最近のミラーレスカメラはAF(オートフォーカス)や連写性能が向上し、飛行機や動物、スポーツといった高速で動く被写体(動体)が撮りやすくなりました。とはよく聞きますけど、最新の高性能なミラーレスは初心者でも使いやすいのでしょうか?
この疑問に答えるべく、今回の特別企画では、カメラ初心者の編集部員がブルーインパルスの撮影にチャレンジ! ニコンの新型フルサイズミラーレス「Z6III」の実力を体感してきました。
初心者が無謀にもブルーインパルスの撮影に挑戦しました! はたして結果は!?
部分積層型CMOSセンサーなどニコンの最新技術を搭載した「Z6III」
初めに、今回使用したニコン「Z6III」の特徴を簡単にまとめておきます。
「Z6III」は、2024年7月12日に発売される最新のフルサイズミラーレスカメラ。ニコンのラインアップでは、フラッグシップモデル「Z9」、上位モデル「Z8」の次に位置する中級機ですね。世界で初めて部分積層型CMOSセンサー(有効2450万画素)を搭載することで、中級機とは思えないくらいの高性能を実現しているのが大きな特徴です。
AFシステムは上位モデル「Z9」「Z8」譲りの性能で、飛行機や動物、人物などに対応する被写体検出機能も搭載。最高約120コマ/秒(DXフォーマット時)の超高速連写にも対応しており、動く被写体を撮影する能力が高いカメラです。さらに、電子ビューファインダーは、「Z9」「Z8」を超える約576万ドット/最大4000カンデラに対応するハイスペックを実現しています。
※「Z6III」の詳細な特徴は価格.comマガジンのニュース記事をご確認ください。
皆さん、こんにちは。価格.com新製品ニュースの編集を担当している山野と申します。
価格.com新製品ニュースでは「発表されたばかりの製品の情報を素早く、かつ正確にお届けする」ことをモットーに、パソコン、家電、カメラ、スマートフォンなど幅広いジャンルの新製品情報をいち早く掲載しています。値下げやセールなどのお買い得情報も紹介しているので、価格.comマガジンとあわせて価格.com新製品ニュースもぜひチェックしてみてください。
ニュース記事の編集担当という業務上、筆者は日々、幅広い製品のニュースリリースを大量に目にしています。そのなかで今、特に注目しているのがミラーレスカメラです。
最新のミラーレスはAFや連写のスペックが飛躍的に向上しています。その性能の高さは価格.comのクチコミ掲示板でも報告されていて、「ピント合わせはカメラが全部やってくれるのでシャッターボタンを押すだけで撮れる」とか「超高速で連写できるので動く被写体の決定的な瞬間が簡単に撮れる」といった実ユーザーの意見が見られるほど。こうしたユーザーの声からは、「最新のミラーレスは非常に使いやすい」「動く被写体が撮りやすい」というのが伝わってきます。ただ、カメラ初心者にとっても使いやすく進化しているのでしょうか?
今回、その疑問を晴らすために、カメラ初心者の筆者がニコンの新型「Z6III」を使ってブルーインパルスの撮影にチャレンジしてみました。その結果をレポートしたいと思います。
左が筆者(山野)で、右が今回の撮影をサポートしてくれた価格.comマガジン「カメラ」カテゴリー担当の真柄。真柄に「かっこよく撮ってください!」とリクエストしたら、今回の撮影場所(多摩川)から武蔵小杉のマンション群を背景にしたシュールな写真に(笑)。真柄のプロフィール写真は、撮影位置やアングルなどを細かく指示されながら筆者が撮っています
ここからは、カメラ初心者としてブルーインパルスの撮影にチャレンジした筆者(山野)と、撮影をサポートした価格.comマガジン「カメラ」カテゴリー担当の真柄による会話形式で進めていきます。
真柄さん、相談があります。今度川崎の上空でブルーインパルスが飛ぶので(※)写真を撮ってみたいんですけど、「カメラ初心者でもブルーインパルスが簡単に撮れるカメラ」ってありますか? ありますよね! 貸してください!
※2024年6月29日に開催された、神奈川県川崎市の市制100周年を記念したイベント「かわさき飛躍祭」にて、航空自衛隊のアクロバット飛行隊「ブルーインパルス」が展示飛行を行いました。
ずいぶん乱暴なオーダーですね(笑)。ブルーインパルスですか……、超高速(最速度マッハ約0.9km:1040km/h)でアクロバット飛行をするジェット機なので、空港で旅客機を撮るのとはわけが違いますよ。初見ではかなり難しいと思いますが、最新のミラーレスなら対応できるかも。ちょうど今、編集部にニコンの「Z6III」の試作機が届いているので使ってみますか?
