2019年9月17日、トヨタの新型セダン「カローラ」とワゴン「カローラツーリング」がフルモデルチェンジを受けた。今回は、その新型カローラ、カローラツーリングに試乗したのでレビューしたい。
今回、2019年9月17日に発売されたトヨタ 新型「カローラ」「カローラツーリング」の1.8Lガソリン、1.8Lハイブリッドの両方に試乗した
まず新型カローラの外観については、2018年に発売された新型「カローラスポーツ」と同様に「キーンルック」と呼ばれるフロントマスクが採用されており、先代と比べて存在感が高められている。
トヨタ 新型「カローラ」「カローラツーリング」の外観は、「カローラスポーツ」と同様の「キーンルック」デザインが採用されていることが特徴だ
ボディサイズは、セダン、ワゴンともに全長は4,495mm、全幅は1,745mmと共通だ。先代の「カローラアクシオ」「カローラフィールダー」に比べて、全長は95mm伸びて、全幅は50mm広がっている。先代は5ナンバー車であったが、新型では3ナンバー車となった。ボディサイズが拡大した理由は、走りや乗り心地などの基本性能を向上させるために、カローラスポーツと同じ「TNGA(Toyota New Global Architecture)プラットフォーム」が新たに採用されているからだ。
新型「カローラ」の内装は、基本的に「カローラスポーツ」と同様のデザインが採用されている
内装は、カローラスポーツと基本的に同じデザインで、その質感は高い。エアコンスイッチが比較的高い位置に装着されており、ドライバーがエアコンの左端にまで手が届きやすいなど、各スイッチの操作性も良好だ。
新型「カローラ」のフロントシートは厚みがあって座り心地がよく、安定した姿勢で運転がしやすい
フロントシートの座り心地は、先代と比べて大幅に向上している。乗員の体の沈み込みは少なめだが、シートにボリューム感がある。特に、腰のあたりがしっかりと作り込まれていて、体重を受け止めやすくなっている。そのため、着座姿勢が乱れにくく長距離を移動するときも快適だ。
ホイールベースは先代よりも40mm伸ばされ、前輪を前へ移動させることで、前輪とペダルの間隔が40mm広がった。それによって、ペダルの配置を先代よりも右へ寄せることができ、運転姿勢が改善されている。
新型「カローラ」のリアシートは、ボディサイズの大きさから考えるとやや狭いことが気になる
リアシートは、ミドルサイズカーとしては足元空間が狭い。身長170cmの大人4名が乗車して、リアシートに座る乗員の膝先空間は握りコブシひとつ半にとどまる。先代は、握りコブシ2つ分ほどの余裕があった。新型はホイールベースこそ伸びたが、そのぶんボディ前側の拡大に費やされており、リアシートは狭くなった。
さらに、リアシートは床と座面の間隔も不足している。腰が落ち込んで、膝が持ち上がる姿勢になりやすい。開発者は「前後席の乗員間隔は(先代に比べて)30mm縮まり、後席の床と座面の間隔も40mm少なくなった」と言う。
リアシートの頭上空間は、セダンが握りコブシ半分程度で、ワゴンはルーフが後方へ水平に伸びているため、握りコブシひとつ弱ほど。これについては、セダンやワゴンでは平均的と言える。
膝先空間が少し狭いが、座り心地そのものはいい新型「カローラ」のリアシート
リアシートは、足元空間は狭くなったが座り心地はいい。背もたれの高さと、座面の長さが十分に確保されている。リアシートの背もたれは、とくにセダンはしっかりと作られており、体のサポート性がいい。座面は、ノーマルエンジン車が良好だ。ハイブリッドはリアシートの下に駆動用電池を搭載するので、違いが生じないように設計されてはいるものの若干の底突き感がともなう。
乗降性は、あまりいいとは言えない。全高が、セダンでも1,435mmと低めだから、頭を下げて乗り降りする形になる。先に述べた足元空間の狭さも、乗降性を妨げている。
ボディスタイルの変更によって、新型「カローラ」の視界は先代よりもやや見にくくなっていることが気になる
