2022年6月30日、ルノー・ジャポンはコンパクトハッチバック「ルーテシア」のラインアップに、ハイブリッドモデルである「E-TECH HYBRID」を追加した。さっそく、試乗する機会を得たのでレポートしよう。
ルノー「ルーテシア」のハイブリッドモデルである「E-TECH HYBRID」が、2022年6月30日に日本で発売された
■ルノー「ルーテシア」のグレードラインアップと価格
-ハイブリッドモデル-
E-TECH HYBRID:3,290,000円
-ガソリンエンジン搭載モデル-
INTENS:2,669,000円
INTENS PLUS(特別仕様車):2,789,000円
ルーテシア E-TECH HYBRIDに搭載されているハイブリッドシステムは、日本では先行してデビューしているSUVのルノー「アルカナ」に搭載されているシステムと、ほぼ共通のものだ。実は、本国ではルーテシアのほうが先にデビューしており、次いでキャプチャー、アルカナという順であった。ちなみに、日本でも間もなくキャプチャーのE-TECH HYBRIDがデビューする予定だ。
ハイブリッドの主な構成ユニットは、まず205Nmのトルクを生み出すメインモーターの「Eモーター」に加えて、「HSG(ハイボルテージスターター&ジェネレーター)」と呼ばれるサブモーターが搭載されている。HSGは、主にエンジン始動やバッテリー充電などを行うためのモーターだ。搭載エンジンは1.6L直4自然吸気エンジンで、トランスミッションにはエンジン側に4速、モーター側に2速のギアが搭載されている、F1由来の「電子制御ドッグクラッチマルチモードAT」が採用されている。MTには、シンクロメッシュと呼ばれる機構があり、これは大雑把に言うとクラッチを踏んでシフトする際に、シフトチェンジ前のギアと後のギアとの回転数を合わせて、スムーズにシフトチェンジできるようにするものだ。ドッグクラッチマルチモードATでは、そのシンクロを省いてダイレクトに噛み合わせることで、瞬時に変速させる。また、そのままだとシフトショックが大きくなるが、それを前述したHSGのモーターがそれぞれの回転スピードをコントロールすることで、スムーズな変速が可能となっているのだ。さらに、エンジンとの間にあるクラッチも排除されているので、駆動力を直結した結果、メカニカルロスも削減されていると言う。そのほか、トランク下には駆動用の1.2kWhリチウムイオンバッテリーが配置されている。
さて、ルーテシア E-TECH HYBRIDは、発進時には必ずモーターのみで駆動する。そして、中速域はエンジンが始動してハイブリッド走行になり、高速域ではモーターよりも効率のいいエンジンに切り替えて走行する。ただし、加速が必要な際にはモーターもアシストする。
ルーテシア E-TECH HYBRIDの注目のひとつが燃費のよさで、25.2km/Lと輸入車の中ではナンバーワンという。2位は、同じくルノーのアルカナで、22.8km/L。そして、3位はシトロエン「C4 Shineディーゼル」で22.6km/Lだ(ルノー・ジャポン調べ)。ただし、今後キャプチャー E-TECH HYBRIDが導入されることから、3位までルノーが独占するという可能性もありそうだ。
ルノー「ルーテシア E-TECH HYBRID」のフロントエクステリアとリアエクステリア。外観デザインは、ガソリン車とほとんど変わらない
では、さっそく走り出してみよう。まず、乗り込むためにドアを開閉する時に、ドアハンドルを引っ張った音がガソリンモデルと変わらず軽めの音なのが、少々気になった。たとえば、プジョー車などはかなり重厚な音なので、改善してほしい点のひとつである。シートポジションなどを合わせて、スタート・ストップボタンを押すと、エンジンがかかる気配はなく、大きめなシフトレバーでDをセレクトし、そっとアクセルを踏み込むと無音のまま走り始めた。
ルノー「ルーテシア E-TECH HYBRID」の走行イメージ
