日本のユーザーを大切にしたセダンの開発を!

日本で「セダン」はなぜ売れないのか!? “セダン復権”が難しい理由

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新型カムリを機に「セダンの復権」を掲げるトヨタ

2017年7月10日、トヨタ「カムリ」がフルモデルチェンジを実施した。2.5リッターエンジンをベースにした、ハイブリッドを搭載するLサイズセダンだ。

トヨタ 新型「カムリ」

トヨタ 新型「カムリ」

開発者は、「カムリのターゲットユーザーは主に50代。セダンの良さを再認識していただき、セダンの復権に繋げたい」と話す。カムリのCMを見ても、1980〜1990年代に発売されたトヨタ「アルテッツァ」など懐かしいクルマが登場し、「あの頃、クルマは熱かった。今、乗りたいクルマはあるか。大人になったあなたへ」といったキャッチコピーが流れる。「セダン」の言葉は出てこないが、セダンの全盛期に20〜30代を過ごしたユーザーにアピールする内容だ。

新型カムリは、かつてセダン全盛期に20〜30代を過ごした世代がターゲットだ

新型カムリは、かつてセダン全盛期に20〜30代を過ごした世代がターゲットだ

ちなみに、2016年に日本国内で販売された先代カムリの登録台数は、1か月当たり400台少々/年間で約4,900台だった。先代カムリの目標販売台数は月販500台/年間6,000台だから、おおむね目標通りだ。カムリは、海外では1年間に65〜70万台を販売しているので、国内の販売比率は1%を下回る。

新型カムリの販売目標は先代の「6倍」

新型カムリは、1か月に2,400台/年間2万8,800台を販売する目標を掲げている。これは2016年の登録台数の約6倍に達し、ホンダ「オデッセイ」、スバル「フォレスター」、マツダ「アクセラ」などと同等の台数となる。

トヨタ 新型「カムリ」

トヨタ 新型「カムリ」

そのために販売系列も増やし、従来のカムリはトヨタカローラ店のみだったが、新型カムリはトヨペット店とネッツトヨタ店も扱う。トヨタ店だけは「クラウンと競争する」という理由で扱わない。だとすればトヨペット店でもマークXと競争することになるが、マークXは現行型で廃止されてカムリに一本化されるらしい。

なお、先ごろトヨタから、新型カムリが発売から1か月間で約1万1,500台を受注したと発表された。取りあえず好調といえそうだが、カムリを取り扱う3系列ディーラーの店舗数を合計すると約3,900店舗に達する。1万1500台の受注ならば1店舗当たり約3台だ。販売店の試乗車などの需要も含めると、トヨタがその気になれば1万台くらいは容易に受注できる。従って正確な人気動向は、半年くらいを経過しないと見えてこないだろう。

ホンダも7年ぶりに復活した「シビック」にセダンを投入

一方、ホンダは2017年7月27日にシビックの国内販売を再開すると発表した(発売は9月29日)。先代シビックは2010年に終了したから、7年ぶりの復活になる。

ホンダ 新型「シビックセダン」

ホンダ 新型「シビックセダン」

海外市場におけるシビックの需給バランスにより、シビックセダンを埼玉県の寄居完成車工場で製造して輸出することになり、国内販売を再開する話が持ち上がった。従って、新型シビックは開発段階から日本で売ることを考えていたわけではなく、いわば成り行きで決まったともいえる。シビックセダンだけでは販売力が弱いので、5ドアハッチバックもイギリスから輸入して販売する。

ホンダ 新型「シビックセダン」

ホンダ 新型「シビックセダン」

新型シビックの全幅は、1.5リッターターボを搭載するセダンと5ドアハッチバックが1,800mm、5ドアハッチバックボディを使って高性能な2リッターターボを搭載したタイプRは1,875mmだ。1970年代から1990年代に日本国内で人気を高めた5ナンバーサイズのシビックに比べてかなり大きくなったが、「セダン復権」に向けた意欲が見え隠れする。

トヨタやホンダが「セダン復権」を目指す理由

なぜ、トヨタやホンダは今になってセダンの復権を目指すのか。それは、これ以上クルマが“ツール化”するのを防ぎ、国内の収益を維持したいからにほかならない。

今のクルマは、憧れの時代を過ぎて日常の移動手段になった。そのために運転のしやすい小さなクルマが好まれる。また、最近は安全装備と環境性能の向上により、新車の価格が全般的に高まった。

1996年頃には、ホンダ初代「ステップワゴン」やトヨタ「タウンエースノア」の売れ筋グレードは180〜200万円だったが、今は250〜280万円に達する。クルマの価格は、20年前の1.3〜1.4倍になった。にも関わらず、所得はあまり上昇していないからユーザーは買うクルマを小さくするしかない。

このように、昨今のダウンサイジングは必然的な需要動向だが、メーカーや販売会社は不安を抱く。クルマがツールになると、ユーザーは日常的な使用に支障が生じるまで乗り換えないからだ。

家族が2人以上の世帯が新車を購入した場合、平均して8年間は継続して使うというデータもあり、1980年代に比べると2倍近くまで伸びた。そうなれば、新車の売れ行きは下がる。ピークの1990年には国内で778万台の新車が売れたが、2016年は497万台へ減少した。

