「あれ? パッと見、あんまり変わらない!? でも、ちょっとカッコよくなったよね」。2018年12月にマイナーチェンジされたトヨタ 新型「プリウス」を初めて目の当たりにして、筆者はそう思った。
2018年12月にマイナーチェンジが施された、トヨタ 新型「プリウス」
4代目となる50型プリウスが登場したのが、2015年12月。それから3年を経て、初のマイナーチェンジが実施された。その最大の焦点は、フロントとリアのデザインが刷新されたことにある。
現行の4代目プリウス(初期型)の登場時、歌舞伎の“隈取”のようなデザインが物議を巻き起こした。
マイナーチェンジ前のトヨタ「プリウス」の外観イメージ
開発陣としては「チャレンジ」のつもりだったのだろうが、3代目のエコカーらしい柔和なイメージから、一変してアグレッシブな印象になった4代目のエクステリアは、賛否が分かれた。
実際、2016年こそ25万台近くも販売し、ダントツの販売台数ナンバーワンとなったものの、翌2017年は順位こそ1位ながら、35.2%減の16万912台に。2018年は、日産「ノート」、弟分のトヨタ「アクア」に続く3位となり、低迷基調となった。ハイブリッド車が増えた今、「あえてプリウスを選ぶ理由」が乏しくなったことも事実だが、そのデザインも要因のひとつだったことは想像にかたくない。価格.comのレビューでも、走行性能や燃費が4以上をつけているのに対し、エクステリアの評価は3.5点と今ひとつだった。
トヨタ 新型「プリウス」の外観イメージ。マイナーチェンジでは、フロントとリアのエクステリアに変更が施された。とくに、賛否両論であったヘッドライトとテールライト周りに手が入れられたが、実車を前にするとそれほど印象は変わらない
そこでトヨタは、マイナーチェンジで“隈取”をやめ、縦型のスリットを分離。リアも、漢字の「了」のような特徴的なテールランプを、横基調のデザインに改めたのだ。
しかし、実車を前にしてみると、リアまわりこそ大きく雰囲気を変えたものの、フロントの印象は意外と変わらない。ツーリングセレクションに装備される、縦型のLEDクリアランスランプのインパクトが大きいからだ。“隈取”部分より、ギョロリとしたヘッドライト内部のデザインを変えた印象のほうが大きいのではないかと筆者は感じた。「大変身ではないが、洗練度を増した」というのが第一印象だ。
トヨタ 新型「プリウス」のツーリングセレクションに装着される17インチアルミホイールは、樹脂加飾部にチタン調の塗装が採用されている
そのほか、エクステリアで変更されたのはアルミホイールのデザインで、15インチアルミホイールはダブルスポークデザインに、ツーリングセレクションの17インチアルミホイール(写真)は、加飾部分がシルバーからチタン調に変更されている。また、ブルーとレッドのボディカラーが新色に差し替えられ、ツーリングセレクションでは、ブラックの幾何学調ルーフフィルムがオプションで選べるようになった。このオプションを選択するとドアミラーもブラックになり、スポーティーな印象が強まる。
トヨタ 新型「プリウス」のインテリア
ブラック基調となった、トヨタ 新型「プリウス」のセンターコンソール
インテリアは、ステアリングとセンターコンソールのパネルのカラーが、ホワイトからブラックに変わったのが最大の変更点。これも、チャレンジしすぎて賛否が分かれた部分のひとつだった。しかし、グロスブラックのパネルは傷や指紋が目立つもの。個人的には、内装色を2色から選べるのなら、パネルの色も選ばせてくれたらいいのに、と思うのだが……。
インパネ中央部がえぐられたような形状になり、前方視界と先端の見切りがよくなったのは、現行50型が運転しやすい理由のひとつだ。後席は外観から想像されるより広く、大人4人がゆったりと乗ることができる。
デザイン以外のアップデートとしては、安全装備など主に機能面が強化されている。
トヨタ 新型「プリウス」では、新たに「リアクロストラフィックアラート」がオプション装着できるようになった。リアクロストラフィックアラートは、駐車場などから後退する際に、左右後方からの接近車両を知らせてくれる機能だ
ひとつは、予防安全パッケージ「Toyota Safety Sense」が全車に標準装備されたことだ。さらに、上級グレードでは新たに「リアクロストラフィックアラート」がオプションで装着できるようになった。
もうひとつは、専用通信機「DCM」の全車標準化による“コネクテッドカー化”だ。これにより、対応カーナビを装着すれば、「T-Connectサービス」が利用できるようになる。T-Connectサービスの機能をざっと並べてみると、以下のとおりとなる。
