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マツダの“ロータリー”がついに復活! 「MX-30 ロータリーEV」が示す新時代の予兆

マツダは、ロータリーエンジンを発電機として搭載したシリーズ式プラグインハイブリッドモデル「MX-30 ロータリーEV」を、2023年11月に発売すると発表した。車両価格は423万5,000円からで、2023年9月14日から予約販売が開始されている。

今回は、「MX-30 ロータリーEV」の詳細について解説するとともに、同車が発売された経緯などを開発者へうかがったのでお伝えしたい。

■マツダ「MX-30 ロータリーEV」のグレードラインアップと価格
※価格はすべて税込、駆動方式は全グレードが前輪駆動
Rotary-EV:4,235,000円
Industrial Classic:4,785,000円
Modern Confidence:4,785,000円
Natural Monotone:4,785,000円
Edition R(特別仕様車):4,917,000円

■マツダ「MX-30 ロータリーEV」の主なスペック
全長×全幅×全高:4,395×1,795×1,595mm
ホイールベース:2,655mm
最低地上高:130mm
車両重量:1,780kg
エンジン型式:8C-PH型
エンジン種類:水冷1ローター
エンジン最高出力:53kW(72PS)/4,500rpm
エンジン最大トルク:112N・m(11.4kgf・m)/4,500rpm
使用燃料:レギュラーガソリン
燃料タンク容量:50L
モーター最高出力:125kW(170PS)/9,000rpm
モーター最大トルク:260Nm(26.5kgf・m)/0-4,481rpm
動力用主電池 種類:リチウムイオン電池
ハイブリッド燃費(WLTCモード):15.4km/L
充電電力使用時走行距離:107km

ロータリーエンジンを採用した理由は「軽量」かつ「コンパクト」

まず、「MX-30」の車名に付けられている“MX”は、マツダでは実験的要素を含むクルマのことを指す。たとえば、「ロードスター」も初代の海外名は「MX-5」であったように、新たに挑戦するクルマへの称号ととらえてよいだろう。

その意味においては「MX-30」シリーズも同様で、マツダの電動化を主導するクルマとしてマイルドハイブリッド、電気自動車とバリエーションを展開、拡大していった。そして今回、ロータリーエンジンを発電機として搭載した「MX-30 ロータリーEV」が登場した。

「MX-30 ロータリーEV」のフロントエクステリアとリアエクステリア。外観は、ほかの「MX-30」シリーズとほとんど変わらない

「MX-30 ロータリーEV」のフロントエクステリアとリアエクステリア。外観は、ほかの「MX-30」シリーズとほとんど変わらない

MX-30の製品画像
マツダ
3.91
(レビュー45人・クチコミ964件)
新車価格:264〜501万円 (中古車:165〜425万円

ロータリーエンジンの復活についてはよろこばしいことこの上ないのだが、ここで明確にしておかなければいけないのは、あくまでもエンジンは“わき役”ということである。ロータリーエンジンは発電のために搭載されているので、その動力は駆動には用いられないのである。

では、なぜマツダがロータリーエンジンを発電機として搭載したのか。その理由は、コンパクトかつ高出力が可能だからだ。電気自動車における各ユニットは、航続距離を稼ぐために極力、軽量化が望まれる。ましてや、シリーズハイブリッドの場合、エンジンとガソリンタンクも搭載しなければいけないのでなおさらだ。

その点で、ロータリーエンジンは同じ出力の一般的なレシプロエンジンと比較して、軽量かつコンパクトに作ることが可能だ。今回、搭載されている「8C」と呼ばれるロータリーエンジンは排気量830ccで71psを発生させるが、この同じ出力をレシプロエンジンで求めると、3気筒で1,000cc程度が必要になる。両者のサイズを比較すると、ロータリーエンジンは2/3程度になるという。これは、電気自動車にとっては大きな強みだ。部品点数も少ないので軽量にもなるし、高出力化によって発電量も大きくなることから、高出力ジェネレーターを搭載して航続距離をさらに伸ばすことができる。

