では、フリッカー低減機能を使わないと(場合によっては使っても)連続撮影時にコマごとの露出のばらつきが出るし、高速シャッターだと1枚の写真の中で露出むらが目立つこともある。フリッカーの影響を完全に避けられるわけではないのだが、現状の電子シャッターのような極端に縞模様が目立つ露出むらは発生しない。

このほかローリングシャッターによる電子シャッターは、メカシャッターのようにフラッシュの発光と同調できない(同調できても遅いシャッタースピードになる)のも課題だ。現状もっともスキャン速度の速いα9でも電子シャッターでのフラッシュ利用は不可。OM-D E-M1 Mark IIでは発光はできるものの同調速度は1/50秒(ISO6400まで、ISO8000以上は1/20秒)と遅い(※デジタル一眼カメラのフォーカルプレーンシャッターでの同調速度は1/180〜1/250秒)。

電子シャッター(ローリングシャッター)のデメリット
・動体歪みが発生しやすい
・フリッカー光源下で露出むらが出やすい
・フラッシュが使えない(できても同調速度が遅い)

フリッカーの影響をミラーレス5モデルで比較

ローリングシャッター方式の電子シャッターの問題点として、動体歪みはよく取り上げられるが、フリッカー光源下での露出むらはあまり見かけない。そこで今回、電子シャッターを利用できるミラーレス数モデルを使って、フリッカー光源下でどのくらい露出むらが出るのかをチェックしてみた。

使用したのは、ソニーのフルサイズミラーレスの最上位モデルであるα9、高画素センサーの上位モデル「α7R III」、ベーシックモデル「α7 III」、富士フイルムのAPS-Cミラーレス「X-T2」、オリンパスのOM-D E-M1 mark IIの計5モデル。1/200秒からスタートして、フリッカー光源の影響が目立たなくなるであろう1/25秒まで1/3段刻みでシャッタースピードを落としながら、フリッカーが発生する家庭用のLED照明下で連写撮影を行い、その結果を比較した。なお、感度によってスキャン速度が変わる(高感度だと速度が遅くなる)モデルもあるため、感度はISO3200を超えないようにした。

以下に、各モデルの代表的な結果として、シャッタースピード1/200秒での画像を掲載する。露出むらをわかりやすくするため、連続で撮った5コマをアニメーションGIFでまとめてみた。


上の画像を見ると、α9では縞模様の露出むらが目立たないことがわかるだろう。α9は1/200秒だけでなく、1/200〜1/25秒のどのシャッタースピードでも、フリッカーの影響による顕著な露出むらは見られなかった。

これは、α9に搭載されていている「アンチディストーションシャッター」の性能によるもの。アンチディストーションシャッターは、CMOSセンサーの処理性能を上げ、スキャン速度を速めることで、電子シャッター時の動体歪みをほぼ気にならないレベルにまで抑えたのをウリにしている。さらに、あまり語られていない部分だが、スキャン速度が速いため、フリッカー光源下での露出むらが発生しにくいのもメリットだ。

試した限りでは、1/200秒以下のシャッタースピードであれば、α9は縞模様の露出むらをほぼ気にせずに電子シャッターを使えると感じた。さすがに1/200秒を超える高速シャッター時は、状況によってはコマごとに露出のばらつきが発生するし、縞模様にはならないまでも露出むらも避けられないが、それでも他モデルの電子シャッターよりはだいぶまし。フリッカーの出方は、フリッカー低減機能のないメカシャッターに近いと言えばいいだろうか。なお、α9のローリングシャッターのスキャン速度は、正式には公表されていないが、フォーカルプレーンシャッターの幕速に近い1/150秒程度と言われている。これはデジタル一眼カメラとしては現在最速で他モデルよりも数倍速い。

