特別企画

“伊藤若冲”から学んだレクサス LS+。ホンダ Urban EV Conceptはなでまわしたくなる表情に

レクサス LS+ CONCEPT

東京モーターショー2017で世界初公開されたレクサス「LS+ CONCEPT」

東京モーターショー2017で世界初公開されたレクサス「LS+ CONCEPT」

新型「LS」が登場したばかりのレクサス。その新型LSをベースとして、2020年を視野に入れた自動運転技術や、先進技術を搭載した次世代のLSのあるべき姿をデザインとして表現したのが、この「LS+ CONCEPT」だ。冷却性能や空力、次世代のランプのデザイン的なスタディも含めたコンセプトカーなのである。

注目のフロント周りはデザインと機能の両立

レクサス「LS+ CONCEPT」サイドイメージ

レクサス「LS+ CONCEPT」サイドイメージ

サイドのデザインテーマは、基本的に新型LSを踏襲しながら、片側10mmずつホイールアーチ部分が拡幅されている。

レクサスデザイン部主任の平井望美さん(左)とレクサスデザイングループ長の袴田浩昭さん(右)

レクサスデザイン部主任の平井望美さん(左)とレクサスデザイングループ長の袴田浩昭さん(右)

「フェンダーフレア部分にメリハリをつけた構成としたうえで、前から後ろへとドラマチックな流れを表現しました」と話すのは、レクサスデザイングループ長の袴田浩昭さんだ。そうすることで、たとえば夜、高速道路を走っていて照明がボディにあたった時の、刻々とリフレクションが変化していくさまを、「ドラマチックに、エモーショナルに表現できるボディサイドを目指しました」という。

レクサス「LS+ CONCEPT」リアイメージ

また、このフェンダーのデザインなどにより、タイヤの四隅配置を強調。それにより、スタンスのよさにつなげている。

レクサス「LS+ CONCEPT」フロントイメージ

レクサス「LS+ CONCEPT」フロントイメージ

このLS+ CONCEPTで、もっとも注目すべきがフロント周りだ。まずスピンドルグリルが外板色化され、かつ、空力向上のためグリルシャッターが搭載された。これにより、特にグリルシャッターが閉じた状態では全体が外板色化するので、「スピンドルグリルが非常に立体的に表現されます」と袴田さん。

また、両サイドにはサブラジエーターグリルがある。その上のランプの部位にも穴が開いているのだが、これについて「サブラジエーターから入った空気を上から抜くという考え方です。つまり、より高効率な冷却性能を考えているのです」。さらに、グリルシャッターを含め、「フロントフェイス全体で空力と冷却を最適に制御する考えを、デザインでしっかり表現しました」と機能とデザインが両立していることを強調した。

主従逆転するという新たなトライ

レクサス「LS+ CONCEPT」フロントイメージ

レクサス「LS+ CONCEPT」フロントイメージ

さて、スピンドルグリルを外板色化した点について、もう少し詳細を述べてみよう。これまでのレクサスのフロントフェイスの構成は、スピンドルグリルの部分は黒系で、両脇はボディ色系だった。しかし、LS+ CONCEPTの場合はこれをネガポジ反転させているのだ。

今回のオリジナルアイデアを創出したレクサスデザイン部主任の平井望美さんは、「二律双生という、レクサスデザインのマインドセットがあります。そこで、新しいスピンドルグリルを今回トライしようと、ネガポジ反転させた状態で大胆に変えました」という。

この発想は、ヘッドライト周りにも表れている。最近ではDRL(デイタイムランニングライト)装着車が増えつつあるが、基本はヘッドライトがメインである。しかし、LS+ CONCEPTの場合、63個(!!)のヘッドライトのドットの部分は、非点灯時には消えてしまう。「DRLがメインで見えてしまいます。そこで、主従逆転させてしまおうと。いろいろなことを、基本は守りつつもガラッと大きく変えられないかという挑戦をしているのです」と述べる。その結果、「スピンドルグリルが外板色になったことで、立体的に見えることなども含め、ぱっと遠くから見たときの大胆な違いにつながっています」と平井さん。

隠れミッキーならぬ隠れ“L”も

そのいっぽう、平井さんは「近くで見るとものすごく繊細なデザインをしています」という。具体的には、いろいろなところにLパターンが隠れているのだ。「近くで見た時の緻密さと、遠くから見たときの大胆さ。この相反する2つの要素を二律双生させたいというところでデザインしていきました」と根底のデザインの考えを語った。

