レビュー

新型「GLC」は今のメルセデスの“王道”モデル! 「S」譲りの先進機能も満載

2023年3月、メルセデス・ベンツ日本はミドルサイズSUVの「GLC」を2代目にフルモデルチェンジした。

2023年3月に初のフルモデルチェンジを遂げた、メルセデス・ベンツのミドルクラスSUV「GLC」。「Sクラス」譲りの先進機能が多数搭載されている同モデルに、今回試乗した

2023年3月に初のフルモデルチェンジを遂げた、メルセデス・ベンツのミドルクラスSUV「GLC」。「Sクラス」譲りの先進機能が多数搭載されている同モデルに、今回試乗した

GLCクラスの製品画像
メルセデス・ベンツ
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(レビュー29人・クチコミ493件)
新車価格:820万円 (中古車:198〜1068万円

今回、新型「GLC」の試乗会が開催されたのでレポートしたい。なお、2023年2月にマイナーチェンジされた「Aクラス」「Bクラス」も同日に試乗できたので、その印象についても本稿後半で少し触れておこう。

世界的なベストセラー車が初のフルモデルチェンジ!

「GLC」の全世界における販売台数は、2022年だけでも約35万台、前身である「GLK」から数えると累計で260万台以上を販売しているベストセラーSUVで、メルセデス・ベンツにおける基幹車種である。

日本では2008年に初代モデルが発売された「GLK」。2016年に後継モデルである「GLC」へと切り替わった

日本では2008年に初代モデルが発売された「GLK」。2016年に後継モデルである「GLC」へと切り替わった

そして今回、「GLC」のフルモデルチェンジにおいては大きく3つのポイントがあると、メルセデス・ベンツ日本 営業企画部の上野麻美さんは言う。「ひとつめは、取り回しのしやすいボディサイズはそのままに、オンロードやオフロードの走行性能を向上させていることです。2つ目は、質感を高めたエクステリアやインテリアデザイン。そして、3つ目は『Sクラス』譲りの最新技術を数多く採用していることによる、高い安全性能と快適性です」とのことだ。

後輪操舵など「Cクラス」と同様の先進機能を多数装備

新型「GLC」のエクステリアは、メルセデス・ベンツのデザイン思想である「センシュアルピュリティ(官能的純粋)」によってキャラクターラインが極力廃され、面で勝負するデザイン構成となっている。また、空気抵抗も重視されており、CD値0.29というすぐれたエアロダイナミクスを実現している。

ボディサイズは、先代に比べて全長が50mm伸びているが、そのぶんはほとんどがホイールベースの延長に、つまり室内やラゲッジルームの拡大に充てられている。

比較参考として、先代(初代)「GLC」のフロントエクステリア

比較参考として、先代(初代)「GLC」のフロントエクステリア

新型「GLC」のフロント&リアエクステリア。ホイールベースの延長などによって、先代に比べてより伸びやかなシルエットとなっている

新型「GLC」のフロント&リアエクステリア。ホイールベースの延長などによって、先代に比べてより伸びやかなシルエットとなっている

さらに、新型では「Cクラス」にも用いられている最新のプラットフォームが採用されており、後輪操舵機構「リアアクスルステアリング」もオプションで選択が可能。最小回転半径は、リアアクスルステアリング搭載車が5.1m(先代比-500mm)、非搭載車が5.5m(同-100mm)である。

インテリアは、新デザインのステアリングホイールや12.3インチのコックピットディスプレイ、11.9インチの縦型メディアディスプレイ、そして大型のウッドトリムが採用されており、先進的で機能的なインテリアデザインとなっている。先進機能については、「Hi メルセデス」をキーワードに会話形式で車両設定などができる対話型インフォテインメントシステム「MBUX」が採用されている。

新型「GLC」のインテリアは、現行「Cクラス」などと共通のレイアウトが採用されている

新型「GLC」のインテリアは、現行「Cクラス」などと共通のレイアウトが採用されている

ラゲッジルームは、先代より70L増えて620Lになり、リアシートを倒さずにゴルフバッグを最大3本積載できるようになった。そのリアシートは、40:20:40の分割可倒式で、リアシートを倒すと最大1,680Lの広大なスペースになる。

新型「GLC」のラゲッジルーム。上がリアシートを立てている状態で、下はリアシートを倒した状態。両サイドのくぼみを使ってゴルフバッグなどの長尺物を積む

新型「GLC」のラゲッジルーム。上がリアシートを立てている状態で、下はリアシートを倒した状態。両サイドのくぼみを使ってゴルフバッグなどの長尺物を積む

また新型「GLC」は、オフロード走行時にドライバーへ必要な情報を即座に提供するための「オフロードスクリーン」が備えられている。勾配や傾斜、高度など、オフロード走行に役立つ情報をまとめて表示することによって、車両の状況が把握しやすくなるというものだ。

