コロナ禍の影響による生産遅延を受け、発売が2022年7月から9月に延期になったホンダ「ダックス125」。街中でも見かけるようになり、納車された人も増えているようだ。「CT125・ハンターカブ」や「モンキー125」など、人気モデルが多い原付二種クラスに加わった「ダックス125」のフィーリングや性能を試乗して確かめてみた。
「ダックス」のルーツとなったのは、1969年に発売されたレジャーバイク「ダックスホンダST50」。同社が「スーパーカブ」シリーズなどに搭載していたエンジンと自動遠心クラッチや、ダックスフンドから取った車名のとおり、胴長に見える「プレス・バックボーン・フレーム」を採用し、前後に太めのタイヤを履き、着座位置にゆとりのあるロングシートを備えていた。1981年に「ダックスホンダST50」は生産終了となるが、1995年に復刻発売されたことからも人気のほどが感じられる。
1969年登場の「ダックスホンダST50」
1995年に復活した際は「ホンダ ダックス」という車名に変更された
新型「ダックス125」は、「ホンダ ダックス」のこうした特徴を忠実に継承。アップタイプのマフラーやメッキを多用した造形、ロングタイプのシートなどを受け継いでいる。ただ、49ccだったエンジンは123ccとなり、クラスは原付一種から原付二種にチェンジ。車体サイズも全長が1,510mmから1,760mmへ、ホイールベースも1,045mmから1,200mmへアップしている。ハンドルは折りたたみタイプではなくなったが、愛くるしいイメージは変わっていない。
サイズは1,760(全長)×760(全幅)×1,020(全高)mmで、車量は107kg。1995年に発売された「ホンダ ダックス」と比べ、車体が大きくなり、車重も32kg増しているが、ひと目で「ダックス」とわかるスタイルはそのままだ。メーカー希望小売価格は440,000円(税込)
車体が大きくなっても、鋼板プレスを用いたバックボーンフレームのスタイルは再現している
「横型」と呼ばれるシリンダーが前傾したタイプのエンジンを採用している点は変わらないが、排気量は123ccにアップ。最高出力は9.4PS/7,000rpmで、最大トルクは11Nm/5,000rpm
ハンドルは一般的なパイプタイプを採用。「モンキー125」などと同じ丸型のメーターを装備している
スタイルは過去のイメージを上手に再現しているが、倒立式のフロントフォークやABSを装備したディスクブレーキをはじめ、足回りなどの装備は現代的なものを搭載。また、原付二種となったことで、ロングタイプのシートはタンデム(2人乗り)にも対応し、よりメリットが生かせるようになった。
「モンキー125」などと同様に、倒立フォークに2ピストンのブレーキキャリパーを装備。フェンダーはダウンタイプだ
丸目タイプのヘッドライトは過去モデルと同様だが、中身はLED
リアサスペンションは2本タイプ。丸型のテールライトとウィンカーも愛らしい
ロングタイプのシートはタンデムも可能。リアにグリップバーを装備している
ガソリンタンクはシート下に装備し、スッキリしたシルエットを実現
プレートを含めてかなりしっかりした作りのタンデムステップ。タンデムを強く意識していることが伝わってくる
自動遠心クラッチなので、シフトはシーソー式。クラッチ操作が必要ないため小型AT免許で乗れる
筆者は「モンキー125」「グロム」「CT125・ハンターカブ」など、横型エンジンを搭載したホンダの原付二種クラスのバイクにほとんど試乗しているが、どの車種もバランスがよく楽しい乗り味だった。「ダックス125」に搭載されるのは、ロングストロークとなり、低中速のトルク感が増したエンジン。ホイールベースが長めの車体と相性もよさそうで、期待が持てる。街中を中心にアップダウンのあるワインディングも走り、走行性能を確かめてみよう。
シート高は「モンキー125」より1mm低い775mm。ただ、身長175cmの筆者の場合、両足のかかとは接地するがヒザの余裕は少なく、印象的には「ダックス125」のほうが大柄に感じた
排気音は、聞き慣れた横型エンジンのもの。クラッチを握らずにペダルを踏み込むだけで発進できるのは気軽だ。エンジンはトルクフルで、アクセルを開けた分だけ車体を押し出すように加速できる。このロングストロークタイプのエンジンを搭載したマシンには何度か乗っているが、実に、街乗りが気持ちいい。「グロム」や「モンキー125」は5速ミッションを組み合わせるが、「ダックス125」のような4速ミッションとの相性も良好だ。多少高めのギアでも十分に加速できるのであまり気を使わずに乗れ、それでいて、きちんとギアを合わせて加速させていくと、交通の流れをリードできる速さも持ちあわせている。
速さと気持ちよさ、そして扱いやすさをあわせ持つエンジンは街乗りとの相性がいい
乗っていて感じたのが、シフトダウン操作がしやすいということ。シーソー式のペダルはかかと側を踏み込むような操作になるのだが、これまで乗った「スーパーカブ」系の車両はアキレス腱が伸びるような感覚があり、足を大きくズラしてつま先で踏み込んだほうが操作しやすい場合もあった。それが「ダックス125」は、ペダルとの位置関係がいいようで、そのままかかとで踏んでシフトダウンできる。自動遠心クラッチの場合、ペダルを踏み込んでいる間はクラッチが切れているので、その間に空ぶかしをするとスムーズにシフトダウンできるのだが、その操作がスムーズなのだ。
かかとでシフトダウン操作がしやすいので、気持ちよく走れる
コーナリングは、素直に車体が寝ていく感覚で扱いやすく、寝ている間の姿勢も安定している。「モンキー125」より55mm長く、「グロム」と同じ1,200mmというホイールベースが効いているようだ。ただ、コーナリング中のバランス的には、リア荷重で曲がる「モンキー125」に近い。また、シートの長さがあるので、座る位置を変えながら乗れるのも面白いところだ。
郊外のワインディングにも足を伸ばしてみたが、景色を楽しみながら流すのも、少しやる気を出してライディングを工夫してみるのも、どちらも楽しめる懐の深さがある。ペースが上がってくると、コーナリングでのフロントの接地感がもう少し欲しくなるものの、フロントブレーキを少し残すような走り方を試してみると、接地感の薄さを補えた。カタチ優先で設計したのではなく、走りの部分においても抜かりなく作られていることを感じる。
倒し込みの操作が軽く、コーナリング中の安定感も高いので、バイクに乗り始めた人からベテランライダーまで走りを楽しめる
「ダックス125」が登場したことで、「グロム」「モンキー125」「CT125・ハンターカブ」「スーパーカブ C125」と、原付二種クラスのレジャーバイクのラインアップが、さらに充実してきた(個人的には「ゴリラ125」や「モトラ125」などの登場も期待したいが)。それぞれのキャラクターの違いも明確で、「ダックス125」は小型AT免許で乗れる気軽さと、上述の5車種の中では最もタンデムがしやすいところが魅力だ。
ただ、実際に乗ってみると想像以上に走りも楽しく、ツーリングやワインディングなどに出かけても満足感が高い。サイドバッグなどのオプションも用意されており、今後もカスタムパーツなどは増えていくと思われるので、街乗りだけでなく遠出も楽しめる懐の深いマシンだと言える。
●メインカット、走行シーン撮影:松川忍
カメラなどのデジタル・ガジェットと、クルマ・バイク・自転車などの乗り物を中心に、雑誌やWebで記事を執筆。EVなど電気で動く乗り物が好き。