OMデジタルソリューションズのマイクロフォーサーズミラーレス「OM SYSYEM OM-1 Mark II」には、世界初の「ライブGND(グラデーションND)」という撮影機能が搭載されている。高度なデジタル画像処理技術を駆使してハーフNDフィルターの効果をカメラ内で再現するという、これまでにはなかった新機能だ。本特別企画では、この機能の利用法を詳しく解説しよう。
撮影は「OM SYSYEM OM-1 Mark II」と標準ズームレンズ「M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO II」の組み合わせで行った
「ライブGND」は、ハーフNDフィルターを利用する感覚で明暗差を抑制できる撮影機能。減光効果の境界線を自由なポジションに配置しながら、複数枚を撮影・合成して白飛びや黒つぶれを抑えられるのが特徴だ。P/A/S/Mの各露出モードに対応しているので、絞り値やシャッタースピード、感度などの設定を追い込みながら撮ることができる。
この機能は、2024年2月23日発売の「OM SYSYEM OM-1 Mark II」に初めて搭載された。「OM SYSTEM」ブランドに限らず、ミラーレスでは世界初の機能で注目度も高い。「OM SYSYEM OM-1 Mark II」で写真を撮るなら、一度は使ってみたい機能と言えるだろう。
「ライブGND」の撮影画面。横位置でグラデーションを設定している
これは、少し斜めにグラデーションの角度を調整した例。画面左上に「ライブGND」の設定値と角度が表示されている
「ライブGND」は、わざわざ物理的なフィルターを持ち運んでセットする手間を省けるのが最大の魅力だ。フィルターが装着しにくい超広角系のレンズなど、レンズの口径に縛られず適用できるのも大きなポイントである。
また、グラデーションの境界線の位置や角度を自由に設定できるのも非常に便利。モニターで仕上がりをイメージしながら直感的にフィルター効果を適用できるのだ。
「ライブGND」は、メニュー画面のコンピュテーショナル撮影の項目から選択する。なお、「ライブGND」を一度オンにすると、オフに戻すまで「ライブGND」での撮影が継続される
減光の度合いは情景に応じて3種類から選択できる。「GND2」は1段分、「GND4」は2段分、「GND8」は3段分暗くなる
「フィルタータイプ」は境界線の滑らかさを変更できる機能。「Soft」「Medium」「Hard」の3段階から選べる。自然な境界線で描写したければ「Soft」がおすすめ
「フィルター自動回転」をオンにすると、縦構図と横構図でフィルターを自動回転してくれる。これは意外と便利な機能
では、実際に撮影した作例を通して、「ライブGND」の効果を見てみよう。上記の撮影画面に映していた風景での結果をご覧いただきたい。
明暗差のあるシーン。明るい空に露出を合わせると、地上の風景は暗くつぶれてしまう
地上が黒つぶれしないように明るくすると、空も明るくなって飛んでしまい、ディテールが乏しい描写になってしまう
「ライブGND」の境界線を地平線に合わせて撮影。地上も空もしっかりディテールが再現されている
前述の作例もそうだが、朝景や夕景は明暗差が大きい代表的なシーンだ。「ライブGND」が実践しやすい。明るくなりがちな部分を「ライブGND」で減光補正し、暗くなりがちな部分は通常の撮影機能で露出を決めていく。明部も暗部も、自分好みの露出で被写体の質感を表現できるのである。
以下に、具体的な活用例として、「ライブGND」を活用した写真と、通常モードで撮影した写真を順に掲載していく。
空の部分を覆うように「ライブGND」の境界線をセットした。自然なグラデーションになるように、フィルタータイプは「Soft」に設定している
OM-1 Mark II、M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO II、13mm(35mm換算26mm相当)、F5.6、1/125秒、ISO200、ホワイトバランス:7500K、仕上がり設定:VIVID
何気ない情景だが、このようにスナップ的に活用することもできる。空を「ライブGND」で減光した。空に露出を合わせると、手前が全部暗くなってしまう場面だ
OM-1 Mark II、M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO II、30mm(35mm換算60mm相当)、F5.6、1/40秒、ISO200、ホワイトバランス:7500K、仕上がり設定:VIVID
これも空の部分を「ライブGND」で覆った。重厚な空の質感が出ている。なお、本機能は合成して1枚に仕上げるため、基本的に静止した被写体向けの機能になるが、動きのある被写体にも自然なブレで描写できることがある。ここでも、スワンボートは動いているが違和感はない
OM-1 Mark II、M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO II、15mm(35mm換算30mm相当)、F11、1/800秒、ISO200、-0.3EV、ホワイトバランス:7500K、仕上がり設定:VIVID