ヘッドライトなど、さまざまな部分にLパターンが隠れている

ヘッドライトなど、さまざまな部分にLパターンが隠れている

では、どこにLパターンが隠れているのか。実はボディのさまざまなところに描かれているのだ。「まるでディズニーランドの隠れミッキーですね」と問うと笑顔で「本当に」とのこと。わかりやすいところでは、「ヘッドライトのところに黒い部分があるのですが、そこの目の周りにLの文字が細く入っています。またサブラジエーターの部分にもメッシュではなくLの文字が入っています。実は、上のほうは小さなLで、下のほうに行くほど大きくなり、どれひとつ同じものはないのです」。ちなみにこの手法は、マイナーチェンジしたCTのグリルにも使われているというので、機会があったらご覧いただきたい。

伊藤若冲から学んだ、遠目の大胆、近目の繊細

レクサス「LS+ CONCEPT」イメージ

レクサス「LS+ CONCEPT」イメージ

こういった遠くから見て大胆、近くから見て繊細という手法は、どういうところからアイデアを得たのか。平井さんは、「いろいろなところからヒントを得ていましたが、その中のひとつに伊藤若冲(いとうじゃくちゅう)があります」と明かす。「もともとジャーマンスリー(メルセデス・BMW・アウディ)とは違う独自の世界観を表現したい、日本らしさも少し感じたいと考えていました。でも、いかにも日本らしい何かを表現するのではなく、根底にもともと持っているもので何かあるのではないかと調べた時に、若冲の絵に出合ったのです」と述べる。

若冲の絵は、「迫力のある鶏図などがあります。遠目で見るととても大胆な構図をしているのに、すごく近くで見ると緻密で、最近のスキャナーで見てようやくわかったのですが、色を何層にも重ねたり、裏からもう一度描いていたり、4色以上を裏表で使ったりしているのです。そういう話を聞いた時に、こういう世界があると感じ、遠目の大胆、近目の繊細、緻密さみたいなところはインスパイアされました」と説明してくれた。

袴田さんも、「具体的に形のモチーフ云々ではなく、その緻密さなどを若冲などからインスパイアを受けながらデザインしていきました。レクサスとしての匠の技を表現するひとつの要素として、Lを緻密に微妙に変化させながら構成させるなど、そういうところで表現しているのです」と語った。

これからのレクサスのデザインを占うLS+ CONCEPT。華やかなモーターショー会場においてもその存在感はひときわだ。まだまだ生産化に至るには高いハードルを越えていかねばならないが、若冲からインスパイアされたという遠目の大胆、近目の繊細さを具現化し、今後のレクサスデザインに生かしていってもらいたい。

Honda Urban EV Concept

本田技術研究所 四輪R&Dセンターデザイン室3スタジオ 半澤小百合さん(左)/本田技術研究所四輪R&D センターデザイン室1スタジオ 矢口史浩さん(中央)/本田技術研究所四輪R&Dセンターデザイン室1スタジオ 原田誠さん(右)

東京モーターショー2017のプレスカンファレンスで、ホンダの八潮社長は「Honda Urban EV Concept」を、「生活や楽しみを、さらに自由に拡げることをコンセプトとしたシティコミューターです。双方向の通信機能を持ち、モビリティが人と社会と、より楽しくつながっていきます。また、EVならではのパッケージングにより、コンパクトなボディに広々とした居住空間を持たせ、お客様に寄り添い、愛着がわくような親しみのあるデザインとしました」と紹介した。そして、「このHonda Urban EV Conceptをベースとしたモデルを、欧州での発売に続いて、2020年に日本でも発売する予定です」と発表した。つまり、このコンセプトカー(のままではないにしても)は、市販を前提としたモデルであるということだ。

ホンダ「Honda Urban EV Concept」フロント・リアイメージ

ホンダ「Honda Urban EV Concept」フロント・リアイメージ

では、まずはエクステリアデザインから見てみよう。やさしいフロント周りとしっかりと張り出したタイヤなどによるスタンスのよさとのギャップが楽しく目に映る。本田技術研究所四輪R&Dセンターデザイン室1スタジオの照井悠司さんは、エクステリアのデザインテーマを、「親しみやすさです。未来の人と生活に寄り添うクルマ、電動モビリティをクルマ全体のコンセプトとしているので、愛着や親しみやすさをテーマにしています」という。

