2016年のデジタルカメラ市場は、4月に発生した熊本地震によって部品や一部製品の供給が滞り、新モデルの発売も延期になるなど苦難の1年だった。それでも各メーカーから画質や性能が進化した新モデルが数多く登場した。本記事では年末の特別企画として、2016年に発売になったカメラを振り返りつつ、2017年の展望を予想してみた。デジタル一眼レフ、ミラーレス、コンパクトデジカメに分けて「2016年の振り返り」と「2017年の予想」をお届けする。
オリンピックイヤーの2016年は、キヤノンとニコンのフラッグシップモデルがリニューアルとなり、春にキヤノン「EOS-1D X Mark II」とニコン「D5」が発売になった。いずれも、従来を上回る高性能なオートフォーカスや高速連写を実現した、フラッグシップにふさわしい最高峰の一眼レフである。サプライズだったのは、ニコンから、D5にあわせてAPS-Cモデルの最上位機「D500」が登場したこと。D5の153点AFシステムを継承したオートフォーカスや、持続性にすぐれた約10コマ/秒の高速連写などを実現し、名機「D300」の後継に位置付けられるハイエンドモデルとして高い評価と人気を得ている。
キヤノン EOS-1D X Mark II
ニコン D5
ニコン D500
ペンタックスブランド初となるフルサイズ機「K-1」が4月に登場したのもうれしいニュースだった。ペンタックスファン待望のモデルで、特に画質面での評価が高いのが特徴だ。ホールドしやすいグリップや、上下左右・斜めに自由に向きを変えられるフレキシブルモニターなど、ペンタックスらしいこだわりが随所に見られる傑作だ。
ペンタックス K-1
こちらもファン待望と言っていいだろう、11月に発売になったソニーAマウントの新しいフラッグシップモデル「α99 II」も注目を集めている。約4年ぶりのリニューアルで、79点の専用位相差AFセンサーと399点の像面位相差AFセンサーが同時に駆動する新しいAFシステムや約12コマ/秒の高速連写など、現時点でのαシリーズの最高性能モデルに仕上がっている(※α99 IIは透過ミラー構造とEVFを採用するデジタル一眼カメラで、光学ファインダーを搭載する一眼レフとは構造が異なりますが、本記事では便宜上、一眼レフに分類しています)。
ソニー α99 II
キヤノンのモデルでは、フルサイズ一眼レフの上位モデル「EOS 5D Mark IV」が秋に登場したのも大きなトピックだった。画質やオートフォーカス、連写など多くの点でハイレベルな性能を実現し、バランスのよい高性能フルサイズとして売れ筋ランキングの上位に位置する人気製品となっている。春に発売になったAPS-C機「EOS 80D」もコストパフォーマンスにすぐれる中級機として人気が高い。
キヤノン EOS 5D Mark IV
2016年のデジタル一眼レフは、キヤノンとニコンのフラッグシップ機に代表されるように、ハイエンドモデルに注目が集まる1年であったと言えよう。ペンタックスとソニーから新しいフルサイズ機がリリースされたのも大きなニュースであった。
フルサイズ機に目を向けると、2016年にD5以外で新しいフルサイズの投入がなかったニコンの動きに注目したい。現在のラインアップを見ると、2014年7月発売のニコン最高画素モデル「D810」、2014年9月発売のチルトモニター採用モデル「D750」、2013年10月発売のエントリーフルサイズ「D610」と、2013〜2014年に発売が集中している。順番的にはD610後継がリリースされるのは間違いないところだが、期待値が高いのは、2008年7月発売のフルサイズ機「D700」のようなモデルの登場ではないだろうか。D700は、当時のフラッグシップ「D3」の基本的な画質性能を搭載した高コストパフォーマンスなフルサイズとして人気を集めた。同じように、新しいフラッグシップであるD5の画質性能を受け継ぐモデルの登場に期待したい。このほか、マニュアル操作を重視した高品位フルサイズ「Df」の後継機というサプライズがあるとうれしい。
