特別企画

懐かしくて新しい!ホンダのコンセプトカーが示す近未来のクルマ像

ホンダは、「ジャパンモビリティショー2023」へ、懐かしさを覚えるような外観を纏った「SUSTAINA-C Concept」と「Pocket Concept」という2台のコンセプトカーを出展した。

右の四輪車が「SUSTAINA-C Concept」で、左の二輪車が「Pocket Concept」

右の四輪車が「SUSTAINA-C Concept」で、左の二輪車が「Pocket Concept」

パッと見た瞬間に、初代(あるいは2代目の雰囲気もある)「シティ」と「モトコンポ」の面影が感じられる2台は、どのようにして開発、デザインされたのだろうか。担当デザイナーへ聞いてみた。

技術の先行開発のために制作された

今回、同ショーへ2台を出展した理由は何なのだろうか。本田技術研究所 デザインセンター e-モビリティデザイン開発室 プロダクトデザインスタジオ チーフデザイナーの古仲学さんに話をうかがうと、「実は、ジャパンモビリティショーのために作ったのではなく、先行開発として制作した車両なのです」と明かす。

本田技術研究所 デザインセンター e-モビリティデザイン開発室 プロダクトデザインスタジオ チーフデザイナーの古仲学さん

本田技術研究所 デザインセンター e-モビリティデザイン開発室 プロダクトデザインスタジオ チーフデザイナーの古仲学さん

先行開発について、通常の開発と比較して説明しよう。たとえば、次期型を開発する場合、通常の開発では外観に現行型が用いられ、中身を次期型にして開発することが多い。だが、先行開発の場合は次期型よりもさらに先の技術を含めた開発を行うことをさす。

「SUSTAINA-C Concept」には、ソーラーパネルや樹脂パネルなどが用いられているのだが、形にしないことにはイメージがわきにくい。そこで、「SUSTAINA-C Concept」は、これから出てくる小型の電気自動車プラットフォームをベースに、新しい技術を使えばこんなことができるという、いわば技術のショーケースとしてデザインされたのだ。

ボディパネルにも採用できる「アクリル樹脂」の開発

「SUSTAINA-C Concept」には、さまざまな新技術が用いられているのだが、今回は水平リサイクル(使用済みの製品から、同じ製品を作り出すリサイクルシステム)可能な「耐衝撃性アクリル樹脂」についてあげてみたい。

まず、アクリルは耐候性や平滑性にすぐれており、高い発色性と透明性をもっていることから、塗装せずにさまざまなデザインが可能だ。現在は、主にテールランプなどに用いられている。いっぽう、使用済みのアクリル樹脂の処理は、分別回収やリサイクルの技術的な難しさなどから、焼却の際に発生する熱エネルギーの回収・利用にとどまっていた。さらに、アクリルは衝撃が加わると割れやすい欠点もあるので、車両のボディパネルなどに適用することは難しかった。

そこでホンダは、三菱ケミカルと共同でこの問題に取り組み、アクリル樹脂の再生に関する実証実験を進めている。そして、そのアクリル樹脂の特徴を生かしたボディパネルが、「SUSTAINA-C Concept」に採用されているのだ。

アクリル樹脂を使ったボディパネルの展示

アクリル樹脂を使ったボディパネルの展示

「SUSTAINA-C Concept」には、塗装の必要がないアクリル樹脂の特徴を生かしたデザイン表現にも取り組んでおり、アクリル樹脂のすぐれた平滑性と発色性の高さを利用した彩度の高いボディ色の採用と、透過性のある蛍光アクリル材の効果的な配置によって高いデザイン性が表現されている。また、ボディパネルを成型する過程で発生する樹脂の流れでマーブル模様を表現するなど、アクリル樹脂ならではのデザインを追求しているのだ。

テールゲートをスマホの画面のように

そして、もうひとつはアクリル樹脂を用いた「スクリーンテールゲート」だ。アクリル樹脂の特徴であるすぐれた透明性を生かして、テールゲートをスマートフォンの画面のように一枚のパネルとして成型。その裏側からテールランプなどを透過させる「スクリーンテールゲート」を採用している。アクリル材の裏側から透過するテールランプには、MINI LEDディスプレイを使用している。

「スクリーンテールゲート」は、テールランプとしての機能だけではなく、さまざまな映像表現や文字を表示させることができる。さらに、駐車中の充電状態の表示や周りのクルマとコミュニケーションなど、従来にないクルマの使い方が考慮されているのも面白い

「スクリーンテールゲート」は、テールランプとしての機能だけではなく、さまざまな映像表現や文字を表示させることができる。さらに、駐車中の充電状態の表示や周りのクルマとコミュニケーションなど、従来にないクルマの使い方が考慮されているのも面白い

このような新技術は、実際に見て、触れてみなければわからないものばかり。「SUSTAINA-C Concept」は、そのために誕生したコンセプトモデルと言えるだろう。