すぐに高速道路へ入り料金所を通過し、グッとアクセルを踏み込むと、Bセグメントとは思えない力強い加速が始まる。エンジンだけでなく、モーターがアシストするため、イメージとしては2リッタークラスの加速感といっても過言ではない。そのまま本線へと合流して走らせていると、ガソリン車よりも全体の剛性が上がっているように感じられた。重量が110kgほど重くなり、またバッテリーなどがラゲッジルーム下に搭載されているため、そういったものに対する補強が功を奏していると言えそうだ。加えて、長いホイールベース(2,585mm。たとえば、VWポロは2,550mm)ということもあって直進安定性は非常に高く、また多少の横風程度ではふらつくこともなく、安心して走ることができる。このあたりは、ガソリンモデルよりも明らかに向上している点のひとつだ。
ルノー「ルーテシア E-TECH HYBRID」の走行イメージ
また、コーナーリング時の安定性も高い。特に、重心高が下がっていることもあって、高速道路の合流手前にあるようなRのきついコーナーなどにおいても、しっかりと路面をとらえてくれるので、安心して走り抜けられる。
いっぽう、乗り心地に関しては少々落ち着きのなさが気になった。重量増によって足回りのセッティングを変えたためだろうか、段差を超えるたびにひょこひょことした突き上げがあって、大きな段差では思った以上のショックが伝わってくることが気になった。このあたりは、乗り心地をアピールするルノーであればこそ、改善が必要と感じた次第だ。特に、シャシーの剛性が上がったE-TECH HYBRIDであれば、十分対応は可能なはずだからだ。
また、ステアリング周りやフロア周りの剛性の低さはガソリン車と同じで、段差を超えるとステアリングコラムが若干ブルブルと振動し、フロアから路面やエンジンの振動が伝わってきてしまうのも少々残念だった。
もうひとつ、気になる点を付け加えるなら、走行中にエンジン始動時のショックはほとんど感じられないものの、エンジン音が聞こえてくることが気になった。エンジン始動時は、そこそこの回転数まで一気に上昇するのだが、その際に低周波のブーンという音が耳についてしまうのだ。もう少し遮音性を高めてほしかったが、高速道路ではエンジンが積極的に回るので、そのぶん充電が早いというメリットもある。
注目のドッグクラッチマルチモードATについては、市街地、高速道路ともに変速ショックなどはまったくなく、非常にスムーズで、パワートレインとのマッチングも高く評価できるものだった。変速時を含めて、このトランスミッションは主張することなく、粛々と仕事をするタイプのようだ。
F1のテクノロジーが盛り込まれたE-TECH HYBRIDだが、それだけを聞くとスポーティーな仕上がりと思われるかもしれない。しかし、前述のとおり、特にドッグクラッチマルチモードATなどは裏方に徹している印象だ。これには、大きな背景がある。F1は、速く走ることが最大の目的で、そのために最大効率や耐久性を追求しており、スポーティー性を追求しているわけではないということだ。それよりも、耐久性を求めるためにショックを減らし、スムーズな走りを求めることでドライバーの疲労を削減するとともに、マシンの耐久性向上に役立てている。その結果として、誰よりも速くゴールに辿り着けるようになっているのだ。したがって、ドッグクラッチに関しても自己主張するような印象ではなく、あくまで影で効率やスムーズさを追求している。そういったことも、長年F1をやっているからこそ採用できる技術なのだろう。
ルーテシア E-TECH HYBRIDを、高速道路や市街地を走らせてみた印象としては、ガソリン車よりも進化した点が多く、今の時点でE-TECH HYBRIDのほうを選ぶことに躊躇はない。確かに、車両本体の価格差はあるものの、総支払額では免税や減税制度から価格差は縮まってくる。さらに、燃費のよさから、数年間のコストも違ってくるだろう。前述したように、ガソリン車では味わえない加速感や路面をしっかりととらえた走りのよさも魅力的だ。そのあたりを踏まえて、検討することをおすすめしたい。
日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を活かし試乗記のほか、デザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。