次に、4モデルの画質の違いを見ていきましょう。風景と高感度(各モデルの常用最高感度)で撮り比べてみました。いずれの作例もホワイトバランスはオートに、仕上がり設定はスタンダード系に揃えています。
α7 IV、FE 28-70mm F3.5-5.6 OSS、35mm、F8、1/100秒、ISO100、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST
撮影写真(7008×4672、23.1MB)
EOS R8、RF24-50mm F4.5-6.3 IS STM、35mm、F8、1/160秒、ISO100、ホワイトバランス:オート、ピクチャースタイル:スタンダード
撮影写真(6000×4000、12.3MB)
Z 6II、NIKKOR Z 24-70mm f/4 S、35mm、F8、1/125秒、ISO100、ホワイトバランス:オート、ピクチャーコントロール:スタンダード
撮影写真(6048×4024、17.9MB)
LUMIX S5II、LUMIX S 20-60mm F3.5-5.6、35mm、F8、1/100秒、ISO100、ホワイトバランス:オート、フォトスタイル:スタンダード
撮影写真(6000×4000、12.7MB)
各モデルの、画素数に起因する解像感については、使用したレンズがそれぞれ異なることもあって、ここで正確な判定をすることはできません。したがって、ここでは発色を中心とした画作りの違いを見ていきたいと思います。
その画作りにしても、最終的には人それぞれの「好み」が大きく影響することですので、絶対的なことは言えませんが、あえて言えば、パナソニック「LUMIX S5II」が知覚的で好ましい発色と、適度な立体感をうまく表現している印象です。
パナソニックは、2018年1月発売のマイクロフォーサーズ機「LUMIX G9 PRO」以来、「生命力・生命美」と銘打った絵作り(画作りでなく絵作り)の思想を構築しているため、その効果が結果として反映されたのかもしれません。
逆に、最も忠実で地味に感じたのが、意外にもキヤノン「EOS R8」でした。ただし、階調性を整えながら細部を描き分ける表現は、むしろこちらのほうが望ましく感じるため、決して画質が劣っているということではありません。
画質については、今回の4モデルはどれもすぐれていることに違いはありません。自分の目的や好みにあった画作りのできるカメラを選んでいただければと思います。
α7 IV、FE 28-70mm F3.5-5.6 OSS、50mm、F6.3、1/50秒、ISO51200、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST
撮影写真(7008×4672、28.4MB)
EOS R8、RF24-50mm F4.5-6.3 IS STM、50mm、F6.3、1/100秒、ISO102400、ホワイトバランス:オート、ピクチャースタイル:スタンダード
撮影写真(6000×4000、8.8MB)
Z 6II、NIKKOR Z 24-70mm f/4 S、50mm、F6.3、1/50秒、ISO51200、ホワイトバランス:オート、ピクチャーコントロール:スタンダード
撮影写真(6048×4024、13.1MB)
LUMIX S5II、LUMIX S 20-60mm F3.5-5.6、50mm、F6.3、1/50秒、ISO51200、ホワイトバランス:オート、フォトスタイル:スタンダード
撮影写真(6000×4000、12.2MB)
ここでは、各モデルの常用最高感度で夜景を撮影してみました。常用最高感度はキヤノン「EOS R8」が最も高くISO102400で、ほかの3モデルはISO51200です。
スペックを見ると「EOS R8」が頭ひとつ(1段分)高いのですが、実際のところは「EOS R8」のISO102400で撮影した写真は、ほかの3モデルのISO51200で撮影した写真よりノイズが多く、特に高感度性能にすぐれているというわけではありませんでした。ちなみに、「EOS R8」のISO51200でも撮影していますが、ほかの3モデルのISO51200と同程度のクオリティというのが筆者の感想です。
ただし、ノイズの処理については、それぞれのモデルに考えの違いが見てとれます。徹底的にノイズを除去してクリアな画作りを目指しているのがソニー「α7 IV」で、ディテールの再現性を重視してノイズ除去はほどほどに抑えているのがパナソニック「LUMIX S5II」です。
4モデルの間に明確な高感度性能の差はありませんが、ノイズの除去具合はやはり撮影者それぞれの好みが影響するので、気になる場合はカメラのノイズ低減の設定を調整したほうがよいでしょう。
続いて、被写体検出AFのスペックなど、一眼カメラの使い勝手に大きく影響するAF性能をレポートします。連写性能もチェックしました。
「α7 IV」の被写体検出AFの検出対象は、「人物」「動物」「鳥」の3種類。これらの検出対象の「瞳」を捕捉してピントを合わせてくれます。ソニーは「動物」の被写体検出の先駆者だけに、その検出精度は非常に高く、イヌ科やネコ科の以外の動物にも(絶対的なものではありませんが)幅広く対応してくれるのが魅力です。
