水族館は幻想的で写真撮影の被写体としても非常に魅力的。天候に左右されずに撮れるのもいいところだ。ニコンの人気ミラーレスカメラ「Z50II」を使って、撮影テクニックを磨くのにも最適な水族館撮影のコツやポイントを解説していく。
今回使用したのは、小型・軽量なAPS-Cミラーレス「Z50II」。薄型の標準ズーム「NIKKOR Z DX 16-50mm f/3.5-6.3 VR」装着時は、片手に乗る軽やかさだ
掲載する写真作例について
写真はすべてJPEG形式(最高画質)で撮影しています。
水族館の水槽は暗所に置かれていることが多く、魚をはじめとした生き物たちも予測しづらい動きをする。そういった意味では、水族館での撮影で最初に意識したいのが、主題となる魚たちをぶらさず、ピントを合わせて撮ることだ。この作業を、露出を合わせながら行っていくのだから簡単ではない。
水槽はきれいでいろいろな魚が泳いでいるが、慣れないうちは1匹の魚に焦点を当て、写す要素を絞ることも大事。そのうえで、ブレ、ピンボケ、露出の3要素に注意を払ってみたい。
Z50II、NIKKOR Z DX 16-50mm f/3.5-6.3 VR、21mm、シャッター優先オート、F4、1/250秒、ISO6400、ホワイトバランス:オート、ピクチャーコントロール:ビビッド
全体をとらえるだけでは記録写真にしかならない。色鮮やかな被写体が多く目移りしてしまいがちだが、撮影には冷静さも必要だ。
Z50II、NIKKOR Z DX 16-50mm f/3.5-6.3 VR、21mm、シャッター優先オート、F4、1/250秒、ISO6400、+0.3EV、ホワイトバランス:オート、ピクチャーコントロール:ビビッド
今回使用した「Z50II」は小型・軽量ながらも最新機能がぎゅっと詰まったAPS-Cミラーレス。AF性能は上位モデルから継承し、9種類の被写体検出が可能だ。有効画素数は2088万画素。常用感度の最高値はISO51200で、暗所での撮影にも強い。
水族館はあまりひとつの場所にとどまっているとじゃまになる。要領よく軽快に撮り進めることが大事で、これは意外とスポーツ撮影に似ている。「Z50II」のような小型のAPS-C機はその操作性を含め非常に扱いやすく、“水族館向け”なのである。
今回携帯したレンズは、標準ズームレンズ「NIKKOR Z DX 16-50mm f/3.5-6.3 VR」のほか、単焦点レンズの「NIKKOR Z 35mm f/1.4」「NIKKOR Z MC 50mm f/2.8」の計3本。後述するが、水族館は暗い場所が多いため、なるべく明るいレンズが重宝する
なお、「Z50II」に以下のレビュー記事もあわせてご覧いただきたい。
では、おすすめのカメラ設定から見ていこう。
まずは動く被写体をぶらさないように、Sモード(シャッター優先オート)を使ってシャッタースピードを固定しよう。目安は1/400秒前後の高速シャッター。1/200秒より遅くなると動く魚はブレやすくなる。シャッタースピードは速いにこしたことはないが、あまり高速にすると、その分感度を上げなくてはいけなくなるので注意したい。
Z50II、NIKKOR Z DX 16-50mm f/3.5-6.3 VR、36mm(35mm判換算54mm相当)、シャッター優先オート、F5.3、1/200秒、ISO2500、-0.3EV、ホワイトバランス:オート、ピクチャーコントロール:オート
水族館の撮影ではオート感度(ISOオート)が圧倒的に便利だ。感度をその都度変える手間が省けるため、水槽ごとに変化する明るさにも対応しやすい。開放絞り値の大きな暗いレンズを使う場合、高速シャッター利用時の露出は、感度を上げてカバーする必要があるが、そうした場面でも自動で感度を上げてくれるのでスピーディーに撮影を進められる。
今回の撮影はすべてオート感度で撮影している。なお、撮影時に感度が必要以上に上がってしまう場合は、オート感度利用時の上限設定の項目を事前に低く設定しておこう。
