レビュー

ソニー「α9 III」の“凄さ”に迫る! グローバルシャッター採用で撮れない瞬間はない!?

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ソニー「α9 III」は、2024年1月26日に発売されたフルサイズミラーレスカメラ。動体撮影が得意な「α9」シリーズの第3世代モデルで、グローバルシャッター方式を採用し、かつ高性能AFや超高速連写も実現した話題作です。野鳥などの撮影を通して、このカメラの“凄さ”をお伝えしたいと思います。

世界初のグローバルシャッター方式を採用した「α9 III」。最高約120コマ/秒という驚異的な超高速連写も実現しています

世界初のグローバルシャッター方式を採用した「α9 III」。最高約120コマ/秒という驚異的な超高速連写も実現しています

世界で初めてグローバルシャッター方式を採用

「α9」シリーズは、ソニーの最先端技術をいち早く投入するモデルとして、これまでミラーレスカメラの技術革新を少なからず担ってきました。はじめに少し振り返っておきましょう。

2017年5月発売の初代モデル「α9」は、レンズ交換式カメラとして初めて積層型センサーを搭載し、ブラックアウトフリーとディストーションフリーを実現した“ゲームチェンジャー”として話題を集めました。2019年11月発売の「α9 II」では、スポーツ撮影や報道分野での使用を意識し、1000BASE-TのLAN端子を搭載するなどして、リモート撮影やデータ納品時の高速データ転送機能を強化するなどの進化を遂げました。

そして今回紹介する「α9 III」は、レンズ交換式カメラとして世界初となるグローバルシャッター方式を採用したのが最大の特徴です。この技術革新によって、これまでは難しかった、被写体が完全に歪まない動体撮影が可能になりました。電子シャッターの利点を最大限に生かしたミラーレスならではの撮影ができる、おそるべき高性能カメラと言えます。

「α9 III」の基本的なデザインは「α9」「α9 II」のそれを踏襲しています

「α9 III」の基本的なデザインは「α9」「α9 II」のそれを踏襲しています

「α9 III」が搭載する撮像素子は、グローバルシャッター方式を採用した、有効約2460万画素のメモリー内蔵フルサイズ積層型CMOSイメージセンサー「Exmor RS」です。画素数やメモリー内蔵・積層型であることは前モデル「α9 II」とほぼ同じですが、こちらは「α9 III」のために新しく開発されたものです。

有効約2460万画素のメモリー内蔵フルサイズ積層型CMOSイメージセンサー「Exmor RS」を搭載

有効約2460万画素のメモリー内蔵フルサイズ積層型CMOSイメージセンサー「Exmor RS」を搭載

グローバルシャッターは、知っている人にとっては待ち望んでいたけれども、知らない人にとっては聞き慣れない方式だと思います。

従来のシャッター方式はローリングシャッターと呼ばれ、「α9 II」まではこちらが採用されていました。グローバルシャッター方式は、「ローリングシャッター現象が起きない」(いわゆるコンニャク歪みが起きない)、「フリッカー現象の影響を受けにくい」、「ストロボ撮影での広範囲な同調」など、デジタルカメラでの撮影においてさまざまな恩恵を与えてくれます。

なお、グローバルシャッター方式が採用されたことで、「α9 III」にはメカシャッターが搭載されなくなりました。メカシャッターは非搭載ですが、電源オフ時にセンサーをシールドする「センサー遮光幕」が備わっていますので、レンズ交換時に、センサーにゴミやほこりが付着しにくいようにできます。

メカシャッターは搭載していませんが、センサーを保護する「センサー遮光幕」があります

メカシャッターは搭載していませんが、センサーを保護する「センサー遮光幕」があります

最新モデルとして操作性をブラッシュアップ

「α9 III」は、一見して前モデルの「α9 II」の外観デザインを踏襲している(あまり変わらない)ように見えますが、そこは「α7シリーズ」や「α1」で培ってきた操作性の向上をしっかりと継承しています。

たとえば、「α9 II」では「露出補正ダイヤル」だったダイヤルは、露出補正以外にも好みの機能が割り当てられる「後ダイヤルR」に変更。これは、現行最新機種の「α1」「α7 IV」「α7S III」「α7R V」「α7C II」「α7CR」と同じ仕様です。

