富士フイルムは2025年5月22日、「Xシリーズ」の新モデルとして、非常に個性的な特徴を持つコンパクトデジタルカメラ「X half」(製品名:FUJIFILM X-HF1)を発表した。往年のハーフサイズカメラをモチーフに、フィルムカメラのような撮影体験を手軽に楽しめる工夫が散りばめられている。量産機をいち早く試すことができたのでレビューをお届けしよう。
・発売日:2025年6月下旬
・市場想定価格:108,000円(税別)
「X half」は、「Xシリーズ」のカメラらしく、クラシックな装いのデザインを採用。カラーバリエーションはチャコールシルバー、シルバー、ブラックの3色が用意される(※この画像はブラックモデル)
チャコールシルバーモデル
シルバーモデル
「X half」は、フィルムカメラのような撮影体験をデジタルで再現することをコンセプトに、これまでにはなかった発想で商品化されたコンパクトデジタルカメラだ。
このカメラならではの特徴はいくつもあるが、一般的なデジタルカメラと異なる点としてまず押さえておきたいのが、縦位置構図での撮影。1インチサイズ(13.3×8.8mm)の裏面照射型CMOSセンサーを縦向きに搭載することで、ハーフサイズカメラ(35mm判のフィルム1コマを左右2コマに分割する仕組みのカメラ)のように、カメラを横で構えたときに縦位置で撮れるように設計されているのだ。
ハーフサイズカメラと同様、カメラを横で持つと縦位置で記録される仕様だ。背面のメイン液晶モニターは3:4比の縦長タイプ(2.4型液晶、約92万ドット)。左側にはタッチ操作をサポートするサブ液晶モニターが備わっている
ハーフサイズフォーマットをモチーフにしているのはアスペクト比にも現れている。搭載するイメージセンサーのアスペクト比は2:3だが、記録される画像データ(JPEG形式のみ)はハーフサイズフォーマットに近い3:4(有効画素数は約1774万画素)。センサーの上下部分をあえて使わずに、3:4フォーマットを採用しているのだ。
後述する「2in1」機能や再生メニューの編集機能「1:1フレーム合成」を使えばほかのアスペクト比の画像を生成できるが、基本は3:4で固定だ。これにあわせて、背面のメイン液晶モニターも3:4の縦長アスペクト比を採用している。光学ファインダーも縦型という徹底ぶりだ。
縦型の光学ファインダーを搭載するのも特徴だ。倍率は約0.38倍、視野率は約90%。アイセンサーが備わっており、ファインダーを覗くと背面モニターが自動的に消灯する
光学ファインダー内を撮影した画像(※実際の見え方を再現したものではありません)。コンパクトなファインダーながらクリアな見えで、素通しの景色を存分に楽しめる。なお、ファインダー内に撮影情報を表示する機能は用意されていない。アイポイントが短いため、メガネ越しだと周辺までしっかり見渡せない点にも注意が必要だ
搭載するレンズにも富士フイルムらしいこだわりが詰まっている。35mm判換算で焦点距離約32mm相当の画角となる単焦点レンズ(開放絞り値F2.8)を採用しているが、これはレンズ付きフィルム「写ルンです」と同じ画角だ。スマートフォンのメインレンズ(広角レンズ)にも近い画角なので、気楽にシャッターを切るのに適していると言えよう。
さらに、コンパクトなレンズながら、絞りリングやフォーカスリングが備わっているのもポイント。富士フイルムのカメラらしくマニュアルの操作感を楽しめるように設計されているのだ。
焦点距離10.8mm(35mm判換算約32mm相当)のコンパクトな単焦点レンズを搭載。レンズ構成は非球面レンズ3枚を含む5群6枚。最短撮影距離(レンズ先端から)は約0.1m。ちなみに、レンズ部が赤く反射しているのはIRカットフィルターを前面に搭載しているため
AFフレームは1点のシングルポイント仕様で、画面中央固定とエリア選択(3×3の9点)が用意されている。この画像はエリア選択時の画面。フォーカス枠のサイズは固定。フォーカスモードはシングルAFとコンティニュアスAFから選べる
MF時のモニター画面。絞り値と撮影距離にあわせて被写界深度のバーが表示される仕様だ。1インチセンサーで被写界深度が比較的深いため、「X half」のMFは、きっちりピントを合わせるためのものではなく、ゾーンフォーカス用として利用するのがよさそうだ
富士フイルムのデジタルカメラらしく、仕上がり設定の「フィルムシミュレーション」を搭載。最新の「REALA ACE」を含めて計13種類のモードが用意されている