Z50II、NIKKOR Z MC 50mm f/2.8、50mm(35mm判換算75mm相当)、シャッター優先オート、F3.5、1/200秒、ISO3200、-0.3EV、ホワイトバランス:オート、ピクチャーコントロール:オート
オート感度と併用することが前提となるが、撮影に慣れてきたらMモード(マニュアル露出)で撮るのもおすすめだ。シャッタースピードも絞り値も、シーンに合わせて直感的に同時並行で変更できる。シャッタースピードと絞り値を変更したことで生じる露出の変化は、オート感度によって自動調整される仕組みだ。
マニュアルモードを使うことで、背景ボケと被写体ブレの両方を同時に意識しながらカメラ側の設定が行える。Mモードは敷居が高いイメージもあるが、水族館ではおすすめの撮影モードだ。
Z50II、NIKKOR Z MC 50mm f/2.8、50mm(35mm判換算75mm相当)、マニュアル、F3.3、1/250秒、ISO2000、-0.3EV、ホワイトバランス:オート、ピクチャーコントロール:風景
ぶらさずに撮ることと同じくらいに重要なのがピンボケへの対応だ。水族館の撮影では、動く被写体向けにフォーカスモードをコンティニュアスAF(AF-C)にし、被写体検出機能を有効にしよう。今回使用した「Z50II」では、被写体検出を「動物」に設定した。フォーカスエリアは全エリアを対象にするのがおすすめ。画面全体で狙った被写体がとらえられる。追尾AFも有効だ。
水中の生き物は基本的に動いていて、かつ水槽による反射や歪みなどもあって元来ピントを合わせづらいのだが、昨今のAF性能の目覚ましい進化によって、こうした被写体もずいぶん撮影が楽になった。
Z50II、NIKKOR Z MC 50mm f/2.8、50mm(35mm判換算75mm相当)、シャッター優先オート、F3.3、1/200秒、ISO4000、-0.3EV、ホワイトバランス:オート、ピクチャーコントロール:オート
最近の水族館は照明に凝っていて、水槽ごとに個性がある。色のばらつきも少ないところが多い。ひと昔前であれば、状況にあわせてホワイトバランスを白熱灯や蛍光灯などに手動で設定する必要があったが、性能が向上した最新のミラーレスでは、オートホワイトバランス(AWB)を使ったほうが自然で撮影しやすい場面が増えた。
ここまでに掲載した作例はすべてAWBで撮影している。基本はAWBを利用し、状況に応じてWB補正などで微調整するのもいいだろう。水槽は透明感のあるブルートーンも特徴的。こうした幻想的な色合いも意識しながら、ホワイトバランスは決めていこう
なお、仕上がり設定(ニコンの場合は「ピクチャーコントロール」)は、風景やビビッドなど彩度が高いモードがおすすめだ。鮮やかな色が強調されて、被写体をより印象的に表現できる。
Z50II、NIKKOR Z 35mm f/1.4、35mm(35mm判換算52.5mm相当)、シャッター優先オート、F1.4、1/400秒、ISO280、ホワイトバランス:オート、ピクチャーコントロール:ビビッド
水族館は、暗いシーンでの撮影が多くなることもあって、開放絞り値の小さな明るいレンズほど撮影しやすく表現の幅も広がる。マクロレンズも明るいものが多く、被写体に寄れて撮れるため重宝する。いっぽう、水槽では手前の被写体を狙うことが多いため、望遠域を使う機会は少ない。基本は中望遠までカバーできれば十分。イルカショーなどを撮るのであれば、望遠ズームレンズは必須となる。
今回の撮影では、開放絞り値F1.4の「NIKKOR Z 35mm f/1.4」が最も使いやすかった。明るい単焦点レンズがあると、暗い水槽でも絞りを開くことで、高速シャッターを維持したまま、低感度で撮影できる。
Z50II、NIKKOR Z 35mm f/1.4、35mm(35mm判換算52.5mm相当)、シャッター優先オート、F1.4、1/250秒、ISO180、-0.3EV、ホワイトバランス:オート、ピクチャーコントロール:風景
