キヤノンの新しいフルサイズミラーレス「EOS R5」「EOS R6」がこの夏のカメラ市場を席巻している。2020年8月29日時点での価格.com「デジタル一眼カメラ」カテゴリーの注目ランキングは、上位モデルのEOS R5が1位で、下位モデルのEOS R6が2位とワンツー体制。もちろん、トータルスペックを見れば上位モデルのEOS R5に分があるのだが、EOS R6には価格的な魅力があり、どちらを選ぶか悩んでいる人も多いのではないだろうか。ここでは、実機を使ってみて気が付いた点を含めてEOS R5/R6の特徴をまとめたい。
左が上位モデルのEOS R5、右が下位モデルのEOS R6
はじめに、EOS R5とEOS R6の基本スペックの主な共通点と違いを整理しておこう。
EOS R5/R6の共通点
EOS R5/R6の違い1
EOS R5/R6の違い2
上位モデルのEOS R5は8K動画撮影にいち早く対応するなど圧倒的な高性能を実現したハイスペックモデル。4000万画素を超える高画素なうえ、AFや連写速度、ボディ内手ブレ補正などもこれまでの最高性能を更新しており、フルサイズミラーレスの中でも頭ひとつ抜け出た存在になっている。キヤノンオンラインショップの価格は506,000円(税込)。
下位モデルのEOS R6は、キヤノンのラインアップの中ではスタンダードモデルに位置付けられているものの、EOS R5と同等のAFシステムや連写速度、ボディ内手ブレ補正を実現しており、クラスを超える性能を持つカメラとなっている。外装にポリカーボネート樹脂を使っていることもあってEOS R5よりも58g軽量だ。キヤノンオンラインショップの価格は335,500円(税込)。性能を考慮するとコストパフォーマンスの高いモデルと言えよう。
続いて、EOS R5/R6のスペックを項目別に掘り下げていこう。まずは画質性能からチェックする。
両モデルとも映像エンジンは最新の「DIGIC X」で、EOS R5は、新開発の有効約4500万画素CMOSセンサーを、EOS R6は、フラッグシップ一眼レフ「EOS-1D X Mark III」のセンサーをベースに改良を施した有効約2010万画素CMOSセンサーを採用している。なお、EOS R6のセンサーはEOS-1D X Mark IIIをベースにしているものの、より高い解像感が得られる「GDローパスフィルター」仕様ではなく、通常のローパスフィルターとなっている。
最新の映像エンジンDIGIC Xを採用(メイン基板の画像はEOS R5)
感度の上限値を見ると、常用で最高ISO102400に対応するEOS R6がEOS R5を1段分上回っている点から、EOS R6のほうがわずかに高感度に強いという見方もできるが、総合的な画質は、さすがに4000万画素オーバーのEOS R5に軍配が上がる。キヤノンもEOS R5の画質については有効約5060万画素の一眼レフ「EOS 5Ds」を上回る「EOS史上最高解像性能」と自信を持っている。トリミング耐性にもすぐれており、APS-C画角の1.6倍クロップ時でも約1730万画素で記録できるのもEOS R5のメリットだ。
さらに、EOS R5はDPRAW(デュアルピクセルRAW)設定に対応しており、DPRAWのカメラ内RAW現像時の新機能として「ポートレートリライティング」と「背景明瞭度」が追加されている。特にユニークなのが「ポートレートリライティング」で、画像処理で仮想的な光源を当てることで、撮影後に光源の位置や照明の強度・範囲を補正できるというもの。このあたりのキヤノンの新しい画像処理技術を使えるのもEOS R5の魅力である。
DPRAWのカメラ内RAW現像でポートレートリライティングを使用しているモニター映像を収めた動画。背景が服と同系色だと違和感のある補正になることもあるが、うまく活用することで撮影時の光量不足を補うことが可能だ。なお、顔の詳細情報が取得できない場合、ポートレートリライティングは使用不可となる
このほか、EOS R5/R6の画質関連では、以下の3つの新機能・新設定が追加されている。上位モデルと下位モデルで、こうした細かいところの機能に差がないのはうれしい。
・HDR PQ HEIF 10bit記録
・「デジタルレンズオプティマイザ」に「強め」を追加
・「オートライティングオプティマイザ」に「顔ライティング補正」を追加