ほかの現行ソニー製フルサイズミラーレスと同様に、LとRの2つの後ダイヤルを搭載しています

ほかの現行ソニー製フルサイズミラーレスと同様に、LとRの2つの後ダイヤルを搭載しています

モードダイヤルの同軸下には「静止画/動画/S&Q切換ダイヤル」が搭載されました。静止画と動画を切り換える機会の多い、昨今の撮影スタイルでは重宝します。こちらも「α1」「α7 IV」「α7S III」「α7R V」「α7C II」「α7CR」と同じ仕様です。

こちらもほかの現行ソニー製フルサイズミラーレスと同様に、「静止画/動画/S&Q切換ダイヤル」を搭載しています

こちらもほかの現行ソニー製フルサイズミラーレスと同様に、「静止画/動画/S&Q切換ダイヤル」を搭載しています

ボディの前面には新たにカスタムボタン「C5」が追加されています。「C1」〜「C4」までのカスタムボタンを含め、好みの機能を割り当てる選択肢が増えました。シャッターボタン近くに搭載されている「C1」や「C2」の形状が指で触ってわかりやすくなっていることも好感が持てる変更です。

カスタムボタンは押しやすく改良され、さらに「C5」がボディ前面に新設されました

カスタムボタンは押しやすく改良され、さらに「C5」がボディ前面に新設されました

ソニーのフルサイズミラーレスは、「α7シリーズ」から「α9シリーズ」、フラッグシップの「α1」にいたるまで、デザインとサイズを大きく変えないことが特徴ですが、そのなかで地道に操作性を向上させていることは、大いに評価できるのではないかと思います。初代「α7」から使い続けている筆者としては、素直に感心するばかりです。

基本デザインを統一しながら操作性は確実に向上しています

基本デザインを統一しながら操作性は確実に向上しています

電子ビューファインダー(EVF)は、約944万ドットで、倍率は約0.90倍。これは、「α1」「α7S III」「α7R V」と同じ仕様です。他社製のミラーレスカメラが搭載するEVFと比較しても非常に高精細で、「α9 II」の約369万ドット/倍率約0.78倍と比べれば格段の性能進化を感じられるところです。

フラッグシップモデル「α1」などと同じ、約944万ドット/倍率約0.90倍の高性能ファインダー

フラッグシップモデル「α1」などと同じ、約944万ドット/倍率約0.90倍の高性能ファインダー

液晶モニターは3.2型の約210万ドットで、タッチパネルを採用しています。こちらも、3.0型で約144万ドットだった「α9 II」と比べると、格段に進化して見やすくなっていることを実感できるところです。「α7R V」で好評だった「4軸マルチアングル液晶モニター」を採用しているので、縦位置でも横位置でも安定した姿勢でハイ/ローアングル撮影ができます。

「α7R V」で好評だった「4軸マルチアングル液晶モニター」を採用

「α7R V」で好評だった「4軸マルチアングル液晶モニター」を採用

そして、デュアルスロットのメモリーカードスロットが、両方ともCFexpress(Type A)対応になりました。ここも地道に、なおかつ大きく進化したところです。しかも、CFexpressとSDメモリーカード(UHS-II対応)に両対応したマルチスロットです。

「α9シリーズ」は超高速連写が可能なスピードモデル。いやがうえにも大量の写真を撮ることになりますので、妥当な進化だと思います。むしろやっと対応してくれたかとさえ思えるほど。

CFexpress Type AとSDカード(UHS-II対応)に対応したデュアルスロットを採用

CFexpress Type AとSDカード(UHS-II対応)に対応したデュアルスロットを採用

歪みのない写真/動画が撮れるグローバルシャッター方式

グローバルシャッター方式を採用したことによる恩恵のひとつが、高速に動く被写体を撮影した場合でもほとんどまったく歪まずに撮れること。ローリングシャッター方式で撮影した場合、撮像素子に投影された画像を、撮像面の上部の画素から順に読み出すため、たとえ高速読み出しが可能な積層型センサーを採用していても、像が歪んでしまうことがあったのです。

その凄みを最初に感じたのが次の作例です。

α9 III、FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS、600mm、F6.3、1/2000秒、ISO640、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST撮影写真(6000×4000、14.4MB)

α9 III、FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS、600mm、F6.3、1/2000秒、ISO640、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST
撮影写真(6000×4000、14.4MB)

カモの飛び立つ瞬間を撮ったものですが、注目したいのは、背景の緑色のネットがまったく歪まず普通に写っているところです。積層型センサー搭載機を所有して鳥を撮っている筆者ですが、ここまで正常に歪まず撮れたことはありません。まさかと思い、高速で飛ぶウミネコを、カメラを振りながら撮影したのが次の作例です。