「ライブGND」は自然風景を題材に夕景などで利用するイメージが強いと思うが、日中の街中で適用してみるのも面白い。部分的に露出を変えることで表現の幅が広がる。これもフィルターの脱着が必要ない、気軽に利用できる機能だからこその楽しみ方だろう。
渋谷のスクランブル交差点。画面上部を「ライブGND」で斜めに覆った。露出の変化が、行き交う人々のブレ感と合わさって効果的なアクセントになっている
OM-1 Mark II、M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO II、23mm(35mm換算46mm相当)、F22、1/20秒、ISO100、ホワイトバランス:5300K、仕上がり設定:VIVID
外の風景と手前の屋根で露出差のある場面。手前の屋根に露出を合わせ、明るい外の風景は「ライブGND」で減光した。こうしたシーンはHDR機能を使う方法もあるが、「ライブGND」を用いると境界線で部分的に露出差を調整できる
OM-1 Mark II、M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO II、18mm(35mm換算36mm相当)、F8、1/250秒、ISO200、ホワイトバランス:5300K、仕上がり設定:Vivid
「ライブGND」撮影は、露出差を埋めるために用いるのが通常だが、逆に、生じる露出差を利用して画作りを楽しむことも可能だ。今回、街スナップでは、「ライブGND」で印象的な影を演出してみた。“どんな遊び方ができるか”を模索してみるのも面白いだろう。
日が当たってできた影に合わせ、「ライブGND」で角度を付けて右上を覆った。全体の露出はややオーバー気味にセットしている
OM-1 Mark II、M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO II、35mm(35mm換算70mm相当)、、F3.2、1/2000秒、ISO400、-0.3EV、ホワイトバランス:5300K、仕上がり設定:Vivid
この写真では、「ライブGND」を使って左上に向けてグラデーションを加えてみた。通常撮影と比べて仕上がりイメージが大きく異なることがわかるだろう
OM-1 Mark II、M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO II、23mm(35mm換算46mm相当)、F4、1/800秒、ISO400、-0.3EV、ホワイトバランス:5300K、仕上がり設定:Vivid
「ライブGND」で右上に影が落ちているようなイメージに仕上げた。「Hard」に設定することで明暗差を強調している
OM-1 Mark II、M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO II、18mm(35mm換算36mm相当)、F4、1/200秒、ISO400、ホワイトバランス:5300K、仕上がり設定:Vivid
「ライブGND」はRAW記録に対応しているのも便利な点だ。RAW+JPEGで撮影しておけば、撮影後のRAW現像で、より踏み込んだ描写にチャレンジできる。
たとえば、JPEG記録では「ライブGND」と「アートフィルター」を併用できないが、「ライブGND」を使って撮影したRAW画像であれば、撮影後に「アートフィルター」を適用してJPEG形式で保存できる。
「ライブGND」で空を覆って撮影したRAW画像に対し、カメラ内RAW現像で、「アートフィルター」の「ヴィンテージI」を適用した
「ライブGND」は今回初めて体験する撮影機能で、実際に使っていて非常に新鮮だった。特に、境界線を自由に配置できるのが面白い。ライブビューで効果を逐一確認できるため、非常にスムーズに撮影を進められる。
また、しっかり構えていれば、「ライブGND」は手持ちでも利用できる。「OM SYSYEM OM-1 Mark II」は最大8.5段の手ブレ補正に対応しているので心強い。実際、今回の撮影では多くの場面で手持ちでシャッターを切っている。この手軽さも大きな特徴だと感じた。
この機能をうまく扱うためのポイントになりそうなのが、ベースになる露出だ。「ライブGND」は平たく言うと、境界線を作って暗部を作り出す機能だ。減光の対象にならない部分の露出の決め方次第で、フィルターの効き具合が変わってくるので注意したい。
また、併用できない機能も多いので、それもある程度把握しておくといいだろう。被写体検出機能が無効になったり、ドライブモードが静音単写になったりする。仕上がり設定の「ピクチャーモード」は、「i-Finish」や「アートフィルター」に設定されている場合、自動的に「Natural」に変更される。
いずれにせよ、「ライブGND」は魅力的で楽しい機能だ。王道的な使い方から、個性的な活用まで、いろいろなシーンで効果を適用できる。ミラーレスもとうとうここまで来たか。使っていて、思わずそう呟いてしまった。