EOS R5/R6のAFシステムは基本的に同じで、両モデルとも新世代の「デュアルピクセルCMOS AF II」を採用し、対応レンズ使用時は、1点AFなどユーザーがフォーカスポイントを任意で選択する際に「最大約90%(横)×約100%(縦)」、カメラまかせの自動選択時(顔+追尾優先AF)に「最大約100%(横)×約100%(縦)」の広い測距エリアを実現。対応レンズの詳細はキヤノンの製品ページをチェックしていただきたいが、「RFレンズ」だけでなく、一眼レフ用の「EFレンズ」をマウントアダプター経由で装着しても多くのレンズで制限なく使用できるようになっている。対応のEFレンズであればエクステンダー「EF1.4× III/EF2× III」を組み合わせても制限はない。また、人物と動物(犬、猫、鳥)の被写体検出に対応し、人物は「頭部、顔、瞳」、動物は「全身、顔、瞳」の検出が可能なのも特徴だ。
さらに、世界最速約0.05秒の合焦速度や、AFサーチスピードの改善、EOS-1D X Mark IIIをベースに改良を施したAFアルゴリズム、F22光束対応、Case A(Auto)+4種類のカスタム設定ガイドなど、細かいところまで共通点は多岐にわたる。低輝度限界については、EV-6.5対応のEOS R6が、EV-6のEOS R5を半段上回っているものの、両モデルでAFの使い勝手は変わらないととらえていいだろう。
実際に使い比べてみても、被写体への食いつき、追従性で両モデルに差はないと感じた。従来から飛躍的な進化を遂げており、特に追従性の高さは圧巻。以下に、静止画撮影中のモニター映像を記録した動画を2つ掲載しよう。ひとつはEOS R5を使ってダンスをする人物を、もうひとつはEOS R6を使ってペンギンと白鳥を追従している。その性能の高さが伝わるはずだ。
EOS R5を使って、顔+追尾優先AFの人物認識でダンスを踊る人物を追従。3〜5m程度の比較的近い距離で前後左右に不規則に動く人物に対して、画面全域で瞳、顔、頭部を高速かつ高精度にとらえ続けている。頭部認識によって人物が後ろを向いている状態でもピントが外れないのも、動体撮影で使いやすいところではないだろうか
EOS R5/R6は人物だけでなく動物の検出の精度も高い。EOS R6で動物検出AFを利用してみたが、ペンギンと白鳥に対して、画面全域でしっかりと追従してくれた。障害物や他の被写体があっても1度とらえた被写体に追従し、画面の周辺ギリギリまで追いかけている。一度被写体からピントが外れてからの復帰も速い。なお、動物検出は犬、猫、鳥以外でも可能なようで、試した限りキリンやゾウなどでも有効だった
※動画音声なし
左がEOS R5、右がEOS R6のAF撮影時の画面。細かいところだが両モデルでAFフレームの形が微妙に異なっているところがあり、1点AFはEOS R5が横長の長方形で、EOS R6が正方形となっている
EOS R5/R6は連写速度も同スペックで、電子シャッター時に最高約20コマ/秒、メカシャッター(電子先幕含む)時に最高約12コマ/秒(いずれもAF/AE追従)の超高速連写を実現している。異なるのは連写の持続性で、スペック上は画素数の少ないEOS R6のほうが優位となっている。
以下は、実機を使って最速連写時の持続性をテストした結果になる。撮影は晴天下の屋外で行い、シャッタースピード優先モードにして、シャッタースピード1/1000秒、感度ISO200、顔+追尾優先AF、サーボAFの設定とした。バッテリーはほぼフル充電の状態で、少し左右にカメラを振りながら遠景を連写し、連写が詰まるまでのコマ数と、連写が詰まってからバッファが完全に開放するまでのおよその時間を計測している。
使用したレンズは「RF24-105mm F4 L IS USM」。使用したメモリーカードはCFexpressカードがProGrade Digitalの新モデル「COBALT 1700R 325GB(読み込み1700MB/s、書き込み1500MB/s)」、SDカードがソニーの「TOUGH SF-G128T 128GB UHS-II(読み込み300MB/s、書き込み299MB/s)」。
EOS R5のテスト結果(CFexpressカード使用時)。括弧内の秒数はバッファ完全開放までのおよその時間
EOS R5のテスト結果(SDカード使用時)。括弧内の秒数はバッファ完全開放までのおよその時間
EOS R6のテスト結果。括弧内の秒数はバッファ完全開放までのおよその時間
テスト結果を見ると、EOS R5/R6ともに十分な連写持続性を持っていることがわかる。十分なバッファ容量を搭載しており、バッファの開放時間も短い。両モデルともバッファが完全に開放されなくても撮影できるので、テンポよく連写を続けることができる。
