“弾丸”試乗レポート

憧れの大型電動SUV、テスラ「モデルX」試乗レポート

日本国内では、昨年2016年の秋からEVメーカーであるテスラのSUV「モデルX」が発売されている。今回は、そのモデルXでの東京〜名古屋間のロングドライブを行った。そこから見えてきたモデルXの魅力をモータージャーナリストの鈴木ケンイチ氏がレポートする。

EVの大型SUVであるモデルX。東京の中心部では見かける機会が少しずつだが増えている。はたしてその走行性能はどんなものなのか?

走り出すまでにすでに十分な驚きが味わえる

テスラのモデルXでのドライブは、まさに「エクスペリエンス(体験)」というものであった。自動車文化のレガシーにとらわれない、ベンチャーならではの斬新さに満ち溢れていたのだ。

まず、クルマへのアプローチから違う。ドアにカギ穴はない。クルマの形をしたかわいらしいスマートキーを身につけて、クルマに近づけば自動でロックは解除される。モデルXでは、ドアノブをワンプッシュするだけでドアは開く。恐ろしいことに、シートに座ってブレーキペダルを踏み込むと、自動で前席のドアが閉まる。おかげで、うっかり運転席の横に立って説明しているテスラのスタッフを、前席ドアで挟み込んでしまった。申し訳ないことをしてしまった。

モデルXを模したユニークな形のスマートキー

モデルXを模したユニークな形のスマートキー

ドアノブに鍵穴が見当たらないが、キーを持っていればロックは自動で解除される

ドアノブに鍵穴が見当たらないが、キーを持っていればロックは自動で解除される

クルマをスタートさせるには、ギヤをDレンジに入れてアクセルを踏み込むだけ。なんと、スタートスイッチもパーキングブレーキもなく、すべて自動!。ついでに言えば、ヘッドライトのスイッチもない。暗くなれば勝手にヘッドライトが点灯してくれる。メーターはフルデジタルのディスプレイ。センターコンソールにも巨大なモニターが鎮座する。今では珍しくなくなりつつある装備だが、テスラは2009年に発表したセダンの「モデルS」から採用している先駆的存在だ。メーター内の表示はシンプルで見やすい。表示もそうだが、テスラのクルマは基本的に車内にスイッチが少なく、すっきりしているのが特徴だ。モデルXのデザインは、ほぼ「モデルS」と同じテイストだが、唯一違うのがフロントウインドウだ。モデルXには、ドライバーの頭上まで広がるパノラミックウインドウシールドが採用されており、解放感は抜群。Aピラー部にあるサンシェードは、細いけれど、ドライバーの顔にかかる日差しはちゃんとカバーしてくれる。

メーターは、フルデジタルの液晶ディスプレイ。高級車を中心に増えてきているがテスラはその先駆けだ

メーターは、フルデジタルの液晶ディスプレイ。高級車を中心に増えてきているがテスラはその先駆けだ

操作のほとんどをタッチパネルディスプレイで行うためボタンが少ない。そのため、インテリアはシンプルな印象

フロントウインドウは、ドライバーの頭頂部分まで広がるパノラミックウインドウになっていて開放感が強い

フロントウインドウは、ドライバーの頭頂部分まで広がるパノラミックウインドウになっていて開放感が強い

後席のドアは、モデルXの最大の特徴とでもいえるファルコンウイングドアだ。カモメの翼のように車体の上にドアが開閉することで、左右に必要な空間が小さくできる。また、開閉部が意外に大きい。そして、なによりも目立つ。どこに行っても、ドアを開ければ、注目されることは間違いないだろう。

デザイン上のアイコンともいえるのが後席のファルコンウイングドア。意外に大きく開くので、乗り降りも行いやすい

車体は全長5030×全幅2070×全高1680mmもあるので、クーペ風のルーフでありながらも、3列シートの車内は十分に広い。2列目のシートは、2座と3座が選択可能で、最大で7人乗車仕様とすることができる。2座仕様のシートは、脚部が棒状になっていて、まるでオフィスチェアのよう。床面がフラットなことも広い印象を強めてくれる。

