標準域の焦点距離60mmから超望遠の焦点距離600mmまで対応する「60-600mm F4.5-6.3 DG DN OS | Sports」
2023年2月に発売されたシグマ「60-600mm F4.5-6.3 DG DN OS | Sports」(以下、「60-600mm F4.5-6.3 DG DN OS」)は、ミラーレスカメラ専用の高倍率超望遠ズームレンズ。ソニーEマウント用とライカLマウント用が用意されています。
2018年10月発売のデジタル一眼レフ用「60-600mm F4.5-6.3 DG OS HSM | Sports」(以下、「60-600mm F4.5-6.3 DG OS HSM」)のフルリニューアルモデルで、光学系だけでなく、AFモーターや手ブレ補正機構なども刷新。新時代にふさわしいミラーレス専用レンズに仕上がっています。
「高度な光学性能と表現力はそのままに、撮影者の意図にダイレクトに応え、高い運動性能を発揮する」という「Sportsライン」のレンズです
最大の特徴は、焦点距離600mmまで届く超望遠レンズでありながら、標準域の焦点距離60mmもカバーしていること。光学ズームの倍率は超望遠ズームレンズとしては最高クラスの10倍です。これが、“高倍率超望遠ズーム”というやや聞き慣れないジャンルのレンズとされているゆえんです。
まずは、本レンズのサイズ感を確認したいと思います。
シグマ「60-600mm F4.5-6.3 DG DN OS」とソニー「α7 IV」を組み合わせたイメージ。本レンズは、一眼レフ用の「60-600mm F4.5-6.3 DG OS HSM」と同様、マグネシウムやポリカーボネートの特性を考慮しながら最適配置する「マルチマテリアル構造」を採用し、高剛性と軽量化を両立しています
本レンズ(ソニーEマウント用)のサイズは119.4(最大径)×281.2(全長)mmで、重量は2485g。一眼レフ用の「60-600mm F4.5-6.3 DG OS HSM」と比べると約200gの軽量化を実現しています。ただ、さすがに高倍率超望遠ズームということで、ハッキリ言えば相当に重量級のレンズです。
これは、高倍率とはいえ「Sportsライン」にふさわしいだけの高画質を維持するという意味があるかと思います。後述のとおり、実際に高画質なレンズではありますが、撮影に際しては三脚や一脚の使用を前提としたほうが賢明だと感じました。
ただ、速写性が求められるようなシーンでは手持ちで使っても案外うまく撮れてしまう、優秀な手ブレ補正機能の効果に助けられる、といった応用力の高さも確かにありましたので、そうしたところを理解しながら本格的な撮影に臨むべきレンズだと言えるのかもしれません。
本レンズは、重量級ながらも機動性を重視する高性能なレンズで、スイッチ類は豊富に取り揃えられています。
「フォーカスモード切換えスイッチ」や「フォーカスリミッタースイッチ」、「カスタムモードスイッチ」などはもちろんのこと、手ブレ補正モードには新開発のアルゴリズム「OS2」を採用し、広角端で7段分、望遠端で6段分の強力な手ブレ補正効果を発揮してくれます。
「フォーカスモード切換えスイッチ」や「フォーカスリミッタースイッチ」など使い勝手に配慮した多くのスイッチが備えられています。レンズ内手ブレ補正機構(OS)には新開発のアルゴリズム「OS2」を採用
AFの駆動範囲を使用状況に合わせて制限できる「フォーカスリミッタースイッチ」は、鏡筒上面と左側面、および下面に3個搭載しています。望遠系レンズでは必須と言える機能ですが、横位置や縦位置の構えに関わらずスムースに使用できるよう配慮されています。
「フォーカスリミッタースイッチ」を3個搭載。使用状況に合わせて自由に使えます
鏡筒の左側には「ズームロックスイッチ」を搭載。移動中に鏡筒が勝手に伸長してしまうのを防いでくれるとともに、任意の焦点距離でズーム位置を固定することができます。高倍率ズームは上向き、あるいは下向きの撮影をしているときに、意図せずズーム位置が変わってしまうことがありますので、撮影者にとってありがたい機構です。
「ズームロックスイッチ」を搭載。広角端だけでなく任意のズーム位置で固定できます
付属のレンズフード「LH1144-02」を装着するとさらにボリュームが増します。しかし、航空機などの内外装に使用されるポリカーボネート製の本格的かつ実用的なフードなので、撮影の際には有効に利用すべきでしょう。
付属のレンズフード「LH1144-02」を装着したイメージ
アルカスイス互換の付属三脚座
本レンズの絞り開放時の解像性能を見ていきたいと思います。
α7 IV、60-600mm F4.5-6.3 DG DN OS、60mm、F4.5、1/640秒、ISO100、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST
