日本市場への再参入から1年を迎えた、韓国の自動車メーカー「ヒョンデ(Hyundai)」は、「ブランドデイ」と題して同社の1年の振り返りや今後の展開などを説明するイベントを開催した。同イベントでは、2023年5月に改良モデルが発売された電気自動車「IONIQ(アイオニック) 5」を始めとして、2023年中に正式発表が予定されている新型SUVの「KONA Electric」や、2024年に登場予定のハイパワーモデル「IONIQ 5N」、今後の発売が期待されているクーペライクなセダンの「IONIQ 6」など、新たに導入予定の電気自動車についても語られたので、それらの詳細についてお伝えしたい。
■ヒョンデ「IONIQ 5」のグレードラインアップと価格
IONIQ 5:4,790,000円
IONIQ 5 Voyage:5,190,000円
IONIQ 5 Voyage AWD:5,490,000円
IONIQ 5 Lounge:5,590,000円
IONIQ 5 Lounge AWD:5,990,000円
※すべて税込
まずは、「IONIQ 5」から。ヒョンデはこの1年間、水素燃料電池車の「NEXO(ネッソ)」と、電気自動車の「IONIQ 5」の2車種を日本で発売した。
左が「NEXO」で右が「IONIQ 5」。2022年に2車種の試乗記を掲載しているので、興味のある人は以下のリンクからご覧いただきたい
そのうち、「IONIQ 5」は「2022-2023年日本カー・オブ・ザ・イヤー」の「インポート・カー・オブ・ザ・イヤー」を受賞するなど、高い評価を得ている。また、「IONIQ 5」は2022年の日本での販売開始以来、700台が販売された。現在、保有台数が多い地域は関東圏とのことだが、北海道や九州、沖縄など、「IONIQ 5」のユーザーは全国へ広がっているという。
「同車のユーザーは「技術への関心が高く新しいものを好む方や、実用性を追求する家族持ちの40〜50代の方が多くいらっしゃいます」と、Hyundai Mobility Japan 代表取締役の趙 源祥氏さんは語る。具体的な購入理由としては、「『IONIQ 5』の未来志向なデザインと、V2L機能(電気自動車のバッテリーなどから電気を取り出すシステム)を活用したカーライフの拡張性などです。さまざまな利点を活用して快適にキャンプするなど、ゼロエミッションビークルならではのライフスタイルを楽しんでいただいています」と言う。
「IONIQ 5」は、2023年5月16日に日本で初となるアップデートが施された。その内容は、日本のユーザーの声をもとにフィードバックされたものとなっている。
AWDモデルのラインアップ拡大や新しい充電機能の追加など、アップデートされた「IONIQ 5」は日本のユーザーからの意見が多く取り込まれている
具体的には、まず最上級グレードの「Lounge」のみに設定されていたAWDモデルが、新たに中間グレードの「Voyage」にもラインアップされたこと。これは、雪国に住んでいるユーザーから「AWDモデルを増やしてほしい」という要望が多かったためだ。「最上級グレード『Lounge』のAWDモデルは20インチタイヤを装着していますが、『スタッドレスタイヤだと値段が高くなってしまうので、もう少し手ごろなAWDが欲しい』という要望にお応えしました(筆者注:「Voyage」のAWDモデルは19インチタイヤを装着)」と話すのは、同社のシニアプロダクトスペシャリスト、佐藤健氏。その結果、よりリーズナブルな価格で、2モーターの力強さやAWDの走行安定性を楽しめるようになったとのことだ。
そして、充電出力を一時的に高める「ブースト・チャージングプログラム」も新たに採用された。同充電プログラムは、最初の8分間のみ通常よりも50A高い充電を行うことで、充電時間を短縮できる機能だ。この機能については、「『IONIQ 5』のユーザーから『もっと早く充電できないのか』という声を多く頂戴しました。そこで、今回の充電プログラムを採用したのです」と佐藤さんは話す。
さらに「IONIQ 5」には、ナビの目的地に急速充電施設を設定すると、あらかじめバッテリーの温度を高めて充電しやすくしてくれる「バッテリープリコンディショニングシステム」も新たに搭載された。
さて、今回の「IONIQ 5」はアップデートとともに、100台限定の特別仕様車「IONIQ 5 Lounge AWD Limited Edition」も新たに発売された。
カタログモデルには搭載されていない「デジタルサイドミラー」などが採用されている100台限定の特別仕様車「IONIQ 5 Lounge AWD Limited Edition」
同特別仕様車は、アップデート後の「IONIQ 5」をベースとしたモデルで、「デジタルサイドミラー」や専用の内外装色が採用されている。
「デジタルサイドミラー」は、特別仕様車のみに設定されている装備だ。「IONIQ 5」には、右左折時にウィンカーを点灯させると車両側方の映像をモニターパネル内に投影する「ブラインドスポットビューモニター」がすでに装備されているが、「デジタルサイドミラー」が加わることによって側方の死角はさらに少なくなる。
佐藤さんによると、「『デジタルサイドミラー』の左右の視野角は、従来のミラーに比べて約11度広く、本体はドアミラーに比べて小さいので、ドアミラー自体の影となって見えなかった部分も減少しています。加えて、映像技術であることのメリットを生かして、後退する際には自動でズームアウトして画角が広がり、より広い範囲の安全を確認できます。また、車線変更の際には後続車両との距離がわかるように、後方約3mの位置に赤い線、12mの位置にオレンジ色の線を表記。従来のドアミラーではできない、さまざまな機能が追加されています」と説明する。
「デジタルサイドミラー」のレンズは筐体の奥まった場所に配置され、かつ熱線も装備されているので悪天候時もクリアな映像が保たれる
