「X-S20」は、本日2023年5月24日に富士フイルムが発表した新しいミラーレスカメラ。APS-Cセンサーを採用する「Xシリーズ」の中では、いわゆるエントリーモデルに位置づけられる「X-S10」の後継機です。「X-S10」の発売から2年半以上を経ての後継機ということで、どれほど進化したのか気になるところですね。今回は前モデルと比べながら「X-S20」をレビューしていきます。
人気の高いエントリーモデル「X-S10」の後継機「X-S20」が登場しました。2023年6月29日の発売予定です
まずは、新旧モデルの外観の違いをチェックしていきましょう。
新モデルの「X-S20」
2020年11月に発売された前モデルの「X-S10」
上記の画像を見比べても、新旧モデルで外見上の違いはわからないと思います。ロゴ以外に特に変わったところはないように見えますが、両モデルのサイズと重量はというと……
・X-S20
サイズ:127.7(幅)×85.1(高さ)×65.4(奥行)
重量:約491g(バッテリー、メモリーカードを含む)
・X-S10
サイズ:126.0(幅)×85.1(高さ)×65.4(奥行)
重量:約465g(バッテリー、メモリーカードを含む)
と、「X-S20」は幅がわずかに増えていますが、ほぼ同サイズのボディに収まっています。ただし、重量は約26g増えています。後述しますが、サイズはほぼ同等で重量が増えているのにはわけがあって、「X-S20」の重要な進化点だったりします。
左が「X-S20」で、右が「X-S10」です
外見上の変化がわかりにくい新旧モデルですが、細かく見てみてみると随所に改良が施されていることがわかります。たとえば、ボタン類は形状が変更され、指で探しやすく、かつ押しやすくなっています。
また、モードダイヤルはサイズが大きくなり、よりわかりやすくなりました。撮影モードは、「X-S10」にあった「SP(シーンポジション)」モードが廃され、「X-S20」では、セルフィーな動画撮影に便利な「Vlog」モードが追加されています。このあたりの変化は、今どきの撮影ニーズに合わせたところと言えるでしょう。
「X-S20」のカメラ上部右側。ボタン類はエッジが強く立った形状に変更され、押しやすくなっています
「X-S10」のカメラ上部右側。「X-S20」に比べるとボタン類のエッジが弱く、指で探し当てにくいと感じるかもしれません
「X-S20」が搭載する撮像素子は、APS-Cサイズで有効約2610万画素の裏面照射型「X-Trans CMOS 4」センサーです。撮像素子は前モデル「X-S10」から継承していますが、画像処理エンジンは、「X-H2S」や「X-H2」「X-T5」などと同じ最新の「X-Processor5」へと進化しています。
画像処理エンジンの進化がカメラの性能に及ぼす影響は非常に大きいです。撮像素子は第4世代に据え置きながらも、画像処理エンジンを第5世代へと進めたのは、エントリーモデルである「X-Sシリーズ」として大きな意味を持つのではないかと思います。
前モデルと同じ有効約2610万画素の裏面照射型「X-Trans CMOS 4」センサーを搭載し、画像処理エンジンは「X-Processor5」へと進化しました
そしてもうひとつの大きな進化として見逃せないのがバッテリーの変更。「X-S20」は、「X-H2S」「X-H2」「X-T5」などと共通のバッテリー「NP-W235」を採用しています。本バッテリーは従来の「NP-W126S」よりも容量が大きく、これによって、静止画撮影可能枚数(ノーマルモード時)は「X-S10」の約325枚から約750枚(エコノミーモードでは約800枚)にまで増加しました。
バッテリーの容量が増えたことで、当然、バッテリーのサイズも大きくなります。しかし、先にも述べたように、「X-S20」は「X-S10」とサイズがほぼ変わりません。ここが、小型・軽量さが特に大切にされる、エントリー向けのミラーレスカメラとしてすばらしい進化なのではないかと思います。先に述べました約26gの重量増は、バッテリーの変更に起因するものでしょう。
「X-S20」の付属バッテリー「NP-W235」
「X-S10」の付属バッテリー「NP-W126S」
液晶モニターは、タッチパネル対応で3.0型というスペックに変わりありませんが、「X-S20」では、「X-S10」の約104万ドットから約184万ドットに解像度が向上しています。ライブビュー撮影時や画像再生時に細かい部分までしっかりと確認できるようになりました。
バリアングル式のタッチパネル液晶モニターを採用。解像度は約104万ドットから約184万ドットに向上しました
バッテリー室にSDカードスロット(SD/SDHC/SDXC対応)を配置する仕様は従来と同じです。ただし、「X-S10」ではUHS-Iまでの対応でしたが、「X-S20」はUHS-IIに対応するため、より高速なデータ転送が可能です。