撮影写真(7008×4672、24.2MB)
まずは、広角端60mmの描写を見てみます。開放絞り値はF4.5です。高倍率超望遠ズームでそれほど大口径でないということもありますが、それにしても絞り開放から高い解像感を見せてくれています。さすがに画面の隅では多少の解像感の甘さは見られますが、わずかに落ちる程度で不自然さはほとんどありません。
α7 IV、60-600mm F4.5-6.3 DG DN OS、600mm、F6.3、1/400秒、ISO100、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST
撮影写真(7008×4672、25.3MB)
次は、望遠端600mmの描写を見てみます。開放絞り値はF6.3です。時期的なこともあり、600mmもの超望遠ともなると陽炎の影響を避けられずにいますが、それでも画面全体で高い解像感が維持されていることがわかります。周辺部の解像感もすばらしく、解像性能の均質性という意味では望遠端のほうがすぐれていると感じました。
広角端と望遠端でわずかな傾向の違いが見られましたが、両端とも大変に優秀な解像性能であることに違いはありません。
一眼レフ用の「60-600mm F4.5-6.3 DG OS HSM」は、同社の「150-600mm F5-6.3 DG OS HSM | Sports」と同等の高画質であることがアピールポイントのひとつでしたが、本レンズはそれをミラーレスカメラ専用設計としてブラッシュアップしたもの。光学10倍対応の超望遠ズームで、広角端、望遠端とも絞り開放から実用できる高画質を達成しているのは、「かなり驚異的」と言ってもよいと思います。
本レンズはなかなかすぐれた近接撮影性能を持っているのですが、使用条件が少し変則的です。詳しくご説明します。
α7 IV、60-600mm F4.5-6.3 DG DN OS、60mm、F6.3、1/200秒、ISO400、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST
撮影写真(7008×4672、17.3MB)
広角端60mm時の最短撮影距離は45cm。45cmというとそれほど寄れない印象ですが、レンズだけで全長が281.2mmありますので、実際にはレンズ先端のすぐ前に被写体があることになります。撮影倍率は公表されていませんが、バラの花を画面内で大きく写せる程度。広角端での近接撮影は特段強力というわけではないものの、決して弱いということはありません。
α7 IV、60-600mm F4.5-6.3 DG DN OS、600mm、F6.3、1/160秒、ISO400、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST
撮影写真(7008×4672、17.9MB)
望遠端600mm時の最短撮影距離は260cm。望遠端も撮影倍率は公表されていませんが、撮影してみた印象としては、広角端と同様に近接撮影が弱いということはなく、そこそこ大きく被写体を写すことができるといったところです。
260cmの非常に長いワーキングディスタンスと、焦点距離600mmならではの強烈な圧縮効果はなかなかに圧巻で、花や昆虫を撮るネイチャー撮影などでは有効に使えそうです。
α7 IV、60-600mm F4.5-6.3 DG DN OS、200mm、F5.6、1/800秒、ISO400、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST
撮影写真(7008×4672、17.0MB)
本レンズの撮影倍率が最大化する焦点距離は200mmです。このときの撮影倍率は約0.42倍。筆者の個人的な意見で恐縮ですが、最大撮影倍率は0.25倍あればおおむね近接撮影性能の高いレンズというイメージがありますので、もう少しでハーフマクロ(0.5倍)に届かんとする本レンズの近接撮影性能は非常に高いと言って問題ないのではないかと思います。
α7 IV、60-600mm F4.5-6.3 DG DN OS、304mm、F6.3、1/320秒、ISO400、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST
撮影写真(7008×4672、20.0MB)
アザミの綿帽子がクモの糸に絡まりながら逆光に輝いていました。歩道から柵を超えた立ち入り禁止箇所で生えていましたが、本レンズなら手の届かない被写体も自在に大きく写すことができます。ピント面の高い解像感もさることながら、前後のボケ味もやわらかく自然で、それが被写体をいっそう効果的に浮かび上がらせてくれました。