試乗してみると、ボディスタイルが視界や取りまわし性に影響を与えていることがわかる。先代よりもフロントピラーを寝かせているから、斜め前方の視界がさえぎられやすい。たとえば、左折するときには横断歩道を渡る歩行者などが見えにくく、少々気を使ってしまう。
トヨタ 新型「カローラ」(画像上)「カローラツーリング」(画像下)ともに、サイドウィンドウが後方に向かって持ち上げられたデザインが採用されている
また、側方の視界は平均的だが、斜め後方と真後ろの視界は先代に比べて見にくくなっている。これは、新しいボディデザインによって、サイドウィンドウの下端を後ろに向けて持ち上げているからだ。真後ろのウィンドウも、上下、左右寸法ともに小さくなった。後方の様子を映すバックガイドモニターは用意されているが、ドライバーが実際に後方を振り返って安全を確認することも大切だ。購入前には縦列駐車などを行って、視界と取りまわし性を確かめたいところだ。特に、視界が良好な先代から乗り替えるユーザーは注意してほしい。
エンジンは、直列4気筒1.8Lガソリンと1.8Lハイブリッド、1.2Lターボの3種類が用意されている。先代は1.5Lが主力だったが、新型はプラットフォームの刷新とボディの拡大によって車重が150kgほど増えていることから、排気量を拡大した。
トヨタ 新型「カローラツーリング」(1.8Lガソリンエンジン、W×Bグレード)の走行イメージ
今回は、1.8Lのノーマルエンジンとハイブリッドに試乗した。ノーマルエンジンは、排気量が1.8Lとあって実用回転域の駆動力が高く、運転しやすい。一定速度で巡航すると、エンジン回転数が1,500rpm前後に下がることもあるが、粘りがあって排気量の余裕を実際に感じる。
アクセルペダルを踏み込むと、エンジン回転数が直線的に吹け上がり、4,000rpmを超えるとさらに活発になる。その際、走行時の騒音が抑えられていて遮音が入念に行われていることがわかる。
基本的なハイブリッドシステムは、「プリウス」などに搭載されているものと同じ「THSII」だ。市街地を時速50km前後で穏やかに走れば、積極的にEVで走行してくれる。このとき、エンジンの停止と再始動が頻繁に繰り返されるが、遮音性が高いためにノイズは小さく、エンジンが再始動したことなどは注意しないとわからないレベルだ。わずらわしさを感じることがないので、新型カローラの静かで滑らかな走りを味わえる。また、モーターの反応はすばやく、アクセルペダルを軽く踏み増しただけでもすぐに動力が高まる。車重とのバランスもいい。
トヨタ 新型「カローラツーリング」(1.8Lハイブリッド、W×Bグレード)の走行イメージ
操舵感は、先代に比べて上質なものになった。運転のしやすさが考慮されているので、操舵の反応そのものは機敏というわけではないが、操舵角に応じて車両は正確に向きを変えてくれる。先代の反応の鈍さは、払拭されていると言っていいだろう。
走行安定性は良好だ。カーブを曲がったり車線変更するときなど、4輪がしっかりと踏ん張ってくれる。峠道などを走っても、曲がりにくさを感じることはない。たとえば、危険を避けるために急に車線変更するような場面においても、後輪の接地性が高いのでクルマの挙動が不安定になりにくい。
トヨタ 新型「カローラ」(1.8Lハイブリッド、W×Bグレード)の走行イメージ
ハイブリッドは、前述の通り走行安定性は十分に高いものの、ノーマルエンジンに比べてボディが50〜60kg重いのでタイヤの接地性が若干下がる傾向にある。その意味で、ハイブリッドでは17インチタイヤを装着する「W×B(ダブルバイビー)」グレードを選べば、グリップ性能が高まって走りのバランスもよくなる。17インチは、乗り心地は少し硬いが引き締まっており、タイヤが路上を細かく跳ねる粗さも抑えられている。新型カローラのW×Bは、17インチタイヤ装着車としては快適な部類に入るだろう。
トヨタ 新型「カローラ」の「W×B」グレードに装着されている17インチタイヤ
