すこし前の話になるが、2021年11月25日、門司港駅(福岡県北九州市)をスタートして、同年11月28日に神戸へとゴールするクラシックカーのラリーイベント、「クラシックジャパンラリー2021 MOJI - KOBE」が開催された。戦前のブガッティなど、普段は見ることのできないクラシックカーたちが、九州や四国を経て神戸へと至る、およそ1,100kmの長距離を走るラリーイベントだ。
2021年11月25日から28日まで、4日間をかけて開催されたクラシックカーのラリーイベント、「クラシックジャパンラリー2021 MOJI - KOBE」
筆者は、そのイベントを取材することになったのだが、ラリーイベントで移動しながら取材するために、クルマが必要になる。そこで、道中の相棒として、アルファロメオ初のSUVである「ステルヴィオ」を選んだ。
今回、イベント取材の相棒として選んだのが、アルファロメオのSUV「ステルヴィオ」だ
その理由としては、
・長距離が楽なこと
・燃費がいいこと
・適度なボディサイズであること
の3つが挙げられる。まず、東京から九州まで移動した後、疲れることなく取材をしなければならないため、長距離が楽なことが最も重要な点になる。また、イベントに参加するクルマを追って先回りをしなければいけないこともあるのだが、燃費が悪いと途中で給油しなくてはならないので、せっかくショートカットなどで先回りしても、給油に時間がかかると水の泡になってしまう。また、今回は走行したことのない道を走ることが多いことや、撮影などの取材時に駐車スペースをスムーズに利用するためにも、ボディサイズは適度なほうがいいだろう。そのようなことを考えて、今回選んだのはステルヴィオだった。ドライバビリティにすぐれており、燃費のよさも期待でき、何よりも少し高めのヒップポイントからくる視界のよさが疲れを軽減してくれるはずだ。そして、グランドツアラー的な要素をふんだんに備えていることは大きかった。ちなみに、ステルヴィオの全幅は1,905mmなので、ボディサイズについては想定よりも少々オーバーしてしまった。だが、実際に九州や四国の狭い道などを走ったのだが、取り回しに不自由しなかったことを、先に伝えておきたい。
2018年に発売された、アルファロメオ初のSUV「ステルヴィオ」。2020年9月に発売されたスポーツセダン「ジュリア」に続く、アルファロメオの新世代モデルの第2弾として登場した。ジュリアから基本コンポーネントが受け継がれており、スポーツ性能の高さが最大の特徴になる
ここで、ステルヴィオについて少し振り返っておこう。2018年にデビューしたステルヴィオは、SUVの中では卓越したスポーツ性能の高さと豊かな面構成のデザインなどが人気を集めてきた。ステルヴィオというモデル名は、イタリア北部のアルプス⼭中にあるステルヴィオ峠に由来している。アルプスの峠では2番⽬に⾼いステルヴィオ峠は、48か所ものヘアピンカーブがあり、モータリストなどの聖地として知られている。その名が与えられるくらいなので、ステルヴィオのハンドリングに関しては大きな自信があることが窺える。ちなみに、2017年9⽉にニュルブルクリンク北コースにおいてステルヴィオのハイパフォーマンスモデルである「クアドリフォリオ」が7分51秒7のラップタイムを記録し、当時量産SUV最速の座に就いた。これを達成できたのは、アルファロメオのスポーティーセダン「ジュリア」から受け継がれているアーキテクチャーや、基本コンポーネントの影響も大きいのだろう。
今回試乗した、アルファロメオ「ステルヴィオ」の「2.2ターボ Q4 ディーゼル ヴェローチェ」グレード
今回乗ったステルヴィオのグレードは、2021年6月に新たに追加された「2.2ターボ Q4 ディーゼル ヴェローチェ」だ。搭載エンジンは、排気量2,142tの直列4気筒インタークーラー付ターボで、最高出力は154kW(210ps)/3,500rpm、最大トルクは470Nm(47.9kgm)/1,750rpmを発生し、1,820kgのボディをぐいぐいと引っ張る実力を備えている。
都内で試乗車のステルヴィオを受け取り、国道へと乗り込んだ第一印象は、ステアリングがとても過敏ということだった。極端な言い回しをすると、行きたい方向に視線を向けるだけでクルマも同時に向かっていく、そんなイメージだ。ようは、ほんのわずかにステアリングを動かしただけで、クルマがサッと進路を変えようとするのだ。その時に思ったのは、「高速道路における、ロングドライブでのステアリング操作は疲れそうだな……」ということであった。だが、これはいい意味で期待を裏切られる結果となったことは、のちに記したい。