水族館で撮れ高を増やすには、数ある水槽のなかで、“最も撮りやすい水槽”を見つけ出すことが大事だ。まずは、ロケハンを兼ねて軽く一周し、水族館の特徴を把握しよう。そのうえで、気に入った水槽を重点的に回ってみてほしい。この際、意識したいのは以下の2点だ。
水族館では必ず明るい水槽がひとつはあるものだ。特に明るく大きな水槽は狙い目。美しく印象的な照明の当たっている場所もうまく活用したい。大きな水槽は、広く撮ったり、主題を限定して寄って撮ったりと、さまざまな撮り方ができるのも魅力だ
なお、水槽の反射が気になる場合は、レンズをなるべく水槽に近づけてみたり、角度を変えてみたりしてみよう。
Z50II、NIKKOR Z 35mm f/1.4、35mm(35mm判換算52.5mm相当)、シャッター優先オート、F1.4、1/400秒、ISO250、+0.3EV、ホワイトバランス:オート、ピクチャーコントロール:ビビッド
水族館の魚は白や黒色のものも多く、こうした被写体ばかり撮っていると描写に変化がつきにくい。赤や黄色などの色鮮やかな魚や、特徴的な模様の入った魚などを意識的に狙ってみよう。
以下の作例は、鮮やかな色と模様が印象的なクマノミを撮影したもの。サイズが小さく上級者向きだが、写真映えするのでぜひ狙いたい被写体だ。
Z50II、NIKKOR Z 35mm f/1.4、35mm(35mm判換算52.5mm相当)、マニュアル、F1.4、1/320秒、ISO360、+0.3EV、ホワイトバランス:オート、ピクチャーコントロール:ポートレート
水族館での撮影には心の余裕も必要だ。生き物はどれも魅力的なのだが、ピントやブレばかりを気にしていると、仕上がりがワンパターンになってしまう。後で見返したときに、日の丸構図でとらえた魚の写真ばかりだった、なんてことにならないようにバリエーションを残したいところだ。ここでは視点を広げるためのアイデアを紹介したいと思う。
水族館の水槽は泳ぐ生き物だけでなく、珊瑚や岩など、周辺のオーナメントも被写体として魅力的だ。空間自体がすてきな場所では、先に構図を決め、そこに生き物たちがやってきたタイミングでシャッターを切るとより広がりのある仕上がりになる。
以下の3枚の作例は、上記の内容を意識して撮影したもの。魚だけでなく周囲にも目を向けられると、水族館では無限に撮れる。水槽の反射をアクセントとして活用しても面白いだろう。
Z50II、NIKKOR Z 35mm f/1.4、35mm(35mm判換算52.5mm相当)、マニュアル、F1.4、1/400秒、ISO500、-0.3EV、ホワイトバランス:オート、ピクチャーコントロール:トイ
Z50II、NIKKOR Z MC 50mm f/2.8、50mm(35mm判換算75mm相当)、マニュアル、F3.2、1/320秒、ISO800、ホワイトバランス:オート、ピクチャーコントロール:風景
Z50II、NIKKOR Z 35mm f/1.4、35mm(35mm判換算52.5mm相当)、マニュアル、F1.4、1/400秒、ISO1000、+0.3EV、ホワイトバランス:オート、ピクチャーコントロール:リッチトーンポートレート
Z50II、NIKKOR Z 35mm f/1.4、35mm(35mm判換算52.5mm相当)、マニュアル、F1.4、1/320秒、ISO4000、-0.3EV、ホワイトバランス:オート、ピクチャーコントロール:ポートレート
水族館ではカメラアングルも重要で、特に上から自然光が入るような空間では、見上げる視点で水槽をとらえてみよう。広がりのある開放的な視点で描写できる。
Z50II、NIKKOR Z DX 16-50mm f/3.5-6.3 VR、38mm(35mm判換算57mm相当)、シャッター優先オート、F5.6、1/200秒、ISO14400、-0.3EV、ホワイトバランス:オート、ピクチャーコントロール:オート
Z50II、NIKKOR Z MC 50mm f/2.8、50mm(35mm判換算75mm相当)、シャッター優先オート、F3、1/400秒、ISO1800、+0.3EV、ホワイトバランス:オート、ピクチャーコントロール:ビビッド