PROVIA/スタンダード、Velvia/ビビッド、ASTIA/ソフト、クラシッククローム、REALA ACE、クラシックネガ、ノスタルジックネガ、ETERNA/シネマ、ACROS、ACROS+Yeフィルター、ACROS+Rフィルター、ACROS+Gフィルター、セピア
X half、10.8mm(35mm判換算約32mm相当)、F2.8、1/950秒、ISO200、-1.0EV、ホワイトバランス:オート、フィルムシミュレーション:クラシッククローム
撮影写真(3648×4864、4.9MB)
X half、10.8mm(35mm判換算約32mm相当)、F2.8、1/1400秒、ISO200、-0.3EV、ホワイトバランス:オート、フィルムシミュレーション:PROVIA/スタンダード
撮影写真(3648×4864、9.1MB)
X half、10.8mm(35mm判換算約32mm相当)、F2.8、1/2000秒、ISO200、-0.3EV、ホワイトバランス:オート、フィルムシミュレーション:Velvia/ビビッド
撮影写真(3648×4864、10.7MB)
X half、10.8mm(35mm判換算約32mm相当)、F2.8、1/240秒、ISO200、ホワイトバランス:オート、フィルムシミュレーション:クラシックネガ
撮影写真(3648×4864、5.8MB)
X half、10.8mm(35mm判換算約32mm相当)、F2.8、1/125秒、ISO400、ホワイトバランス:オート、フィルムシミュレーション:ACROS
撮影写真(3648×4864、8.9MB)
X half、10.8mm(35mm判換算約32mm相当)、F2.8、1/27秒、ISO1600、-1.7EV、ホワイトバランス:オート、フィルムシミュレーション:ACROS、グレイン・エフェクト(強度:強、粒度:大)
撮影写真(3648×4864、8.9MB)
ここまで見てきてもわかるように、「X half」は、シンプルかつコンパクトなデザインの筐体を採用している。サイズは105.8(幅)×64.3(高さ)×45.8(奥行、最薄部30.0mm)mmで、重量は約240g(バッテリー、メモリーカードを含む)。携帯するのが負担にならないサイズ感だ。
片手で楽々と持てる小型・軽量ボディ
ボディ上面。シャッターボタンと同軸の位置に露出補正ダイヤルを搭載。シャッターボタンの中央には、ソフトレリーズボタンを装着できるネジ穴が用意されている(※ケーブルレリーズは使用不可)。中央のシューは、電子接点のないコールドシュー仕様
操作性にも斬新な工夫が見られる。メニューを呼び出す物理ボタンは用意されておらず、基本的な操作は背面モニターのタッチ操作で行うように設計されている。ポイントはメイン液晶モニターの横に配置されているサブ液晶モニター。サブ液晶を活用することで、よりスムーズなタッチ操作を実現している。
具体的な例として、メインメニューの操作を紹介しよう。メインメニューは、メイン液晶を左にフリックすると呼び出せるのだが、このときサブ液晶を上下にフリックすることで、静止画設定、動画設定、画質設定(I.Q.メニュー)、フォーカス設定などの子メニューを切り替えられるようになっている。カメラをホールドしながら両手(メイン液晶は右手、サブ液晶は左手)で操作できるため、より直感的に設定を選択・変更できる。
メインメニューを呼び出して操作している様子。サブ液晶へのタッチ操作で子メニューを選択できるようになっている
メニューによってはサブ液晶に「×」が表示され、タップすることで選択を解除できるのも使いやすい点だ
撮影中はサブ液晶を上下にスワイプすると、仕上がり設定の「フィルムシミュレーション」を簡単に切り替えられる
「X half」の撮影機能では、特に、「フィルムカメラモード」という静止画撮影の新機能に注目してほしい。この機能は、撮影中の操作から撮影後の現像まで、「1本のフィルム」を使って撮影しているような体験を楽しめるというものだ。
以下に、「フィルムカメラモード」の特徴を個条書きでまとめる。フィルム撮影の再現を徹底的にこだわっていることがわかるはずだ。
・「フィルムシミュレーション」もしくはフィルター機能、撮影枚数(36枚/54枚/74枚)、撮影モードをあらかじめ選択・固定しての撮影
・感度は自動的にオート感度に設定される
・選択した枚数を撮り終わるまでカメラ本体では撮影画像を確認できない
・撮影中はモニターにライブビュー映像が表示されないため、ファインダーを覗いて撮影する
・フレーム切り替えレバーを引くことで次のシャッターが切れる
・選択した枚数を撮り終えたら、カメラとスマートフォンを接続して専用アプリ「X half」上でデジタル現像を楽しめる