SDカードスロットはUHS-IIに対応
後ほど紹介しますが、「X-S20」はAF性能が向上しているため、「X-S10」に比べて多くのデータをメモリーカードに記録する機会が増えることと思います。理論上で最大312MB/秒の転送速度を持つUHS-IIに対応していることは、実際の撮影でも、PCへの保存でも有利に働いてくれることでしょう。
ここからは実写作例を交えて話を進めていきます。まずは解像性能を確認するために、撮影条件を一定にして新旧モデルで撮り比べてみました。
X-S20、XC15-45mmF3.5-5.6 OIS PZ、45mm(35mm判換算69mm相当)、ISO160、F5.6、1/600秒、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)、フィルムシミュレーション:PROVIA/スタンダード
撮影写真(6240×4160、14.7MB)
X-S10、XC15-45mmF3.5-5.6 OIS PZ、45mm(35mm判換算69mm相当)、ISO160、F5.6、1/550秒、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)、フィルムシミュレーション:PROVIA/スタンダード
撮影写真(6240×4160、14.6MB)
画像処理エンジンが新しくなったので、画作りにも何かしらの変化があるかと思いましたが、上記の2枚の写真を比較する限り、明確な違いは確認できません。独自の仕上がり設定「フィルムシミュレーション」によるイメージを大切にする富士フイルムだけに、撮像素子が同じであれば得られる画像の質はできる限り揃えるということなのかもしれません。
有効約2610万画素という画素数はAPS-Cサイズとしては十分ですし、前モデルの「X-S10」ですでに解像性能をはじめとした画質は完成されている、と考えることもできます。
画像処理エンジンが新しくなったことで得られる恩恵としてわかりやすいのがAF性能の向上ではないかと思います。
「X-S20」の被写体検出設定画面
「X-S20」が「X-S10」と決定的に違うのは被写体検出AFが搭載されたこと。人物の顔や瞳を検出する機能は以前からありましたが、「X-S20」は動物・鳥(昆虫)・車・バイク・自転車・飛行機(ドローン)・電車を自動的に検出・追尾してくれます。
その検出精度は非常に高く、筆者所有の「X-H2」よりすぐれているのではないかと思うほど。「Xシリーズ」の最新モデルだからということもあるかもしれませんが、撮像素子と画像処理エンジンの相性がよいからかもしれません。
「X-S20」の被写体検出の対象を動物にして撮影しました
X-S20、XF70-300mmF4-5.6 R LM OIS WR、231mm(35mm判換算347mm相当)、ISO500、F5.6、1/1600秒、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)、フィルムシミュレーション:PROVIA/スタンダード
撮影写真(6240×4160、14.5MB)
「X-S20」は、シャッターボタン半押しで素早く被写体を検出してピントを合わせ続けてくれるため、望遠レンズを使った動体撮影でも、ファインダー内に被写体を収め続けるのが容易でした。エントリー向けのミラーレスカメラとしてはトップクラスのAF性能と言ってよいのではないかと思います。
「X-S20」の被写体検出の対象を鳥にして撮影しました
X-S20、XF70-300mmF4-5.6 R LM OIS WR、300mm(35mm判換算457mm相当)、ISO500、F5.6、1/1600秒、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)、フィルムシミュレーション:PROVIA/スタンダード
撮影写真(6240×4160、10.5MB)
こちらも「X-S20」で撮影した写真です
X-S20、XF70-300mmF4-5.6 R LM OIS WR、ISO160、F5.6、1/1600秒、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)、フィルムシミュレーション:PROVIA/スタンダード
撮影写真(6240×4160、9.2MB)
いっぽう、前モデルの「X-S10」で動体撮影を行うと、最初のピント合わせに時間がかかるうえ、捕捉後も追従し切れないことが間々ありました。動体でなく静物の撮影でも、「X-S10」ではわずかにピントが外すことが稀にありましたが、「X-S20」では少なくとも試用期間内にそうしたことは発生しませんでした。AF性能は、速度だけでなく精度と安定性においても、明らかに「X-S20」がすぐれています。
富士フイルムのデジタルカメラといえば、何といっても仕上がり設定の「フィルムシミュレーション」です。「X-S20」には新たに「ノスタルジックネガ」が追加され、全部で19種類を選択できます。
