前回は、ホンダ「ヴェゼル」とマツダ「CX-30」の2台の内外装について比較したが、今回は両車の走行性能や乗り心地について比べてみたい。
ちなみに試乗したグレードは、ホンダ「ヴェゼル」が1.5L直4エンジンを搭載したハイブリッドの「e:HEV Z」(2WDで価格は300万1,900円)。対するマツダ「CX-30」が2L直4エンジンにマイルドハイブリッドを搭載する「20Sプロアクティブツーリングセレクション」(2WDで価格は301万2,900円)だ。
ホンダ「ヴェゼル」が搭載するハイブリッドシステム「e:HEV」では、エンジンは主に発電を担い、その電気を使ってモーターを駆動する仕組みだ。また、高速巡航時にはガソリンがホイールを直接駆動するなど、燃費効率を向上させる制御も行われる。駆動を担当するモーターの最高出力は131PS、最大トルクは25.8kg-mになる。「e:HEV」は主にモーター駆動なので、運転感覚は電気自動車に近い。アクセル操作に対して、モーターが素早く反応して速度を滑らかに上昇させ、ノイズも少ない。
「ヴェゼル」に搭載されている「e:HEV」は、モーターとエンジンを高効率に使い分けるホンダ独自の2モーターハイブリッドシステムだ
いっぽうの「CX-30」のエンジン性能は、最高出力が156PS(6,000rpm)、最大トルクは20.3kg-m(4,000rpm)だ。2リッターのガソリンエンジンとしては、実用回転域の駆動力が高く運転しやすい。1,800〜2,000rpm付近でも余裕のある動力性能を発揮して、4,000rpmを超えた領域の吹け上がりも活発だ。運転がしやすくて楽しいという、ガソリンエンジンのすぐれた特徴を味わえる。
「CX-30」のガソリンエンジンは、マイルドハイブリッドと組み合わせることで心地よい走りと燃費を両立させた「e-SKYACTIV G 2.0」が搭載されている
このように、「ヴェゼル」はモーター駆動が中心となるハイブリッドシステムのよさが味わえて、マイルドハイブリッドの「CX-30」はガソリンエンジンの特徴が明確に表現されている。
「ヴェゼル」は、走り出しからとても静かですね。踏み増したときの加速なども滑らかで快適に運転できます。「CX-30」は、普段私がガソリン車に乗っていることもあって、とても自然でなじみやすい感覚なので運転しやすいです
結果:
「ヴェゼル」はハイブリッドのよさを、「CX-30」はガソリンエンジンのよさをそれぞれ味わえる
「ヴェゼル」の運転感覚は、落ち着いた印象だ。ステアリング操作に対する車両の反応が穏やかなので、初心者のドライバーにもなじみやすい。後輪の接地性や、走行安定性が重視されているセッティングだ。幅広いユーザーにとって、運転しやすいクルマだろう。
「ヴェゼル」は、ブッシュの改良やサスペンションの最適化などによって乗り心地の向上が図られているほか、エンジンマウントの構造見直しなどによってエンジンノイズや振動の低減なども行われている
いっぽうの「CX-30」は、ステアリング操作に対して車両の進行方向が正確に変わる。軽快感もあり、ワインディングなどではスポーティーな走りが味わえる。よく曲がる特徴を備えながら、下り坂のカーブなどでは後輪がしっかりと接地しているので、不安な印象を受けない。運転の楽しさと安心感を両立させている。
「CX-30」には、ドライバーのハンドル操作に応じてスムースな車両挙動で安定感のある走りを実現する技術「Gベクタリングコントロールプラス」が採用されている
以上のように、「ヴェゼル」は運転のしやすさや直進安定性を重視して開発されているので、市街地や高速道路などの走行に適している。「CX-30」は全高を1,540mmに抑えたこともあって、低重心でよく曲がる。「MAZDA3」のような、ミドルサイズハッチバックに近いスポーティーな運転感覚が特徴的だ。