α9 III、FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS、600mm、F8.0、1/2000秒、ISO250、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST撮影写真(6000×4000、12.3MB)

α9 III、FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS、600mm、F8.0、1/2000秒、ISO250、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST
撮影写真(6000×4000、12.3MB)

やはり背景の建物群はまったく歪むことがありません。全画素を同時に露光し、読み出すことのできるグローバルシャッター方式だからこその画像です。頭でわかっていても、その威力には驚かずにいられないといった状態でした。

ローリングシャッター現象(いわゆるコンニャク歪み)は、電子シャッターで動体を撮影する際の大きな悩みで、初代「α9」が積層型センサーを搭載したことで大きく緩和されましたが、グローバルシャッター方式を搭載した「α9 III」の歪みのなさは、それさえも大きく凌駕し、ほとんど完璧と言ってよいと思います。メカシャッターでさえもあったわずかな歪みを完全に解消してくれると言ってよいのではないかと感じました。

非常に高速・高精度なAF

グローバルシャッター方式に注目がいきがちですが、実は「α9 III」の実力はそれだけでありません。AFも驚くほど高性能です。

α9 III、FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS、600mm、F6.3、1/2000秒、ISO320、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST撮影写真(6000×4000、14.7MB)

α9 III、FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS、600mm、F6.3、1/2000秒、ISO320、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST
撮影写真(6000×4000、14.7MB)

最高約120回/秒の演算によって、複雑で素早い動きをする被写体でも非常に高い精度で安定的に追従してくれます。最高約120回/秒の演算というのはフラッグシップモデルの「α1」と同じですので、追従性がすぐれているというのも納得できますね。「α9 II」は最高約60回/秒でした。

以下の3枚の作例は、カワセミが止まっていた枝から手前の枝に向かって飛び出したところを連写撮影したものです。

多くのカメラでは、カワセミの素早い飛び出しに対応しきれず最初の数コマはピントが遅れてしまうものですが、「α9 III」は1コマ目から確実に反応してピントを合わせてくれました。

α9 III、FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS、478mm、ISO2500、F6.3、1/2500秒、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST撮影写真(6000×4000、17.9MB)

α9 III、FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS、478mm、ISO2500、F6.3、1/2500秒、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST
撮影写真(6000×4000、17.9MB)

次の作例は、完全に枝から離れたところを写していますが、AFは正確に追従し続けてくれました。「α9 III」はAF/AE追従で最高約120コマ/秒という超高速連写を達成していますので、ピントさえ合っていれば鳥が羽ばたく一連の動きのなかから、最も適当なカットを選べるのもポイントが高いです。

α9 III、FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS、478mm、F6.3、1/2500秒、ISO2500、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST撮影写真(6000×4000、17.4MB)

α9 III、FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS、478mm、F6.3、1/2500秒、ISO2500、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST
撮影写真(6000×4000、17.4MB)

最後に、いよいよ手前の枝まで近づいてきたところを見てみましょう。ここまでで、1コマ目から数えて30コマ目にあたり、その30コマすべてで完全にピントが合っていました。120コマ/秒で連写撮影しましたので、ほんの0.25秒ほどの間の出来事ということになります。

α9 III、FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS、478mm、F6.3、1/2500秒、ISO2500、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST撮影写真(6000×4000、17.1MB)

α9 III、FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS、478mm、F6.3、1/2500秒、ISO2500、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST
撮影写真(6000×4000、17.1MB)

もちろん、「α9 III」はこれまでに培われてきた被写体認識AFもしっかり備えており、「人物」をはじめとして「動物/鳥」「動物」「鳥」「昆虫」「車/列車」「飛行機」と幅広くカバーしています。

さらに、専用の「AIプロセッシングユニット」を搭載することで、高精度な被写体認識による追従撮影を可能にしています。この意味では、被写体認識AFのなかった前モデル「α9 II」はもちろん、フラッグシップモデルの「α1」すらしのぐことになります。

「人物」「動物/鳥」「昆虫」「車/列車」などの被写体検出に対応しています

「人物」「動物/鳥」「昆虫」「車/列車」などの被写体検出に対応しています

ただ、こと動体撮影となると、AFは被写体認識の性能だけというよりも、瞬発力や追従性を確実にするための基本性能が重要になると思います。同じ条件で比較してみないと確かなことは言えませんが、使ってみた印象としては、基本的なAF性能についてだけ言えば、フラッグシップモデルの「α1」に勝るとも劣らないレベルではないかと感じました。