試乗車の2列目シートは2座だった。脚部が棒状になっていて、オフィスチェアのようだった。なお、3座も選択できる

3列目シートも、空間には余裕がある

3列目シートも、空間には余裕がある

純粋なスポーツカーよりも強烈な加速が味わえる

モデルXはスポーツカーではない。ゆったりと走れば、EVらしい静粛性にすぐれているし、加速もスムーズ。重いバッテリーが床下に並べられているので重心も低い。低重心ならではの、どっしりとした動きで、乗り心地も悪くない。しかし、ひとたびアクセルを強く踏み込めば、モデルXのもうひとつの顔が表れる。試乗車は、モデルXの中でも、最もパフォーマンスにすぐれた「P100D」。システム最高出力611PS/最大トルク967Nm。0-100km/h加速はわずか3.1秒というスペックを誇る。2トンを超える巨躯のSUVが、「ポルシェ911カレラ」(0-100km/h加速は4.6秒)よりも速いのだ。まさに恐るべき体験であった。また、そんな強烈なパワーを受け止めて、破綻しないというシャシーの能力の高さにも感心する。

重いバッテリーを床下に敷き詰めたボディは重心が低い。加えて試乗車は最上位の「P100D」であったこともあって、強力な加速力を見せ付けた

ちなみに、モデルXはバッテリーの搭載量を選ぶことができる。選べるのは75kWhと100kWhで、そのまま「75D」「100D」というグレード名となる。また、100kWh仕様には、ハイパフォーマンス仕様の「P100D」が用意されている(価格は1041万円から)。つまり、日本では「75D」「100D」「P100D」の3モデルが販売されている。最大航続距離は「75D」で最大417km(欧州のNEDCモード)、「100D」で最大565km、「P100D」で最大542km。日産の「リーフ」の電池搭載量30kWhで最大航続距離280km(JC08モード)と比べれば、いかにモデルXが大量の電池を搭載していることが理解してもらえるだろうか。

前後独立のモーターの繰り出すパワーは強烈。それを受け止めるシャシーの性能も高い

前後独立のモーターの繰り出すパワーは強烈。それを受け止めるシャシーの性能も高い

この余裕たっぷりの電力が前後車軸にある2つのモーターに配給され、おそるべき加速を見せてくれるのだ。ただし、強烈な加速は、当然のように強烈な電力の消費を意味する。電力を使うほどに充電も必要になるので、猛ダッシュはあまりしたくないというのが、モデルXをドライブしていたときの気分であった。

東京から名古屋市内までの距離は約350km。クルマを借り出した状態は、満充電であり、車両の走行可能距離の表示は430km。充電なしで、一気に名古屋まで行くこともできたが、往復するということもあって、新東名高速の浜松SA(下り)を出てすぐにあるテスラの充電施設である「テスラスーパーチャージャー浜松」を利用した。施設はSAの外に隣接しているため、充電中にSAを利用することも可能。フル充電まで1時間10分ほどであった。

新東名高速の浜松SA(下り)を出てすぐにあるテスラの充電施設「テスラスーパーチャージャー浜松」を使用

新東名高速の浜松SA(下り)を出てすぐにあるテスラの充電施設「テスラスーパーチャージャー浜松」を使用

進化した運転支援システムも、ドライブの快適さのひとつ

また、先進の運転支援システムである「エンハンスト オートパイロット」の搭載もモデルXの特徴だ。複数のカメラと超音波センサーを使い、アクセルとブレーキだけでなくステアリングのアシストも行う。衝突被害軽減の自動ブレーキや高速道路でレーンキープを行いながら追従走行するだけでなく、自動での車庫入れ(スマートサモン)まで可能とする。

運転支援システムを支える超音波センサーやカメラはボディの隅々に配置されている。これらを活用することで運転支援システム「エンハンスト オートパイロット」を実現している

