富士フイルムは2024年5月16日、ラージフォーマットセンサーを採用するミラーレスカメラ「GFXシリーズ」の新モデル「FUJIFILM GFX100S II」(以下、「GFX100S II」)を発表した。前モデル「GFX100S」のボディサイズはそのままに、撮像素子と画像処理エンジンを刷新することで、より使いやすく進化を遂げている。ここでは、前モデルを使用してきた筆者によるファーストインプレッションをいち早くお届けしよう。
※本レビューで使用した「GFX100S II」は開発中の試作機です。製品版とは仕様が異なる場合があります。
前モデルと同サイズのボディに最新機能を搭載した「GFX100S II」
■「GFX100S II」の主な特徴
・前モデル「GFX100S」と共通サイズのボディ
・新開発の撮像素子「GFX 102MP CMOS II」(有効約1億200万画素)
・最新の画像処理エンジン「X-Processor 5」
・上位モデルと同じ被写体検出AF
・UHS-II対応のデュアルSDメモリカードスロット
・最高約7.0コマ/秒の連写性能
・常用感度の下限値がISO80に(最高ISO12800)
・補正効果8.0段のボディ内5軸手ブレ補正
・約4億画素の画像が得られる「ピクセルシフトマルチショット」
・倍率0.84倍/約576万ドットの電子ビューファインダー
・フィルムシミュレーション「REALA ACE」に対応
・4K/30p記録、13ストップの「F-log2」に対応
2021年2月に発売されたラージフォーマットミラーレス「GFX100S」は、フルサイズ一眼レフカメラの上位機種に匹敵するコンパクトなボディに1億画素センサーを搭載し、取り回しのよいラージフォーマット機として評価されたカメラだ。比較的価格が抑えられており、ハイアマチュアでも手が届く「ラージフォーマットの1億画素機」として、発売から3年が経過した2024年5月時点でも根強い人気を集めている。
ただし、価格.comマガジンのレビュー記事でも触れたが、レスポンスに難があるのが欠点だった。今回発表された、「GFX100S」の後継モデル「GFX100S II」は、新開発の撮像素子「GFX 102MP CMOS II」(有効約1億200万画素、裏面照射型)と、最新の画像処理エンジン「X-Processor 5」を搭載することで、その欠点が大幅に改善されている。
新開発の有効約1億200万画素「GFX 102MP CMOS II」センサーを採用
実際に「GFX100S II」を使ってみたところ、前モデルで気になった、撮影中の画面の切り替えや撮影後の再生表示での動作の遅延はなく、キビキビと動作してくれた。連写を続けてバッファフルになった状態でも動作は安定しており、使っていて大きなストレスを感じることはなかった。最新のミラーレスとして納得できるレベルで、特に、前モデルのユーザーであれば、筆者と同じように「ここまで速くなってくれれば十分!」と感じるのではないだろうか。
ここで気になるのが、「GFX100S II」と上位モデル「GFX100 II」のレスポンスの差だ。端的に言えば、処理性能はさすがに上位モデルが上回っている。両モデルが搭載する撮像素子は、有効画素数こそ約1億200万画素で同じだが、上位モデルには、ハイスピードを意味する“HS”の名称が付いた「GFX 102MP CMOS II HS」センサーが採用されている。対応するメモリーカードについても、「GFX100S II」はSDカード(UHS-II)のみだが、「GFX100 II」はより高速なCFexpress Type Bカードを使用できるという違いがある。
とはいえ、今回試した限り、少なくとも単写で撮影する分には両モデルでレスポンスに極端な差はないと感じた。風景写真など、じっくり撮るスタイルで使うのであれば、「GFX100S II」のスピードで十分に満足できるはずだ。連写についても、UHS-II対応のSDカード(書き込み速度299MB/sのソニー製SF-G128T)を使った限り、連写が詰まってから7〜8秒程度でバッファが完全にクリアーされ、比較的スムーズに撮影が続けられる印象を受けた。
UHS-II対応のデュアルSDメモリカードスロットを前モデルから継続して採用
以下、参考までに、各モデルの連写性能(最高速度と撮影可能枚数)をまとめておこう。
新モデル「GFX100S II」
最高約7.0コマ/秒