「セダンの復権」を掲げる新型カムリ

「セダンの復権」を掲げる新型カムリ

この状態を打開するには、需要を回復させる起爆剤が必要だからこそ、「セダンの復権」に乗り出したわけだ。需要回復の起爆剤にセダンを選んだ理由は、軽自動車、コンパクトカー、ミニバンが売れ筋になる前の日本では、セダンが中心だったからだ。

顧客を大切にしてきた「クラウン」と「カローラ」

「セダンの復権」は、あり得るのだろうか。この課題を考える時に参考になるのが、トヨタの「カローラアクシオ」と「クラウン」だ。

トヨタ「クラウン」ハイブリッド ロイヤルサルーン

トヨタ「クラウン」ハイブリッド ロイヤルサルーン

(左)初代カローラ/(右)カローラ特別仕様車 ハイブリッドG“50リミテッド”

(左)初代カローラ/(右)カローラ特別仕様車 ハイブリッドG“50リミテッド”

この2車種のセダンは、「セダンが売れない」といわれる昨今でも、堅調な売れ行きを保っている。この2車種には「セダンの復権」という言葉は当てはまらない。

共通しているのは、日本のユーザーに向けて開発され、販売会社も大切に売っていることだ。クラウンは初代モデルの発売から62年、カローラも51年が経過しているが、この長い期間にわたって乗り替えるユーザーを守り続けてきた。

クラウンは内外装のデザインから運転感覚、乗り心地まで、日本のユーザーが思い描く高級感を大切にしてクルマ造りを行ってきた。カローラも同様で、運転のしやすさと高い満足感を求めやすい価格で提供しつづけている。

過去にはスカイラインがアクア並に売れていた時代も

そして1990年頃までは、クラウンやカローラのように日本のユーザーを大切にするセダンが数多く存在した。例えば“ケンメリ”の愛称で親しまれた4代目の日産「スカイライン(C110型)」は、1973年には日本国内で15万7,593台を登録している。これは2016年のトヨタ「アクア」の16万8,208台に迫る台数だ。2016年の現行スカイラインは4,204台だから、1973年にはスカイラインが今日の37倍も売れていた。

日産 4代目「スカイライン」2000 GT-R

日産 4代目「スカイライン」2000 GT-R

この違いは何かといえば、クラウンやカローラと同様、「日本のユーザーを思う気持ち」だろう。4代目のスカイラインは、日本のユーザーに購入してもらうことを目的に、日本の好みを良く研究して開発されている。その結果、1年間に16万台近くも売れた。

日産「スカイライン」(海外名:インフィニティ「Q50」)

日産「スカイライン」(海外名:インフィニティ「Q50」)

逆に今日のスカイラインは海外向けになり、インフィニティ(日産が海外で展開する高級車ブランド)のエンブレムを掲げる。“日本”の日産「スカイライン」ではなく、“世界”のインフィニティ「Q50」になったことを意味する。これでは売れ行きが最盛期の37分の1になって当然だろう。
スカイラインに限らず、多くの日本のセダンが「日本のユーザーを思う気持ち」を忘れて海外のユーザーを大切にするようになり、売れ行きを激減させた。当たり前の話だ。

セダンを復権させたいなら、日本を見据えたセダンの開発を!

従って、セダンを復権させるには、まずクラウンやカローラ、あるいは4代目スカイラインのような、日本のユーザーを大切にしたセダンを開発することが求められる。海外向けのカムリやシビックで、日本のセダンを復権させるのは不可能だ。海外向けを日本に流用して都合良く売りたいという考え方は、日本のユーザーに対して失礼でもあるだろう。セダンの復権をめざすなら、まずは日本を見据えたセダンを開発すべきだ。

そしてもうひとつ、セダンの復権が難しい理由がある。それはセダンが復権する前に「ミニバンが復権した」ことだ。1930年頃までの乗用車は、大半が独立したトランクスペースを備えないミニバンスタイルだった。理由はその方が空間効率が優れているからだ。

この後、ボディ後部の荷台に収納ボックスを取り付けるようになり、これが「流線形」のトレンドに乗ってボディの一部に取り込まれ、今日のセダンスタイルに発展している。居住空間の後部に高さの低いトランクスペースを付けるのは、スペース効率を考えればムダが伴い、格好良さが重視された時代のボディ形状だ。

そうなると独立したトランクスペースを持たないSUVやミニバンが人気を高める今日は、80年以上にわたって続いたセダンの時代が終わりを告げて、ミニバンスタイルに回帰したことになる。2000年代に日本でも販売されていたクライスラーのPTクルーザーを見ると、1930年頃のクルマがミニバンスタイルだったことが良く分かるだろう。

このように考えると「セダンの復権」という価値観が陳腐に思えてくる。大切なことは日本のユーザーが、安全で快適、あるいは便利に使える商品を豊富にそろえることだ。ユーザーの好みはさまざまだからセダンも当然に求められる。「復権」などと肩肘を張らず、もっと素直に日本のユーザーが歓迎するセダンを販売して欲しい。

渡辺陽一郎

渡辺陽一郎

「読者の皆様に怪我を負わせない、損をさせないこと」が最も大切と考え、クルマを使う人達の視点から、問題提起のある執筆を心掛けるモータージャーナリスト

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2017.11.18 更新
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