東京から名古屋までは、新東名という広くて新しい高速道路を利用したが、こうしたシチュエーションこそ、「エンハンスト オートパイロット」の最も得意とするところ。メーター内のモニターには、自車の走行車線だけでなく、左右の走行車線もあわせた3列分の他のクルマが表示される。追従走行中の他車の割り込みにもギクシャクせず、スムーズに減速。走行の白線を見失うことも、ほんのわずか。またレーンキープのステアリング・アシストもスムーズで、2年ほどまえに「モデルS」を試乗したときよりも進化しているようだ。さらにウインカーを操作すれば、他車のいないタイミングをはかって車線変更も自動で行ってくれる。運転手がよそ見をしてよいレベル3相当の自動運転ではないので、ドライバーが常にステアリングを握り、しっかりと前方を見ていなければならいが、それでも心理的な疲労は確実に普段よりも少なかった。

幅が広い高速道路はエンハンスト オートパイロットの得意とする環境だ

幅が広い高速道路はエンハンスト オートパイロットの得意とする環境だ

ベンチャーだからこそ、クルマに本当に必要なものを取捨選択できた

ロングドライブ中に考えていたことは、「なぜテスラがこれほど世界で認められたのだろうか?」ということだ。自動車産業は新規参入がひどく難しい。しかし、テスラは2003年の設立から、15年もかけずに、4台の量産モデルをリリースし、世界中に販売網を拡大。すっかり自動車メーカーとして世界中に認知されることに成功している。この成功の理由は、単純にテスラのクルマが魅力的だったからではないだろうか。世界的な環境意識の高まりに応えたEVメーカーだから成功したという考えには同意できない。

モデルXは、従来のクルマにはない斬新さがあった。1から始めたベンチャーだからこそ不必要なものを切り捨て、新しいモノを採用できたのだろう。

新しいモノとは、独特のインターフェイスや「エンハンスト オートパイロット」といった運転支援機能。そして、床下に電池を並べるという独自のプラットフォームだ。その独自のプラットフォームは広い室内という利点も生み出している。これらの選択により、テスラは、従来のクルマにない利便性を得ることができた。

EVに不要なグリルはない。そのためフロントのデザインはエンジン車にはない印象的なものになっている

EVに不要なグリルはない。そのためフロントのデザインはエンジン車にはない印象的なものになっている

ボンネットの中はラゲッジスペースになっている。こうした斬新なスペースユーティリティーはテスラの新しさを演出する重要な要素だ

3列シートのSUVにもかかわらずラゲッジスペースはかなり広大。伝統にとらわれないEVの利点がここでも生かされている

いっぽうで、クルマとしての古くからある根源的な魅力は、しっかりと守っている。テスラのクルマをよく見てみると、プロポーションは意外に常識的であることに気づく。モデルXのルーフは、まるで4ドアクーペのようであるし、ぎゅっと詰まったような塊感がある。グリルのない顔つきには未来感があるけれど、クルマ全体のプロポーションには、古典的な格好よさがあるのだ。また、強烈な瞬発力による運転する楽しさや、スムーズで静粛性にすぐれた快適な乗り心地を追及するという姿勢も、従来からある自動車文化の伝統そのものだ。

つまり、テスラはクルマに必要なものと、そうでないものをしっかりと取捨選択している。その結果、格好よくて便利で走りのよいクルマを作ることに成功した。それが「モデルS」であり、モデルXであったのだ。

クーペのようななだらかな曲線を描くモデルXのルーフラインと塊感。古典的な車の格好よさは積極的に取り入れられている

鈴木ケンイチ
Writer
鈴木ケンイチ
新車のレビューからEVなどの最先端技術、開発者インタビュー、ユーザー取材まで幅広く行うAJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員。
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田中 巧(編集部)
Editor
田中 巧(編集部)
通信を中心にしたIT系を主に担当。Androidを中心にしたスマートデバイスおよび、モバイルバッテリーを含む周辺機器には特に注力している。
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