中国のメーカー、Zero Zero Roboticsの超軽量ドローン「HOVERAir X1 Smart」をレビュー。機体重量が99g未満で登録不要なうえに、飛行から撮影までAIが制御する「自撮りドローン」と表現できそうな製品だ。
「HOVERAir X1 Smart」はクラウドファンディングのMakuakeで販売中だが、Amazonで発売が予定されている
最初に、ドローンを取り巻く法令について簡単に解説しよう。
日本では、安全性を踏まえて機体重量100g以上のドローンは飛行に規制がかかり、飛行させるには国土交通省に機体を登録し、個体を識別するためのリモートIDの装着が必要となっている。いっぽう、海外に目を向けると、250g未満のドローンは登録不要な国が多い。
今回取り上げる「HOVERAir X1 Smart」は、海外で「HOVERAir X1」として発売中の重量125gの製品をベースに、翼の折りたたみ機構の撤廃やバッテリーの小型化などの軽量化を施し、法令を下回る99gの超軽量ボディを実現した日本向けモデルだ。
そのため、国土交通省への機体登録や、リモートIDの装着が不要となっており、今ドローン愛好家たちの間で話題になっているのだ。価格.comのドローン・マルチコプター 注目ランキングでも、DJIなどの人気製品に混じって上位に支持されている。
国土交通省のドローンを含む無人航空機の登録ポータルサイト。100g以上のドローンはここで機体の登録が必要になる
海外モデルよりも小型軽量化しつつ、翼の折りたたみ機構が省略されているのが、「HOVERAir X1 Smart」の特徴だ
「HOVERAir X1 Smart」は、上述の理由で翼部分が折りたためなくなったので、持ち運び時のサイズが海外のベースモデルより大きくなっている。だが、それでも142(幅)×27(高さ)×111(厚さ)mmの手のひらサイズで、持ち歩いてもじゃまになりにくく、携帯性が高い。
手に乗る小型軽量サイズ。「ポケットサイズ」までではないがプロペラが露出しないため、可搬性も悪くはない。仮に何かと衝突しても、一定の安全性は望める
側面にUSB Type-Cポートを配置。メーカー公式の飛行時間は10分。Makuakeでは予備バッテリーを同梱するパッケージも用意されている
最大速度は無風時で毎秒7m。最大上昇速度、最大下降速度はともに毎秒1.5m。いずれもドローンとしてはかなりゆっくりで、速度を追求するタイプではない。最大飛行高度は2000m(限界高度5000m)とされているが、数mでもちょっと不安だ。これだけ軽量だと不意な突風が吹くと、機体が飛ばされないか心配になる。
「HOVERAir X1 Smart」の使い方だが、スマホと接続して機体をコントロールすることもできるが、「自動で飛行&着陸する」のがメイン。同社では「AI飛行カメラ」と表現しているが、操縦者から遠く離れて高速飛行するタイプの製品ではない。
カメラは最大2.7K(2704×1520)で最大30fpsの動画撮影が可能。1080pなら60fpsやHDRでの撮影も行える。静止画の最大解像度は4000×3000で、HDRの場合2592×1940になる。ジンバルに加えて、電子式のブレ補正も備えている。
上下に可動するジンバルを備えたカメラ。ブレ補正もかなり強力
「HOVERAir X1 Smart」は自律飛行が可能だが、撮影モードに応じてドローンの動きは異なる。
初期設定では、撮影モードが「ターゲットロック」になっている。このモードでは、「HOVERAir X1 Smart」に顔を向けた人物の方向を向き、空中にとどまる。その人物がドローンから離れても、その方向を撮影し続けるだけで、その場にとどまり続ける。
撮影モードを「ホバリング」にすると、手のひらから離陸した高さで滞空し、高度が維持される。「ズームアウト」モードは、水平距離1.5、3、6、9mの範囲で、撮影しながら自動的に被写体から離れていく。その際、フラット、上昇する、下降するという3種類の高さ方向の動きが選べるので、空に向かって遠ざかっていくようなドローンらしい撮影もできる。このほか、自分の周囲をぐるっと回る「オービット」や、自分の真上に向かって上昇する「俯瞰撮影」といったモードも用意されている。
指定の秒数を撮影し終えたり、しばらく放置したり、本体の真下に手のひらを差し出すと、「HOVERAir X1 Smart」は自動で着陸。これで撮影が終了する。
