ビルのきらめく窓明かりや色とりどりのイルミネーション、一列に並んだ街灯、水面に揺れる月明かり。あらゆる光源が存在感を増す「夜景」の撮影は、さまざまな光に出会えるのが面白い。本記事では、夜景の光の表現をアレンジしてくれるレンズフィルターを3種類ピックアップ。作例とともに特徴を紹介しよう。
ケンコー・トキナー「PRO1D R-トゥインクル・スター8X(W)」やマルミ光機「アルプスパンチ!」など、夜景撮影にユニークな効果をもたらすフィルターをピックアップした。作例の撮影は、富士フイルムのミラーレスカメラ「X-T5」を使用。レンズには、イルミネーション撮影時は富士フイルム「フジノンレンズ XF35mmF1.4 R」を、俯瞰夜景撮影時はサムヤン「AF 12mm F2 X」を組み合わせている
ケンコー・トキナー「PRO1D R-トゥインクル・スター8X(W)」を使用して撮影した写真。点光源に8本線クロスのアクセントが加わり、華やかな印象に。写真全体にほんのりとソフト効果もかかる
上記と同じ被写体を、フィルターを使わずに撮影した写真
クロスフィルターは、キラっと輝くような、クロスした光線を光源に加えられるレンズフィルター。特にイルミネーションなどの点光源と相性がよく、夜間撮影に組み合わせるフィルターとしては定番的な存在だ。
ケンコー・トキナーから発売されているクロスフィルター「トゥインクル・スター(Twinkle Star)」シリーズは、光線の長さがほどよく抑えられているのが特徴。構図や被写体を選ばず使えて、扱いやすいため、初めてのクロスフィルターとしてもぴったりだ。際立った光源がない場合は、弱めのソフトフィルターとしても使用できる。
同シリーズは元々4本線タイプと6本線タイプを展開していたが、2022年11月に、8本線タイプ「PRO1D R-トゥインクル・スター8X(W)」が新たに追加された。光線の長さはそのままに、光線が8本に増え、クロス効果の演出をよりわかりやすく楽しめるのがポイントだ。
「トゥインクル・スター」シリーズは、前枠を回転することでクロスの角度(光線の向き)を調整できる
フィルターガラス表面に施された網目状のパターンを、玉ボケに写り込ませることも可能。メッシュ柄の個性的な玉ボケが作れる
通路や植え込みに巻かれた何気ないイルミネーションも、「PRO1D R-トゥインクル・スター8X(W)」を通すと、きらびやかに撮れる
マルミ光機「DHGフォギー ソフト」を使用して撮影した写真。ふんわりと光が拡散され、幻想的な雰囲気に仕上がった
上記と同じ被写体を、フィルターを使わずに撮影した写真
光を拡散させるソフトフィルターは、クロスフィルターと並んで、夜間撮影での定番フィルターだ。効果の強弱によって、輪郭や質感をにじませてなめらかな印象に変えたり、全体に淡く光が広がるような演出を加えたり、さまざまな描写を楽しめる。
「DHGフォギー ソフト」は、マルミ光機から展開されているソフトフィルターの中で、最も光を拡散させる力が強い。ふんわりとしたぼかし効果が得られ、まさに“夢のような”と表現するのにぴったりな1枚に仕上がる。
「いくら夜景撮影といっても、さすがに暗すぎるのでは」と思うような時間帯・場所でも、このフィルターを装着すれば、わずかな光を拾って広く拡散し、見違えるような光景に変えてくれる。寄っても引いてもそれぞれの魅力を発揮し、オールラウンドに活躍してくれるフィルターと言えるだろう。
フィルターガラスをそのまま覗くだけでも、そのぼかし効果の強さがわかる。薄枠設計で重ね付けもしやすい
とっぷりと日が暮れた時間帯に撮影。わずかな光源を「DHGフォギー ソフト」が拡散してくれて、真っ暗な景色がさま変わりした
ビル群という直線的なモチーフをメインにした構図でも、「DHGフォギー ソフト」を挟むと、どこか甘くやわらかな印象が加わる。いわゆる“エモい”写真を撮りたい人にも向いているだろう
マルミ光機「アルプスパンチ!」を使用して撮影した写真。暖色系の明かりはそのまま、ブルーグリーンのような色味がのり、どこかレトロチックな雰囲気に変わった
