レビュー
先行して日本に投入されたマイルドハイブリッドモデルに試乗!

試乗でわかった“心地よさ”。観音開きのマツダ「MX-30」が生まれたワケ

2020年10月8日、マツダから「フリースタイルドア」と呼ばれる観音開きドアを持つ新型SUV「MX-30」が日本で発売された。そして、試乗会でMX-30に触れる機会が得られたのでその印象とともに、なぜマツダはMX-30を導入したのかという背景などについてもお伝えしよう。

頭に「?」マークばかりが浮かんだ「MX-30」のデビュー

「東京モーターショー2019」で世界初公開された、マツダ「MX-30」

「東京モーターショー2019」で世界初公開された、マツダ「MX-30」

「東京モーターショー2019」で初めてMX-30を見たとき、頭に「?」マークが浮かんだ方は多かっただろう。かくいう私も、同じだった。特に、そのデザインはマツダが打ち出している「魂動デザイン」とは一線を画すものだったし、その直前には「CX-30」も登場していたので、MX-30のデビューそのものが不思議だったのだ。さらに、「CX」ではなく「MX」と名乗っていることも、よくわからなかった。

そこから、MX-30のデザイナーをはじめ、担当主査(MX-30の責任者)やエンジニアなど多くの人たちへのインタビューを試みた。そして今回、それらの知見を踏まえながら試乗会に赴いた次第である。

あえて「魂動デザイン」を封印!?

最初に乗ることができたのは、マツダ100周年特別記念車の2WDモデルである。現在、日本に導入されているMX-30はすべて「e-SKYACTIV G」。つまり、マイルドハイブリッドモデルだ。東京モーターショー2019で初披露されたときの、EVモデルではない。これは、日本市場ではマイルドハイブリッドを、欧州市場ではEVを優先的に送り込みたいというマツダの思いからだ。ちなみに、2021年早々には日本にEVが、欧州にはマイルドハイブリッドが投入される予定となっている。

マツダ「MX-30」(100周年特別記念車)のフロントエクステリアとリアエクステリア

マツダ「MX-30」(100周年特別記念車)のフロントエクステリアとリアエクステリア

やっと、太陽光のもとで(といっても、試乗当日は小雨だったが……)見ることができたMX-30の印象は、意外にも“マツダっぽく”感じた。たしかに、ぱっと見の印象は魂動デザインとは感じられなかったのだが、いやいや、じっくりと眺めていくとサイドビューは微妙にねじれた面構成で艶やかさが感じられ、魂動デザインを受け継いでいることが窺えた。

では、なぜひとめでわかるような王道の魂動デザインを採用しなかったのだろうか。マツダ デザイン本部 チーフデザイナーの松田陽一さんは、「今回は、ニューカーネームが決まっていましたので、前のクルマのビジネスを引き継がなくていいということがありました。また、電駆をリーディングするモデルとして、技術変化も起きるでしょう。そういったポイントがあるので、このチャンスを使って新しいものを作ろうとイメージしていました」と、当時を振り返る。では、それをデザインとしてどう表現したのか。それは、「本当に大変な作業で、まず前田(常務執行役員デザイン・ブランドスタイル担当の前田育男氏)と話したのは、『典型的なマツダの表現は、いったん封印してデザインしてみよう。だけど、マツダのクルマを作れよ』と。まさに、禅問答です(笑)」。

マツダ「MX-30」(100周年特別記念車)のエクステリアイメージ

マツダ「MX-30」(100周年特別記念車)のエクステリアイメージ

つまり、デザインにおいても新しいものにチャレンジするためで、「そうしないと、バリエーションが描けない。アイデアが伸びないのです。最初は封印せずに描いていたのですが、全然変わらず、たとえばCX-30のグリルを塞いだだけみたいな絵のバリエーションが無限に増えていくだけで、突破できなかったわけです。それで、封印しました。たとえば、野球選手がスランプのときにフォームを変えたりする。それに近いですね」と教えてくれた。

すべてが“自然体”

マツダ「MX-30」(100周年特別記念車)のインテリア

マツダ「MX-30」(100周年特別記念車)のインテリア

では、さっそくMX-30に乗り込んでみよう。じっくりとエクステリアを眺めたあと、室内に入ると上質なインテリア空間に包まれた。そこでまず感じたのは、ドライビングポジションが自然なことだ。まっすぐに足を延ばしたところにペダル類が配され、ステアリングもずれずにドライバーに向けられている。

「MX-30」のインパネ上部には、カーナビゲーションや燃費、メンテナンスなど、さまざまな情報を表示させることができる「マツダコネクト」が搭載されている

「MX-30」のインパネ上部には、カーナビゲーションや燃費、メンテナンスなど、さまざまな情報を表示させることができる「マツダコネクト」が搭載されている

「MX-30」には、エアコンやシートヒーター、ステアリングヒーターなどをタッチパネルで操作することができる「ロアディスプレイ」が備わっている

「MX-30」には、エアコンやシートヒーター、ステアリングヒーターなどをタッチパネルで操作することができる「ロアディスプレイ」が備わっている

センターコンソールには、上部にカーナビなどを表示させることができる「マツダコネクト」が備えられているほか、下部にも「ロアディスプレイ」と呼ばれる空調関係のモニターが置かれたのが新しい。また、センターコンソール周辺のスイッチ類は適度にクリック感を持たせており、操作しやすく感じた。

