レビュー

フィアット「500ev」の走りの楽しさは、まさにオリジナルそのもの!

名古屋にあるチンクエチェント博物館には、フィアット「NUOVA(ヌォーヴァ)500(チンクエチェント)」と呼ばれる、1960〜70年代に大ヒットし、日本ではル・パン三世のアニメにも登場した2代目「500」が、所蔵、展示されている。

フィアットの2代目「500(チンクエチェント)」をEV(電気自動車)としてレストアした「500ev」へ試乗した

フィアットの2代目「500(チンクエチェント)」をEV(電気自動車)としてレストアした「500ev」へ試乗した

同博物館は、NUOVA500を文化的な遺産として、“現役のクルマ”へとよみがえらせることで、後世に残す保存活動に力を入れている。イタリア本国との強いパイプを生かし、現地で多くの500を買い付け、徹底的にレストアが施された車両を日本で販売しているのだが、その活動の一環としてフルEVモデルであるフィアット「500ev」をプロデュースした。価格は660万円からで、年間10台程度を販売する予定という。今回、その500evの試乗テストに誘われたのでレビューしよう。

■フィアット「500ev」の価格と主なスペック
-価格-
6,600,000円(税込)

-主なスペック-
駆動方式:後輪駆動
全長×全幅×全高:2,980×1,320×1,320mm
ホイールベース:1,840mm
車重:750kg
乗車定員:4人
モーター出力:13.5HP(10kW)
発進加速(0〜50km/h):7.0秒
最高速度:85km/h
駆動用バッテリー:リチウムイオン電池
航続距離:100km/FM
電力消費量:(Wh×km):131Wh/km
充電時間:家庭用200V(16A)使用時で約9時間

クラシックカーのEVは、是か非か

ラポ・エルカンという人物をご存じだろうか。フィアットの創業者であるジャンニ・アニエッリの孫で、ファッションブランド「イタリア・インディペンデント」の会長でもある同氏が、シチリア島にある工房のEVキットを使って500のビーチカーを製造したという。そのEVキットを使って、チンクエチェント博物館がプロデュースし、トリノのカロッツェリアが仕上げているのが、今回ご紹介する500evである。

フィアット「500ev」の外観を見ても、EVであることはほとんどわからない

フィアット「500ev」の外観を見ても、EVであることはほとんどわからない

だが、正直に告白すると、近年クラシックカーやヒストリックカーなどをベースにEV化するメーカーはいくつか出てきているのだが、はたしてその行為は冒涜に値しないのだろうかという思いが、以前から頭によぎっていた。そのクルマが紡いできた、大切な歴史に傷をつけてしまうのではないのだろうか、と。これからはEVの時代なので、内外装はそのままでEV化すれば、環境にも配慮されたクラシックカーができあがる……それは理解できるのだが、完全に受け入れることはできなかったのだ。そんな、少々複雑な気持ちを抱きながら、チンクエチェント博物館の伊藤精朗氏から説明を受ける。

フロントフード内にはモーター駆動用バッテリーが、本来エンジンが積まれていたリアにはモーターやコントロールユニット、補器類用バッテリーとこちらにもモーター駆動用バッテリーが搭載されている

フロントフード内にはモーター駆動用バッテリーが、本来エンジンが積まれていたリアにはモーターやコントロールユニット、補器類用バッテリーとこちらにもモーター駆動用バッテリーが搭載されている

「500の数は、イタリアでもここ日本でも減ってきています。特に、イタリアでは生活に根付いているクルマだからこそ、保存なんてほとんど考えられていないのです。そこで我々としては、もはや土に帰りそうなクルマなども含めて保存すべく、徹底的に修復を行っています。その一環として、今回はEVを手がけたのです」と説明する。500evは、モーターやバッテリー、制御するECUのキットをシチリアのメーカーが製造しており、それをトリノのカロッツェリアで修復した500に組み込み、EVとしてイタリアで登録。それを日本へ輸入しているので、日本でもEVとして登録することができる。