「デジタルサイドミラー」の映像を室内に映し出すモニターには有機ELディスプレイが採用されており、夜間など暗い場面でもくっきりした映像で確認できる
ちなみに今回の特別仕様車だが、市場の声によっては今後カタログモデルに採用される可能性もあるとのことだ。
ここからは、近々日本への導入が予定されているモデルの発表があったことをお伝えしよう。まずは、2023年3月にワールドプレミアされた電気自動車のSUV、「KONA Electric」だ。日本では、2023年秋に正式発表される予定となっている。
490km以上もの航続距離(WLTP測定値・欧州仕様)を備え、ボリュームのあるエクステリアながら空気抵抗係数は0.27とすぐれた空力性能を発揮する「KONA Electric」
「コンパクトなボディサイズと先進的な商品性で、日本のお客様の多様なライフスタイルにも対応できるように開発されています。『IONIQ5』よりも幅広いお客様をターゲットとしており、ライフスタイルの楽しみ方が『KONA Electric』によってさらに広がることでしょう」と趙氏は言う。
そして2024年初旬には、ヒョンデのハイパフォーマンス部門である「N」初の電気自動車となる、「IONIQ5N」が日本へ導入される。車名に付加されている「N」は、2012年に誕生した高性能モデルのシリーズ名で、たとえばメルセデス・ベンツで言えば「AMG」のような存在だ。ヒョンデはモータースポーツにも積極的に参加しており、その技術が「N」を冠する量産車へとフィードバックされている。
「N」という名称は、同社のグローバル開発センターがある南陽(ナムヤン)とともに、「N」モデルの走行性能を評価するテクニカルセンターがあるドイツ・ニュルブルクリンクのサーキットを意味しているという。
500psを超える電気自動車になるという「IONIQ5N」。同車は、「N」では初となるAWDモデルだ
「IONIQ5N」は、電気自動車でありながら「N」ならではの爽快な運転の愉しさを提供するクルマに仕上げるとのことだった。佐藤さんは、「完全なスポーツモデルで、おそらく500psを超えるようなモデルになることでしょう」と教えてくれた。
また、2023年に「World Car Awards」を受賞した「IONIQ6」も、日本へ導入される“かもしれない”とのこと。今後、マーケティング戦略のひとつとして、日本のさまざまな場所で「IONIQ6」を展示し、試乗会も開催される予定とのことで、その結果によっては日本への導入もありうるとのことだ。
美しい曲線に空力効率を高めたフロントデザインが特徴的な「IONIQ6」。航続距離は610km以上(WLTP測定値)を誇る
日本におけるヒョンデ車の購入方法は、インターネットでのオンライン販売が中心となっている。そのため、メンテナンスやトラブルなどの対応に不安があるという声が多く聞かれた。そこで今回、新たに「Hyundai Assurance Program」が導入された。
同プログラムは、「ヘルスケア」と「スタイルケア」という2つのサービスに分かれている。まず「ヘルスケア」は、「車検や、毎年の法定点検などはクルマの“健康状態”をチェックし、安心してカーライフを送っていただくうえで欠かすことのできないもの。いっぽうで、点検にかかる費用や、どのお店に点検に出すべきかと悩むこともあるでしょう」と話すのは、Hyundai Mobility Japanセールスダイレクターの松本知之氏。そこで、1年目、2年目の法定点検基本料金はもちろん、3年目の車検基本料金や、それにともなう完成検査費用、継続登録費用まで「ヘルスケア」では無償となっている。さらに、3年目の車検時には、高電圧バッテリークーラントの交換も無償で行われるとのこと。そして、これらのサービスは2022年に販売された「IONIQ5」も含めて、すべて無償で適用される。
「スタイルケア」は、2023年4月以降の購入ユーザーに対して無償付帯されるサービスだ。こちらはボディプロテクションサービスで、登録後3年間は、バンパーやドアミラー、フロントガラス、タイヤについて、1年につき1アイテム、最大10万円分まで修理費用をメーカーが負担するというもの。
佐藤氏によると、「実際の整備拠点は44拠点、もしも動かなくなったときは24時間ロードサービスが対応していますので、それほどご不便をおかけすることはないでしょう。でも、やはり不安だという声があります。そこを何とかしたいということで、今回アシュアランスプログラムを導入しました」とコメントする。
「IONIQ5」の改良や「アシュアランスプログラム」の導入などを聞いて、筆者がいちばん魅力を感じたのは、ヒョンデiがユーザーの声に対して積極的に耳を傾け、それを市販車やサービスへ取り入れているという姿勢そのものだった。前述した「IONIQ6」でも、市場の声を聞き、その上で導入を検討するという。つまり、メーカーやインポーターの判断だけでなく、あくまでもユーザーをはじめとした市場の声に重きを置いているということだ。これはたぶん、ディーラーを置かずネット販売を中心としたことで、直接ユーザーなどとつながることができるようになった大きなメリットと言えそうだ。
たしかに、いざというときにディーラーがないのは不安かもしれない。しかし、日本に44拠点もの修理工場があり、今後はオートバックスグループの旗艦店である「A PITオートバックス」との連携に続いて、全国のオートバックスの店舗を通じて整備、メンテナンスを中心とした連携、協業についても検討していくということなので、その不安も今後はさらに解消されることだろう。さらに「N」などの魅力的な新型車も投入されるなど、ヒョンデは今後クルマ好きも目が離せないブランドになりそうである。
日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を活かし試乗記のほか、デザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。