「人物」「動物」「鳥」の被写体検出に対応
連写速度は、ドライブモードを「Hi+」に設定した場合で最高約10コマ/秒。今となってはそれほど高速に思えないかもしれませんが、電子シャッターだけでなくメカシャッターでも速度が変わらない点が使いやすいです。
連写速度は最高約10コマ/秒
顔/瞳の検出対象を「動物」にして撮影しました。検出の速度、精度、安定性は抜群に高く、さすが動物瞳AF先駆者のソニーだけあります
α7 IV、FE 70-300mm F4.5-5.6 G OSS、300mm、F5.6、1/500秒、ISO320、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST
撮影写真(7008×4672、17.7MB)
「EOS R8」の被写体検出AFの検出対象は「人物」「動物優先」「乗り物優先」の3種類。また、これらの検出対象を「自動」で選択してくれる機能もあります。
しかも「動物」は犬や猫だけでなく鳥や馬も、「乗り物」は車やバイク(モータースポーツ)だけでなく鉄道や飛行機も検出対象とする幅広さ。上位モデルの「EOS R6 Mark II」で採用したトラッキングシステムのコンセプトを継承しているとのことで、被写体検出AFに限らず、AFはクラスを超えた高性能を誇ります。
被写体検出のメニューでは、「人物」「動物優先」「乗り物優先」に加えて「自動」も選択できます
連写速度は、メカシャッターの場合、最高約6コマ/秒と決して高速とは言えませんが、電子シャッターの場合は最高約40コマ/秒と、打って変わって超高速連写が可能になります。最大約0.5秒のプリ撮影ができるRAW連写機能「RAWバーストモード」も用意されていて、鳥の飛翔などの難しい撮影も比較的簡単にこなせます。
プリ撮影も可能な「RAWバーストモード」を搭載
「EOS R6 Mark II」のトラッキングシステムを継承しているだけに、AFはクラスを超えた性能を誇ります
EOS R8、RF100-400mm F5.6-8 IS USM、400mm、F8、1/1600秒、ISO500、ホワイトバランス:オート、ピクチャースタイル:スタンダード
撮影写真(6000×4000、6.3MB)
「Z 6II」の被写体検出AFは「人物」と「動物」の2種類。「動物」はイヌ科とネコ科、またはそれに類似した造形の動物に限られ、しかも「オートエリアAF(人物/動物)」もしくは「ワイドエリアAF(L-人物/動物)」で検出対象を選択するという、一風変わった仕様です。
ハッキリ言ってしまうと、被写体の検出性能も追従性能も「α7 IV」や「EOS R8」に及ぶものでなく、素早く動く被写体に対して高精度にピントを合わせ続けるのは難しい印象。最新モデルの「Z 9」や「Z 8」のAFが高性能なので本モデルにも期待してしまうかもしれませんが、差があるというのが正直なところです。
「オートエリアAF(人物/動物)」もしくは「ワイドエリアAF(L-人物/動物)」を選択すると被写体検出が働きます
連写速度は「高速連続撮影(拡張)」の場合で、最大約14コマ/秒となかなかに高速です。ただし、これは「フォーカスモード」がMFまたはAF-Sに設定されているとき、あるいは「フォーカスモード」がAF-Cで「AFエリアモード」がシングルポイントAFに設定されているときという条件付き。人物や動物の被写体検出AFを利用したい場合は、必然的に最大約12コマ/秒に速度が抑えられます。
条件付きではありますが最高約14コマ/秒の連写に対応
「ワイドエリアAF(L-動物)」で撮影。何とか瞳を演出してくれましたがイヌ科とネコ科以外の動物の検出能力はそこまで高くないという印象です
Z 6II、NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR S、220mm、F5、1/1600秒、ISO500、ホワイトバランス:オート、ピクチャーコントロール:スタンダード
撮影写真(6048×4024、12.3MB)
「LUMIX S5II」の被写体検出AFは、「人物」の全体、人物の「顔・瞳」、「人物+動物」の3種類から選択する方式です。つまり動物を撮影する場合は「人物+動物」を選ぶことになるのですが、この動物の中には鳥も含まれます。
検出速度は比較的速く、画面内に被写体が入れば素早く検出枠が表示されます。ただし、トラッキング性能そのものは「α7 IV」や「EOS R8」ほどではなく、肝心なところで追従しきれなかったり、復帰が遅くてシャッターチャンスを逃したりすることがありました。像面位相差AFの搭載やアルゴリズムの進化によって、全体的なAF性能は前モデルより高くなったのは確かなようですが、まだ改善すべき点はあると思います。
被写体検出AFは「人物」の全体、人物の「顔・瞳」、「人物+動物」の3パターン
連写速度は連写設定が「SH」の場合で最高約30コマ/秒。かなりの高速連写が可能ですが、これはシャッター方式が電子シャッターの場合で、メカシャッターの場合は約9コマ/秒が最高値になります。
電子シャッター時に最高約30コマ/秒の高速連写が可能