「Z6III」!? 今月発売(7月12日発売)の話題のフルサイズ機じゃないですか。価格.com新製品ニュースでは、発表当日のアクセスランキングが総合1位でしたよ。ただ、「Z6III」ってカメラに詳しい人が使う中級機ですよね? カメラ初心者の私でも使いこなせますか?
飛行機専用の被写体検出機能を搭載しているので、初心者でも簡単に使えますよ。むしろ、飛行機など動く被写体を撮るときはカメラのグレードが高いほうが使いやすいと思います。初心者がどこまで撮れるのかの検証になりますし、面白そうですね。ぜひ使ってみてください。
私が初心者代表で試してみるってことですね。わかりました! ちなみに、私のカメラ歴は
・過去にエントリー向けのミラーレスを持っていたことがある
・絞り優先などの難しい撮影モードは使ったことがない(フルオート限定)
・飛行機など動く被写体を撮った経験はない
・現在、写真/動画はすべてスマートフォンで撮っている
といった感じです。
一眼カメラを使ったことはあるけどマニュアル撮影や動体撮影の経験はないんですね。そういった人も多いでしょうし、いい具合の初心者だと思います。
ブルーインパルスの撮影は、筆者ひとりでは心もとないため、真柄のサポートを受けながら行いました。
撮影場所は、ブルーインパルスの飛行ルート上にある多摩川の河川敷。上空の視界が広いほうが撮りやすいとのことで、この場所を選んでいます。天気はあいにくの曇りでした。
当日、真柄から「今日はこの組み合わせで撮ってください」と渡されたのは、超望遠ズームレンズ「NIKKOR Z 180-600mm f/5.6-6.3 VR」を装着した「Z6III」でした。
(カメラを持ちながら)思ったよりもレンズが大きいです。結構ずっしりきますね。
ブルーインパルスは近くを飛ぶとはいえ、被写体の大きさはかなり小さいので、このくらいの超望遠ズームレンズでないと撮れないんですよ。ただ、これでもまだ画角は足りないと思います。
(カメラをホールドしながら)持ったときは大きく感じましたが、実際にカメラを構えてみると、グリップがしっかりしていて握りやすいですね。
それも中上級機の特徴ですね。撮影しやすいように工夫されています。
「Z6III」に超望遠ズームレンズ「NIKKOR Z 180-600mm f/5.6-6.3 VR」を装着。手持ちで撮影するため三脚座リングは外しています。カメラとレンズを組み合わせた総重量は約2715g(カメラ:約760g、レンズ:約1955g フード未装着時)。真柄によると、3kgを切る重量で600mmmに対応できるのは、フルサイズの超望遠システムとしては十分に軽いとのこと
(カメラの電源を入れてファインダーを覗きながら)おー! すごい遠くが大きく見えます(笑)。ファインダーもすごいきれいですね。(レンズのズームリングを操作しながら)ズームもレンズが飛び出さないので使いやすそう。
ジェット機の撮影はシャッタースピードなどの調整が難しいので、私のほうであらかじめ設定をしておきました。
今回の撮影設定
露出:マニュアル露出
シャッタースピード:1/3200秒
絞り値:F8
AF:画面全域での被写体自動検出(飛行機検出)+AF-Cでの自動追従
連写設定:最高約20コマ/秒(電子シャッター)
感度:オート感度
マニュアル露出で撮れるのか不安ですが、それよりも気になるのが、オート感度で大丈夫ですか? 感度上がりすぎてノイズが乗りません?