ロータリーエンジンの発電で長距離走行も可能に

「MX-30 ロータリーEV」のパワートレインは、フロントに発電用ロータリーエンジン、ジェネレーター、モーターからなる電駆ユニットを搭載。17.8kWhのリチウムイオンバッテリーはフロア下に配置され、その後方に50Lの燃料タンクが置かれる。これらのユニットによって、107kmのEV航続距離を有しながら、ロータリーエンジンが発電することでロングドライブも可能としている。

新開発の発電用ロータリーエンジン「8C」を、薄型で高出力なジェネレーターや高出力モーターと組み合わせ、同軸状に配置して一体化させることで、「MX-30」の車体フレームへ搭載することが可能となった

新開発の発電用ロータリーエンジン「8C」を、薄型で高出力なジェネレーターや高出力モーターと組み合わせ、同軸状に配置して一体化させることで、「MX-30」の車体フレームへ搭載することが可能となった

また、駆動のすべてを賄うモーターは、最高出力125kW、最大トルク260Nmを発揮する高出力なものが採用されている。モーターとジェネレーターは、どちらも油冷構造を採用しており、コンパクトな構造ながら高出力化を実現している。

“匠”によって検査される「8C」ロータリーエンジン

これまでのロータリーエンジン、たとえば「RX-8」に搭載されていた「13Bレネシス」は654cc×2ローターだったが、「8C」は830cc×1ローターを採用していることにも注目したい。

2ローターでは、お互いの動きにより振動を打ち消すことができるが、1ローターの場合はそれができないため、より高い精度が求められる。「8C」では、熱膨張や精度の誤差などをこれまで以上に追求することで、問題点を解消。さらに、1台ずつ匠の業師たちによる検査が行われたうえで出荷されるという手の込んだ、言い換えれば“プライド”をかけた品質管理が行われているのだ。

「8C」は、直噴化によって混合気をプラグ周りの主燃焼エリアに均一に噴霧させつつ、燃焼室の形状最適化による高流動を活用して、素早く燃える効率的な燃焼を実現している。また、軽量化のためにロータリーの構造体にあるサイドハウジングはアルミ化され、これまでよりも15kgの軽量化に成功している

「8C」は、直噴化によって混合気をプラグ周りの主燃焼エリアに均一に噴霧させつつ、燃焼室の形状最適化による高流動を活用して、素早く燃える効率的な燃焼を実現している。また、軽量化のためにロータリーの構造体にあるサイドハウジングはアルミ化され、これまでよりも15kgの軽量化に成功している

家電や建物など外部への「給電」も可能

「MX-30 ロータリーEV」は、シリーズ式プラグインハイブリッドモデルなので、外部からの充電機能が搭載されている。充電口はリアタイヤの上に配置され、普通充電に加えてCHAdeMO規格に対応した急速充電も可能である。

車両の運転席側後方に配置されている充電口は、普通充電(左)と急速充電(右)の両方に対応している

車両の運転席側後方に配置されている充電口は、普通充電(左)と急速充電(右)の両方に対応している

また、「MX-30 ロータリーEV」は、クルマの電力を家電などに供給できる「V2L」や、建物に供給できる「V2H」にも対応している。17.8kWhのバッテリーが満充電の場合、一般的な家庭の約1.2日分の電力供給が可能なので、たとえば電気代の安い夜間にクルマへ蓄電しておき、日中に自宅へ電気を供給すれば電気代の節約もできそうだ。また、バッテリーと発電を組み合わせることで、最大約9.1日分の家庭への電力供給が可能になるという。

電気自動車で培った良好な走行フィール

さて、ここからは「MX-30 ロータリーEV」の特徴などについて、開発責任者の上藤和佳子さんへ話をうかがった模様をお届けしよう。上藤さんは「MX-30 ロータリーEV」の開発に当たって、EVやPHEVの使用実態に関する調査を実施したという。その結果を見ると、9割以上のユーザーにおいて、1日の移動距離は100km未満だった。そこで、「MX-30 ロータリーEV」の航続距離を107km確保。そのうえで、長距離ドライブへ出かける際には、ロータリーエンジンで発電することによって、安心して長距離ドライブを楽しむことができるように開発したのだという。