上記と同じ被写体を、フィルターを使わずに撮影した写真
特殊効果が得られる最新レンズフィルターの中で特に注目したいのが、マルミ光機の「パンチ!」シリーズだ。写真家・鈴木さや香氏と共同開発した製品で、「肉眼で見ている世界とは別の世界を作る」「記憶の中にある心の画像を写す」というコンセプトで商品化された、ユニークなフィルターだ。
「パンチ!」シリーズは、「なついろパンチ!」と「アルプスパンチ!」の2種類あって、夜景撮影とも相性がよいのが「アルプスパンチ!」。にじんだような描写を作るソフトフィルターに、特殊なコーティング「Vコート」を施し、それを2枚重ねたという斬新な作りが特徴だ。
フィルターガラスの表面と裏面に、マゼンタ色に反射する「Vコート」を採用。フィルターガラス2枚、計4面に「Vコート」を施している
「アルプスパンチ!」を使って撮影すると、「Vコート」の効果で全体に青みがかったグリーンの色味が乗り、どこか非現実的な描写に変わる。マゼンタ色のフレアやゴーストを写り込ませることも可能だ。また、赤系の小物や光を写せば、その色味を引き立ててくれる。印象ががらりと変わるので、見慣れた風景にこそ使ってみたいフィルターだ。
「アルプスパンチ!」は、ソフト効果で花や葉の輪郭がにじみ、オールドレンズを思わせるような描写が得られる。点光源の周りは、マゼンタ色のフレアが強調されている
この作例では、先に紹介した、マルミ光機のソフトフィルター「DHGフォギー ソフト」を重ね付けした。霧がかったような効果が加わり、ノスタルジックな雰囲気が増す
最後に、同じシチュエーションおよび撮影設定で、3つのレンズフィルターの仕上がりの違いを確認してみよう。空やビルなど複数の要素が入った構図で撮っているので、ぜひ撮りたい要素に注目して比べてみてほしい。
何も装着していない状態で撮影した写真。レンズには、サムヤンの広角レンズ「AF 12mm F2 X」を使用した。より正確な検証を行うため、この比較写真では三脚を使用している
窓から明かりが漏れるビルや、ライトアップされたタワーにさりげないアクセントが加わった
光がミストのように拡散され、やわらかな印象に変化した
空の色がどこかアンニュイな色味に変わった。ただ、機材との兼ね合いで、62mm→67mmのステップアップリングを併用したためか、ややケラレが出てしまったのが残念。広角レンズを使用する場合は、リングのいらないジャストサイズか、余裕を持った大きめサイズで組み合わせたほうがよさそうだ
「アルプスパンチ!」と「DHGフォギー ソフト」を重ねて装着して撮影した。効果を引き立て合う相性で、ドラマチックな光景を生み出しやすい組み合わせと言えるだろう。ただ、重ね付けした分さらにケラレてしまったので、合わせるレンズとフィルター径の相性は注意しておきたい
ささやかな光が主役となり得る夜景は、同じ場所でも、昼とはまた違った雰囲気の写真を撮れるのが面白い。本記事で紹介したレンズフィルターを使えば、夜景のきらびやかな雰囲気をより強調することができるので、ぜひ活用してみてほしい。
こうしたフィルター効果を使った写真は、「撮影した後に画像を編集すればよい」という意見もあると思うが、レンズフィルターを使うと、撮影中に仕上がりを追い込んで、撮影に夢中になれるのがよい。最近はつい利便性に流され、撮影後の編集に甘えてしまいがちだった筆者も、今回の撮影で改めてレンズフィルターの魅力を実感した次第である。
これから春が訪れるころには、ライトアップされた夜桜や雨上がりの濡れた街など、情感ある景色を切り取るチャンスが増える。気に入ったポイントを狙って遊ぶもよし、全体の印象をがらりと変えるもよし。カメラとレンズフィルターを持って、身軽に夜景の撮影に繰り出してみてはいかがだろうか。
万年筆、インク、紙を肴に飲む辛党ライター。チカチカ点滅するモニター画面や丸い押しボタン、ローレット加工を施したダイヤルなど、レトロチックなデザインにロマンを感じます。