“弾丸”試乗レポート
ディーゼルショックから立ち直り、EVシフトを進めるドイツメーカーの戦略

EVコンセプトと量販車が多数登場!「フランクフルトモーターショー2017」レポート

2017年9月12日、ドイツのフランクフルトでモーターショー(正式名は「INTERNATIONALE AUTOMOBIL AUSSTELLUNG」:通称IAA)が開幕された。メルセデスベンツやBMW、フォルクスワーゲンの本拠地でのモーターショーはどのような雰囲気で、どのようなクルマが登場したのか? モータージャーナリストである鈴木ケンイチ氏がレポートする。

2年に1度開催されるフランクフルトモーターショー。事前になされた各国のガソリンエンジン廃止報道もあり、EV(電気自動車)一色になるかと思われたが……

SUV中心のショーだった2年前から、大きく変わった方向性

フランクフルトモーターショーの会場は、中央に電車の駅(メッセ駅)があり、その左右に大小10以上のホールがランダムに並ぶというレイアウトだ。ホールひとつずつが非常に広く、会場の端から端まで1q以上あり、プレスデーは会場敷地内に移動用の「プレスタクシー」が巡回するほど。ちなみにプレスタクシーは出展する自動車メーカーが貸し出すもので、最新モデルばかり。もちろん利用料は無料。今回もずいぶんと助けになった。

写真のフランクフルト中央駅から2駅の「フランクフルトメッセ駅」を中心に、大小10以上のホールがランダムに配置されている

点在するホールに、各社が分かれて出展を行う。ホール間の移動は、無料のプレスタクシーや、写真のような半無人運転バスが使われ、最新技術を披露する場となっていた

各自動車メーカーが利用するホールはだいたい決まっていて、会場の一番東端で大通りに近い吹き抜け構造の巨大な「ホール2」はメルセデスベンツ。逆に、会場反対側の一番西端の「ホール11」はBMWが使う。会場の中央南側の「ホール3」はフォルクスワーゲン。今年はアウディの専用ホールがなくなっており、フォルクスワーゲングループ全体でひとつのホールを利用することになった。ちなみに日本車やフランス車は「ホール8」と「ホール9」。イタリアと英国ブランドは「ホール5」に展示されている。

開催は、2年に1回で、フランスで開催される「モンディアル・ド・ロトモビル」(通称、パリサロン)と交互に行われる。前回の開催は2015年で、ちょうど開催直後にフォルクスワーゲンの排気ガス不正が発覚して、大騒ぎとなった。2年前のフランクフルトモーターショーはSUVの話題でもちきりで、数多くの量産モデルが登場し、当時の「SUVトレンド」をそのまま映し出したショーであった。また、当時は「環境対策はディーゼルで十分。次はマイルドハイブリッドの48Vシステム。EV(電気自動車)はまだまだ先の話」という雰囲気でもあった。ところが、各メーカーの排気ガス不正発覚を経て、2016年のパリサロンで、ドイツ勢は一斉に「これからはEV(電気自動車)だ」と宣言。それを受けるかのように、欧州のあちこちから「将来、ガソリンエンジン車の販売を禁止する」との見解が飛び出してきた。世の流れは、急速にEVへと変化している。その変化を鮮明に示したのが、今回のフランクフルトモーターショーであった。

排気ガス不正の発覚により、ディーゼルは完全に退潮に。次世代車の本命として急浮上しているのがEV(電気自動車)だ

ドイツ勢はいずれも、EVコンセプトカー&新型量産モデルという出展内容

すでに「i3」という電気自動車を発売済みであるBMWをはじめ、メルセデスベンツ、フォルクスワーゲンというドイツの主要ブランドはすっかりEV積極派に転向している。そうしたこともあり、今回のフランクフルトモーターショーでは、ドイツ勢から数多くのEVコンセプトが出品されていた。