ついに搭載されたプリ撮影機能

「α9 III」では、これまでソニーのミラーレスカメラにはなかったプリ撮影機能がようやく搭載されました。

動きモノを撮る場合に便利なプリ撮影機能を搭載しています

動きモノを撮る場合に便利なプリ撮影機能を搭載しています

「α9 III」のプリ撮影は、シャッターボタンを半押ししながら被写体をとらえた後に全押しすると、半押ししていた最大1秒前までの連写画像を記録できます。簡単に言えば、シャッターを押したときよりも前の瞬間を記録できる機能で、鳥や昆虫の飛び立ちなど、ヒトの反射神経では反応しきれない瞬間を撮るのに役立ちます。

そんなプリ撮影機能を使って撮影したのが以下の作例。カワセミが飛んで止まる位置を変えたところを記録したものですが、飛んだことに気づいてからシャッターを押しています。

α9 III、FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS、600mm、F6.3、1/1600秒、ISO5000、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST撮影写真(6000×4000、17.1MB)

α9 III、FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS、600mm、F6.3、1/1600秒、ISO5000、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST
撮影写真(6000×4000、17.1MB)

プリ撮影機能は、シャッターを押したところよりも前の連写時間(最大1秒)を記録できる機能ですので、メモリーカードには、気づいたところよりも前の状態が記録されています。今回の場合、ちゃんと飛び立つ瞬間も撮影できていました。以下の作例でご確認ください。

α9 III、FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS、600mm、F6.3、1/1600秒、ISO5000、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST撮影写真(6000×4000、17.9MB)

α9 III、FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS、600mm、F6.3、1/1600秒、ISO5000、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST
撮影写真(6000×4000、17.9MB)

もちろん、その間の動きもちゃんと記録されています。プリ撮影機能でも超高速連写が可能ですので、撮影した条件で最適なコマを選ぶ自由がユーザーには与えらます。

α9 III、FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS、600mm、F6.3、1/1600秒、ISO5000、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST撮影写真(6000×4000、17.8MB)

α9 III、FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS、600mm、F6.3、1/1600秒、ISO5000、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST
撮影写真(6000×4000、17.8MB)

超高速連写とすぐれたAF性能を持つ「α9 III」だけに、このプリ撮影機能も大いに役立ってくれるというもの。他社製ミラーレスの多くが採用している機能なのに、ソニーほどのメーカーがなぜ採用してくれないのかとヤキモキしていましたが、「α9 III」をもって満願成就した感があります。今後は他機種にも同機能が採用されていくことを期待します。

高いレベルでフリッカーの影響を抑制できる

「α9 III」が採用したグローバルシャッター方式のもうひとつの利点が、人工照明のフリッカー現象(明滅減少)を抑制できるところです。

蛍光灯や水銀灯、LED照明といった人工照明は、ヒトの目にはわからない速さで明るくなったり暗くなったりしているため、速いシャッター速度で撮影すると、画像に黒い縞模様が出現したり、コマ間で明るさが異なったりといった問題が生じます。

以下の作例は、「α9 III」を使い、蛍光灯照明下で人形を撮影したもの。シャッター速度1/1250秒という高速シャッターでの撮影ですが、フリッカー現象の影響を受けることなく、普通に写真が撮れています。

α9 III、FE 24-70mm F2.8 GM II、70mm、F2.8、1/1250秒、ISO6400、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST撮影写真(6000×4000、15.0MB)

α9 III、FE 24-70mm F2.8 GM II、70mm、F2.8、1/1250秒、ISO6400、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST
撮影写真(6000×4000、15.0MB)

普通に撮れた写真を見せられても、何を言っているのかよくわからないかもしれませんので、グローバルシャッター方式ではない筆者の所有機「α7 IV」(ローリングシャッター方式)を使い、同じ条件で撮影したのが以下の作例です。

α7 IV、FE 24-70mm F2.8 GM II、70mm、F2.8、1/1250秒、ISO6400、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST撮影写真(7008×4672、20.9MB)

α7 IV、FE 24-70mm F2.8 GM II、70mm、F2.8、1/1250秒、ISO6400、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST
撮影写真(7008×4672、20.9MB)