キヤノンは、EOS 5D Mark IVの下位に位置するエントリーフルサイズ「EOS 6D」の後継モデルに注目したい。EOS 6Dの発売(2012年11月)から4年以上が経過しており、おそらく2017年中に動きがあるだろう。現状のラインアップに新モデルが加わることも考えられるが、あるとすれば、EOS 6Dの後継次第ではないだろうか。ラインアップの中でEOS 6D後継モデルの位置付けが上がるようだと、さらにエントリー向けのフルサイズが追加されるかもしれない。
APS-C機では、ニコンは2016年に「D5600」と「D3400」を発売しており、上位モデルとなる「D7200」の後継が残されている状況。D500とのすみ分けを考えるとD7200の後継が2017年中に登場するかやや不透明なところもあるが、製品サイクル的には秋から冬ごろにリリースがあるかもしれない。
キヤノンは2016年にエントリーモデルとして「EOS Kiss X80」をリリースしたが、主力製品となる「EOS Kissシリーズ」の一桁型番モデルは登場しなかった。隔年のサイクルと想定すると、この春にEOS Kissシリーズの新モデルがリリースされるとみて間違いないだろう。あわせて「EOS 8000D」の後継も登場するはずだ。APS-Cのフラッグシップ「EOS 7D Mark II」のリニューアルも期待されるところだが、製品サイクル的に2017年中の発売はないと思われる。ただ、ニコンのD500に対抗する高速モデルとして予定を早めて登場する可能性もある。
このほか、ペンタックスからは「K-3 II」の後継、ソニーからは「α77 II」の後継が登場すると予想する。
フラッグシップ級のモデルが多く登場した2016年のミラーレスは、「ミラーレスの高性能・高速化」がさらに進んだ1年だった。どのメーカーもミラーレスの上位モデルについては、一眼レフのレスポンスに並び、追い抜くことを目標に技術革新を進めているが、2016年はそれが形になった1年と言っていいだろう。
2016年に発売されたミラーレスの中から注目度の高いモデルをピックアップすると、2月にオリンパス「PEN-F」、3月に富士フイルム「X-Pro2」、ソニー「α6300」、7月にシグマ「sd Quattro」、9月に富士フイルム「X-T2」、10月に「LUMIX G8」、11月にキヤノン「EOS M5」、12月にソニー「α6500」、シグマ「sd Quattro H」、オリンパス「OM-D E-M1 Mark II」が登場した。フラッグシップやハイエンドモデルのリリースが盛況だったのがポイントとなる。
富士フイルム X-Pro2
キヤノン EOS M5
ソニー α6500
オリンパス OM-D E-M1 Mark II
富士フイルムのダブルフラッグシップとなるX-Pro2とX-T2は、富士フイルムならではの高画質を進化させたうえで、オートフォーカスなどのレスポンスも改善し、高い評価を得ている。X-Pro2は「価格.comプロダクトアワード2016」のデジタル一眼カメラカテゴリーの金賞、ならびにカメラ部門の大賞を受賞し、「その年に価格.comユーザーにもっとも支持されたカメラ製品」に選ばれた。
キヤノンの最上位機となるEOS M5は、EOS 80Dなどと同じデュアルピクセルCMOS AF に対応することで、これまで弱点だったオートフォーカスを見直したモデル。EVFも内蔵し、操作性を重視した高性能なミラーレスとして登場した。
ソニーのAPS-Cミラーレスの上位モデルα6500/α6300は、高速連写・高速オートフォーカスを搭載したハイレスポンスモデル。α6500は、一眼レフのハイエンド機をも凌駕する、非常に高い連写持続性を実現した点で話題を集めている。