EOS R5は、さすがに電子シャッターでの最高約20コマ/秒連写だと3〜4秒程度でバッファフルになるが、CFexpressカード使用時は5秒程度でバッファは完全開放になった。当然ではあるがSDカードよりもCFexpressカードのほうがパフォーマンスがよく、この高性能モデルのポテンシャルを引き出すには、高速なCFexpressカードをメインで使用したいところだ。
EOS R6は、EOS R5よりも連写持続性が高く、最高約12コマ/秒のメカシャッター時は、RAW+JPEG記録時でも200コマ以上連写を続けられた。JPEG記録にいたっては1500コマを超えても連写が詰まることはなかった(※2分連写を持続したところで撮影を止めている)。なお、デュアルスロットのカード2のほうでも同様に試してみたが、持続性はカード1と変わらなかった。
最高速度120km/hの区間を走る電車を被写体に、電子シャッター時のローリングシャッター歪みを確認した。センサーのスキャン速度はEOS R5のほうが速いようだが、この状況では両者でほぼ変わらない結果に。従来から改善は見られるものの、流し撮りなどカメラをすばやく動かすと歪みが発生するレベルだ
EOS R5/ R6はボディ内手ブレ補正も同性能となっており、レンズ内手ブレ補正との協調制御によって、スペック上は世界最高となる最大約8.0段分の補正効果を実現している。試してみても両モデルで性能に差はないようで、協調制御に対応するRF24-105mm F4 L IS USMを使用したところ、遠景を撮る場合は、広角端24mmでは1〜2秒程度のシャッタースピードなら高い確率で手ブレを抑えられた。周辺で発生する回転ブレには注意が必要で成功率は落ちるが、両肘を付くなど安定した体勢なら最長4秒程度のシャッタースピードでも手ブレのない写真を撮ることができた。望遠端105mmでも1秒程度までなら十分に手ブレを抑えることが可能で、フルサイズ機としてはとても高性能な手ブレ補正に仕上がっている。
EOS R6、RF24-105mm F4 L IS USM、24mm、ISO100、F6.3、2秒、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)、ピクチャースタイル:スタンダード、オートライティングオプティマイザ:標準、周辺光量補正:する、歪曲収差補正:する、デジタルレンズオプティマイザ:する、JPEG
撮影写真(5472×3648、8.6MB)
焦点距離24mm、シャッタースピード2秒で手持ち撮影した夜景作例。周辺部の回転ブレもよく抑えられており、画像全域でシャープな画質が得られた。
EOS R6、RF24-105mm F4 L IS USM、105mm、ISO100、F11、1.3秒、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)、ピクチャースタイル:スタンダード、オートライティングオプティマイザ:標準、周辺光量補正:する、歪曲収差補正:する、デジタルレンズオプティマイザ:する、JPEG
撮影写真(8192×5464、11.2MB)
こちらは焦点距離105mm、シャッタースピード1.3秒で手持ち撮影。ジェットコースターの車両が通った瞬間にシャッターを切っている。手ブレの影響による画質の劣化はほとんど見られない(※画像左の観覧車は動いているためブレています)。
操作性については、EOS R5のほうがハイエンド志向の仕様になっているものの、両モデルとも背面にマルチコントローラーとサブ電子ダイヤルを搭載するなど、EOSシリーズ上位モデルの直感的な操作性を継承した内容になっている。
EOS R5の操作性で特徴的なのは、上面にEOS Rと同じく、撮影情報を表示するパネルを装備すること。さらに、表示デバイスも高性能で、ファインダーは0.5型・約576万ドットの有機ELパネルを採用し、最高120fps(119.88fps)の高速フレームレートに対応。高精細かつ滑らかな表示を実現したファインダーに仕上がっている。液晶モニターはタッチパネル対応の3.2型(約210万ドット)バリアングル液晶。メモリーカードスロットは、高速書き込みが可能なCFexpressカード(Type B対応)と、SDカード(UHS-II対応)のデュアルスロットとなっている。
EOS R5の背面。マルチコントローラーとサブ電子ダイヤルが備わっている