そのうえで、「愛着のわく、なでまわしたくなるような表情を、ヘッドライト周りやリアで表現しています」と説明。また、全体のフォルムとして、「EVならではのトルク感でキビキビ走るイメージを、全体の形や大きさ、存在感、タイヤなどを含めてデザインしています」と述べた。

ホンダ「Honda Urban EV Concept」は、後ろヒンジドアという特徴を持つ

ホンダ「Honda Urban EV Concept」は、後ろヒンジドアという特徴を持つ

もうひとつ、エクステリアの特徴としては後ろヒンジのドアの開閉がある。その点について、照井さんは「インテリアが部屋のような空間というイメージなので、入る時にどうぞこちらへ、とクルマが迎え入れるようなイメージ」とし、「乗降性も含めて、改めて価値があるのではないかと提案をしています。女性を含めてどんな人でも乗ってもらえて、似合うようなデザインを、エクステリア問わず全体で行っています」と話した。

ホンダ「Honda Urban EV Concept」インテリア

ホンダ「Honda Urban EV Concept」インテリア

このモデルの最大のポイントは、実はインテリアだ。「クルマの様子をあまり感じさせないような、まるで自分の部屋のような表現を持たせております。普段家にいるような感覚で、リラックスして運転を楽しんでもらえるような空間を提案しています」とは、本田技術研究所四輪R&D センターデザイン室1スタジオの矢口史浩さんのコメント。

ホンダ「Honda Urban EV Concept」フロントシート

ホンダ「Honda Urban EV Concept」フロントシート

実際に室内をのぞくと、特にシート周りが、座るととても気持ちのよさそうなデザインとなっている。矢口さんは、「シートとしての機能は踏まえながらも、まずは気持ちよさそうだとか、座ってみたいと思わせる、少しやわらかい感じのソファをイメージしています」という。

また、シートにはクッションも置かれている。「これはショーオリジナルのクッションです。これが置いてあることで、かなりクルマの方向性や世界観が変わって見えてきます。そういった細かい部分も含め、居心地がよさそうだ、自分の部屋のような、書斎のようなイメージをこのクルマで感じ取ってもらえたらうれしいですね」と矢口さん。

そのいっぽう、インパネ周りはしっかりと作りこんである。「家でも、たとえば液晶のテレビがあったり、テレビボードがあったりしますよね。本当は横に観葉植物でも置いて、部屋のような感覚にしたかった(笑)。やはり、クルマの情報はしっかり正確に伝えたいので、そこはかなりカチッと作り込んでいます」と述べた。

ホンダ「Honda Urban EV Concept」フロントシート

ホンダ「Honda Urban EV Concept」フロントシート

カラーや素材などを担当した、本田技術研究所 四輪R&Dセンターデザイン室3スタジオの半澤小百合さんは、「一番こだわったのはフロントのソファのようなシートです。形状がとてもシンプルなので、素材としても質の高いウールライクの織物の生地を使っています。張りがあり艶っぽさもある生地なので、そのよさが生かせるように作りました」と話す。たとえばシートの中央にステッチがあるが、これも張りを表現するためのひとつの手法だ。「そのほか木のトレイなどを配し、ちょっと一服したくなるようなところを少しずつ散りばめてデザインしています」という。シート生地とブラウンとの内装の組み合わせについても、「女性っぽくしようとは実はあまり思っていません。どちらかというとユニセックスで、老若男女、どなたにでも受け入れてもらえるような幅の広い層にアピールできて、皆がシンプルにいいなと思ってもらえるようなものをチョイスしました」と説明した。

とても居心地のよさそうなインテリアに魅力を感じる人は多いだろう。エクステリアも癒し系ではあるものの、そこには大地をしっかりと踏みしめるタイヤがあり、見るものに安心感を与えている。このまま市販化にはいたらないだろうが、この基本概念は崩さずに、より魅力を増していってもらいたい。

Honda Sports EV Concept

ホンダ「Honda Sports EV Concept」フロントイメージ

ホンダ「Honda Sports EV Concept」フロントイメージ

ホンダといえば、スポーツカーというイメージもあるかもしれない。EV化でもその期待を裏切らないコンセプトカーが、この「Honda Sports EV Concept」だ。「どのような時代にあっても、スポーティーで爽快な走りで、意のままに操るよろこびを提供したい。そんな想いを込めたホンダからの提案です」と八潮社長。Honda Urban EV Conceptと同じEV専用プラットフォームで、「さらに低重心化し、より意のままに操ることができる、スポーティーな走りを実現します。デザインは、スポーツカーとしての機能美を持つワイド&ローなパッケージとし、広く親しみを持って長く愛されることを目指しました」とコメントするように、親しみやすさをともなったスポーツカーと位置づけている。