JPEG 184枚
圧縮RAW 30枚
ロスレス圧縮RAW 19枚
非圧縮RAW 16枚
前モデル「GFX100S」
最高約5.0コマ/秒
JPEG 42枚
圧縮RAW 16枚
ロスレス圧縮RAW 15枚
非圧縮RAW 14枚
上位モデル「GFX100 II」
最高約8.0コマ/秒
JPEG 1000枚以上
圧縮RAW 325枚
ロスレス圧縮RAW 302枚
非圧縮RAW 76枚
「GFX100S II」は、前モデルと同じフォルムのボディを継承している。ボディサイズは150.0(幅)×104.2(高さ)×87.2(奥行、最薄部44.0mm)で、前モデルとまったく同じ。ボタンやレバーの操作性も変わらない。重量は前モデルの約900gから約883g(いずれも付属バッテリー、メモリーカードを含む)へと少し軽くなっている。
前モデルと同じフォルムのボディ
上面の操作系。左側に撮影モードダイヤルを、右側にサブ液晶(1.80型のモノクロメモリー液晶モニター)を搭載している
実際にボディをホールドしてみると、軽くなったこと以上に、手触りが変わったことがわかる。これは、上位モデル「GFX100 II」と同じ外装ラバー「BISHAMON-TEX」の採用によってテクスチャーが変更されたため。カメラをグリップした際のフィーリングがよくなっているのだ。
操作性では、電子ビューファインダー(EVF)のスペックが向上したのが見逃せない。前モデルの「倍率0.77倍/約369万ドット」から「倍率0.84倍/約576万ドット」に向上しており、より大きくかつ高精細な見え方になった。前モデルでは少し精細感が足りない印象があったので、これはうれしい進化だ。
倍率0.84倍/約576万ドットにスペックアップしたEVF
AFは、上位モデルの機能性を継承し、人物の顔・瞳に加えて、「動物」「鳥(+昆虫)」「クルマ」「バイク&自転車」「飛行機(+ドローン)」「電車」の被写体検出に対応するようになった。被写体検出AFをテストしてみたところ、上位モデルと同様、被写体がかなり小さい状態でもしっかりと認識してくれた。AF自体の性能も向上しており、前モデルと比べると合焦にかかる時間は間違いなく短くなっている。
AF関連の細かいところでは、「ゾーンカスタム設定」「AFモードオール設定」「フォーカスポイント循環」「MFアシストフォーカスリング連動」などの機能が追加されており、上位モデルと同じ使い方ができるようになった。
「GFX100 II」などと同様、「動物」「鳥(+昆虫)」「クルマ」「バイク&自転車」「飛行機(+ドローン)」「電車」の被写体検出に対応している。人物の顔・瞳は別の項目で設定する仕様だ
AFモードがオールのときに選べるフォーカスエリアを設定できる「AFモードオール設定」など、「GFX100 II」と同じ機能を搭載
操作性では、リアコマンドダイヤルに割り当てられる機能に「露出補正」が追加されたのが、地味だがうれしい改善点。これによって、露出補正ボタンを使わなくても、ダイヤルをダイレクトに操作することで露出補正が行えるようになった。
リアコマンドダイヤルに「露出補正」を割り当てることが可能に。フロントコマンドダイヤル2/フロントコマンドダイヤル3にも設定できる
前モデルと同様、3方向チルト対応の3.2型タッチパネル液晶(約236万ドット)を採用
左側面のインターフェイス部。マイク端子、ヘッドホン端子、USB Type-C端子 (USB3.2 Gen2x1)、HDMIマイクロ端子 (Type D)、シンクロターミナルを装備。細かいところでは、USB Type-C端子の転送速度がUSB3.2 Gen1x1からUSB3.2 Gen2x1に向上した
底面。デザインは前モデルと同じだ
「GFX100S II」の画質面では、有効約1億200万画素の高画素はそのままに、上位モデル「GFX100 II」と同様、常用感度のスタートがISO100からISO80に下がった。わずかな違いではあるものの、低感度化によって、より広いダイナミックレンジが得られるようになったのは、特に風景写真を撮る場合にありがたい。
常用感度はISO80から利用できる
仕上がり設定の「フィルムシミュレーション」もアップデートされ、適度なコントラストと正確な色再現性で人気を集めたネガフィルム「REALA ACE」(2012年に販売終了)の名を冠したモード「REALA ACE」に対応するようになった。このモードは、「PROVIA/スタンダード」よりもハイライトの抜けがよく、シャドウ側の階調が出るのがよいところ。色被りが抑えられているのもポイントで、幅広いシーンで活用できるモードだ。