鉄板ではないアクリルならではのデザイン

ところで、「SUSTAINA-C Concept」は、なぜ可愛らしく、少し懐かしさを感じさせるデザインを纏っているのだろうか。古仲さんにそのコンセプトを聞いてみると、「グランドコンセプトは『エコ』と『エゴ』。環境によいことや地球にやさしいことと、みずからがやりたいことを両立させているのです」と話す。

エコは、前述のとおりさまざまな技術的トライのことをさす。しかし、それだけだと「お客様としては、『いいですよね』で終わってしまうでしょう。やはり、心に打つものがないといけないのです。そこで、アクリル樹脂を使った特徴、スケルトンのパネルや2色を同時に成形したものなどを作って、それぞれを付け替えられるようにしたり、違う色の素材を混ぜ合わせることによってマーブル模様ができたりといったことなどをデザインとして取り込むことをトライしました。鉄板に塗装する工程だとできないようなデザインによって、環境によく、さらに見た目の楽しさを両立させているのです」。

「SUSTAINA-C Concept」のリアコンビランプは、映像という形で表現されている

「SUSTAINA-C Concept」のリアコンビランプは、映像という形で表現されている

「SUSTAINA-C Concept」は、リアコンビランプも特徴的だ。当初は市販車のようなものがついていたそうだが、「もっとシンプルにして、法規的にどうかは置いておいて、デザインは自分が好きな形にできるといい。さらに、テールゲートはスマホの画面みたいに真っ黒にして、できればタッチパネルにしたい。そして、テールゲートに触れたらさまざまなことができる。そうなれば、もっとクルマの楽しさを、運転するだけではなく触れて、楽しめて、自分好みにカスタマイズできるのではと思っています」。

楽しさを凝縮したホンダらしいエクステリア

そして、今回最も聞いてみたかったことが、「SUSTAINA-C Concept」のモチーフについてだ。「年代にもよりますけれど、ご存じの方は昔の『シティ』と『モトコンポ』を想像されるでしょう」と古仲さん。「ホンダは75年間、クルマとオートバイを作り続けてきました。その歴史の中で、我々の先輩方が作ってきた“財産”がたくさんあるのです。それらを、うまく次に伝えていきたいという思いもありました」と言う。

古仲さんによると、「ホンダらしい“ユニークネス”をテーマとして、車内でデザインコンペを行ったときに、このデザインが提案されたのです。たとえば、ホンダの古くを知っている人なら『これがホンダだよ』と思っていただけるでしょうし、若い人なら知らなくても『なんかよさそう』と感じてもらえると思い、今回のデザインを選択したのです」と教えてくれた。

「SUSTAINA-C Concept」(左)と「Pocket Concept」(右)

「SUSTAINA-C Concept」(左)と「Pocket Concept」(右)

また、古仲さんはこうも言う。「一台に楽しさをギュッと凝縮したクルマです。『Honda e』も割とそのような観点に近いと思うのですが、それ以上に技術がたくさん入っています。技術は人が感じるものですから、理屈っぽくならずにパッと見て『いいな、楽しいな、こういうの触ってみたい、乗ってみたい』と思ってほしかったのです」と語っていた。

電気の時代でも楽しさを忘れない

では、「SUSTAINA-C Concept」の横にちょこんと置いてある「Pocket Concept」についても聞いてみよう。

「Pocket Concept」のフロント、リアイメージ

「Pocket Concept」のフロント、リアイメージ

「これも『モトコンポ』とは言っていないのですが、車載できるように設計されています。折りたたんだ状態で、積載できるのです。デザインそのものは二輪のデザイナーが手掛けておりまして、これも『SUSTAINA-C Concept』と同じようにホンダのヘリテージの中から、何かいいものを提案するというコンペを実施した中の案になります。『SUSTAINA-C Concept』と同じように、外板のパネルは樹脂パーツなのですが、二輪車は比較的樹脂パーツを使うことが多いので手慣れた感じですね。2台をセットで見せることによって、知っている人なら『電気の時代になっても、ホンダはまた戻ってきたな』と思ってもらえるでしょうし、若い人も楽しそうと感じてもらえるでしょう」と話してくれた。

2台のコンセプトカーは、単にノスタルジーなデザインだけだと、きっと懐かしさだけで終わってしまったのだろうが、未来を見据えた新技術を採用したことで、過去から未来に向けてのつながりを見せてくれ、そこには新鮮さが感じられた。ちょっとだけおもちゃっぽく感じさせてくれるこの2台、親しみやすさという点においては「ジャパンモビリティショー2023」のトップといっても過言ではないだろう。

写真:中野英幸・内田千鶴子・価格.com中島

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内田俊一
Writer
内田俊一
1966年生まれ。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を生かしてデザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。長距離試乗も行いあらゆるシーンでの試乗記執筆を心掛けている。クラシックカーの分野も得意で、日本クラシックカークラブ(CCCJ)会員でもある。
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桜庭智之(編集部)
Editor
桜庭智之(編集部)
自動車専門メディアで編集者として10年間勤務した後「価格.comマガジン」へ。これまで、国産を中心とした数百の新型車に試乗しており、自動車のほかカーナビやドラレコ、タイヤなどのカー用品関連も担当する。
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