しかし、市街地で気になったのはそのくらいで、車幅も含めて乗りやすく、交通の流れに軽々と乗って、時にはリードしながら走らせることができる。さらには、静粛性も適度で、ノイズがうるさかったり、逆に過剰に静かということもなく、しっかりとみずからがクルマを走らせているという音が適度に伝わってくる。そして、アクセルを踏めばギアが1速か2速シフトダウンして加速し、それによってリニアにエンジン音が高まっていくというナチュラルに操れる心地よさが、ステルヴィオには備わっていた。
何より、市街地で最も驚いたのが、1,905mmという車幅と6mという大きめの最小回転半径にも関わらず、意外にも路地裏をスイスイと走れたことだ。確かに、Uターンや狭い道路での切り返しなどでは、もう少し小回りがきくといいと思う場面もあったが、それが欠点と感じられるまでにはいたらなかった。そして、そういったシーンではQ4の制御がすばらしく、4輪駆動によるデメリットやギクシャクした動き、ブレーキングの減少などは一切感じられず、FFモデルと同様の軽快な印象であったことを付け加えておきたい。
東京から九州までの高速道路を往復した印象は、まさに快適そのものだ。これまで、さまざまなクルマで長距離を走ったが、ここまで快適だったクルマは稀有と言えるほどだ。前述した、過敏に感じられたステアリングはしばらく走ることで体になじみ、直進安定性が非常に高いので、軽くステアリングに手を添えているだけで矢のように直進していく。そして、コーナーなどでは軽くステアリングに力を加えるだけで、思ったとおりにそのコーナーに沿って曲がっていく。中国自動車道などは、比較的きついコーナーなどが多いのだが、そのような場面でもふらつくことなどはまったくなく、ステアリングの舵角が一発で決まり、修正の必要もないので安心して走行することができた。
また、乗り心地のよさも高く評価したいところである。確かに、255/45R20(タイヤ銘柄は、ミシュラン「ラティチュードスポーツ3」)は若干オーバーサイズ気味で、バネ下が重く、バタつく感じはぬぐえない。しかし、それを剛性の高いボディがうまく受け止めてくれているようで、鋭い突き上げなどが体にガツンと伝わってこないのだ。
それに加えて、フロントシートの出来もいい。いっけん大柄に見えるシートだが、ホールド性が適度によく、サイドや背面周りのサポートが絶妙だ。ステルヴィオは、あらゆる面における快適性の高さがとてもバランスよく構成されており、今回の取材中にステルヴィオへ乗って疲れたと感じたことはまったくなかった。それは、すべての取材が終わった後、神戸から京都へと移動し、少し用事を済ませて、さらに東京まで一気に休みなく快適に帰宅することができたと言えば、その実力の高さが伝わるだろうか。
ちなみに、高速道路で唯一気になったのが、ADAS(運転支援システム)関連だった。特に、レーンキープや前車を追従するハイウエイアシストなどは、エラーや誤判断が出ることがあったので要注意だ。もちろん、すべてをクルマ任せにできるわけではなく、ドライバーが注意を払っている必要があるので、何らかのエラーが起きたとしても対応可能な範囲内のものではあるのだが。また、ステルヴィオに搭載されているシステム自体の設計が若干古いものなので、そのあたりは鑑みなければならないだろう。
九州や四国では、かなりの距離のワインディングロードを走ることもできた。そのようなシーンにおいて、ステルヴィオは最も実力を発揮した。まさにスポーツカーのごとく、ひらひらとコーナーを舞い、SUVであることすら忘れさせてくれる。そのハンドリングはジュリアなどとほぼ変わらず、セッティングは見事なものだ。パドルシフトを操作し、コーナーの手前でシフトダウン、ブレーキングを残しながらクリッピングポイントを抜けてアクセルを踏み込み、狙ったとおりのラインでコーナーを抜けていくと、思わず笑みがこぼれてしまう。まさに、「アルファロメオがSUVを作るとこうなる」という見本であり、ドライバーの期待を裏切らない仕上がりといっていいだろう。もちろん、こういったシーンでも重心の高さは感じさせず、いま自分がSUVを操っているという意識は遠くへと置き忘れてしまっていた。
今回、トータルで2,800kmを走行した燃費データは、以下の通りだ。
市街地:12.0km/L(12.1km/L)