伊藤さんは、「500evは、『500のようなヒストリックカーに、一度乗ってみたかった』という方におすすめしたい」と言う。「現在、落ち着いた生活をしていて、より潤いのある生活を求めている方などに、街乗りでこんなクルマはどうでしょう、と。今、見てもかわいいですが、10年後、30年後に見てもきっとかわいいでしょうし、人気の衰えないクルマだと思います」と500evを説明する。確かに、デビューしてから50年以上経過しているにも関わらず、いまだに人気があるのは、このデザインが大きな要因のひとつであることは間違いない。

フロントエンブレムの中に、充電口が組み込まれている。フル充電までの時間は、家庭用200V(16A)使用時で約9時間

フロントエンブレムの中に、充電口が組み込まれている。フル充電までの時間は、家庭用200V(16A)使用時で約9時間

各自動車メーカーが今後のEV化を宣言する中で、博物館としても「環境に配慮し、SDGsも踏まえたクルマが必要なのではないか。しかし、それは単に既存の車種をEVコンバートしたものではなく、新たな価値観を生み出すような仕組みが必要と考えました」。そこで、500のオートクチュール、いわゆるビスポークを導入し、古い500をベースにEV化するとともに、オーナーが望む仕様に仕上げていくことのできるシステムを構築した。伊藤さんいわく、「ボディカラーは当然のこと、シートをコノリー仕上げにするとか、内装はアルカンターラを使用するなどから始まり、USBソケットやステレオ、クルーズコントロールなども装備できます」。まさに、一品ものの500evを作り上げられるのだそう。

そして、EV化に関しては「博物館として、500をもっと広めたいと考えています。それには、未来へ向けた提案も必要なのです。我々は、これまで500に関しては相当に研究し、実績を積んできました。そういった素地のある博物館だからこそ、500evをプロダクトモデルとして出す意味があると考えているのです」と伊藤さんはコメントしてくれた。

ちなみに、500evは1回の充電でおよそ100km、市街地のみであれば85kmくらい走行することができるという(メーカー公称値)。

走りはまさに「500」そのもの

とにもかくにも、500evはどんなものなのか、さっそく乗り込んでみよう。

フィアット「500ev」の車内は、とてもシンプル。不具合のある部分については、新品パーツへと交換、もしくはリペアされているという

フィアット「500ev」の車内は、とてもシンプル。不具合のある部分については、新品パーツへと交換、もしくはリペアされているという

オプションで装着できる「イルミネーション付プッシュスイッチ」(77,000円[税込])

オプションで装着できる「イルミネーション付プッシュスイッチ」(77,000円[税込])

こちらもオプションの「TFTメーター」(165,000円[税込])

こちらもオプションの「TFTメーター」(165,000円[税込])

まず、500evの外見からは、EVであるかどうかの識別はほとんどできない。ただし、乗り込んでみるとメーターがデジタルになっていたり、トグルスイッチがボタン式になっていたりと、伊藤さんの言う「未来志向」になっていることを実感する。もちろん、これらはオリジナルのものに戻すこともできる。

ボタンを押して、電源をオンにする。クラッチを踏み込んで3速を選び、サイドブレーキを解除。そして、アクセルを踏み込めば、スルスルと何のためらいもなく500evはスタートする。ちなみに、リアエンジンの代わりにモーターが搭載されており、フロントボンネットの中にあるガソリンタンクの代わりにバッテリーが搭載されている。トランスミッションはそのままなので、モーターとトランスミッションを切り離すためにクラッチもそのまま装備されている。3速で発進するのは、1速や2速ではあっという間に内燃機関でいう吹けきってしまう状態になるので、トルクが十分にあるEVでは3速で十分だからだ。また、停止時はモーターも完全に止まるため、クラッチを切る必要がない。つまり、発進時にクラッチワークは不要であることも付け加えておこう。