「ノスタルジックネガ」は1970年代にカラーフィルムを使った表現として登場した「ニューカラー」をイメージしたものですが、低めのコントラストと落ち着いた彩度が普段のスナップ写真によく合います。私見ですが、色温度を少し高目にすると雰囲気がよくなると思います。
「フィルムシミュレーション」に「ノスタルジックネガ」が追加されました
X-S20、XC15-45mmF3.5-5.6 OIS PZ、26mm(35mm判換算39mm相当)、ISO800、F5.6、1/160秒、ホワイトバランス:6000K、フィルムシミュレーション:ノスタルジックネガ
撮影写真(6240×4160、15.8MB)
今回の試用では、解像性能について前モデル「X-S10」との差異を見つけることはできませんでしたが、そもそもが「X-Pro3」や「X-T4」と同じ有効約2610万画素の撮像素子ですので、解像感に不満を覚えることはまずありません。小型・軽量ながらしっかりとした大型グリップを搭載しており、風景撮影などのフィールドカメラとしても使い甲斐のあるカメラだと思います。
X-S20、XC15-45mmF3.5-5.6 OIS PZ、36mm(35mm判換算54mm相当)、ISO160、F5.6、1/600秒、ホワイトバランス:オート、フィルムシミュレーション:PROVIA/スタンダード
撮影写真(6240×4160、14.2MB)
ボディ内手ブレ補正の性能も向上しており、「X-S20」では最大7段分の手ブレ補正効果が得られるようになりました。「X-S10」の最大6段分でも十分に効果が高かったため、実際に明確な進化を感じることは難しいのですが、スローシャッターや望遠レンズ使用時にはやはり「あってよかった」と思える安心感があります。
X-S20、XC15-45mmF3.5-5.6 OIS PZ、28mm(35mm判換算42mm相当)、ISO3200、F4.5、1秒、ホワイトバランス:オート、フィルムシミュレーション:PROVIA/スタンダード
撮影写真(6240×4160、11.7MB)
「X-S20」のレンズキットとして用意されている、標準ズームレンズ「XC15-45mmF3.5-5.6 OIS PZ」は価格以上によく写る優良レンズですが、「Xシリーズ」用の純正レンズは広角から望遠まで多彩なラインアップを誇ります。そうした多彩なレンズを使うことで、さらに写真の表現が豊かになります。せっかくの高性能ボディなので、いろいろなレンズで試してみたくなりますね。以下の写真は、標準ズームレンズ「XF16-80mmF4 R OIS WR」で撮影した1枚です。
X-S20、XF16-80mmF4 R OIS WR、80mm(35mm判換算122mm相当)、ISO160、F4、1/1600秒、ホワイトバランス:オート、フィルムシミュレーション:PROVIA/スタンダード
撮影写真(6240×4160、9.9MB)
このほか、「X-S20」は動画撮影機能も向上しており、6.2K/30p 4:2:2 10bitのカメラ内記録に対応。4K/60pやフルHD/240pの記録も可能で、エントリーモデルとしては本格的なスペックを実現しています。動画撮影を重視する場合でも選んで満足できるカメラと言えるでしょう。
「X-S20」は、パッと見は前モデルと同じように見えますが、中身はまったくの別物と言ってよいほどの進化を遂げています。
特にAF性能の向上には驚くものがあり、前モデルでは対応が難しかった動体の撮影もしっかりこなしてくれます。その性能は「X-H2S」などの上位モデルにも負けないほど。エントリーモデルでは省略されがちな被写体検出AFも、惜しみなく搭載しているのはうれしいところです。
カメラの性能が上がるとついつい撮影枚数が増えてしまうものですが、「X-S20」は、バッテリー容量が増えているので大量の記録や長時間の撮影にも安心して使えます。それでいて前モデルとほぼ同じ小型・軽量化を達成しているのですから、さまざまな撮影ジャンルで使いたくなるというものです。
もはやエントリーモデルというのが不自然なくらいにまで進化した「X-S20」。本機の登場で前モデルを格安で手に入れられるようになるかもしれませんが、「どちらを選ぶべきか?」と聞かれたら「断然、X-S20!」と答えます。そのくらい完成度の高いカメラだと思います。
信州大学大学院修了後に映像制作会社を経てフォトグラファーとして独立。2010年に関東に活動の場を移し雑誌・情報誌などの撮影を中心にカメラ誌などで執筆もしている。写真展に「エイレホンメ 白夜に直ぐ」(リコーイメージングスクエア新宿)、「冬に紡ぎき −On the Baltic Small Island−」(ソニーイメージングギャラリー銀座)、「バルトの小島とコーカサスの南」(MONO GRAPHY Camera & Art)など。