さすが新製品ニュースを担当しているだけあっていい質問です。確かに、感度が上がるとノイズが増えますが、最新のミラーレス、特にフルサイズミラーレスは高感度でもノイズが少ないですよ。特に日中の明るい状況だと高感度ノイズはあまり目立たないので、動く被写体を撮るときは感度をガンガン上げて大丈夫です。
「Z6III」など最新のフルサイズミラーレスは高感度でもノイズの少ない画質を実現しているため、日中の動体撮影時はオート感度で撮っても問題ないとのこと
あと、電子シャッターって歪みが出るって聞きますけど……。
よくご存じで(笑)。確かに、電子シャッターは被写体の歪みが目立つことがありますが、「Z6III」は、歪みを十分に抑えられるように、高速処理が可能な部分積層型センサーを搭載しているので大丈夫。カメラを素早く、かつ大きく振ったときはさすがに歪みが出ますが、普通の撮影なら気にしなくていいですよ。
「NIKKOR Z 180-600mm f/5.6-6.3 VR」は、AFでピント合わせを行う範囲を切り替えることができます。今回は遠くの被写体を撮るため撮影距離を6m以上に制限してAF動作の高速化を図りました
撮影に際して真柄から事前に以下の点をアドバイスされました。
・焦点距離600mmの超望遠固定で撮る(ズーム操作は行わない)
・画面全域で被写体を検出し続けてくれるので、とにかく画面から被写体が外れないように追いかける
・旋回しながら上空を何度か飛行するので、機体が近づいてくるタイミングを逃さないように集中する
アクロバット飛行を開始する予定の14時20分すぎ、ブルーインパルスの機体が遠くに現れました。とにかく被写体を画面の中に収めることを意識しながら撮影をスタート。真柄には、HDMIケーブルで接続した外部のレコーダーで撮影状況を記録・チェックしてもらいました。
(ファインダーを覗きながら)遠くにブルーインパルスが見えています。かなり小さいですが、しっかりと被写体を検出しています。すごい! ファインダーも明るくてめちゃめちゃ見やすいです。
今はまだ遠くにいますが、あっという間に上空を横切るので、油断しないでください。
「Z6III」は、「人物」「動物(犬/猫/鳥)」「乗り物(車 /バイク/自転車/列車)」「飛行機」の被写体検出に対応しています
今回試した限りでは、機体がかなり小さい状態でも検出して自動でピントを合わせ続けてくれました。複数の機体を検出した場合はユーザーがどの被写体にピントを合わせるかを選択できます
(徐々に近づいてくるブルーインパルスにシャッターを切りながら)被写体の認識率が高いですね、ピントが外れない。連写もすごい。ババババッと速い! あと、連写時でもファインダーが見やすいですね。メガネをかけていても周辺まで見えますし、連写中でも画面が全然ブラックアウトしないですよ。
最高約20コマ/秒連写時は、滑らかなファインダー表示で見やすいですね。上位機に匹敵する見えのよさだと思います。メガネをかけていても画面の隅まで確認できるように、ファインダーの表示サイズを小さくしておきました。
メガネユーザーにうれしいのがファインダーの表示サイズを小さくできること。ニコンのミラーレスカメラでは上位モデルにこの機能が搭載されています
(さらに近づいてくるブルーインパルスを追いながら)このくらいのスピードなら余裕で追えますよ! 余裕余裕!
近くにくると角度が付いて一気に上空を抜けていくので油断しないで! 集中!
(上空を超高速でブルーインパルス飛行していく)あ、あれ……、無理無理無理……、全然追えてなかったようなな……。
追えてなかったですね(笑)。
上空を通過するブルーインパルスを撮影している筆者。いい感じでカメラを構えているように見えますが、1回目は全然撮れませんでした……
このくらいの距離ならある程度画面に収められましたが……
近づいてくるとうまくフレーミングできず……
こんな感じで外しまくり……
上空を駆け抜けたときは画面から機体が完全に外れた写真を連発してしまいました……
ブルーインパルスの飛行速度を甘くみていました。最も近づく上空ではめちゃくちゃ速く、画面の中に機体をうまく収められませんでした。
1回目の飛行・旋回後、2回目の飛行まで少し時間があったため、真柄から「カメラの性能のうんうんではなく、使い方でいくつか気をつけてほしいことがあります」として、以下の3点をアドバイスされました。
1.シャッターボタン半押しをキープする
シャッターボタンを全押ししてシャッターを切った後に、シャッターボタンを完全に放してしまっているので、都度AFがやり直しになっている。シャッターボタンは「半押し」と「全押し」を繰り返すようにすると、AF追従がキープされるのでもっとスムーズに撮れる。
2.連写し続ける
シャッターボタンを押している時間が短く連写を躊躇しているようなので、遠慮せずに押し続ける。
3.立ち方を工夫する
機体の移動方向に体を無理に動かすと、どうしても軸がぶれてしまうので追いにくい。機体が抜けていく方向に正対し、体をひねった状態で待機しておく。
シャッターボタン半押しってどうやるんですか? (真柄から指導を受けながら)ああ、なるほど、この途中の位置でボタンをキープしながら撮影したいときに全部押して、またこの状態(半押し)に戻せばいいんですね。
中上位機はシャッターボタンの半押し位置と全押し位置がわかりやすいので、切り替えやすいですよ。これも初心者向けのエントリー機とは違う部分です。
確かに感覚的にわかりやすいです。あと連写ってそんなに続けて大丈夫ですか? 肝心なときに処理ができず、シャッターが切れなくなりません?