フィアット「500ev」は、4人フル乗車でもグイグイと加速していき、発進時のもたつきなどもまったく感じられないほどにパワフルだ

フィアット「500ev」は、4人フル乗車でもグイグイと加速していき、発進時のもたつきなどもまったく感じられないほどにパワフルだ

今回は、あえて4人のフル乗車で試乗テストに繰り出す。路地を抜け、大きな通りに出るところは少し上り坂になっていた。これが、もし普通の500であるとすれば、少々緊張する瞬間である。筆者は、ヒストリックカーを取材する機会も多く、これまでもいくつかの500のステアリングを握ってきたが、何せ馬力18ps程度の500では、4人乗車で上り坂、さらには大通りに合流するなどというシチュエーションでは、交通の流れを読む正確なタイミングとクラッチワークが求められるのだ。しかし、500evはどうだ。ブレーキペダルを放し、ステアリングを切りながらアクセルペダルを軽く踏み込むと、まったくストレスを感じさせずにスタートダッシュし、いともカンタンに交通の流れに乗って走り始めたのだ。

フィアット「500ev」の走行イメージ

フィアット「500ev」の走行イメージ

何度も繰り返すが、4人乗車でありながら流れをリードしつつ、東京も上り坂は多いのだなと改めて感じながら都内を走らせる。確かに、オリジナルの2気筒エンジンを搭載していないので、後ろからポロポロとした独特なエンジン音や振動などは伝わってこない。だが、床下からは確実にギヤの唸り音が聞こえて来るし、ステアリングを切れば少々重さを感じさせつつも、しっかりと路面のフィードバックを伝えながら小さなボディは向きを変える。ブレーキは、サーボがないのでしっかりと踏む必要はあるが、思った通りの効きを示してくれた。乗り心地も、小さなタイヤということもあって、コトコトと路面の振動が伝わって来るが、決して不快なものではない。「これは、まさにフィアット500の走りそのものではないか」。さらに、東京の狭い道でも、スイスイと潜り込むことができるこのサイズは、実に魅力的に感じた。

ヒストリックカーとの新しい付き合い方を示してくれる「500ev」

フィアット「500ev」の走行イメージ

フィアット「500ev」の走行イメージ

そんなことを考えながら500evを走らせていて、はたと気付いたことがある。ヒストリックカーを現代の道で走らせている時に感じる大きなストレスが、この500evに限って言えば、すべて解消されているということであった。オリジナルの500では、いつ、なんどきトラブルが発生するかわからず、渋滞では水温を気にして、常に故障が心配になってしまう。だが、500evなら500の楽しい部分のみを享受できるのではないかと感じたのだ。きっと、500のことを知り尽くしたチンクエチェント博物館だからこそ、ここまで仕上げられたに違いない。伊藤さんの言う、「ヒストリックカーとの新しい付き合い方」とはこういうものだったのかと思った。

エンジンにはエンジンの楽しさがあるし、非力であればそれなりの走らせ方というものもあり、それはそれで知的な遊びの感覚でもあるので、うまくいった時にはその喜びも大きい。しかし、そのように考えられる方はごく一部なのかもしれない。博物館の言う、多くの人に500を知ってもらいたい、1台でも多く500を残したいという思いを考えると、EV化という方法もありだと思った。さらに、この500evのクラッチは、単にモーターとギヤボックスを切り離すことだけに使われるため、AT免許でも運転することが可能というのも大きなメリットだ。

フィアット「500ev」の走行イメージ

フィアット「500ev」の走行イメージ

フィアット500の楽しさを残しながら、ストレス部分だけを除いていった結果がこの500evであることは間違いないし、その点こそがほかのEVコンバートモデルとは違うところと感じた。冒頭での疑問に対しては、すっきりした答えは見いだせてはいないが、ただ、ひとつ大事なのは、楽しいかどうかということに対しては、素直に「この500evは楽しい!」と答えることができるし、こういう楽しみ方もありだと思ったことだ。

協力:ブリストル研究所

内田俊一

内田俊一

日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を活かし試乗記のほか、デザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。

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フィアット 500の製品画像
フィアット
4.23
(レビュー49人・クチコミ525件)
新車価格:233〜300万円 (中古車:19〜579万円
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