また、「MX-30 EV MODEL」で培った車両運動制御技術を「MX-30 ロータリーEV」に用いることで、「シームレスな車両挙動や、落ち着きのある走行フィール。そして、直感的に扱えて手足のように動かせるコントロール性を、ロングドライブにおいても実感いただけます」とのことだ。つまり、「MX-30 EV MODEL」と「MX-30 ロータリーEV」とで、走りなどの差がないように開発されたようだ。

「MX-30 EV MODEL」は、荒れた路面もうまくいなす快適な乗り心地や、低重心かつオン・ザ・レール感覚のコーナーリングなど、運転していて楽しさを覚えるクルマへと仕上げられている。「MX-30 ロータリーEV」も、それに近い乗り味になっているようだ

「MX-30 EV MODEL」は、荒れた路面もうまくいなす快適な乗り心地や、低重心かつオン・ザ・レール感覚のコーナーリングなど、運転していて楽しさを覚えるクルマへと仕上げられている。「MX-30 ロータリーEV」も、それに近い乗り味になっているようだ

ロータリーエンジンファンからは共感の声も多い

「MX-30 ロータリーEV」は、どのようなユーザーがターゲットなのだろうか。国内商品マーケティング部の竹下雅人さんによると、「このクルマに興味を持っていただけるお客様には、2つのパターンがあります」と言う。

「ひとつは、昔からマツダを支えてくれていた、ロータリーエンジンファンの皆さん。そして、もうひとつは電気自動車という新たな時代に、どのようなクルマを買えばよいのかと検討を始めた方たちです。後者の方は、これまでマツダと関わりがなかったような人たちです」と話す。

前者のロータリーエンジンファンからは、「(ロータリーを)どのような形でもよいから復活してくれてありがとうとか、うれしいなどといった声が多く聞かれます。ロータリーエンジンで直接駆動するわけではないので、厳しめの声が多いかもと予想していたんですが、マツダファンやロータリーエンジンファンの方からはポジティブな声を多くお寄せいただいています」とのことだ。

後者の、マツダと関わりがなかった人で、電駆なので検討するという顧客に対しては、「まず、マツダの電駆にはどのような特徴があるのか。あまり奇をてらったものではなく、電駆であっても“人馬一体”を実現しており、人間中心で開発していることをきちんとお伝えしていきます。そのうえで、ロータリーエンジンを搭載することで実現できた価値に共感してもらえればよいと考えています」と述べる。

「ロータリーエンジン」復活を象徴した特別仕様車「Edition R」

「MX-30 ロータリーEV」のデザインは、ほかの「MX-30」シリーズと比べて大きな違いはない。強いて挙げれば、アルミホイールは空気抵抗が考えられた「ロータリーEV」専用のものが装着されていることくらいだ。そのほか、専用のエンブレム類やルーフアンテナがシャークフィンになっていることで識別できる。また、内装色は専用のブラック内装が追加されている。

しかし、発電用と言えどもロータリーエンジンの復活である。そこで、特別仕様車として「Edition R」が設定された。車名の“R”は、「『RX-8』のファイナルエディション、『Spirit R』のRを受け継ぎ、必ず復活させる、リターンという思いをこのRに込めた特別仕様車です」と、デザイン本部チーフデザイナーの松田陽一さんは言う。

「MX-30 ロータリーEV Edition R」のフロント、リアエクステリア。ボディカラーは、スペシャリティー感を引き立てる「チェットブラック」をベースに、「マロンルージュメタリック」のルーフサイドを組み合わせたマルチトーンだ