なかでも、BMWは、EVだけにとどまらず数多くの注目モデルを出品。その数と内容の充実度は、ドイツ勢の中でも飛びぬけたものだった。EVコンセプトとして航続距離600km以上、最高速度200km/h以上を謳う4ドアクーペの「iビジョンダイナミクス」を発表。「MINI」ブランドからは「ミニ・エレクトリック・コンセプト」を、オートバイでも「コンセプトリンク」を発表。もちろん、3台ともワールドプレミアである。また、量産モデルのプロトタイプとして「コンセプト8シリーズ」「コンセプトZ4」「コンセプトX7 iパフォーマンス」の3台も発表した。「コンセプト8シリーズ」は旗艦7シリーズのパーソナルバージョンという存在。「コンセプトZ4」はトヨタとのアライアンスが噂されるモデルで、トヨタ側がこれから何を発表するのか?という興味深いモデルだ。また、3列シートの大型SUV「コンセプトX7 iパフォーマンス」は、北米などではヒット間違いなしの注目モデルでもある。また、量産モデルの新型としては、マイナーチェンジが施された「i3」、フルモデルチェンジした「X3」と「6シリーズグランツーリスモ」を用意。これまであったホール内の走行レーンは廃止されており、その分広くなったBMW専用ホール内は、新型モデルだらけという展示内容となっていたのだ。

BMWの目玉は「iビジョンダイナミクス」。航続距離600km以上ながら最高速度200km/h以上で、EVの未来を垣間見せるコンセプトモデルだ

MINIシリーズのデザインを継承する「ミニ・エレクトリック・コンセプト」。初代MINIの「省エネ志向」という出発点を現代流にアレンジしたモデル、と言えそうだ

オートバイの「コンセプトリンク」。EVの特徴を生かしたレイアウトで、重心が低く抑えられている

オートバイの「コンセプトリンク」。EVの特徴を生かしたレイアウトで、重心が低く抑えられている

大型クーペの「コンセプト8シリーズ」。巨大なグリルとつり上がったヘッドライトを備えた攻撃的なデザインだ

トヨタとのアライアンスがウワサされているロードスターの「コンセプトZ4」。トヨタがこのボディをどのように調理するのかも興味深い

大型高級SUV「コンセプトX7 iパフォーマンス」。3列シートを備える巨大なクルマで、北米市場で人気を集めそうだ

昨年のマイナーチェンジで航続距離が大きく伸びたことで注目を集めた「i3」だが、今年もマイナーチェンジが施された

「6シリーズ グランツーリスモ」も披露された

「6シリーズ グランツーリスモ」も披露された

フルモデルチェンジされたばかりの「X3」も展示されていた

フルモデルチェンジされたばかりの「X3」も展示されていた

メルセデスベンツのメインは、EV専用ブランドである「EQ」から登場したコンパクトハッチバックモデルの「EQA」と、その「スマート版」となる「EQフォーツー」という2台のEVコンセプトだ。また、AMGからはF1テクノロジーを投入した2シータースーパースポーツの「AMGプロジェクトONE」を発表。1個のターボエンジンと4個のモーターからなるパワートレインの出力は1000馬力を誇り、最高速度は350km/hに達するという。また、水素で走る燃料電池の試作モデル「GLC F-CELL」も発表。次世代エネルギーはEVだけではなく、幅広く考えていることを示した。なお、量産モデルとしては、「Sクラスクーペ」と「Sクラスカブリオレ」の新型モデルを発表している。