また、上位モデルと同様、10bit記録のHEIF形式にも対応。対応するHDRモニターが必要になるが、ラージフォーマットでHEIF画像を撮影できるのは、カメラの楽しみ方が広がるというものだ。
「GFX100 II」などと同様、「REALA ACE」に対応
表示するモニター環境を揃える必要があるが、HEIF形式に対応するのも大きなポイントだ
GFX100 II、GF55mmF1.7 R WR、55mm(35mm判換算44mm相当)、F1.7、1/680秒、ISO80、ホワイトバランス:オート、フィルムシミュレーション:REALA ACE、カラークローム・エフェクト:強、JPEG
撮影写真(11648×8736、42.8MB)
GFX100 II、GF32-64mmF4 R LM WR、64mm(35mm判換算51mm相当)、F4、1/105秒、ISO80、ホワイトバランス:オート、フィルムシミュレーション:REALA ACE、カラークローム・エフェクト:強、JPEG
撮影写真(11648×8736、58.6MB)
GFX100 II、GF32-64mmF4 R LM WR、42.5mm(35mm判換算34mm相当)、F11、1/52秒、ISO80、-0.7EV、ホワイトバランス:オート、フィルムシミュレーション:REALA ACE、JPEG
撮影写真(11648×8736、42.7MB)
GFX100 II、GF32-64mmF4 R LM WR、49mm(35mm判換算39mm相当)、F11、1/200秒、ISO100、-2.3EV、ホワイトバランス:オート、フィルムシミュレーション:REALA ACE、JPEG
撮影写真(11648×8736、38.9MB)
GFX100 II、GF35-70mmF4.5-5.6 WR、49.1mm(35mm判換算39mm相当)、F5.6、1/50秒、ISO80、+1.3EV、ホワイトバランス:オート、フィルムシミュレーション:Velvia/ビビッド、JPEG
撮影写真(11648×8736、55.5MB)
GFX100 II、GF55mmF1.7 R WR、55mm(35mm判換算44mm相当)、F1.7、1/550秒、ISO80、+0.3EV、ホワイトバランス:オート、フィルムシミュレーション:クラシックネガ、JPEG
撮影写真(11648×8736、39.0MB)
GFX100 II、GF32-64mmF4 R LM WR、64mm(35mm判換算51mm相当)、F4、1/420秒、ISO80、ホワイトバランス:オート、フィルムシミュレーション:ノスタルジックネガ、JPEG
撮影写真(11648×8736、37.0MB)
GFX100 II、GF35-70mmF4.5-5.6 WR、49.1mm(35mm判換算39mm相当)、F11、1/60秒、ISO80、-1.0EV、ホワイトバランス:オート、フィルムシミュレーション:ACROS(ハイライトトーン:+1、シャドウトーン:+1)、JPEG
撮影写真(11648×8736、59.4MB)
短い時間ではあるが、「GFX100S II」を使用してみて最も印象に残ったのは、やはりレスポンスの向上だ。前モデル「GFX100S」のネガティブポイントが改善されており、より快適に1億画素の高画質を楽しめるようになった。EVFやAFが使いやすくなったのもポイントで、着実な進化を遂げた1台と言ってよい。
外装ラバーのテクスチャーを除いて、ボディのデザインが変わらなかったことは残念なものの、前モデルと同じサイズのボディ(重量は約17g軽くなっている)と操作性をキープしてくれたのは、特に、前モデルを使い倒している人にとってはポジティブにとらえられるはずだ。
「GFX100S II」の市場想定価格は847,000円(税込)。前モデル(2021年2月発売)の768,900円(税込)から約10%の値上がりだが、昨今の経済情勢を考慮すると、よく抑えていると言えるのではないだろうか。上位モデル「GFX100 II」の1,270,500円前後(税込)よりも40万円ほど安いプライスだ。決して安い製品ではないが、前モデルのユーザーにとっては絶好の買い替えモデルが登場したと言えるだろう。