アウトドアユースで便利なクルマが多いとの定評があるスバル車。キャンプやスキーなどのアウトドア現場で、スバル車の走りのよさや使いやすさにホレたのがきっかけとなり、スバル車にハマったという話は、昔からよく聞きます。
アウトドアレジャーの現場でスバル車が重宝されてきた理由について考えてみると、多くのスバル車に共通する美点の数々が、ことごとくアウトドアレジャーに適しているという事実に気が付きます。もちろん、基本的にはどんなクルマでもアウトドアレジャーは楽しめるわけですが、スバルのラインアップにはやはり、アウトドアレジャーで求められる要件のすべてに高いレベルで応えられるクルマが多いのです。
スバル車はアウトドアフィールドがよく似合うと言われます
まず重要なのは、いかなるレジャーの現場へも早く安全かつ快適に移動でき、目まぐるしく変化する天候に左右されることなく、移動中のすべての道を積極的に楽しめること。
アウトドアレジャーの現場は、都市部から遠く離れた山の中や海沿いにあることが多いので、長距離・長時間の移動でも疲れにくく飽きないファン・トゥ・ドライブ性と、疲れたときなどにドライバーを助ける高度な運転支援システム、そしてどんな路面状況でも難なく対応できる走破性の高さが必要となります。ファッション性重視の都市型SUVや、その対局にあるラダーフレーム構造の本格クロカンSUVでは、すべての状況を積極的、かつ存分に楽しむことは少し難しいと言えます。
今どきのSUVはどのメーカーのどのモデルでも、コーナリング中に不安定な挙動に陥るようなことはなく、高速巡航においても何の問題もなく走れるのも事実ですが、高速巡航からワインディング走行、さらに未舗装路でも高いレベルで存分に楽しめるモデルとなると、かなり限られます。
そこへ悪天候という、多くのクルマにとってネガ要因となるものが絡むと、さらに限られたクルマしか残らなくなりますが、スバルのSUVは、これらの要件を高い次元で満たすことができます。雪道や未舗装路でも難なく走りきり、水や泥などの汚れを気にせず愛車を使い尽くせるのは、今の時代にもマッチした大きな魅力です。
大きすぎないサイズのボディと高い悪路走破性を持つ「クロストレック」
初代「インプレッサ」のクロスオーバー車「グラベルEX」。「クロストレック」の始祖に当たるクルマです
悪路や悪天候下での走破性が高く、ユーティリティ性にもすぐれていることで人気のスバル車ですが、昨今のアウトドアブームやSUVの需要に合わせてそうなったのではありません。
実はスバルは、昭和の時代から、今でいうクロスオーバー車作りをしてきた稀有なメーカーなのです。1971年に、東北電力からの要請から乗用車向けの4WDシステムを開発するようになったというのは有名な話で、1972年には量産乗用車の4WD車を世界で初めて発売。当時のスバルの主力車種である「レオーネ」は、積雪地域での需要を意識し、本格的な悪路走破性能を備える4WDシステムの開発を高め、「乗用車の四輪駆動といえばスバル」というイメージを高めていきますが、まだそれだけではありません。
「レオーネ」は初代モデルから商用向けのバンを「エステートバン」と称し、英国風の格調高さをアピールしていました。「エステート」と言えば、欧州車やトヨタ「クラウン」など高級ブランドのワゴンのイメージが強く、小型の4ナンバー登録車に名付けるのは勇気が要ったことでしょう。
1972年発売の初代「レオーネ」
1984年発売の最終世代「レオーネ」
商用のエステートでも、今のクロスオーバー車のように車高が高いことがわかります
1979年発売の2世代目の「レオーネ」では海外のラリーに出場するなど、世界の悪路を走ることで悪路走破性能が磨かれます
そんなネーミングセンスのよさと、本格的な4WDシステムという絶大な武器の威力もあって、「レオーネ」の「エステートバン」は、バン本来の業務用途以外のアウトドアレジャーにも使われるようになりました。その流れが商用車ではない乗用車向けワゴンの誕生に繋がり、1981年に「エステートバン」のルーフを1段高くした派生車種として「ツーリングワゴン」を設定。ハイルーフ仕立てのフォルムはビジュアル面でも大変効果的で、後の「レガシィ」にも継承されました。
クルマ好きの間では、「ツーリングワゴン」の名は初代「レガシィ」の大ブレイクによって世間に知れ渡ったイメージがありますが、それよりはるか前の2代目「レオーネ」から、商用バンではないレジャーユース向けのワゴンとして差別化されていたのです。
「レガシィ」と違い、ツーリングワゴンの誕生後も商用バン仕様をやめなかったので、世間一般のワゴン車のイメージを激変させる立て役者にはなれず、その役割は「レガシィツーリングワゴン」が担うことになります。
初代「レガシィツーリングワゴン」。排気量2リッターで当時最強クラスの200馬力の高出力と、スポーツカーのようなハンドリングで大ブレイク。ワゴンボディ車に対する世間のイメージを、「商用ライトバン」から「ツーリングワゴン」へと激変させた立て役者
しかし、「エステートバン」でもルーフ部分の空間的余裕はなくとも雪道での無敵ぶりなど走りは変わらないし、質実剛健な道具として使い尽くす格好よさが演出できました。1984年から発売された3世代目「レオーネ」のエステートバンは最低地上高が200mmもあり、今の本格SUVなみのロードクリアランスを誇っていたのも驚きです。とにかくスバルは、SUV的なクルマ作りの歴史が圧倒的に長いわけですね。
スバル車のアウトドアテイストはそのままに、高級感を備えて登場した初代「レガシィアウトバック」(日本名「グランドワゴン」)
ちなみに、「アイサイト」と呼ばれる運転支援システムの開発についても、圧倒的な歴史の長さを誇ります。「アイサイト」の前身に当たる運転システムは、90年代から一部の車種にオプション設定されていたのです。当時は運転支援システムの認知度や需要は低く、「アイサイト」としてブレイクするまで20年以上の歳月を要しましたが、地道に開発を続けた結果、運転支援システムが普及する契機と原動力になりました。
また、SUVの台頭により、ステーションワゴンと呼ばれるジャンルのクルマが激減してからもなお、スバルは「レガシィ」、あるいはその後継にあたる「レヴォーグ」で国内ステーションワゴン市場において一人勝ちを続けてきました。その理由も、歴史の長さによるところが大きいのですが、長年にわたるレースやラリーなどのモータースポーツ活動で培った走りの技術の蓄積も見逃せません。
「レヴォーグ」の現行モデル(2代目)、写真のグレードは「STI Sport R」。「レガシィツーリングワゴン」と入れ替わるようにして、2014年に初代モデルが登場しました
雪や砂利道でも難なく走れる走破性と、大きくて使いやすい荷室を備えながら、戦いの現場で磨かれたスポーツカーのような走りも楽しめるという、スバルのワゴンならではの魅力が国内ワゴン市場で生き残れた要因です。
このように、スバル車にアウトドアユーザーに重宝される要素が多い理由は、ひと言で言えば「歴史の長さ」にあるのでした。
1973年大阪生まれの自動車ライター。免許取得後に偶然買ったスバル車によりクルマの楽しさに目覚め、新車セールスマンや輸入車ディーラーでの車両回送員、自動車工場での期間工、自動車雑誌の編集部員などを経てフリーライターに。3台の愛車はいずれもスバルのMT車。