・デジタル現像時にコンタクトシート(全コマのサムネイルを並べた確認用のシート)を模した一覧画像も同時に保存される
・現像後はアプリ上で撮影画像を表示・編集できる
「フィルムカメラモード」を使用するには、あらかじめ「フィルムシミュレーション」もしくはフィルター機能を選択したうえで、メインモニターを下にフリックして選択画面を呼び出す
「フィルムカメラモード」を選択した後に表示される初期設定画面。撮影枚数(36枚/54枚/72枚)や撮影モードなどを選択して「始める」アイコンをタップすると、「フィルムカメラモード」がスタートする
「フィルムカメラモード」に入ると、選択した枚数を撮り終わるまで、「フィルムシミュレーション」もしくはフィルター機能、撮影モード、感度(※自動的にオート感度に設定される)を固定した状態での撮影になる。メイン液晶にライブビュー映像が表示されない仕様になっているため、必然的に、光学ファインダーを覗いてシャッターを切る必要がある。
また、“現像するまで結果がわからない”フィルム撮影を再現しているだけあって、撮影した画像のプレビュー機能も利用できない。さらに、操作性では、ボディ上面右側に配置された、フィルム巻き上げレバーのような切り替えレバーを引くことで、次のシャッターが切れるというギミックを採用している。
なお、「フィルムカメラモード」は、サブ液晶をダブルタップすることで撮影をキャンセルできる。SDメモリーカードやバッテリーを抜いても強制的に終了される仕様だ。キャンセル・強制終了時でも、その時点までに撮影した画像データは記録されている。
「フィルムカメラモード」で撮影中のモニター画面。シャッターを切った回数が大きく表示されている。1コマごとにAF/MFを切り替えたり、日付スタンプの有無を選択したりすることはできる
上面右側に、フィルム巻き上げレバーのような切り替えレバーを搭載。「フィルムカメラモード」で撮影しているときは、このレバーを引くことで次のシャッターが切れる
選択した枚数を撮影した後は、スマートフォン用の新しい専用アプリ「X half」を使ってデジタル現像を体験できるのもユニークだ。デジタル現像は、ネガがポジに切り替わっていくような演出が行われるなど、かなり凝った仕様。コンタクトシートを模した一覧画像も保存される。現像が終わると、専用アプリの「フィルムギャラリー」からフィルムごとに画像を確認できるようになる。
カメラとスマートフォンを接続すると、専用アプリで、撮影を終えたフィルムの一覧を確認できる。この画面からデジタル現像を行いたいフィルムを選択する
デジタル現像中の様子(左がProvia、右がACROS)。1コマずつネガからポジに変わっていくような演出が面白い
デジタル現像が終了すると、アプリ上の「フィルムギャラリー」からフィルムごとに画像を確認・表示できる
なお、専用アプリのデジタル現像はあくまでも演出上のもの。実際、「フィルムカメラモード」で撮影した画像データは、通常記録用のフォルダー(DCIM)とは別の専用フォルダー(FPATR)内に作られた、フィルムごとのサブフォルダーに1コマずつ記録されている。コンタクトシートの画像データも、このサブフォルダーに格納される(※アプリでのデジタル現像が終了すると、通常記録用のフォルダーにフィルム別のサブフォルダーが追加され、データがコピーされる)。専用アプリでは、データ転送を行う間にデジタル現像の演出を行っているようだ。
コンタクトシートを模した一覧画像の例。フィルムのパーフォレーション部(送り穴部分)に、選択したフィルム「REALA ACE」を意味する名称(FUJI FNR)とコマ番号が印字されているのが芸が細かい。コンタクトシートのデータ自体は4790×7206ピクセルで記録されるため、そのままプリントしてみても面白いだろう。なお、この画像は、最大枚数(72枚)の半分(36枚)で撮影したため、コンタクトシートの下半分のブランク部分をトリミングしている
コンタクトシートの元データ(4790×3603、7.0MB)
「X half」には、もうひとつ「2in1」という、ユニークな撮影機能が搭載されている。この機能は、2枚の縦位置構図写真を組み合わせて1つの画像として記録するというもの。ハーフサイズカメラのような、2枚1セットの組写真を簡単に作成できる。
「2in1」は、1枚写真を撮影した後に、撮影フレーム切り替えレバーを引くと機能がオンになる。レバーを引くと直前に撮影した写真が自動的に右のフレームに配置され、続けて、左のフレーム用の撮影を行う仕組みだ。初期設定では右→左の撮影順だが、カスタム設定で逆(左→右)に変更することもできる。
