2017年6月上旬、ホンダはメディア向けイベントである「Honda Meeting 2017」を開催。そこで最新の自動運転技術のデモ走行を披露した。モータージャーナリストである鈴木ケンイチ氏が、その体験記をレポートする。
世界的にもまだ珍しいレベル3の自動運転は、実用済みのレベル2とは何が違うのか? 実際の試乗体験を通じて筆者が感じた驚きとは?
ホンダは毎年、春過ぎに、ホンダの持つ最新技術や最新モデルをメディア向けに公開するイベントを実施している。今年の「Honda Meeting 2017」では、「クラリティ」をベースにしたFCV(燃料電池車)/PHV(プラグインハイブリッド)/EV(電気自動車)の3兄弟や、新型「シビック・タイプR」などの試乗が用意されていた。しかし、今年の目玉は、やはり自動運転技術だろう。オーバルのテストコースを舞台にレベル3の自動運転技術が披露されたのだ。
日本では自動運転技術は、レベル1から4までの4段階で定義されていた。しかし、最近になり「NHTSA(米国運輸省道路交通安全局)」と歩調を合わせた世界基準の5段階に変更された。今回の自動運転技術も、新しい定義におけるレベル3である。各レベルの概要を簡単に説明すると、レベル1は、ハンドル操作もしくは加減速の操作をシステムが行うというもの。いわゆる現在の前走車追従機能(ACC)などが該当する。レベル2は、ハンドル操作と加減速の両方をシステムが行う。ただし、レベル2までは人間による常時監視が必須となる。日産「プロパイロット」やスバル「アイサイト」、メルセデスベンツ「ドライブパイロット」などによって、これもすでに実用化されている。
その次になるのがレベル3。ここも、ハンドル操作と加減速をシステムが担当。ただし、レベル2と違って、ドライバーの常時監視がいらない。とはいえ、システムがギブアップしたときにドライバーが運転に戻らなければいけないという条件がついている。そしてレベル4が、最初から最後までの自動運転。レベル5がドライバー不在も可能という完全な自動運転となる。
レベル5のゴールに向かって自動運転技術の開発は進んでいるが、現在はレベル3の実用化を目指すという段階だ。しかし、レベル2と3とのギャップは大きい。レベル2は、何かのアクシデントがあっても、常に見張っているドライバーという人間がカバーしてくれる。しかし、レベル3は、そうはいかない。最悪、システムからドライバーに運転操作を戻すことはできるが、それまでに数秒から10秒以上の時間が必要となる。その間に、事故が起きないようなレベルまで完成度を高めなければならないのだ。そういう意味で、今回のホンダのレベル3の自動運転車のデモは意欲的であり、注目すべきデモ走行であったのだ。
レベル2までは運転の主体は人間。レベル3は、人間が代替することを想定しつつも、運転の主体はシステムになる
ホンダの自動運転の開発のベースになっていたのは、大型セダンである「レジェンド」だ。そこに、クルマの周囲のモノを認識する複数のセンサー、自車の位置を知る全球測位衛星システム(GNSS)と詳細な地図データ、ドライバーの状態を検知するモニター類、自動運転を司るコンピューター、そしてドライバーに自動運転状況を知らせるHMI(Human Machine Interface)、車両を制御するブレーキや電動パワステなどを統合させて自動運転システムを構築している。
今回の自動運転車は、「レジェンド」をベースに改良が施されたもの。二重化されたセンサーや電源、ユーザーインターフェイスの追加がなされている
クルマの周囲を認識するセンサーは、カメラ、ミリ波レーダー、ライダー(レーザーレーダー)を使用。カメラは単眼タイプを2個、ミリ波レーダーは5個(前3/後ろ2)、ライダーも5個(前2/後ろ3)備わっていた。細かく赤外線を飛ばして、周囲のモノの形を認識するライダーは、量産前のモノであるが、それなりに小さくなっていた。もう少し小さくなれば、さらに違和感なく装着できるようになるだろう。また、ドライバーの状態を見るセンサーはカーナビ部分にあり、ドライバーがきちんと前を向いているかどうかを確認している。これはシステムが操縦不能になり、ドライバーに運転を戻すとき、ドライバーが寝ていたりすると困るためだ。ドライバーの状態を監視し、必要なときは警報などで寝ないようにする必要がある。また、自動運転中はステアリングの上部が青く光るなど、誰もがハッキリと「システムが運転している」ことがわかるようになっていた。