「MX-30 ロータリーEV Edition R」のフロント、リアエクステリア。ボディカラーは、スペシャリティー感を引き立てる「チェットブラック」をベースに、「マロンルージュメタリック」のルーフサイドを組み合わせたマルチトーンだ

「『Edition R』のルーフサイドに採用されている『マロンルージュメタリック』は、マツダ初の乗用車である『R360クーペ』のルーフ色をメタリックとして復刻したもので、2020年に発表した100周年記念車にも採用されているヘリテージカラーです。『MX-30』の内装に使用したコルク(マツダの始祖は東洋コルク工業)、フリースタイルドア(RX-8)、『MX』という特別な車名、そしてロータリーエンジンの復活と合わせて、『MX-30』のヘリテージ要素を形作る大事なピースのひとつとして『マロンルージュ』を復活させました」と松田さん。

特別仕様車の「Edition R」には、ロータリーEVのシンボルをエンボス加工した専用のへッドレスト(上)や、中央にロータリーEVのシンボルのアルミプレートが入れられた専用カーペット(下)が採用されている

特別仕様車の「Edition R」には、ロータリーEVのシンボルをエンボス加工した専用のへッドレスト(上)や、中央にロータリーEVのシンボルのアルミプレートが入れられた専用カーペット(下)が採用されている

さらに専用のキーフォブも設定された。「ロータリーエンジンの特徴であるローターは、クルマを購入しても実際に見たり触ったりできません。この歯がゆい思いをなんとかしたいと思い、手で触れられるデザインとしてキーフォブを作り込みました」とそのこだわりを語った。

キーフォブは、面の曲率を「8C」のローターと同じにするため、実際のCADデータを使って作り出している。また、サイドスリットをアペックスシールの幅と合わせるなど、こだわって作り込まれている

キーフォブは、面の曲率を「8C」のローターと同じにするため、実際のCADデータを使って作り出している。また、サイドスリットをアペックスシールの幅と合わせるなど、こだわって作り込まれている

ロータリーエンジンの新たな時代の幕開け

マツダのロータリーエンジンが復活したことは、素直によろこびたい。たとえ、それが発電用エンジンだとしても、マツダのこれまでの技術の粋を集めた汗と涙の結晶だ。たしかに、駆動しなければそのフィーリングは味わえないし、音も違っているだろう。しかし、それは誰よりも、マツダがいちばんよくわかっていることだ。

マツダは、経営方針として2030年に向けての電動化戦略を進めている。その第1フェーズにおいて、「MX-30 ロータリーEV」を含むスモール商品群や、ラージ商品群のプラグインハイブリッド、ディーゼルのマイルドハイブリッドなど、環境と走りを両立する商品で収益力を向上させ、バッテリーEV専用車への技術開発を本格化させるという。そして、第2フェーズでは電動化への移行期間における電費向上によるCO2削減を目指し、これまで積み上げてきた技術資産を有効に使った、新たなハイブリッドシステムを導入して、マルチ電動化技術をさらに磨いていく。

このフェーズにおいては、グローバルにEVの導入を開始するだけでなく、内燃機関は熱効率のさらなる改善技術の適用が挙げられている。これは再生可能燃料の実現性に備えたものと発表されているので、ここでロータリーエンジンが活躍しそうだ。

その理由は、ロータリーエンジンは多様な燃料に対応可能であるからだ。ガソリンはもとよりCNGやLPGなどを燃やすこともできる。つまり、これはインフラや燃料の流通状況に応じて拡張性を持たせることが可能ということだ。今後のカーボンニュートラル燃料や水素が普及してくると、これらの燃料と組み合わせればさらなる可能性が広がっていく。まさに、「MX-30 ロータリーEV」こそが、ロータリーエンジンの新たな時代の幕開けとなると、筆者は強く感じている。

内田俊一

内田俊一

日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を活かし試乗記のほか、デザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。

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MX-30の製品画像
マツダ
3.91
(レビュー45人・クチコミ964件)
新車価格:264〜501万円 (中古車:165〜425万円
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