17インチタイヤで少し注意したいのは、「ロードノイズ」だ。W×Bの試乗中も、静粛性の高い新型カローラでありながらロードノイズはやや気になったので、購入検討ユーザーは試乗車などで確認したほうがいいだろう。
走りの総合バランスがすぐれているのは、1.8Lのノーマルエンジンを搭載する「S」だ。16インチタイヤを装着するSグレードは乗り心地が柔和で、カローラのイメージにも合っていると思える。特にセダンはトランクスペースが独立しているから、ノイズを抑える効果も高く、快適な走りを満喫できる。16インチタイヤのSグレードで峠道を積極的に走ると、17インチに比べてタイヤにゆがみが生じるが、カローラの性格を考えると欠点にはならないだろう。
したがって、もっとも推奨したいグレードはノーマルエンジンの「S」グレードだ(価格はセダンが213万9,500円、ツーリングが221万6,500円。いずれも消費税10%込み)。ハイブリッドの場合は、17インチタイヤのW×B(セダンが275万円、ツーリングが279万9,500円。同)にグレードアップしたい。
トヨタ 新型「カローラ」「カローラツーリング」全車に標準装備されている純正「ディスプレイオーディオ」
価格は、カローラとしては高めの印象を受けるが、新型は「ディスプレイオーディオ」が標準装備されており、スマートフォンのナビアプリなどを使うことができる。また、従来からのナビソフトをオプションで組み込むことも可能だ。「エントリーナビキット」(オプション価格は6万6,000円、消費税10%込み)、Tコネクトナビキット」(11万円、同)の2種類が用意され、ディスプレイオーディオは標準装備されているからキット価格も安い。
このほか、通信機能も備わっているのでエアバッグが展開したときなどはオペレーターが呼びかけを行い、応答がないときは消防や警察へ取り次いでくれる。これは、緊急自動ブレーキやエアバッグなどと同様の安全装備に位置付けられる。これらの機能や装備を考えると、新型カローラは価格が高められたものの割高にはなっていない。
新型カローラは、先代に比べてプラットフォームやデザインなどさまざまな面が刷新された。それによって、走りや乗り心地、安全性などについては先代から大きく向上した。だが、ボディデザインによって視界がやや見えづらくなり、リアシートが狭いなどの欠点も見られるようになった。だが、トータルで見ればすぐれたクルマへと成長していると言えるだろう。
上級化が進んだトヨタ 新型「カローラ」。今後は、これまでのカローラの立ち位置を補うようなコンパクトな5ナンバーセダンやワゴンも必要なのではないだろうか
開発者によると、これまでのカローラの平均年齢は、セダンのアクシオが70代、ワゴンのフィールダーでも50〜60代に達する。さらに、ビジネスに使う法人ユーザーの比率も高く、アクシオは全体の40%、フィールダーでも25%を占めるという。
特に法人の場合、購入可能な車両が5ナンバー車に限られていたり、価格の上限も決められていることなどが多い。そこで、従来のカローラアクシオとフィールダーも「EX」と呼ばれるグレード名で一部を併売している。
ただし、先代は基本設計が古いので安全装備や衝突安全性などが見劣りする。そうなると、カローラが上級化したことで、さらにコンパクトな新しい5ナンバーセダンやワゴンが必要になるだろう。
かつて、トヨタにはヴィッツをベースにした「プラッツ」「ベルタ」というコンパクトセダンがあった。当時はカローラも5ナンバー車だったから、プラッツやベルタは存在感を発揮できなかったが、今ならばメリットがあるだろう。視界にすぐれた運転のしやすいコンパクトなセダン&ワゴンが登場すれば、上級化された新型カローラによって不在となった枠を補えるはずだ。
今は運転のしやすいサイズの小型車が減り、軽自動車への依存度が過剰なほどに高まっている。その点からも、トヨタには今後の小型車の充実に期待したいところだ。
「読者の皆さまに怪我を負わせない、損をさせないこと」が最も大切と考え、クルマを使う人達の視点から、問題提起のある執筆を心掛けるモータージャーナリスト