黒い3本の横縞が発生しているのがわかりますでしょうか? 東日本では1/50秒周期で人工照明の光が明るくなったり暗くなったりを繰りかえしていますので、読み取り速度の遅いローリングシャッター方式で撮影すると、このような縞模様が発生してしまいます。「α9 III」のグローバルシャッター方式は、全画素を同時に露光して読み出すため、フリッカーのいかんによらず人工照明下でも縞模様が発生しないというわけです。

ただし、グローバルシャッター方式を採用した「α9 III」が、フリッカー現象の影響をまったく受けないかといえば、それは誤りです。以下の2枚の作例は、「α9 III」を使い、同条件で撮影したものですが、2枚の画像で明るさが微妙に異なっていることが見てとれると思います。

α9 III、FE 24-70mm F2.8 GM II、70mm、F2.8、1/1250秒、ISO6400、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST撮影写真(6000×4000、15.3MB)

α9 III、FE 24-70mm F2.8 GM II、70mm、F2.8、1/1250秒、ISO6400、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST
撮影写真(6000×4000、15.3MB)

α9 III、FE 24-70mm F2.8 GM II、70mm、F2.8、1/1250秒、ISO6400、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST撮影写真(6000×4000、15.5MB)

α9 III、FE 24-70mm F2.8 GM II、70mm、F2.8、1/1250秒、ISO6400、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST
撮影写真(6000×4000、15.5MB)

これはまさに、ヒトの目にはわからない速さで明るくなったり暗くなったりを繰り返すフリッカー現象の影響で、全画素を同時に露光するグローバルシャッターであっても、フリッカーによる明滅の影響は受けてしまうという結果にほかなりません。

そうしたこともあって、「α9 III」にはフリッカー現象に対応したフリッカーレス撮影機能がちゃんと用意されています。こちらを利用すれば、明滅のうち明るくなったタイミングでシャッターを切るようになりますので、撮影画像が明るくなったり暗くなったりする現象は避けられます。グローバルシャッターを採用した「α9 III」が、フリッカー現象の影響を完全に抑制できるものではない、ということをきちんと理解しておきたいところです。

「α9 III」には、画像ごとの明暗差を抑えてシャッターを切るフリッカーレス撮影機能が搭載されています

「α9 III」には、画像ごとの明暗差を抑えてシャッターを切るフリッカーレス撮影機能が搭載されています

スピード性能重視ながらもすぐれた高画質

動体撮影において目覚ましい性能を発揮する「α9 III」ですが、常用感度がISO250〜ISO25600なのは、ちょっと気になるところではないでしょうか。特に、常用の最低感度がISO250というのは気になるところです。

そのISO250で撮影したのは以下の作例です。有効約2460万画素と、前モデル「α9 II」(有効約2420万画素)と画素数がほとんど変わらないこともあって、解像性能については互角といったところでしょう。

ISO250で撮影

α9 III、FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS、600mm、F6.3、1/2500秒、ISO250、-0.3EV、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST撮影写真(6000×4000、12.9MB)

α9 III、FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS、600mm、F6.3、1/2500秒、ISO250、-0.3EV、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST
撮影写真(6000×4000、12.9MB)

また、特段にすぐれているわけではありませんが、ダイナミックレンジについても一般的なミラーレスと比べてそん色ないレベルにあると思います。常用感度の幅がISO250〜ISO25600とやや狭いのは、搭載する「Exmor RS」センサーが高速処理に特化した設計で、その分だけ各画素に蓄積できる電荷が少ないためだと考えられます。

こうした仕様だとダイナミックレンジはどうしても狭くなると思いますが、それにしても得られる画像が十分に高画質なのはたいしたものだと思いました。常用感度を無理に広げず、最新の画像処理エンジン「BIONZ XR」の高い処理能力をうまく生かした結果としての高画質化と言えるのではないでしょうか。

α9 III、FE 24-70mm F2.8 GM II、70mm、F11、1/3200秒、ISO250、-1.3EV、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST撮影写真(6000×4000、15.0MB)

α9 III、FE 24-70mm F2.8 GM II、70mm、F11、1/3200秒、ISO250、-1.3EV、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST
撮影写真(6000×4000、15.0MB)

高感度性能もかなり健闘しており、比較的使用頻度の高いISO6400程度ならそれほどノイズやディテールの喪失を気にすることなく、文字どおり常用できるレベルだと感じました。