「ヴェゼル」は、高速道路などを運転していると身体の揺れがとても少なくて、直進安定性の高さが感じられますね。ハンドルに路面のコツコツ感などが伝わらないので、快適に運転できます。「CX-30」の乗り味は少し硬めで、ハンドリングにしっかりとした重厚感が感じられます。運転していて楽しいと感じるのは「CX-30」のほうですね
結果:
「ヴェゼル」は市街地や高速道路などで運転しやすい
「CX-30」はワインディングなどでスポーティーに運転できる
乗り心地は、両車ともにコンパクトSUVでは快適な部類に入るだろう。そのうえで比べてみると、「ヴェゼル」は指定空気圧が若干低めに設定されており、乗り心地が柔軟に感じられる。「CX-30」は、クルマ好きに適した引き締まり感のある乗り心地だ。
エンジンなどのノイズは、「ヴェゼル」は「e:HEV」なのでエンジンを停止してモーターのみで走行するため、ノイズは小さい。「CX-30」は相応にノイズが響くが、音質に違和感がないようなチューニングが施されている。
結果:
乗り心地は「ヴェゼル」はやわらかめで「CX-30」は硬め
どちらの乗り心地もコンパクトSUVとしては快適
「ヴェゼル」の「e:HEV Z」のWLTCモード燃費は24.8km/L。「ヴェゼル」はフルハイブリッドなので、減速エネルギーを利用した発電も積極的に行われるため、燃費性能にすぐれている。
「CX-30」e:HEVモデルのエンジンルーム。エンジンは、1.5リッターガソリンが採用されている
「CX-30」の2WDモデルの燃費は、2Lガソリンエンジンによるマイルドハイブリッドが16.2km/Lで、1.8Lクリーンディーゼルターボエンジンは19.5km/Lになる。
「CX-30」e-SKYACTIV G 2.0のエンジンルーム
もし、「CX-30」で燃費を重視するならば、クリーンディーゼルターボを選ぼう。WLTCモード燃費は19.5km/Lだが、軽油価格はレギュラーガソリンに比べて1L当たり20円ほど安い。したがって、燃料代をハイブリッドのe:HEVに近い金額まで節約できるからだ。そのいっぽうで、クリーンディーゼルエンジンの最大トルクは27.5kg-m(1,600〜2,600rpm)と高く、実用回転域の駆動力にも余裕がある。
結果:
「ヴェゼル」e:HEVは燃費にすぐれる
「CX-30」で燃料代を節約するならディーゼルモデルがよい
「ヴェゼル e:HEV Z」の価格は、2WDで300万1,900円。後方の並走車両を検知する「ブラインドスポットモニタリング」などの機能はオプション設定だが、フルハイブリッドの「e:HEV」が搭載され、すぐれた燃費と動力性能を持ち合わせている。
「CX-30 20Sプロアクティブツーリングセレクション」の価格は、2WDで301万2,900円。2Lのマイルドハイブリッドとしては高めだが、「ブラインドスポットモニタリング」や、車両を上側から見たような映像としてモニター画面に表示する「360度ビューモニター」、10.25インチのセンターディスプレイ、運転席の電動調節機能など、装備が充実している。
また、車内の使い勝手や雰囲気を比べると、「ヴェゼル」は後席が広く、シートアレンジも多彩で荷室も使いやすい。「CX-30」は、ドライバーや走りを優先させた作りなので、車内もスポーティーな雰囲気を味わえる。
そこで、運転感覚や居住性、価格の割安感などを総合的に判断すると、「ヴェゼル」は車内が広くシートアレンジも実用的で、燃料代も安い。そして、価格は機能や装備の割に安く抑えられている。したがって、買い得感を重視するファミリーユーザーに適しているだろう。
いっぽう、「CX-30」はSUVの中ではスポーティーで趣味性が強いモデルだ。主に、2名以内で乗車するクルマ好き、走りが好きなユーザーにピッタリだろう。さらに、全高が1,550mm以下なので立体駐車場も使いやすい。
両車ともに、ボディサイズは同程度で価格もほぼ同じだが、個性や持ち味は明確に異なっているので、前述した内容を比べながら判断してほしい。
結果:
「ヴェゼル」はファミリーユーザーに、「CX-30」は走り好きなユーザーにおすすめ
(写真:島村栄二)