「オフロードスクリーン」は、センターディスプレイ(上)とメーターディスプレイ(下)のどちらにも表示させることができる

「オフロードスクリーン」は、センターディスプレイ(上)とメーターディスプレイ(下)のどちらにも表示させることができる

さらに、ドライブモードの「ダイナミックセレクト」には、荒れた路面での走行安定性を高める「オフロードモード」を搭載。急勾配の下り坂などで、エンジン回転数やブレーキを制御して自動的に速度を一定に保つ「ダウンヒルスピードレギュレーション」によって、険しい地形でのドライビングをサポートするモードだ。

また、360度カメラシステムのフロントカメラと左右のドアミラーにあるサイドカメラの映像を合成することで、ボンネット下の路面イメージを可視化する「トランスペアレントボンネット」機能が初採用されている。ボンネット付近の床下に隠れて見えない大きな石や障害物、路面の深いくぼみなどを可視化することで、オフロード走行における安定性が高められている。

「トランスペアレントボンネット」は、センターディスプレイに車両のフロント下の映像を仮想的に映し出す機能で、操舵方向も表示することで進路上にある石やくぼみなどの障害物を避けることができる

「トランスペアレントボンネット」は、センターディスプレイに車両のフロント下の映像を仮想的に映し出す機能で、操舵方向も表示することで進路上にある石やくぼみなどの障害物を避けることができる

フラッグシップ譲りの充実した安全性能

そのほか、安全運転システムは「Sクラス」と同じ機能が多数搭載されている。いくつか例をあげると、側面衝突の危険を察知するとバックレストに内蔵されたエアチャンバーが瞬時に膨張し乗員を車両中央に移動することで、ドアとの空間を作り衝撃を効果的に軽減する「プレセーフインパルスサイド」が追加されたほか、右折時の対向車検知機能やアクティブステアリングアシストのレーン認識精度も向上している。

パワーユニットは、2L直列4気筒直噴ディーゼルターボエンジンに48V電気システムとマイルドハイブリッドである「ISG」技術(インテグレーテッド・スターター・ジェネレーター)を初採用。これは、オルタネーターとスターターの機能を兼ねた電気モーターで、この「ISG」を48V電気システムと組み合わせることにより、滑らかで力強い加速や高効率なエネルギー回生を実現。また、高出力なスターターを使用することにより、エンジン始動時の振動がほとんど感じられないことも特徴だ。

このハイブリッドシステムと、先代モデルから継承されたディーゼルエンジンを改良して出力・トルクを向上させることで、環境性能の向上が図られている。燃料の最大噴射圧を2500バールから2700バールへと高めた直噴システムの採用などにより最大トルクが10%アップ。「ISG」を組み合わせたことで最高出力17kW(23PS)、最大トルク205Nmの電動モーターのアシストが可能となり、低速域のドライバビリティが向上しているとのこと(エンジンの最高出力は145kW(197PS)、最大トルクは440Nm)。そして、燃費は先代モデルと比べて約19%向上し、18.1km/L(WLTCモード)を達成している。

新型「GLC」は45:55のトルク配分による四輪駆動機構「4MATIC」が採用されており、さまざまな天候や場面状況下において最適なトラクションを発揮。さらに、オプションの「エアマティックサスペンション」を選択すると、高速走行時およびダイナミックセレクトで「スポーツモード」を選べば車高が約15ミリ下がり、ハンドリングや空力特性および燃費を補助する。また、「オフロードモード」を選択すると車高が約15ミリ上がって、悪路での走破性が高められる。

しなやかな乗り心地が印象的な「AIRMATICサスペンション」

試乗車は、4WDの「GLC 220d 4MATIC」で、前述した「リアアクスルステアリング」と「AIRMATICサスペンション」が採用された「ドライバーズパッケージ」装着車だった。

乗り始めて、最初に気づいたのが静粛性の高さだった。搭載されている4気筒ディーゼルターボエンジンの音ははるか遠くにかすかに聞こえてくる程度で、市街地や高速道路などさまざまなシチュエーションにおいて、エンジン音が気になることはまったくと言っていいほどなかった。ロードノイズもそれほど気にならなかったことも付け加えておきたい。

試乗した車両には「AIRMATICサスペンション」が装着されていることもあって、とくに市街地における乗り心地が抜群にいい

試乗した車両には「AIRMATICサスペンション」が装着されていることもあって、とくに市街地における乗り心地が抜群にいい

乗り心地については、いくつかのシーンにおいて評価が分かれる結果となった。まず、40km/h程度の低速域では路面の凸凹を乗員へ直に伝えてくるのだが、それ以上の速度域になると「AIRMATICサスペンション」の名称から想像されるとおりに、フワッとしたしなやかさが表れてくる。