α9以外のモデルに目を向けると、1/50秒であれば露出むらがあまり目立たない結果となった。これは、電源周波数(家庭用電源の周波数は東日本が50Hz、西日本が60Hz)にあわせたシャッタースピードだとフリッカーの影響を受けにくくなるため。今回は東日本で撮影を実施したので、シャッタースピードが1/100秒だとある程度露出むらが軽減し、1/50秒だとどのモデルでもほとんど気にならなくなった。ただ、他のシャッタースピードでは露出むらが目立ってしまった。1/25秒より遅いシャッタースピードは別として、実用に耐えられるのは、「α9以外のモデルでは1/50秒(西日本では1/60秒)のみ」というのが正直なところだ。

α9以外でもっとも露出むらが目立たなかったのは、わずかな差ではあるが、比較的スキャン速度が速いOM-D E-M1 mark II。α7R IIIとα7 IIIの違いも気になるところだと思うが、α7R IIIでは1/40秒で露出むらが目立たない結果になったものの、両モデルでほとんど差はなかった。

ちなみに、最近のデジタル一眼カメラの多くが搭載するフリッカー低減機能は、電源周波数にあわせてレリーズのタイミングを調整することで、フリッカー光源下での露出のばらつき、ならびに露出むらを抑える機能。注意したいのは、この機能はメカシャッターでは有効だが、スキャン速度の遅い電子シャッターでは効果を発揮しないこと(※レリーズのタイミングによらずにフリッカーの影響を避けられないなどの理由による)。ソニーの「α7シリーズ」では、電子シャッター利用時はフリッカー低減機能を選択できないようになっている。

α7R IIIのメニュー画面。電子シャッター(サイレント撮影)をオンにすると、「フリッカーレス撮影」は自動的にオフになり、表示もグレーアウトとなる

まとめ 電子シャッターの利便性が上がる性能向上・技術革新に期待

電子シャッターのメリットはいくつかあるが、特に便利なのは無音で撮れることではないだろうか。静かなレストランなど、屋内で音が出しにくい状況でもシャッターが切りやすいし、眠っている子どもを撮るときにも使いやすい。昆虫や野鳥などネイチャー系の撮影でも音が出ない電子シャッターは便利だ。さまざまな撮影シーンで活躍する機能である。

ただし、今回見てきたように、ローリングシャッターによる電子シャッターは、動体歪みのほかにフリッカー光源下で縞模様の露出むらが発生しやすい。フリッカー光源下でも電源周波数にあわせた1/50秒(東日本)や1/60秒(西日本)にシャッタースピードを設定すればある程度抑えられるが、シャッタースピードを上げられないので人や動物の動きを止めて撮りたいときに活用しにくい。「電子シャッターは便利だが、まだ用途が限られる」というのが正直なところではないだろうか。現在、デジタル一眼カメラの電子シャッターの中で、フリッカー光源にもっとも強いのは、フォーカルプレーンシャッターの幕速に近いスキャン速度を実現したα9だが、それでも1/200秒より速いシャッタースピードだとフリッカーの影響を受けてしまうことがある。まだまだ改善の余地はある。

今後、動体歪み、フリッカー光源下での露出むら、フラッシュ同調といった電子シャッターの課題をクリアするには、CMOSセンサーのスキャン速度をフォーカルプレーンシャッターの幕速並みに上げることもひとつの方法だが、シャッター方式の変更も求められている。順次露光のローリングシャッターではなく、全画素を同時に露光する「グローバルシャッター」がデジタル一眼カメラ用のCMOSセンサーでも実用化すれば、電子シャッターはさらに使いやすくなるだろう。究極的にはメカシャッターを使わなくてもよくなるはずだ。今後の性能向上・技術革新を期待したい。

真柄利行

真柄利行

カメラとAV家電が大好物のライター/レビュアー。雑誌編集や価格.comマガジン編集部デスクを経てフリーランスに。価格.comではこれまでに1000製品以上をレビュー。現在、自宅リビングに移動式の撮影スタジオを構築中です。

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