「MX-30」の市街地走行イメージ

「MX-30」の市街地走行イメージ

自然なドライビングポジションに身を任せ、ゆっくりとアクセルを踏み込むと、MX-30は意外にも活発にスタートした。アクセル開度に対して、よりパワーが感じられるようなセッティングで、街中をグイグイと泳ぐように走り抜けられる。個人的には、もう少し緩やかなセッティングでもいいかと思うのだが、これは慣れと好みの問題だろう。

「MX-30」のフロントシート

「MX-30」のフロントシート

シートは、比較的座り心地がよくホールド性も高いので、短時間の試乗では問題は感じなかった。いずれ、ゆっくり長距離を走らせてみたいと思う。

いっぽう、乗り心地は若干固めでもう少しサスペンションのストロークが感じられるしなやかさがほしい。MX-30というクルマの性格上、そちらのほうが合っているように思えるからだ。また、ブレーキに関しても若干オーバーサーボ気味で、違和感を覚えた。止まる寸前に、パッドに少し食いつくような印象があるのだ。たぶん、アイドリングストップが介入するために踏力の変化があるようだ。

マツダ「MX-30」(100周年特別記念車)の走行イメージ

マツダ「MX-30」(100周年特別記念車)の走行イメージ

フリースタイルドアを採用しているにも関わらず、ロードノイズは効果的に締め出しており、市街地や高速道路を走らせていても耳障りな音は聞こえてこない。そういったシーンで前方を見ていると、ボンネットがフラットで見晴らしがよく、安心感を与えてくれる。また、ドアミラーはドアにマウントされているタイプなので、右折時の死角が減少している。歩行者を発見しやすくなっていることも、大いに評価したい。

前述した、タッチパネルでエアコンを操作できるロアディスプレイには物理スイッチも置かれ、好みに応じて使い分けることが可能だ。今後はタッチパネルに移行していくのだろうが、その際にはブラインドタッチができるような工夫を望みたい。マツダでは、「脇見1秒以内」という社内規定があるそうで、このタッチパネルでもその要件は満たしていると言うが、それでもその1秒で何が起きるかわからないので、そのあたりはぜひ今後につなげてほしいと感じた。

マツダ「MX-30」(100周年特別記念車)の走行イメージ

マツダ「MX-30」(100周年特別記念車)の走行イメージ

今回は、90分ほどの時間内で撮影と試乗をこなしたため、じっくりと走り込むことはできなかったが、オートマチックトランスミッションとエンジンとの相性がよさそうで、思い通りのハンドリングも備えており、市街地はもちろん峠道でも意のままに操れそうだ。特に、交差点などを曲がる際、ステアリングを切り増したり戻したりすることが少なく、ほぼ狙い通りに一発でステアリング操作をすることができる点などは高く評価したい。こういった走りやすさは助手席にも伝わるようで、今回同乗していた編集者も、「まるで、自分で運転しているかのように感じ、乗り心地もよかった」とコメントしていた。

通常とは少し異なるシフトパターンが採用されている、マツダ「MX-30」のシフトレバー

通常とは少し異なるシフトパターンが採用されている、マツダ「MX-30」のシフトレバー

シフトレバーは、Pは右への突き当て、RとDは前後の突き当てというレイアウトだ。これは、誤操作を防止するために心理学を駆使して採用したものだと言う。実際に操作してみると、シフトパターンはわかりやすく、駐車時の切り返しもしやすい。しかし、通常のシフトパターンではまっすぐ前方に突き当ればPの位置になるので、慣れないとうっかりミスをする可能性もありそうだ。その点について、マツダ 商品本部主査の竹内都美子さんに聞いてみると、「万が一のために、二重三重にクルマを止めるようにはしています。警告音や表示もそうですが、慌てているときにはそれすら気づかないし、耳にも入らないということもあるでしょう。そこで、ドアを開けて降りようとしてしまったときには、シフトポジションがRの位置でもクルマ側が自動的にアクチュエーターでPに入れるようにしています」とのことだった。

もうひとつ気になったことを付け加えておくと、ドアのアシストグリップの位置だ。現在の位置はドア前方に縦方向に配置され、そこをつかむようにして開閉する。しかし、この位置だと力を加えにくく、特にドアを開けかけている際に風にあおられたりした場合、力を込めてドアを支えにくいという状況になりがちだ。ぜひ、これはドアの中央あたりに水平に配置してほしい。そうすれば、身長や腕力に関係なく操作は容易になるはずだ。