メルセデスベンツが発表した2台のEVコンセプト。左は「EQA」、右はスマート版の「EQフォーツー」

メルセデスベンツが発表した2台のEVコンセプト。左は「EQA」、右はスマート版の「EQフォーツー」

2シータースーパースポーツの「AMGプロジェクトONE」。パワートレインの出力は1000馬力を誇り、最高速度は350km/h以上

GLCをベースにした燃料電池車のコンセプトモデル「GLC F-CELL」。EV以外の可能性も模索している

GLCをベースにした燃料電池車のコンセプトモデル「GLC F-CELL」。EV以外の可能性も模索している

量産車では「Sクラスクーペ」も披露された

量産車では「Sクラスクーペ」も披露された

「Sクラスカブリオレ」。伸びやかで、いかにもぜいたくなカブリオレだ

「Sクラスカブリオレ」。伸びやかで、いかにもぜいたくなカブリオレだ

フォルクスワーゲンからは、クロスオーバーEVコンセプトの「I.D.CROZZ II」が登場。今年春の「上海ショー」で登場したモデルの進化版だ。これでフォルクスワーゲンのEVコンセプトは、ハッチバックの「I.D.」、ミニバンの「I.D.BUZZ」、クロスオーバーの「I.D.CROZZ II」の3台が揃うことになる。同様に、アウディは、自動運転レベル3を近く実用化する「A7」と、レベル5を実現するEVコンセプトの「AICON」、「ELAINE」(上海で発表した「eトロンスポーツバックコンセプト」に新しい名前が与えられた)の3台を揃えて展示していた。

量産モデルでは、フォルクスワーゲンから、コンパクトSUVである「T-ROC」をワールドプレミアで登場。アウディは高性能モデルの「RS4 AVANT」と「R8 V10 RWS」を世界初公開している。また、同じフォルクスワーゲングループの、ポルシェからは「カイエンターボ」、ベントレーからは新型「コンチネンタルGT」が登場。フォルクスワーゲングループは、EVコンセプトだけでなく、量産モデルでも注目モデルが揃っていた。

クロスオーバーEVコンセプトの「I.D.CROZZ II」。今年の春に上海モーターショーで披露された「I.D.CROZZ」の進化版だ

ハッチバックの「I.D.」、ミニバンの「I.D.BUZZ」など、EVのコンセプトカーを多数展示していた

ハッチバックの「I.D.」、ミニバンの「I.D.BUZZ」など、EVのコンセプトカーを多数展示していた

ドライバー不要のレベル5の自動運転を実現するEVコンセプト「AICON」。室内にはハンドルもペダルも、シフトレバーも何もない

世界初披露となったコンパクトSUVの「T-ROC」。「ティグアン」よりもさらに小さい

世界初披露となったコンパクトSUVの「T-ROC」。「ティグアン」よりもさらに小さい

アウディの「RS4 AVANT」も披露された

アウディの「RS4 AVANT」も披露された

こちらもアウディの高性能車「R8 V10 RWS」。軽量化のためにクアトロシステムを取り払い、V10エンジンで後輪を駆動する

ポルシェでは、人気のカイエンに追加された「カイエンターボ」が展示。V8ツインターボエンジンを備えるシリーズの最高性能版だ

ベントレーのGTクーペ「コンチネンタルGT」もフルモデルチェンジされた

ベントレーのGTクーペ「コンチネンタルGT」もフルモデルチェンジされた

ドイツ以外で目立ったのは、ジャガー/ランドローバーからの「ディスカバリーSVX」、ルノー「メガーヌRS」の最新モデル、フェラーリの新型「ポルトフィーノ」といったところだ。

悪路の走破性を高めたランドローバー「ディスカバリーSVX」も注目を集めていた

悪路の走破性を高めたランドローバー「ディスカバリーSVX」も注目を集めていた

ルノー「メガーヌ」の高性能版であるRSも披露された

ルノー「メガーヌ」の高性能版であるRSも披露された

「カリフォルニア」の後継となるフェラーリのエントリーモデル「ポルトフィーノ」。軽量化され動力性能が高められている

日本勢は、ホンダとスズキの頑張りが光る

日系ブランドで気を吐いていたのがホンダとスズキだ。ホンダは、東京から八郷社長が駆け付け、EVコンセプトの「ホンダ・アーバンEVコンセプト」を発表。このモデルを基本に、欧州向けに2019年より量産モデルをリリースすると宣言したのだ。また、スズキの新型「スイフトスポーツ」も世界デビューをフランクフルトで飾った。日本でも9月20日より発売が開始される。