ISO6400で撮影

α9 III、FE 24-70mm F2.8 GM II、70mm、F5.6、1/800秒、ISO6400、-1.0EV、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST撮影写真(6000×4000、16.0MB)

α9 III、FE 24-70mm F2.8 GM II、70mm、F5.6、1/800秒、ISO6400、-1.0EV、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST
撮影写真(6000×4000、16.0MB)

常用最高感度のISO25600でも以下の作例のとおり、なかなか優秀な画質を保ってくれます。ノイズが相対的に多くなるのは仕方のないことですが、ノイズの粒子の出方が整っているため、個人的には大きな違和感を覚えることはありません。「α1」のISO32000、「α9 II」のISO51200に比べると見劣りしてしまうかも知れませんが、一般的なAPS-Cモデルに比べれば十分に高い高感度性能であり、ここはフルサイズセンサーの余裕を感じられるところでした。

ISO25600で撮影

α9 III、FE 24-70mm F2.8 GM II、70mm、F5.6、1/3200秒、ISO25600、-1.0EV、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST撮影写真(6000×4000、19.3MB)

α9 III、FE 24-70mm F2.8 GM II、70mm、F5.6、1/3200秒、ISO25600、-1.0EV、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST
撮影写真(6000×4000、19.3MB)

とはいっても、「α9 III」の主要被写体となる動きモノを撮るシーンで、オート感度にしていると、簡単に高感度域に設定されてしまうことが多々あります。そうなると、設定できる常用最高感度は高ければ高いほどありがたいので、ローリングシャッター方式を採用した今後のモデルには、さらなる進化を期待したいところです。もちろん、初搭載のカメラで、ここまでの高画質を実現したのはすばらしいことですが。

α9 III、FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS、600mm、F6.3、1/1600秒、ISO12800、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST撮影写真(6000×4000、18.7MB)

α9 III、FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS、600mm、F6.3、1/1600秒、ISO12800、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST
撮影写真(6000×4000、18.7MB)

まとめ 「撮れない瞬間はない!」と感じさせる最先端のカメラ

ちなみにですが、「α9 III」は、すべてのシャッター速度でフラッシュ同調撮影が可能という驚きの性能も備えています。電子シャッターはフラッシュに同調できないという段階から、積層型センサーの登場で同調が可能となり、さらにグローバルシャッター方式の採用で、純正の対応フラッシュ使用時に限られるとはいえ、全速同調が可能になったのですからミラーレスの力強い進化を感じずにはいられません。

それにしても、グローバルシャッター方式を採用し、高速で動くモノを歪めずに(ローリングシャッター現象の回避)撮れる「α9 III」の撮影性能はすばらしいの一言です。まさかこんなに早く実用化されるとは思ってもいませんでした。そしてこの特性が、動画撮影においても有益であることは言うまでもありません。

グローバルシャッター方式の採用だけに注目がいきがちですが、AF性能が驚くほど高く、連写性能も最高約120コマ/秒と隔絶したスペックなのも「α9 III」の特徴でしょう。「撮れない瞬間はもはやない!」と感じるのはちょっとオーバーかもしれませんが、実際に使ってみると不思議とそんな気分にさせられ、思わず興奮してしまうのもまた事実です。

「α9 III」の「捉えることのできなかった世界が撮れる。」というコピーに間違いはありません。2024年2月下旬時点での価格.com最安価格が約77万円というのは、普通に考えればとても高いです。ですが、現在手に入れられるほかのミラーレスと比べて考えてみると、世界初のグローバルシャッター方式を採用し、圧倒的なスピード性能を実現しながらこの価格というのは、思ったよりも良心的と言えるかもしれません。

曽根原 昇
Writer
曽根原 昇
信州大学大学院修了後に映像制作会社を経てフォトグラファーとして独立。2010年に関東に活動の場を移し雑誌・情報誌などの撮影を中心にカメラ誌などで執筆もしている。
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真柄利行(編集部)
Editor
真柄利行(編集部)
フィルム一眼レフから始まったカメラ歴は、はや約30年。価格.comのスタッフとして300製品以上のカメラ・レンズをレビューしてきたカメラ専門家で、特にデジタル一眼カメラに深い造詣とこだわりを持っています。フォトグラファーとしても活動中。パソコンに関する経験も豊富で、パソコン本体だけでなく、Wi-Fiルーターやマウス、キーボードなど周辺機器の記事も手掛けています。
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