上面には撮影情報を表示するパネルやモード選択ボタンなどを配置
CFexpressカード(Type B対応)とSDカードのデュアルスロットを採用
EOS R6もハイエンドユーザーのニーズに応えられる、十分な操作性を誇っている。ファインダーはEOS Rと同じ0.5型・約369万ドットの有機ELファインダーだが、EOS Rとは異なり最高120fps(119.88fps)の高速フレームレートに対応。液晶モニターはタッチパネル対応の3.0型(約162万ドット)バリアングル液晶で、メモリーカードスロットは、両スロットともUHS-IIに対応するSDカードのデュアルスロットだ。
EOS R6の背面。操作系はEOS R5と同じだ。ボタン類のカスタマイズ性もEOS R5と変わらない
SDカードのデュアルスロットを採用
EOS R5/R6を使ってみて好印象だったのがシャッターのフィーリング。両モデルでフィーリングはほぼ同じで、電子先幕だけでなくメカシャッターでもシャッター音は小さく、かつシャッターショックも抑えられている。EOS Rと比べるとシャッターボタンのストロークは浅めで、軽いタッチで軽快にシャッターを切ることが可能だ。下位モデルのEOS R6でも上位モデルと変わらないフィーリングで撮影ができるのは高ポイントだ。
EOS R5、EOS R6、EOS Rでシャッター音を比較してみた。レンズはRF24-105mm F4 L IS USM を装着している。EOS R5/R6は電子先幕だけでなくメカシャッターでもシャッター音が非常に小さい(あまりに小さいのでこの動画では音声のゲインを全体的に上げている)。EOS R6のほうがわずかに全押しのストロークが深く感じたが、EOS R5/R6でフィーリングはほぼ変わらない
さらに、EOS R5/R6ともレスポンスが改善しており、EOS Rと比べて起動時間が短くなっているほか、連写中の電子ビューファインダー表示の遅延も抑えられている。モニターから電子ビューファインダーへの表示切り替えや、撮影後のプレビュー表示も従来より速い。使い比べてみて、EOS R5とEOS R6で操作に関するレスポンスは変わらないと感じた。
なお、両モデルとも防塵・防滴構造を実現しているが、外部カバーの合わせ部など、シーリング処理の対応部が多いEOS R5のほうがより高性能となっている。
動画撮影機能については、デジタル一眼カメラとして初めて8K動画の内部記録を実現したEOS R5の充実度が目立つ。クロップなしでの8K DCI(8192×4320)もしくは8K UHD(7680×4320)の30p/24p記録に対応。12bit RAWでの8K DCI記録も可能だ。さらに、8K UHDでのタイムラプス動画も撮影できる。8K撮影時でもAFやボディ内手ブレ補正が有効で、AFは人物検出(頭部、顔、瞳)と動物検出(全身、顔、瞳)に対応。本格的な8K映像の制作に対応できるカメラだ。
8K動画が注目されがちだが、4K動画もハイレベルで、クロップなしで4K DCI(4096×2160)もしくは4K UHD(3840×2160)の60p記録に対応。4K/30p 24p記録時は、クロップなしでの8.2Kオーバーサンプリングによる高画質な撮影が可能だ。クロップをする場合でも5.1Kオーバーサンプリングで記録できる。さらに、最高120fps(119.88fps)での4Kハイフレームレート記録も実現。10bitのCanon Log記録、ITU-R BT.2100規格(PQ)のHDR記録などにも対応しており、2020年8月現現在、コンシューマー向けの一眼カメラとしては最も高性能な動画撮影機能を持つモデルのひとつとなっている。
なお、EOS R5での8K動画の撮影はCFexpress 1.0カードの使用が推奨されている。8K IPB記録については8bitならビデオスピードクラス60以上、10bitならビデオスピードクラス90以上のSDカードでも可能だが、編集に向いたALL-I記録、ならびにRAW記録には非対応。本格的な8K動画撮影を行うなら高速なCFexpressカードを使用するのがベターだ。
8K DCI/30p、8K UHD/30pでの8K動画撮影に対応し、8K DCIではRAW記録も可能。MP4の記録モードとしてALL-IとIPBが用意されている
EOS R5は8.2Kオーバーサンプリングによる4K記録(30pもしくは24p)が可能