・オペレーターサービス
専任のオペレーターに情報検索や目的地設定などを依頼できる
・LINEマイカーアカウント
スマホのLINEを通じて目的地設定や天気、所要時間などの確認ができる
・マイカーSecurity
専用のスマホアプリで、ドアロックやウィンドウの閉め忘れなどを通知
・eケア
警告灯が点灯したとき、オペレーターが走行可能かなどを判断する
・ヘルプネット
事故や急病時に、オペレーターが警察や消防に取り次いでくれるほか、エアバッグが展開する事故が起きたときに自動的にオペレーターに接続される
・マップオンデマンド
新しい道路情報をダウンロードしてカーナビに反映する
・路車間通信/車車間通信
右折先の方向車の存在を教えてくれたり、赤信号の待ち時間を押してくれたりするほか、緊急車両の接近などを教えてくれる
どれも安心感と利便性がアップする機能ではあるが、今のところ日々ありがたみを実感するようなサービスではなさそうだ。コネクテッド化は、今後サービスが拡大されたときに便利さを感じることになるのだろう。なお、「T-Connectサービス」は3年間無料、以後は年間12,000円の有料サービスとなる。
トヨタ 新型「プリウス」の走行イメージ
新型プリウスに乗った印象もお伝えしておこう。といっても、メカニズムの変更に関するアナウンスは特になし。もしかしたら、正式にリリースされていない足回りやハイブリッドシステムの細かなチューニングは行われているかもしれないが、試乗した印象では従来モデルからの違いは感じられなかった。
トヨタ 新型「プリウス」の走行イメージ
おさらいしておくと、トヨタのハイブリッドシステム「THS II」は、低速域は電気モーターで走行し、ある程度速度が乗ってくるかアクセルを踏みこんだときにだけエンジンが始動してパワーがプラスされる仕組みだ。だから、渋滞時のほうが電気モーターで走行するので燃費がよく、反対に高速道路などの高いスピード域での走行はエンジンが稼働しっぱなしとなるため、燃費のよさは発揮されにくい。THS IIは、都市部向けのパワートレインと言えるだろう。プリウスの実用燃費は、市街地で20〜25km/L、郊外路では25〜28km/Lと良好で、エコモードなどを積極的に使って燃費を心がけた運転をすれば、さらによくなるイメージだ。
■トヨタ 新型「プリウス」のグレード構成
E:2,518,560円 [2WD]
S:2,565,000円 [2WD]/2,759,400円 [E-Four]
S ツーリングセレクション:2,732,400円 [2WD]/2,926,800円 [E-Four]
A:2,842,560円 [2WD]/3,036,960円 [E-Four]
A ツーリングセレクション:3,006,720円 [2WD]/3,201,120円 [E-Four]
Aプレミアム:3,175,200円 [2WD]/3,369,600円 [E-Four]
Aプレミアム ツーリングセレクション:3,284,280円 [2WD]/3,478,680円 [E-Four]
グレード構成は、廉価版の「E」、標準的なグレードの「S」、上級グレードの「A」と、本革シートがつく「Aプレミアム」の4タイプだ。Eを除けば、17インチアルミホイールなどがセットされる「ツーリングセレクション」が、それぞれのグレードに用意されている。
今回のマイナーチェンジでは、これまでA以上にしか標準装備されなかった「Toyota Safety Sense」が全車標準化された。それによって、「本革シート」が欲しいならAプレミアム一択だが、そうでないならSとAで迷うことになるだろう。
SとAの装備差は、「ブラインドスポットモニター(BSM)」「インテリジェントクリアランスソナー」「インテリジェントパーキングアシスタント」「自動防眩ルームミラー」「オートワイパー」「ヘッドアップディスプレイ」「パワーシート」など、どれも“あれば便利”な装備ではあるが、およそ28万円の価格差を考えるとちょっと悩ましい。ツーリングセレクションを選択するかどうかは、見た目と乗り心地のどちらを重視するかで決めるといいだろう。やはり、乗り心地は15インチ仕様に分がある。
マイナーチェンジでややおとなしめになったとはいえ、3代目と比べれば依然としてアグレッシブな外観デザインをまとう新型プリウス
しかし、現代の“プリウスらしさ”を味わいたいなら、ツーリングセレクションを選ぶべきかもしれない。おとなしいスタイリングの車が欲しいなら、カローラアクシオハイブリッドだっていい。少々、控えめになったとはいえ、今のプリウスの最大の特徴は、そのスタイリングにあるのだから。