特に、235/55R19という大径タイヤを装着しながら、角が落ちたなめらかな乗り心地とともに足元がバタつかないのは、ボディ剛性が高い証左と言えるだろう。このフィーリングは高速道路を走行していても同じで、しなやかさを保ちながらしっかりと路面をとらえる走行感覚が印象的であった。ただし、高速域においては若干、ダンピング不足のような挙動が出るのが気になった。継ぎ目などを乗り越えた際に一発でショックが収まらず、わずかにショックが残ることがあるのだ。そして、「スポーツモード」に切り替えると今度は固すぎる印象だったので、高速道路などの高い速度域においては、「コンフォートモード」と「スポーツモード」の中間あたりのモードが欲しいと感じた次第だ。ただし、新型「GLC」のモード切り替えは明確に差が出るので、ワインディングなどをハイペースで走る際などにおいては「スポーツモード」は好ましい印象だったことも述べておきたい。

驚くほどによく曲がる「リアアクスルステアリング」

市街地を走らせていて、もうひとつ気づいたのがエンジンスターターの機能を兼ね備えた電気モーター「ISG」の優秀さだった。アイドリングストップからのエンジン再スタートは振動がなく非常にスムーズなもので、同乗者はエンジンがかかったことにほとんど気づかないくらいだ。また、発進時に「ISG」が介入しているかどうかはまったくわからず、運転を開始してわずか数分で、「ISG」というよりもエンジンそのものを意識しなくなってしまうほどに違和感がなかった。

また、前述のとおり新型「GLC」はリアアクスルステアリングを備えているので(オプション装備であるが)、小回り性が抜群にいい。交差点での右左折はもとより、路地などに入っていく際にも驚くほどによく曲がってくれる。

少々気になるのが車幅だ。やはり、日本の道路では1,890mmという車幅は少し大きめなうえに、車幅が意外とつかみにくく切り返しなどで神経を使うことだった。特に、左前方の車幅がもう少しつかみやすくなってくれるといいのだが……。

オプション装備の「リアアクスルステアリング」は、約60km/h以下の走行時にリアホイールをフロントホイールと逆方向に最大4.5度傾ける機能だ。最小回転半径が小さくなるので、駐車などの際に扱いやすくなる。さらに、約60km/hを超えるとフロントホイールと同方向に最大4.5度傾けるので走行安定性が高まる

オプション装備の「リアアクスルステアリング」は、約60km/h以下の走行時にリアホイールをフロントホイールと逆方向に最大4.5度傾ける機能だ。最小回転半径が小さくなるので、駐車などの際に扱いやすくなる。さらに、約60km/hを超えるとフロントホイールと同方向に最大4.5度傾けるので走行安定性が高まる

センターディスプレイ下のスイッチはやや使いづらいかも

しばらく乗っていると細かいところにも意識が向いていくが、基本的な作り込みは細部まで上質で、チリなどもきれいに合っている印象だ。ヘッドアップディスプレイが、ドライバーのポジションに合わせて位置調整ができるのもいい。もちろん、他社のクルマでも可能なのだが、他社のように一部の表示が欠けてしまったりすることがないので便利に活用できた。

少し気になるのが、インテリアの各所にピアノブラックを使っていることだ。たしかに見た目は高級感があってきれいに見えるのだが、すぐに指紋がついたり、傷が目立ったりするうえ、「GLC」では外光が反射するので少々鬱陶しく感じられた。

また、センターディスプレイの左端に走行モードの切り替えスイッチがあるのだが、パーキングカメラのスイッチがそれと同列に切れ目なく並んでいることでミスタッチを誘発するため、できれば独立して配置してほしかった。ハザードスイッチも同様で、走行モードやパーキングカメラのスイッチと同じ並びのセンターにあるのだが、それも操作しにくく、とっさのときに目で追ってしまうので、これも独立したスイッチにしてほしいと感じた次第だ。