ハードウェアが二重化されている点が従来と大きく異なる。フロントガラスに見えるカメラも、見慣れた二眼カメラに見えるが、実は2個の独立した単眼カメラだ
赤外線を使って周囲を感知するライダーはまだ市販されていない技術だが、前後に合計5個搭載されていた
ハンドルの上部にLEDが備わり、自動運転中は青く光る、人間の運転中は赤く光る
そして、この自動運転開発車で最も特徴的なのは、万一の故障や性能的な限界を超えたときでも、安全な運転を続けるために、システム全体が二重化されていることだ。たとえばセンサーは、カメラ×ミリ波レーダーとカメラ×ライダー(レーザーレーダー)の二系統となっており、ブレーキ系も二重、電源も二重になっている。
実験車の運転席に座る鈴木ケンイチ氏。この位置から見ると普通の車と大きく変わらない
自動運転車の試乗デモは、テストコースの周回路で実施された。4車線以上もある大きなコースだ。スタート地点から、本コースに合流する直前に自動運転モードに入れる。ステアリングのスイッチを押すだけで、難しいことはなにもない。ステアリングの上が青く光って、自動運転モードに入ったことがわかる。本コースに入ると、先行車がいるが、それを自動のまま車線変更してパス。その間も、ドライバーは何も操作せずに見ているだけであった。
4車線以上もあるテストコース。高速道路を模した巡航やレーンチェンジ、渋滞対処などを体験した
コースを半周した先の長いストレートで、ゆっくり走る前走車に追いつく。ここは渋滞しているという想定だ。そこで前走車に追従。ここままでは従来のレベル2のACCと同じ。ただし、レベル3になると、ドライバーが、運転の監視以外の行為を行える。今回は、スカイプで本部と通話を行った。ナビ画面にスカイプの相手が映し出され、その相手と会話する。もちろん目線はナビに。その間、クルマは誰の監視もなく自動で走行する。これがドライバー監視なしのレベル3である証明だ。
ACCやレーンチェンジなどは実用化されているレベル2と同じ
レベル3の真骨頂は、走行中によそ見をしてもよい点。テストでは、カーナビの画面を使いスカイプで本部とビデオチャットを行った
クルマはゆったりと前走車についてゆく。外から見れば従来のレベル2のACCと、ほとんど変わらない。しかし、ドライバーの意識は大きく違った。「あっ、運転から解放された!」と。「今まで、何十年もクルマの運転をしてきたが、走行中に、これほど長時間のよそ見をしたことはない。なんという新鮮さ!」と、なんとも楽しい気分になった。これが実現したら、移動中の時間を運転以外のことに使える。「生活が変わる!」と実感できたのだ。
ホンダのレベル3の自動運転体験は、驚きであった。続いてカメラだけを使った市街地を想定した自動運転のデモ走行もあった。カメラだけで、道の形を認識するという意欲的な技術だ。ただし、レベル3の自動運転もカメラだけの自動運転も、まだまだ研究所内のデモ。リアルワールドで、どれだけ通用するかは未知数である。
カメラから得た道路状況のみを使い、市街地を想定したコースのデモ走行も体験。こちらも「レジェンド」をベースにしたテスト車を使った
複数のカメラが道路のカーブや信号、停止線を認識する
いっぽう、今回のイベントでホンダは「2020年に高速道路での自動運転の実現」「2025年にはレベル4の自動運転技術の確立」を行うと説明した。2020年といえば、わずか3年後だ。2025年といっても、8年しかない。そして、今回のデモのレベル3は、当然、2025年よりも手前に実現するということ。遠い未来の話ではなく、ほんのわずか先の話なのだ。
本当に、そんなに早く自動運転技術が進むのか? ホンダとしても確証を持って2025年という数字を出しているわけではないだろう。しかし、1人の自動車ユーザーとしては、自動運転実用化の未来が早く到来してほしいとも思う。インターネットの普及で世界が変わったように、自動運転でも世界は変わるだろう。そんな未来に思いを馳せるイベント参加となった。