郊外路:16.0km/L(16.4km/L)
高速道路:16.3km/L(18.3km/L)
( )内はWLTCモード燃費
高速道路においてのみ、WLTCモード燃費を下回ったが、これは意外とアップダウンが多かったからと考える。その理由のひとつとして、東名高速道路などではしばしば20km/Lオーバーの燃費値を記録していたからだ。この結果を見ると普通と感じられるかもしれないが、ハンドリングやパワーを含めた運転の楽しさも満喫しての結果と思えば、むしろ良好な燃費なのではと感じるのだ。
最後に、今回取材したラリーイベントについて、少しだけお話ししたい。社団法人クラシックジャパンラリーが主催した、クラシックジャパンラリー2021 MOJI-KOBEのコンセプトは大きく3つ。ひとつは、文化の継承だ。1900年代初期、つまり自動車の黎明期から、欧州では盛んに自動車レースが開催されていた。それらはスポーツとして、また、文化として人々に浸透し、自動車の発展にも大きな役割を果たした。そのような文化がいまだ大切に受け継がれており、当時作られたクラシックカーたちがいまも元気にイベントなどに登場している。いっぽう、日本は欧州に比べると自動車の歴史はまだまだ浅いものの、古いものを大切にする、そして匠の技というヨーロッパと共通の価値観が備わっている。そこで、同イベントでは1920年代から60年代のクラシックカーを1,000km以上走らせることで、そのような文化を継承していきたいという万国共通の思いを、広く日本でも伝えたいというものだ。
ふたつめのコンセプトは、次世代を担う子供たちに実際にクラシックカーに触れてもらい、エンジン音を体感してもらうなどでクラシックカーに興味を持ってもらい、それらを維持する職人の技を知ってもらいたいというものだ。
そして、三つめのコンセプトは、美しい日本だ。参加者だけでなく、さまざまな報道などを通じて日本の美しい景色を紹介し、そこから自動車の文化やモノづくり、古きものを大切にすることを次世代につなげたいという思いが込められている。
実際に、全行程を追いかけて感じたことは、日本の景色は本当に美しいということだった。日本には、こんなにも美しい景色がたくさんあり、そのようなすばらしいコースを走ることができて感激でしたといったコメントを、多くの参加者が口を揃えて言っていた。クラシックカーイベントはほかにも多く存在するが、ここまで景色の美しさにこだわったイベントは、ほかにはないだろう。
また、さきほど述べた二つめのコンセプトを実現するために、実際に小学校を訪問し、校庭にクラシックカーを並べての見学会なども開催された。子供たちは、最初は恐る恐る見ていたものの、そのうちオーナーが勧めるままにシートへ座ったり、エンジンをのぞき込んだりして、最後は嬉々としてオーナーやメカニックを質問攻めにする様子が見られ、先生たちが羨む一幕もあった。また、校庭を去る時には大歓声の中で送り出され、それに参加者たちは大きく手を振って応えるという、子供たちとの交流を楽しんでいた。主催者の一人は、「この中から一人でもいいので、クラシックカーに興味を持って所有したい、メンテナンスをしたいと思ってくれたら本当にうれしい」と想いを語っていた。
今回、クラシックカーを追いながら4泊5日を、ステルヴィオとともに過ごした。朝早くに移動を開始し、その間に取材や撮影をしながら、次の目的地まで300km近くを移動。夜には当日の取材データなどをまとめ、翌日もまた同じことを繰り返す。普通であれば、どこかで体の痛みや疲れを覚えたりするものだが、それがまったく感じられなかったのは、ひとえにステルヴィオの快適性とドライバーに忠実にストレスなく走るというクルマの根源的な部分の完成度の高さが表れているように思えた。さらに、運転の楽しさがドライバーに伝わってくることも重要だ。もし、運転が退屈であれば面倒になっていたかもしれない。だが、そのようなこともまったくなく、九州や四国を走りまわり、そして東京まで帰ってこれたということは、ステルヴィオがまさに正真正銘のグランドツアラーである証明なのかもしれない。そして、ワインディングを駆け巡るさまは、まさしくスポーツカーそのものであった。
日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を活かし試乗記のほか、デザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。