「人物+動物」の動物には鳥も含まれます。像面位相差AFを新たに搭載しましたが、残念ながらこの写真の撮影ではそれほど高い効果を得られませんでした
LUMIX S5II、LUMIX S 70-300mm F4.5-5.6 MACRO O.I.S.、300mm、F5.6、1/1000秒、ISO3200、ホワイトバランス:オート、フォトスタイル:スタンダード
撮影写真(6000×4000、10.6MB)
被写体検出AFを含め、AFついては全般的にソニー「α7 IV」とキヤノン「EOS R8」が速度・精度ともに安定した性能を見せてくれました。2モデルのAFがすぐれているひとつの理由は、上位モデルで培った技術がフィードバックされたからではないかと思います。特に、小型・軽量化を優先しつつ、AF性能も連写性能も高い「EOS R8」の実力には驚かされます。
比べてみると、ニコン「Z 6II」とパナソニック「LUMIX S5II」は、AF性能の結果ではやや残念なことになりましたが、それほど動きが速くない被写体であれば問題なく撮影することができるはずです。
最後に動画撮影機能のスペックを確認しておきましょう。
「α7 IV」は4K(3840×2160)/60pの動画撮影が可能です。静止画撮影と動画撮影のハイブリッド機をうたうモデルですので、「4:2:2 10bit記録」や「高画質All Intra記録」、「MPEG-H HEVC/H.265コーデック記録」といった、撮影後の編集作業にもつながる多彩なフォーマットにも対応しています。
多彩なフォーマットでの4K記録が可能
4K/60p記録に対応しています
また、グレーディングを前提として、シャドウからミッドトーンにかけての階調特性を重視した「S-Log3」を搭載。「S-Log3」設定時は15+ストップのワイドダイナミックレンジを達成しています。
「S-Log3」に対応
「EOS R8」は4K(3840×2160)/60pの動画記録に対応しています。また、グレーディングを前提とした映像制作のために、最大13.3ストップの幅広いダイナミックレンジを持った「Canon Log 3」を搭載。逆光条件などコントラストが高いシーンでも、ハイライト側の階調を美しく表現できます。
4K/60p記録に対応
「Canon Log 3」にも対応しています
「Z 6II」は4K(3840×2160)/60p記録に対応。12ストップ、1300%の広いダイナミックレンジを持った「N-log」も搭載していますが、こちらはHDMI接続による外部レコーダー利用時のみの記録です。
4K/60p記録に対応
HDMI出力時に「N-log」を利用できます
「LUMIX S5II」は最大で6K(5952×3968)/30pに記録が可能です。もちろん、一般的な動画記録モードである4K(3840×2160)/60pにも対応しています。
6K/30p動画の撮影が可能
4K/60p記録にも対応しています
「LUMIX S5II」は動画撮影時に問題となる放熱の対策として、カメラのペンタ部に放熱ファンとヒートシンクを内蔵しているのが特徴のひとつ。動画専用機では外付けのファンが従来から存在しますが、一般的なフルサイズミラーレスで放熱ファンを標準装備したモデルは珍しく、動画撮影への意気込みが感じられます。
ペンタ部に放熱ファンとヒートシンクを内蔵
このほか、14+ストップの広いダイナミックレンジを実現した「V-log」も搭載。撮影後のグレーディングでハイライト部分の階調を保った美しい映像を編集できます。
「V-log」に対応しています
今回、フルサイズミラーレスの定番モデルを4機種ピックアップして試しましたが、いずれも非常に高いレベルに仕上がっていました。
「高速で動く動体を撮影したい」「高画素で風景を撮影したい」「暗いシーンを超高感度で撮影したい」といったような特別なニーズがない限りは、これら4モデルは、フルサイズならではの高画質な写真を確実に撮ることができます。むしろ、どのモデルもクセの少ないスタンダードクラスもしくはミドルクラスですので、「初めてのフルサイズミラーレス」としても満足できると思います。
どのモデルを選ぶべきか選択が難しいかもしれませんが、「どういった使い方をしたいのか」を考えて絞っていけば、最適なモデルが見つかることでしょう。何よりも軽さを重視するならキヤノン「EOS R8」、動画撮影機能を重視するならパナソニック「LUMIX S5II」またはソニー「α7 IV」、ファインダーやモニターの視認性を大切にしたいならニコン「Z 6II」といった具合です。
また、純正だけでなくサードパーティー製のレンズも楽しみたいからパナソニック「LUMIX S5II」またはソニー「α7 IV」、CFexpress Typeメモリーカードの先見性の高さを体感したいからニコン「Z 6II」またはソニー「α7 IV」なんていう選び方もアリだと思います。
スタンダードクラスやミドルクラスという分類の割には、簡単に手が出せないほど価格が高くなっている昨今のフルサイズミラーレスですが、どのモデルもスタンダードクラスやミドルクラスという枠組みを超えるほどの高性能であることも事実です。どうしても選べないようなら、デザインの好みや価格で決めてもまったく問題ないでしょう。