ホンダ「Honda Sports EV Concept」リアイメージ

ホンダ「Honda Sports EV Concept」リアイメージ

スポーツEVコンセプトは、オーソドックスなスポーツカーのデザインを踏襲している。本田技術研究所四輪R&Dセンターデザイン室1スタジオの原田誠さんは、大きく2つの関係を込めてデザインしたという。「一心同体というコンセプトです。ホンダがずっと追い求めてきたスポーツカーの意のままに操れるとか、気持ちいい走り。そういった機械との一体感や機械的なつながりと、精神的に気持ちがつながるAI技術。この2つの関係を踏まえ、“体(と機械)と心(とAI)がひとつになる”といったコンセプトなのです」と説明。

AIやEVといわれると、もっと前衛的なスポーツカーをデザインしてもよかったように思う。原田さんは、「あくまでもベースとなるのは、親しみやすくて愛着の持てる相棒のような存在です。未来だからとかAIだからという、それ自体が先行するのではなく、あくまでどういったライフスタイルを提供できるかという観点で考えました」と述べ、「いつからかスポーツカーは、限られた人のものになってしまいました。そこで、より多くの人に親しんでもらえるために愛着の持てる形をデザインしたのです」とその思いを語る。

ホンダ「Honda Sports EV Concept」サイドイメージ

ホンダ「Honda Sports EV Concept」サイドイメージ

そこで、「スタンス、地面に対しての立ち方や、基本的に低くワイドな根本的なスポーツカーとしての骨格を与えながらも、そのうえに親しみやすさを乗せていきました」と説明。

スポーツカーと親しみやすさとは、相反するイメージもある。原田さんは、「昨今はそうなっていますが、もしかしたらもっと前は違ったかもしれません」という。ホンダ「S600クーペ」や「S800クーペ」を意識したのか問うてみると、「直接的な関係性はあまりありません」と否定。しかし、「人とクルマの在り方という意味では、人とスポーツカーはもっと近かった時代かもしれません。いまは時代が変わり、手法も変わってきますので、スポーツカーと人がより近い関係になれたらと思いデザインしているのです」とその考えを語った。

最後に、原田さんのこだわりを聞いてみよう。「Honda Urban EV Conceptと基本的なコンセプトは共有しながら、よりスポーツカーということを表現するために、フロントから見た時の前後フェンダーの隆起を、中から力が張り出したような骨格を示唆できるイメージで仕上げたところです」という。つまり、フェンダーがあくまでも装飾的ではなく、「素直にファンクションを可視化して、それが強さにつながるようにしているのです」と述べた。

ホンダ「Honda Sports EV Concept」フロントフェイス

ホンダ「Honda Sports EV Concept」フロントフェイス

また、「フロントの灯体類などは親しみやすさや愛着の持てる、相棒のようにという意味で、ニュートラルな表情を作るのに時間をかけて作業しました。威嚇するものでもなく、逆にファニーでもダメ。いろいろな人のライフスタイルにすっと溶け込めるような、ニュートラルな表情作りに注力したのです」とこだわりを話した。

一歩間違うと、レトロチックにもなりかねないスポーツEVコンセプト。親しみやすさとスポーツカーを融合させることで、人に近い(「寄り添う」と言ってもいいかもしれない)スポーツカーを目指している。その意図はデザインにうまく表現されており、誰もがすっと格好よく乗り込んで、さっそうと走り去る姿が想像できる。できうることならHonda Urban EV Conceptに続いてこちらも市販化を目指してほしいものだ。そうすれば、この2台をガレージに並べることができるのだから。

内田俊一
Writer
内田俊一
1966年生まれ。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を生かしてデザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。長距離試乗も行いあらゆるシーンでの試乗記執筆を心掛けている。クラシックカーの分野も得意で、日本クラシックカークラブ(CCCJ)会員でもある。
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桜庭智之(編集部)
Editor
桜庭智之(編集部)
自動車専門メディアで編集者として10年間勤務した後「価格.comマガジン」へ。これまで、国産を中心とした数百の新型車に試乗しており、自動車のほかカーナビやドラレコ、タイヤなどのカー用品関連も担当する。
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