オリンパスのフラッグシップOM-D E-M1 Mark IIは、AF・AE追従で最高約18コマ/秒の高速連写(電子シャッター時)を実現。オートフォーカスや手ブレ補正、EVFも進化し、約3年ぶりの新しいフラッグシップとしてファンの期待に応えるハイエンドモデルに仕上がっている。
2016年にフラッグシップクラスのモデルが数多く登場したため、既存のミラーレスメーカーから高性能なモデルはそれほどリリースされないと思われるが、ソニーは違うだろう。2016年はフルサイズミラーレス「α7シリーズ」のリリースがない1年だったので、2017年に新モデルを複数投入するのは間違いない。現在のラインアップは最上位の「α7R II」を筆頭に、高感度耐性の高さと広ダイナミックレンジが特徴の「α7S II」と、コストパフォーマンスにすぐれる「α7 II」の第2世代が主力となっているが、α7 IIの後継モデルから登場する可能性が高い。また、かねてから噂されている、新型番のフラッグシップモデルがいよいよ発表されるかもしれない。
フラッグシップという点では、発売から約3年が経過するパナソニック「LUMIX GH4」の後継がリリースされるだろう。LUMIX GH4は、4K解像度での動画撮影機能をいち早く搭載し、高性能オートフォーカス・高速連写でも高く評価された。その後継がどのようなカメラに仕上がるのか期待して待ちたい。
その他メーカーではミドルレンジからエントリーの新製品が多くなるはずだ。富士フイルムからは「X-T10」や「X-E2」の後継、オリンパスからは「E-M5 Mark II」の後継が、それぞれフラッグシップの一部性能を引き継いだ形で登場すると思われる。キヤノンからは、「EOS M3」の後継か上位モデルが発表になるのではないだろうか。ニコンは、1インチセンサーを採用する「Nikon 1シリーズ」の新モデルを約2年間リリースしていないので、そろそろ動きがあるはずだ。
サプライズがあるとすれば、フルサイズセンサーを搭載する一眼レフをラインアップに持つキヤノンとニコンがフルサイズミラーレスをリリースすることだが、フルサイズ一眼レフのエントリーモデルが登場するであろう2017年中に大きな動きがあるとは考えにくい。両社とも検討はしていると思われるが、レンズマウントの問題や一眼レフとの差別化などの課題もあるため、あるとしてもまだまだ先の話になるのではないだろうか。
コンパクトデジカメは、1インチサイズのセンサーを搭載するモデルが主要メーカーの主力製品となっている。ここでは、1インチコンデジを中心に、2016年に登場した高級モデルのリリースを振り返りたい。
キヤノンは、プレミアムコンパクト「PowerShot Gシリーズ」を展開しているが、その新モデルとして、1インチコンデジの売れ筋だった「PowerShot G7 X」の後継機「PowerShot G7 X Mark II」を発売した。新しい映像エンジン「DIGIC 7」を搭載し、2016年に発売されたコンデジの中でも高い人気を誇るモデルとなっている。
キヤノン PowerShot G7 X Mark II
ソニーは、1インチモデルとして、315点像面位相差AFセンサーと最高約24コマ/秒の高速連写を実現したコンパクト機「サイバーショット DSC-RX100M5」と、光学25ズームレンズを搭載する高倍率ズーム機「サイバーショット DSC-RX10M3」をリリース。いずれも独自のメモリー一体積層型センサーを採用し、高速・高性能をウリにするモデルだ。4K動画撮影にも対応している。
ソニー サイバーショット DSC-RX100M5
パナソニックは、光学20倍ズームレンズ搭載の高倍率ズーム機「LUMIX FZH1」、開放F1.4レンズ搭載のコンパクトモデル「LUMIX LX9」、光学10倍ズームレンズ搭載の「LUMIX TX1」、Android OSを搭載するユニークな「LUMIX CM10」といった1インチモデル4機種をリリース。1インチコンデジのラインアップを拡充した。
パナソニック LUMIX FZH1