上部に電源ボタン(下の大きなボタン)、モード切り替えボタン(その上の小さなボタン)が配置されており、この2つだけで飛行から撮影までをカバーする
なお、電源オン時やモード切り替え時、飛行時には音声のアナウンスが流れるが、ボリュームが大きい。ディスプレイがないので、明確に現状の撮影モードを知らせるためだろう。加えて、スマホのシャッター音のように撮影を周りにアピールする効果もありそうだ。なお、プロペラは小さいが、回転速度は速いので、騒音は甲高く、音量も大きい。本体が小さいから、騒音も小さいというわけでもない。
電源ボタンを押したら顔の高さまで掲げる
専用アプリ「Hover X1」からは各モードを設定できる
アプリのホーム画面。本体とスマホをBluetoothで一度でも接続しておけば、本体の電源を入れるだけでスマホと自動接続する
左は「ホバリング」モードの設定画面。「縦向きビデオ撮影」はカメラを縦回転させるのではなく、横向きの動画を縦向きに切り抜いて縦長の動画にしているようだ。右は「フォロー」モードの設定画面。高度や水平距離の選択が可能。周囲に人がいない広い場所で「高い」「遠い」を選べば、ドローンらしい撮影になる
「フォローモード」(動画の一部を編集で5倍速にしている)の作例。座った場合にきちんと高さを合わせてくれているのが優秀
「俯瞰撮影モード」の作例。機体を回転するかどうかも設定可能
起動時の様子。モードボタンでモードを設定して、電源ボタンを1回押しすると現在の設定がアナウンスされて飛行準備になる。カウントダウンの後に飛行を開始するが、機体を顔の高さにしていないと警告が発せられて飛行は行われない。ランプが赤くなったら撮影が開始されたことを示している。最終的に手のひらに着陸しているが、着陸時の動画は撮影されていない
上記で紹介したいずれの作例も、強いブレ補正により映像が安定している。軽量なボディだが、最大風圧抵抗のスペック値である毎秒7.9m以内の風であれば、飛行や撮影に問題はなさそうだ。本体が揺れ始めてしまっても、電子式ブレ補正がある程度まで揺れを吸収してくれる。
「HOVERAir X1 Smart」では、既存のモードでの撮影が5回終わった後に手動撮影が解放される。また、ソフトウェアのアップデートを実施後に、「サイドトラッキング」と、プロフェッショナルモードとして「インテリジェント制御」の2モードが追加される。
「サイドトラッキング」は人物の横を追従する機能で、被写体の隣を一緒に歩くように撮影でき、犬の散歩などで使うのも楽しそうだ。「インテリジェント制御」はスマホと機体をWi-Fiで接続して、カメラの映像を見ながら目視操縦を行って撮影できるようになるもので、「フォロー」と「フロントフォロー」のモードをそれぞれ5回使用することで解放される。
「サイドトラッキング」モードの作例
「ズームアウト」と「オービット」のジェスチャーを試してみた様子
音声録音では、接続しているスマホのマイクを使うことができる。AIノイズリダクションも備えており、風切り音などのノイズを低減した音声が記録可能というわけだ。
ただし、スマホのマイクを使った場合は、こもった不自然な音質になるし、周囲の音の状況によっては音声が消えてしまうこともあるので注意が必要。最も、ドローンは一般的に音声録音ができないので、スマホのマイクとはいえ録音できるのは大きな利点だ。スマホにワイヤレスマイクを接続すれば、さらに録音が行いやすくなるだろう。
「HOVERAir X1 Smart」は、日本の法規制に沿ったトイドローンに見える。だが、実際に使ってみると、制御は安定しており、風に対する抵抗も強く、ドローンとしての完成度は思った以上に高かった。
総じて満足度の高い製品だが、GPSを搭載していないため、離れた位置から指定位置に戻るというような動作は難しい。また、カメラの映像を解析するため、暗所での撮影はできないし、反射する光が認識を乱すため水上での撮影も行えないといった制約は理解しておきたい。
本機は機体の登録は不要だが、使用する場所の制約は通常のドローンと変わらない。人混みで使うわけにもいかないし、公道や多くの公園もドローン禁止が明文化されていることがある。
国の定めたルールに加えて、自治体や各施設が定めたルールも把握しなければいけない。それでも、飛行性能が高く、カメラ機能もすぐれたドローンが登録不要で使えるのは貴重だ。ドローンの楽しさを多くの人が実感するきっかけになりうる製品だ 。