EOS R5と比べるとインパクトは少ないが、EOS R6も十分に高性能な動画撮影機能を搭載している。クロップなしでの4K UHD(3840×2160)/60p記録に対応し、5.1Kオーバーサンプリングによって高画質な4K動画の撮影が可能。4Kタイムラプス動画や、フルHD 120fpsのハイフレームレート動画、10bitのCanon Log記録、ITU-R BT.2100規格(PQ)のHDR記録などにも対応。人物検出(頭部、顔、瞳)と動物検出(全身、顔、瞳)のAFも利用できる。4K動画をメインで撮影するのであれば十分なスペックだ。
EOS R6は4K UHD/60p記録に対応している
EOS R5/R6の動画撮影については、温度上昇によるCMOSセンサー・キーデバイスの保護を目的として、連続撮影時間に制限が設けられているので注意したい。ボディ内部の温度が上昇した場合には、動画記録を停止し、カメラをシャットダウンする仕様になっている。詳しくはキヤノンの製品ページをご覧いただきたいが、常温23℃環境での連続撮影可能時間はEOS R5の8K撮影が最大約20分、EOS R6の4K撮影が最大約30〜40分。シャットダウン後の待機時間のイメージも公開されており、EOS R5の8K撮影なら待機時間10分で3分間の撮影が可能。EOS R6の4K/60p撮影なら待機時間10分で5分間の撮影が可能とのこと。
今回、EOS R5は8K ALL-I記録、EOS R6は4K/60p記録の設定で、動画撮影の持続性のテストを行ってみた。EOS R5は、動画撮影可能時間の改善を図った新しいファームウェアVersion 1.1.0にアップデートしている。また、両モデルとも、スタンバイ状態のときの動画サイズとフレームレートを変更して温度上昇を抑える「温度上昇緩和機能」も初期設定のオンのままとした。
気温25℃の屋内で、カメラの電源を切らずに「30秒の動画を撮影→30秒待機」を繰り返してみたところ、EOS R5は撮影可能時間が開始7分で10分、15分で5分、24分で3分、26分で2分(警告開始)と減っていき、29分でゼロになった。EOS R6は開始7分で20分、13分で15分、20分で10分、28分で5分、39分で2分(警告開始)となり、41分でゼロになった。
その後、カメラの電源を切って回復具合をチェックしたところ、EOS R5は待機時間5分では撮影可能にならず、10分待機で撮影可能時間が3分になり、15分待機で5分となった。EOS R6は待機時間5分で撮影可能時間が3分になり、10分待機で4分、15分待機で5分となった。また、気温が33℃を超える屋外の晴天下(直射日光が時折カメラに当たる厳しい状況)でも短い動画を断続的に撮影してみたが、両モデルとも30分程度で撮影不可となったことも付け加えておこう。ただ、復帰については屋内のほうがスムーズで、屋外では日陰にカメラを置いて1時間待機しても録画可能時間は5分のままだったが、屋内ではそれよりも早い時間(EOS R5は40分、EOS R6は30分程度)で10分まで回復した。ともあれ、屋内・屋外に関わらず、短い動画を休み休み撮るスタイルでも30〜40分程度経過すると長時間のクールダウンが必要になるのは、さすがに使いどころが難しいというのが正直な感想だ
撮影可能時間が5分くらいになるとボディが熱を帯び始め、2分になるとオーバーヒートの警告が画面に表示されるようになる。画像は撮影可能時間がゼロになったときの画面
また、EOS R5での8K動画撮影を楽しむには、CFexpressカードとあわせて、相応の動画編集環境が必要なことも付け加えておこう。8K動画を編集するには、使用するソフトによって求められるスペックが微妙に異なるところがあるものの、高性能なマルチコアCPUと大容量メモリーのビデオカードなどを搭載したパソコンが必要になる。筆者は、16コア32スレッドのCPU「AMD Ryzen 9 3950X」と、メモリー容量11GBの「NVIDIA GeForce RTX 2080 Ti」チップ搭載のビデオカード、32GB DDR4-3200メモリー、1TB SSD(m.2)で構成したWindowsパソコンを使用しているが、動画編集ソフト「DaVinci Resolve 16」でタイムライン解像度を落としたり、最適化メディアを作成することで、EOS R5で撮影した8K ALL-I動画をなんとか編集できるといったところ。カラーグレーディングなど本格的な編集をよりスムーズに行うなら、さらにハイスペックな業務用ワークステーションクラスの性能が求められる。WindowsパソコンでCPUやビデオカードを買い替えることで対応できればまだいいが、カメラとあわせて8K編集用パソコンを新規に用意するのであれば、最低でも40万円程度の予算が必要になることは覚えておいてほしい。