α7 IV、60-600mm F4.5-6.3 DG DN OS、60mm、F4.5、1/2500秒、ISO400、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST
撮影写真(7008×4672、17.2MB)
木漏れ日が薔薇の花にあたり、なんだかドラマチックなシーンになっていたので撮影しました。
標準画角の60mmでほどよく情景まとめられましたが、望遠域スタートの一般的な超望遠ズームではこうはいきません。結構な重量級レンズなので軽快感はありませんが、レンズを交換せずに標準域から超望遠域を1本でまかなえるのはやはり大きなメリットがあると思います。
α7 IV、60-600mm F4.5-6.3 DG DN OS、246mm、F5.6、1/200秒、ISO800、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST
撮影写真(7008×4672、17.7MB)
これもスポットライト的な木漏れ日に、おりよくカモが泳いできたので撮りました。純正レンズではありませんが、今回使用したソニー「α7 IV」の瞳検出機能(鳥)は問題なく使えるため、こうした動く被写体でもAFに困ることはありません。
α7 IV、60-600mm F4.5-6.3 DG DN OS、389mm、F6.3、1/500秒、ISO100、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST
撮影写真(7008×4672、17.0MB)
花から花へとせわしなく飛び回るアオスジアゲハ。フォーカスエリアを「スポットS」にして、花にとまった一瞬を狙って撮影しました。AFには新開発のリニアモーター「HLA」が採用され、同社製レンズ中でもトップクラスのAF性能を実現しているとのこと。今回の試写でも非常に高速・高精度なAF性能を実感することができました。
「フォーカスリミッタースイッチ」や「カスタムモードスイッチ」を利用して、フォーカス範囲を被写体に合わせて制限すれば、さらに速く正確な合焦が可能になると思います。
α7 IV、60-600mm F4.5-6.3 DG DN OS、338mm、F5.6、1/250秒、ISO400、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST
撮影写真(7008×4672、19.6MB)
ネコに会うことができましたので撮らせてもらいました。シャッター速度1/250秒とはいえ、焦点距離は338mm、手持ち撮影でのローアングルという不安定な姿勢でしたので、手ブレが起きないか心配でしたが、結果はレンズ内手ブレ補正「OS2」のおかげでピッタリシャープに写すことができました。超望遠撮影でひんぱんに発生する手ブレの抑制に強い味方となってくれます。
標準域の焦点距離60mmから始まり超望遠域の焦点距離600mmまで届く、高倍率超望遠ズームという独特なスタイルが特徴の本レンズ。ミラーレス専用の光学設計になり、AF性能や手ブレ補正機構も強化され、一眼レフ用から大きく進化して、より実用的になったことを実感しました。
約4.2倍のすぐれた近接撮影性能も魅力のひとつで、10倍の広いズーム域だけでなく、撮影距離の自由度も広がっているため、風景撮影やネイチャー撮影などの撮影ジャンルではこれ以上ないくらいに使い勝手のよいレンズだと思います。しかもシグマらしいシャープでハイコントラストな高画質です。
ただし、約200gの軽量化に成功しているものの重量級レンズであることは否めません。高倍率ズームという便利さに反して、長時間の手持ち撮影で構図を維持したり、機動力を期待して被写体を探し歩いたり、といった撮影スタイルはよほど体力に自信がないと難しいのではないでしょうか。
それでも、標準域を含めた超望遠を主体とする高画質なズームは大変に魅力的であります。一脚や三脚の使用を前提としながら、豊富な機能を使いこなして撮影に臨めば、逆にシグマのレンズだからこそ味わえる、唯一無二の撮影体験ができること間違いなしでしょう。
信州大学大学院修了後に映像制作会社を経てフォトグラファーとして独立。2010年に関東に活動の場を移し雑誌・情報誌などの撮影を中心にカメラ誌などで執筆もしている。写真展に「エイレホンメ 白夜に直ぐ」(リコーイメージングスクエア新宿)、「冬に紡ぎき −On the Baltic Small Island−」(ソニーイメージングギャラリー銀座)、「バルトの小島とコーカサスの南」(MONO GRAPHY Camera & Art)など。