「2in1」利用時の撮影画面。画面の上に「2in1」撮影中を示すアイコン(黒/白のアイコン)が表示される。「2in1」時の最大記録画素数は7296×4864(アスペクト比3:2)
さらに、「2in1」は、撮影した写真を選択して撮ることも可能。「フィルムシミュレーション」だけでなく、フィルター機能利用時にも利用できる。静止画2枚の組み合わせだけでなく、静止画×動画、動画×動画の組み合わせが可能なのも面白い。
また、専用アプリ「X half」にも「2in1」機能は用意されており、スマートフォンに転送した画像を自由に組み合わせられるようになっている。
専用アプリの「2in1」選択画面
「X half」は、仕上がり設定の「フィルムシミュレーション」以外にも、写真表現の幅を広げる撮影機能としてフィルター機能を搭載しているのも見逃せない。「ライトリーク」「ハレーション」「期限切れフィルム」という、フィルム独特の効果を再現した新フィルターを含めて計18種類が用意されている。「二重露光」など“チェキ”「instax」シリーズに採用されているものも利用できる。
トイカメラ、ミニチュア、ポップカラー、ハイキー、ローキー、ダイナミックトーン、ソフトフォーカス、パートカラー(レッド/オレンジ/イエロー/グリーン/ブルー/パープル)、ライトリーク、ハレーション、期限切れフィルム(グリーン/レッド/ニュートラル)、キャンバス、レトロ、ビネット、ぼかし、魚眼、色ずれ、ミラー、二重露光
※二重露光のみ「フィルムカメラモード」を利用できない
「期限切れフィルム」を選択して撮影している画面。「フィルムシミュレーション」と同様、サブ液晶のタッチ操作でフィルターを切り替えられる
レンジファインダーカメラの採光窓を模したデザインの内蔵LEDフラッシュを搭載。動画撮影時は、フラッシュをオンにすると常に点灯する仕様だ(※静止画撮影時の常時点灯は不可)
左側面にフラッシュのオン・オフを切り替えるスイッチを装備。その下に、デジタル入出力・充電用のUSB Type-C端子が配置されている
付属バッテリーは「Xシリーズ」の最新APS-C機と同じ「NP-W126S」。光学ファインダー使用時の撮影枚数は880枚
落下防止用のひもが付いたレンズキャップが付属する
・撮影感度:ISO200〜12800
・シャッター形式:レンズシャッター(※電子シャッター非対応)
・最速シャッタースピード:1/2000秒
・記録方式:JPEG(RAW非対応)
・静止画の最大記録画素数:3648×4864(3:4)、2in1記録時7296×4864(3:2)
・動画の記録画素数:1080×1440(3:4)、2in1記録時:2160×1440(3:2)
・記録メディア:SDXC/SDHC/SDメモリーカード(UHS-I対応)
・その他機能:日付入り撮影、「グレイン・エフェクト」、美肌レベル、顔検出/瞳AF、1:1フレーム合成、スライドショー動画作成、instaxプリンタープリントなど
再生メニューに用意されている「1:1フレーム合成」利用時の画面。撮影した静止画/動画の周囲にフレームを付けてスクエアフォーマットに変更する機能だ。2in1記録の静止画/動画にも対応。フレームの色は計10色から選べる
デジタルカメラは一般的に、性能を追求することで、より簡単・高画質に撮影できるように進化していくものだ。撮像素子や画像処理エンジンを刷新したり、最先端の技術を搭載したりすることで、より広いダイナミックレンジや、従来を上回る高速・高精度なAF、超高速な連写速度などを実現している。
「X half」は、こうしたデジタルカメラの進化の流れに沿って商品化されたカメラではない。撮影体験を高めるための工夫を徹底的に追求して作られたカメラである。縦位置構図での撮影が基本になうなるうえ、「1本のフィルム」の撮影体験を再現する「フィルムカメラモード」や、2枚1セットの組写真を簡単に作成できる「2in1」機能など、一般的なデジタルカメラでは楽しめない機能や仕掛けが満載だ。
細かいところでは、RAW記録に対応しておらず、JEPG記録のみに制限されているのもポイント。これは「撮って出しの色で撮影をとことん楽しんでほしい」という、富士フイルムからの提案だ。
スナップシューターに必要以上の性能はいらない。シンプルにシャッターが切れればよい。そう考えている人にとって、「X half」は最適解のひとつと言えるだろう。あれこれ考えずにスナップ撮影をとことん楽しめるカメラに仕上がっている。
発売日は2025年6月下旬で、市場想定価格は108,000円(税別)。スマートフォンとの連携を含めて、これまでのデジタルカメラにはない撮影を体験できることを考慮すると納得できる価格設定ではないだろうか。