ホワイトバランスを意図的に変えてブルートーンにしてみたり、仕上がり設定やフィルター機能を活用したりしてみるのも、新しい視点が見つけられて楽しい。撮ることで精一杯で設定変更している余裕がなければ、RAWで撮っておいて後で画像編集するのもいいだろう。
Z50II、NIKKOR Z MC 50mm f/2.8、50mm(35mm判換算75mm相当)、シャッター優先オート、F3.8、1/400秒、ISO2200、+0.3EV、ホワイトバランス:電球、ピクチャーコントロール:ビビッド
Z50II、NIKKOR Z 35mm f/1.4、35mm(35mm判換算52.5mm相当)、マニュアル、F1.4、1/250秒、ISO1250、-0.3EV、ホワイトバランス:オート、ピクチャーコントロール:ブリーチ
水族館は本当にさまざまな生き物であふれている。魚ばかりではなくいろんな被写体を狙うようにしよう。
水族館でエイは人気の生き物。大きいので撮影しやすい。横から狙ってもいいが、お腹の見えるアングルから撮るのも迫力がある。
Z50II、NIKKOR Z DX 16-50mm f/3.5-6.3 VR、16mm(35mm判換算24mm相当)、シャッター優先オート、F3.5、1/320秒、ISO800、ホワイトバランス:オート、ピクチャーコントロール:オート
クラゲは被写体として魅力的だが、結構難敵。暗い場所に展示されていることが多く、感度をかなり上げる必要がある。ピント合わせも難しい。なるべく光の当たっている明るいクラゲを選んで撮ろう。明るい単焦点レンズが撮影しやすい。
Z50II、NIKKOR Z 35mm f/1.4、35mm(35mm判換算52.5mm相当)、マニュアル、F1.4、1/250秒、ISO9000、-1.0EV、ホワイトバランス:オート、ピクチャーコントロール:ビビッド
水族館によってはトカゲなどの爬虫類がいるところもある。爬虫類は動きが少なく撮りやすい。構図を吟味しながら撮影してみよう。
Z50II、NIKKOR Z 35mm f/1.4、35mm(35mm判換算52.5mm相当)、マニュアル、F3.5、1/250秒、ISO2500、-0.3EV、ホワイトバランス:オート、ピクチャーコントロール:トイ
水族館は暗くて狭いスペースも多い。たくさんの人たちが見にきているので撮影時はマナーを守って楽しく撮ろう。まず、撮影では三脚は禁止になっている場所がほとんど。フラッシュも同様だ。AF補助光は意外と忘れがち。事前に無効にしておきたい。
写真映えする水槽は、人気があって混んでいることも多い。撮影時は居座らずにテンポよく撮影しよう。人のいないタイミングを狙って何度か出向くのもいいだろう。
機材を多く持ち込むこともなるべく避けたい。コンパクトに動きやすい格好がいい。大きなレンズを取り付けたカメラは周囲の人(特に子ども)にぶつける心配がある。暗いため、特に注意したい。
大きな水槽では見ている人をシルエットにして撮るのもいい。これはクラゲの水槽などでも試せる
Z50II、NIKKOR Z 35mm f/1.4、35mm(35mm判換算52.5mm相当)、シャッター優先オート、F1.4、1/250秒、ISO360、-1.0EV、ホワイトバランス:白色蛍光灯、ピクチャーコントロール:ビビッド
今回は水族館の撮影テクニックを見てきたが、いかがだっただろうか。水族館では暗所で動く被写体を撮るテクニックが必要で、かつ露出の決定や光の見方も難しい。構図への意識も重要になる。つまり、撮影テクニックを磨くのに最適な空間でもあるのだ。
最近は非常に手の込んだ水族館も増え、各所で人気の観光スポットになっている。私が撮影に行った日もすごい混雑ぶりだった。そういった意味では、比較的空いていそうな時間帯や曜日を狙っていくのもひとつ。生き物のコンディションもあるが、やはり平日の午前中がいちばんの狙い目だろう。
被写体としての水族館は、はまるとなかなか抜け出せない。とても楽しい異空間なのである。