キヤノンのフルサイズミラーレス初代モデル(EOS RとEOS RP)を使っていて気になるのは、評価測光時に、フォーカス枠にかなり引っ張られる形で測光が行われる仕様になっていることだ。評価測光は選択したフォーカス枠の明るさに連動して露出を調整するのが一般的ではあるが、EOS RとEOS RPはその振れ幅が大きく、特に1点AFで撮っていると同じ構図でもフォーカスを合わせた位置の明るさによって露出が大きく変わる。風景やスナップの撮影では少々扱いにくいと感じることもある。
新モデルのEOS R5/R6では、この露出傾向が調整されるか、フォーカス枠連動の重みを調整できる機能の追加を期待したが、結論から言えば従来と変わりないようだ。
以下、EOS R、EOS R5、EOS R6の評価測光かつ1点AFでの露出の挙動(絞り優先モードでのシャッタースピードの値)をチェックした結果となる。レンズの焦点距離は24mm、感度はISO100、絞り値はF8とし、晴天下の明るさがほぼ変わらない状況かつ、同じ構図に固定して、フォーカス枠の位置でどのくらい露出が変わるのかをチェックした。
撮影状況は晴天下(EV14〜EV15くらい)のトップ光で、感度がISO100、絞り値がF8なら、シャッタースピードの適正値は1/400秒程度。この構図で同じ位置(計6か所)に1点AFのフォーカス枠を持っていってシャッタースピードの変化をチェックした
各位置におけるシャッタースピード
EOS RとEOR R5は同じ結果になり、EOS R6も全体的にややアンダー目になったもののフォーカス枠に連動する傾向は同じだ。どのモデルもフォーカス枠に対してより厳密な露出傾向になっている。ちょっとした明るさの変化に敏感で、画面上部の「1 青空」では適正露出だったが、その少し下に位置する「2 雲」にフォーカス枠を持っていくとアンダーに。画面下部の木の部分でも明暗差を拾う結果となった。
EOR R5/R6はEOS Rと同様、測光モードを評価測光以外にすればフォーカス枠の連動は外れる。EOR R5/R6を使用して露出が変わりやすいと感じたなら測光モードを見直して使ってみてほしい。
以上、EOS R5とEOS R6の特徴をまとめてみたが、両モデルにどういう印象を持っただろうか?
上位モデルのEOS R5は、「高画素で高画質な写真が撮りたい」「最先端の動画撮影機能で本格的な映像作品を制作したい」といったように、写真・動画の両方で最高性能を追求する人に向けたモデルだ。予算が許すならこちらを選びたいところではあるが、記事内でも述べたように、連写や動画の性能をフルに引き出すには高速なCFexpressカードが必要なうえ、8K動画での映像制作に取り組むなら高性能な編集用PCも用意する必要がある。カメラ本体以外にもコストがかかる製品なので、その分の予算も考えて購入を検討したい。なお、CFexpressカードの中でもEOS R5での8K動画記録に対応していないものもあるので、事前にキヤノンが公開している動作確認済みカードのリストをしっかりとチェックしておこう。
下位モデルのEOS R6は、EOS R5と同等のAF、連写、ボディ内手ブレ補正を搭載し、価格を含めてバランスのいいモデルに仕上がっている。スペックで気になる点があるとすれば、画素数が有効約2010万画素に抑えられていることだろう。キヤノンのフルサイズミラーレスの中では最も画素数が低く、他モデルと比較してその点をネガティブにとらえている人もいるかもしれない。ただ、2000万画素もあればモニターでの鑑賞は十分。プリントもA3程度なら対応できる。「A1を超える大判で高精細なプリントをしたい」というなら別だが、ハイアマチュアにとっては必要十分なスペックではないだろうか。
両モデルとも発売時点の生産数が少ないということもあって、2020年7月30日発売のEOS R5、8月27日発売のEOS R6ともにすでに在庫がない状況になっている。EOS R5については8月28日時点で価格.comにショップの販売価格が登録されていない。両モデルとも、今予約しても手元に届くのは来年になるという情報もあるので、予約は早めに行っておきたい。
フリーランスから価格.comマガジン編集部に舞い戻った、カメラが大好物のライター/編集者。夜、眠りに落ちる瞬間まで、カメラやレンズのことを考えながら生きています。