EVコンセプトの「ホンダ・アーバンEVコンセプト」。これをベースに2019年に量産モデルをヨーロッパ向けにリリースする

国内で先に発表された「スイフトスポーツ」も世界デビューを果たした

国内で先に発表された「スイフトスポーツ」も世界デビューを果たした

しかし、もうひとつの日本の顔であるトヨタは、「C-HRハイパワーコンセプト」と「ヤリスGRMN」、そしてマイチェンした新型「ランドクルーザー」(日本名は「ランドクルーザープラド」)を発表していた。あえて言えば、トヨタだけがEVコンセプトを発表しないという、逆張りとなったのだ。

トヨタの目玉は、C-HRのハイパフォーマンス版「C-HRハイパワーコンセプト」

トヨタの目玉は、C-HRのハイパフォーマンス版「C-HRハイパワーコンセプト」

欧州版ヴィッツの「ヤリス」。そのハイパフォーマンスモデル「ヤリス GRMN」がヨーロッパでもデビュー

欧州版ヴィッツの「ヤリス」。そのハイパフォーマンスモデル「ヤリス GRMN」がヨーロッパでもデビュー

「ハイラックス」などとともに日本でも発表された「ランドクルーザー」の新モデルも、フランクフルトでお披露目された

また、フランクフルトモーターショーの前週に新型「リーフ」を発表した日産は、出展自体をとりやめ。同様に、これまでEVに力を入れてきた三菱自動車もショーを欠席。“EV祭”のようなフランクフルトを、あえて見送りする格好となった。また、スバルは新型「インプレッサ」を欧州デビューさせる。マツダはブースを構えるものの、プレスカンファレンスはなし。メインステージには新型「CX-5」が飾られていた。

国内では発表済みのスバル「インプレッサ」も、ヨーロッパでは今回が初披露となる

国内では発表済みのスバル「インプレッサ」も、ヨーロッパでは今回が初披露となる

明日のビジネスの主力は、まだまだ普通のガソリン車

デトロイト、ジュネーブ、東京、パリと並び、世界5大モーターショーと称えられるフランクフルト。しかし、今年は、日産、三菱自動車だけでなく、プジョー、FCA、GMといったブランドが出展を見送っている。考えてもみれば、近年は、これら5大モーターショーだけでなく、北京/上海やASEANといったアジア勢、CES(アメリカでの家電展示会)なども、重要なショーに成長してきた。そうなれば、それらすべてに均等に力を入れるよりも、戦略的に集中と選択がなされるほうが合理的だ。その結果が、今回のフランクフルトにも影響を与えたのだ。もちろん、今年の秋に開催される東京モーターショーも同様で、アメリカ勢やイタリア、英国のブランドが不参加となっており、“日本の没落・ガラパゴス化”というトーンで語られやすいが、多様化する世界の自動車ショーという背景も決して無視できないように思う。

そうした変化の結果、今年のフランクフルトは、地元のドイツ勢の動きがより前面に出たショーとなった。その動きは、「EVシフト」であり、現実的な魅力のある「量産モデル」の投入という形で表れた。将来的に、EVが普及するのは確実だろうが、それが直近ではないこともまた確か。本格的なEVの新型モデルが登場するまで、少なくともあと2〜3年かかるし、それがビジネスの主流になるのは、さらに先だろう。そういう意味で、未来のEVコンセプトと、明日の稼ぎの元となる量販モデルという両輪が提示された今年のフランクフルトは、ある意味、当然の内容だったのではないだろうか。

10月に開催される東京モーターショーと同様に、出展メーカーこそ減ったものの、地元ドイツ勢の動きが目立ったのが今年のフランクフルトモーターショーの特徴。その背後には、世界的に多様化する自動車ショー事情がある

鈴木ケンイチ

鈴木ケンイチ

新車のレビューからEVなどの最先端技術、開発者インタビュー、ユーザー取材まで幅広く行うAJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員。

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