パナソニック LUMIX LX9
1インチコンデジ以外のところに目を向けると、価格.comでは、APS-Cサイズの大型センサーを搭載する富士フイルム「X70」の評価が高かった。特に、35mm判換算28mmの単焦点レンズとAPS-Cセンサーによる画質が評価され、「価格.comプロダクトアワード2016」においてデジタルカメラ部門の金賞を受賞している。
富士フイルム X70
このほか、フルサイズセンサーを搭載する高級コンデジの新モデル、ソニー「サイバーショット DSC-RX1RM2」は、α7R IIと同じスペックのセンサーとオートフォーカスシステムを採用し、市場想定価格43万円前後(税別)という価格でも話題を集めた。
販売台数などを見るとコンパクトデジカメの市場は年々縮小してきているが、その中では、高級モデルが比較的堅調に売れている。コンデジの高級路線はこれからも進むことは間違いなく、2016年と同様に、1インチコンデジがこの市場を引っ張る存在になるだろう。その中でも特に期待値が高いのが、ニコンの「DLシリーズ」だ。同社初の1インチコンデジとして、広角ズームレンズ搭載の「DL18-50 f/1.8-2.8」、標準ズームレンズ搭載の「DL24-85 f/1.8-2.8」、高倍率ズームレンズ搭載の「DL24-500 f/2.8-5.6」の3モデルが2016年2月に発表になり、大きな話題となった。その後発売が延期になり、12月時点でも発売日は未定となっているが、来年はいよいよ発売になるはずだ。
あわせて、APS-Cセンサーを採用する富士フイルム「X100T」や、1.5インチセンサー機のキヤノン「PowerShot G1 X Mark II」といった、1インチを超える大きさの大型センサーを搭載する後継機や新モデルの登場にも期待したいところだ。
2016年のデジタルカメラ市場は、一眼カメラ、コンデジともに販売台数としては厳しいところがあったが、一眼カメラについては一眼レフもミラーレスも注目の新モデルが数多く登場し、例年以上に盛り上がった1年だったと思う。一眼レフは各社から開発力の高さが感じられる製品が登場し、ミラーレスはフラッグシップやハイエンド機が数多く登場し、存在感を高めた。
2017年は、デジカメ市場全体としては引き続き縮小傾向になると予想されるが、その中でも注目なのはミラーレスだ。一眼カメラの中でシェアを伸ばしてるというだけでなく、2016年に登場したハイエンドモデルを見てもわかるように、一眼レフの上位機に匹敵する性能を持つようなモデルが多くなってきた。
数年前のミラーレスといえば、コンパクトで持ち運びやすいエントリー機が中心のラインアップであったが、今は違う。光学ファインダーなどまだまだ一眼レフが優位なところはあるが、一眼カメラ製品の中での存在感が増しているのは確かだ。ミラーレスについては2016年に多くのモデルが登場したため、2017年はリリースラッシュにはならないと思うが、その中で注目したいのがソニーのα7シリーズの新モデル。どんな先進的なモデルが登場し、話題を集めるのかに注目したい。
いっぽうの一眼レフも、2017年はハイエンド向けのモデルのリリースは少ないかもしれない。ただ、ニコンのフルサイズ機の動きには要注目。複数のモデルを投入し、ラインアップをリニューアルすることも考えられる。対するキヤノンもEOS 6Dの後継モデルの登場が期待されている。ニコンとキヤノンからエントリーフルサイズの新モデルが発売になれば、大きな話題となり、フルサイズ一眼レフへの買い替え需要が高まるはずだ。
コンデジは一眼カメラよりも厳しい状況が続くだろうが、製品としてはニコンの1インチモデルであるDLシリーズへの期待が高い。市場を盛り上げる存在として、来年の早いタイミングでの発売日決定を期待したい。
フリーランスから価格.comマガジン編集部に舞い戻った、カメラが大好物のライター/編集者。夜、眠りに落ちる瞬間まで、カメラやレンズのことを考えながら生きています。