2WDよりもしなやかさを感じる4WD

マツダ「MX-30」4WD車の走行イメージ

マツダ「MX-30」4WD車の走行イメージ

では、次に4WD車へと乗り換えてみよう。基本的には駆動方式が違う程度なのだが、スタートした瞬間に足回りのしなやかさを感じたのには驚いた。また、ブレーキもスムーズで、2WD車で感じたオーバーサーボ気味な印象がかなり少なかったのも、好印象につながった。乗り心地に関しては、基本は共通ながら重量差が乗り心地に影響を与えているようだ。つまり、今後EVが導入された際には、より重量が重くなるため、さらに乗り心地がよくなる可能性を秘めているとも言えるし、別の見方をすると、もっとも重いEVにセッティングを合わせているからこそ、2WD車では固く感じたのかもしれない。

マツダ「MX-30」4WD車の走行イメージ

マツダ「MX-30」4WD車の走行イメージ

少しクルマにも慣れてきたので、エンジンを引っ張り気味に走らせてみると、3,000rpmくらいからよりパワーを感じ、気持ちのいい加速感を味わえる。高速道路における安定性も上々で、2WD車よりは4WD車の方が直進安定性は高いが、決して2WD車のレベルが低いということもなさそうだ。

高速道路上で周りの流れに乗って走らせていると、スムーズでまったくストレスを感じない。そういったシーンで、アクティブクルーズコントロールやレーンキープアシストを使ってみたが、いずれも非常に有効で加減速もスムーズであり、違和感はほとんどないと言っていいだろう。前述の、2WD車の直進安定性のレベルに関してはこのときに感じたもので、4WD車と比較して修正舵が多いことからそう感じられたのだ。短時間ではそれほど疲労にはつながらないだろうが、長距離となった場合には無視できないレベルになるかもしれない。

次の100年を模索して

MX-30の、最大の美点は“乗りやすさ”だ。それは、たんに誰しもがかんたんに運転できるというだけでなく、気持ちよく、ストレスなく運転できることが挙げられる。そのために、マツダは「Gベクタリングコントロール」をはじめ、さまざまな技術を用いることで、いかにもドライバーの運転がうまくなったような錯覚さえ感じさせる。

MXと名乗るマツダ車は数少ない。その意味合いは実験的なもので、だからこそ、デザインもあえて禅問答のようなトライをしている。そもそも、なぜいまマツダはMX-30を出したのか。前出の竹内さんは、このクルマの企画にあたり「白紙の状態から、『新しい価値を提案してほしい』という指示から始まりました」と言う。その理由は、「マツダブランドを、ひとつの群として認知してもらうことは、当然大事です。しかし、徐々にお客様の幅が狭まって来ているのも事実ではあります。マツダが、次の100年を歩み続けるためには新しい変化、新しい挑戦を恐れていないということを具現化し、ブランドの幅を広げなければいけないという会社の危機感から、この企画が始まったのです」と述べる。

その新しい価値について、竹内さんは当初「新しい機能や新しい技術を入れなければいけないのではないか」と考えていた。もともと、竹内さんは実験部でテストドライバーを務めていたくらいの技術屋なので、そう考えるのも当然だ。しかし、「2年から3年経った先の新しさは何か。いまは新しいかもしれないが、すぐに他が追い付いて古くなってしまう。それは、何か違うのではないかとずっと悩んでいました」と竹内さん。そこで、グローバルにターゲットとなるであろうクリエイターやスタートアップ企業の社長などをたずねるツアーを遂行した。「そのときの大きな気づきは、ターゲットとした方々が非常に自然体だったことです。オープンマインドで敷居が低く、Tシャツ短パンで出迎えてくれて、そのあたりに座って、というイメージです」と言う。その人たちが大切にしているのは、虚栄心や見得ではなく、リラックスして“心が整えられる”状態だったことに気付いた。そのために「決して最新のものではないものの、長く安心して使えるものを選んでリビングの空間を作っていました。時にはスマホの電源を切り、パソコンも見ずに、自分を取り戻す時間を作ったり。では、そういった空間作りをしているお客様にクルマという商品やサービスを通じて、自然体でいられる手助けや貢献ができないだろうか。心を整える空間、時間を作りたい」という新たな価値を発見したのである。それがMX-30のベースに流れるものであり、キーコンセプトになるものなのだ。

だからこそ、魂動デザインを封印しながらもマツダを意識させるデザインをまとい、あえて「RX-8」で採用したフリースタイルドアをふたたび用いたのも、乗降性よりもそのサイドシルに座って本を読んだり、リアシート周りを秘密基地のように使ったりしてほしいという、新たな価値の提案でもあるのだ。

乗り味に関しても、「マツダが目指す操舵、インプットに対してリニアな走りという目指すところは変えていません。それを、このボディーを使って実現させたいという思いで、前後左右上下のGを滑らかにつなぐというところは、細心の注意を払ってまとめています」と竹内さんは語っており、その通りのクルマが実現できている。

今回、マイルドハイブリッドの2台を試乗したが、いずれの点においても4WDの方に分があった。あと半年もせずにEVが登場するので、そこで改めてどれがMX-30のベストバイかを検証したい。

さて、MX-30は冒頭にも書いた通り、実験的意味合いの強いクルマだ。したがって、これ1代で終わってしまうかもしれない。しかし、ここで得たマツダの知見は大きいだろう。しっかりと消化して、次の100年に向けて大きな成長を期待したい。

内田俊一

内田俊一

日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を活かし試乗記のほか、デザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。

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