「Z6III」はバッファー容量が多く、高速なCFexpress Type Bメモリーカードにも対応していて連写が長く続けられるので大丈夫。最高約20コマ/秒の設定なら目いっぱい連写しても全然問題ないですよ。スペック上は1000枚以上連写できます。
「Z6III」は電子シャッター時に超高速連写が可能。今回は、ファインダーの見やすさと連写の持続性を考慮して最高約20コマ/秒に設定したとのことです
2回目の飛行は、真柄のアドバイスを参考に、シャッターボタン半押しなどを意識しながら行いました。動き方がある程度予測できるようになったこともあって、それなりに追いかけながら撮ることができたと思います。
3回目の飛行・旋回の前に、真柄から追加で以下のアドバイスがありました。
1.狙った機体を選択する
複数の機体を同時に検出しているときは、どの機体にピントを合わせるのかを背面のサブセレクターで選択できる。できれば先頭の機体にピントが合うように操作してほしい。
2.真ん中で追いかけすぎない
常に画面の中央に被写体が来るように追いかけているが、横や縦、斜めの動きが予測できるのなら、カメラを少しだけ動かさない時間を作ってほしい。それを意識すると構図が決まりやすい。
3.縦位置撮影も試す
縦位置での撮影にもチャレンジしてほしい。機体が編隊を組んでぐるっと旋回するときは縦位置だとかっこよく撮れる。
シャッターボタン半押しが初経験ということもあって1を実践する余裕はありませんでしたが、3回目以降の飛行・旋回では、頑張って2と3にチャレンジしてみました。そうこうしながら、計5回の飛行・旋回で撮った写真は計約4000枚! そのなかから、比較的うまく撮れた写真をいくつか紹介します。
上空を高速で飛行する機体を大きく撮れました
編隊を組んでいる状況を画面いっぱいに収められました
カメラの動きを止めることを意識して撮影した1枚。スモークが長く、躍動感のある写真になったと思います
4機を画面いっぱいに撮れました
旋回時に縦位置に構え直して撮ってみました
真柄さん、どうですか? 初めてにしては結構うまく撮れたと思うのですが?
カメラの性能のおかげですね(笑)。全体的に逆光だったのが残念ですが、初めてにしてはよく撮れていますよ。今回は思った以上に機体が遠かったですね。テレコンバーターがあればもっと大きく撮れるので、次回はテレコンバーターを使ってチャレンジしてみましょう!
今回の撮影時間は約20分と短い時間でしたが、「Z6III」の性能の高さに驚きました。AFは被写体(ブルーインパルスの機体)を検出し続けてくれましたし、連写はものすごく速かったです。しかも、ずっと連写できます! すごい! 「下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる」というのもあながち間違っていない(笑)。動く被写体は中上級機のほうが撮りやすいというのも納得で、初心者でも十分に使いこなせると思いました。人物の検出精度も高く、子どもの運動会の撮影にも活用できるとのことなので、購入を検討します(がんばって貯金します)!
山野さんがシャッターボタン半押しを使ったことがなかったのは少しびっくりしましたが(笑)、そんな初心者でも「Z6III」の高性能AFと高速連写があればブルーインパルスをそれなりに撮れると感じました。ニコンの被写体検出機能は優秀なので、初心者はカメラ任せのピント合わせで問題ありませんし、むしろカメラ任せのほうがうまくいきます。狙った構図で撮ったり、瞬時に構図を変えたりするには経験が必要ですが、このカメラで飛行機や動物などの動体撮影デビューもありだと思います。
結論:「Z6III」は初心者でも使いやすい! 経験を積めばもっとうまく撮れる(はず)!
「Z6III」の2024年7月4日時点での価格.com最安価格は約40万円(税込)。初めての一眼カメラとしては高額ですが、真柄によると「本格的な動体撮影用のカメラとしてはコストパフォーマンスが高い」とのこと。
最初に、このくらい高性能なカメラを手に入れておけば、長く使うことができると思います。中級機ではありますが、飛行機や動物などの撮影にチャレンジしたい! と考えている初心者の人にもぜひ注目してほしいカメラです。