センターディスプレイ下のスイッチは、ミスタッチをしてしまうことが多かった。それぞれのボタンの間隔をもう少し取るなどすると使いやすいだろう

センターディスプレイ下のスイッチは、ミスタッチをしてしまうことが多かった。それぞれのボタンの間隔をもう少し取るなどすると使いやすいだろう

マイナーチェンジされた「Aクラス」「Bクラス」にも試乗

新型「GLC」とともに、マイナーチェンジされた「Aクラス」と「Bクラス」にも試乗できた。試乗車両は、左から「B200d」、「A200d」、「A180」

新型「GLC」とともに、マイナーチェンジされた「Aクラス」と「Bクラス」にも試乗できた。試乗車両は、左から「B200d」、「A200d」、「A180」

今回、わずかながら「Aクラス」セダンの「A200d」とハッチバックの「A180」、そして「Bクラス」の「B200d」にも乗ることができたのでレポートしたい。いずれも、走行距離はまだ500km程度のクルマだったので、全体的に固さがとれておらず、そこは差し引いて考えなければならない。マイナーチェンジにおける変更点は、以下の別記事にて詳しく解説しているのでそちらを参考いただきたい。

まず、セダンの「A200d」には「AMGラインパッケージ」が採用されていたため、タイヤがサイズアップするとともに「ローワードコンフォートサスペンション」が装着されていたので、乗り心地はより硬めで突き上げ感を伴った印象だった。マイナーチェンジ前の印象を思い起こすと、このボディとエンジンに関しては225/45R18ではなく、205/55R17のタイヤサイズと標準のサスペンションのほうが、バランスが取れているのではと感じた。17インチタイヤであれば、クルマの性格どおりにしなやかでゆったりとした走りが楽しめるだろう。

そして、ハッチバックの「A180」は、セダンの「A200d」よりも軽快さが感じられる好ましいフィーリングだった。こちらも同様に「AMGラインパッケージ」が採用されていたが、「A200d」ほど硬くないのは、重量とサスペンションのバランスが取れているからだろう。「A200d」よりもきびきびとした走りを楽しめたのだが、そんな走りに貢献するのがボディサイズだ。1,800mmという車幅は、日本ではギリギリではあるがちょうどいい広さだ。エンジンは、振動があるなど少々古めには感じられたが、しっかりと高回転域まで回りそう(今回は距離が出ていないので4,000rpmほどで止めておいたが)な印象だった。また、パワーやトルクも必要にして十分と言えるだろう。

ハッチバックの「A180」は、「Aクラス」ならではの軽やかな走行フィールが楽しめる

ハッチバックの「A180」は、「Aクラス」ならではの軽やかな走行フィールが楽しめる

「B200d」は、ディーゼルということもあって非常にトルクフルな印象。また、こちらも「A180」同様にキビキビとした印象だ。ただし、乗り心地はやはり硬めで、若干ロードノイズが気になったことは付け加えておきたい。

現状ではガソリンの、特に「A180」がベストバイという評価になりそうだ。ただし、実際に足周りなどの慣らしが終わった場合にはこの評価は変わりそうである。なぜなら、メルセデス・ベンツ車はしっかりと走り込むと、足周りがスムーズに動いてしなやかさを感じさせてくれるようになるからだ。そのため、改めて借り出してじっくりと走らせてみたいところだ。

現代のメルセデスにおける王道と呼べる仕上がり

さて、新型「GLC」に話を戻して結論にしよう。デザインに関しては好みもあるのであまり評価はしないが、個人的な思いを記せば「GLC」には「もう少し、個性を主張してもいいのでは?」と感じられた。メルセデス・ベンツ車とはわかるのだが、「では、どのクラスか?」と問われると、注意深く観察しないと判別しにくいのだ。そのあたり、新型「GLC」ならではの目立つ特徴がもう少し欲しかった。フェンダー周りにキャラクターラインを入れることで“足腰のしっかり感”が強調されるなどの特徴付けがされているようだったが、もう一歩踏み込んでもいいのではないかと感じた次第だ。

新型「GLC」を実際に走らせると、「Cクラス」よりも後から発売された影響からか、熟成がさらに進んでいるように感じられた。「GLC」のユーザーには他社からの乗り換えが半分ほどいるのだが、メルセデス・ベンツの中ではその割合は高いほうだという。購入理由を聞けば、デザインなどとともに安全性を重視する人が多いそうだ。これはまさに、メルセデス・ベンツのコアバリューをもっとも表している結果ともいえる。つまり、新型「GLC」は現代のメルセデス・ベンツの王道とも位置付けられそうだ。このセグメントを見渡すと競合車は多く、しかもすぐれたモデルばかり。そこへ新型を投入するということは、メルセデス・ベンツの実力の高さを感じさせると言えるいっぽうで、冒険もしにくいはずだ。そのため、デザインも先代を踏襲して無難な落としどころにしたのであろう。

いずれにしても、新型「GLC」は競合と比較しても過不足なくバランスが取れていて、オーナーへそっと寄り添うような執事のような存在と言えそうだ。

内田俊一

内田俊一

日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を活かし試乗記のほか、デザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。

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