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新型「5シリーズ」には600馬力のEVも! BMWの中核セダンを詳細解説

BMWジャパンは、フルモデルチェンジした新型「5シリーズ」の日本導入を開始した。納車は、ガソリンエンジンを搭載した「523i」と電気自動車の「i5」は2023年後半からすでに始まっており、ディーゼルエンジンを搭載した「523d xDrive」については2024年前半が予定されている。グレードラインアップや価格については、以下のとおりだ。

同シリーズ初のマイルドハイブリッドシステムや電気自動車がラインアップされた、BMW 新型「5シリーズ」。画像は、電気自動車のMパフォーマンスモデル「i5 M60 xDrive」

同シリーズ初のマイルドハイブリッドシステムや電気自動車がラインアップされた、BMW 新型「5シリーズ」。画像は、電気自動車のMパフォーマンスモデル「i5 M60 xDrive」

■BMW 新型「5シリーズ」セダンのグレードラインアップと価格
- ガソリンエンジン搭載モデル(48Vマイルドハイブリッド) -
523i Exclusive:798万円
523i M Sport:868万円
- ディーゼルエンジン搭載モデル(48Vマイルドハイブリッド) -
523d xDrive M Sport:918万円
- 電気自動車 –
i5 eDrive40 Excellence:998万円
i5 eDrive40 M Sport:998万円
i5 M60 xDrive:1,548万円

2024年2月7日には、ステーションワゴンの「ツーリング」の日本発売も発表された「5シリーズ」。当記事では、新型「5シリーズ」のセダンにおける詳細について解説したい。

電気自動車には600PS超のハイパフォーマンスモデルも

新型「5シリーズ」セダンのパワートレインは、マイルドハイブリッドを搭載したガソリンエンジン搭載モデルとディーゼルエンジン搭載モデル、そして電気自動車の3種類がラインアップされている。

「523i」に搭載される2リッター直列4気筒ターボガソリンエンジンは、従来モデルに対して高精度なターボシステムやバルブ制御に加え、ツインインジェクションを搭載したミラーサイクルエンジンへと進化している。その結果、低燃費でダイナミックな走りを実現するとともに、48Vマイルドハイブリッドシステムが組み合わされることによって、システムトータルの最高出力は190PS(140kW)、最大トルクは310Nmを発揮する。

いっぽう、「523d」に搭載される2リッター直列4気筒ターボディーゼルエンジンは、ピストンの軽量化などの改善に加えて、シーケンシャルツインターボの電子制御の精度向上などが施されている。ガソリンエンジンと同じ48Vマイルドハイブリッドシステムが組み合わされたシステムトータルの最高出力は197PS(145kW)、最大トルクは400Nmを発生させる。また、ディーゼルエンジン搭載グレードの駆動方式は4WDのみだ。

電気自動車の「i5」については、大きく2つのバリエーションがある。ひとつは、M社が関わる「Mパフォーマンスモデル」として開発された「i5 M60 xDrive」だ。前後輪に1つずつモーターが搭載される四輪駆動モデルで、それぞれ最高出力261PS(192kW)、340PS(250kW)を発生させる。システムトータルの最高出力は601PS(442kW)、最大トルクは820Nmで、「Mスポーツブースト」または「Mローンチコントロール」機能を作動させた際の0-100km/h加速は3.8秒という俊足ぶりを見せる。また、ボディ床下に収納されているリチウムイオン電池の総エネルギー量は81.2kWhで、一充電での走行可能距離は455kmとなっている。

もういっぽうのグレード「i5 eDrive40」(Excellence、M Sport)は、最高出力が340PS(250kW)を発生させる電気モーターが後輪に搭載されている後輪駆動モデルだ。最大トルクは430Nmで、「スポーツブースト」または「ローンチコントロール」機能を作動させた際の0-100km/hは6.0秒。また、ボディ床下に収納されているリチウムイオン電池の総エネルギー量は83.9kWhで、一充電での走行可能距離は580kmである。

左上が「i5 eDrive40」で、右下が「i5 M60 xDrive」

左上が「i5 eDrive40」で、右下が「i5 M60 xDrive」

5シリーズにEVが初めてラインアップされたワケ

さて、BMWのエンジンといえば直列6気筒のイメージが強いと思う。筆者が少々気になったのが、先代の「5シリーズ」では直列6気筒エンジンを搭載したPHEVモデルがラインアップされていたのに、今回の新型では直列4気筒エンジンか電気自動車の選択肢しかなく、本国にラインアップされている直6PHEVモデル「550e xDrive」の日本導入は見合わせていることだ。

この点について、BMW プロダクトマネージャーの御舘康成さんに聞いてみると、「我々がリードして、電気自動車に移行させていかなければならないと思っているからです」と言う。

画像は先代「5シリーズ」の6気筒エンジン搭載モデル「540i」。新型「5シリーズ」には、6気筒エンジン搭載モデルはラインアップされていない

画像は先代「5シリーズ」の6気筒エンジン搭載モデル「540i」。新型「5シリーズ」には、6気筒エンジン搭載モデルはラインアップされていない

BMWは、2030年に世界販売の50%を電気自動車にするという目標を掲げている。したがって、「日本は自動車先進国ということもあって、電気自動車の販売比率は当然50%以上に設定されるでしょう。そして、その答えを今持っていないメーカーは実現できません。ですが、我々BMWは未来を作るメーカーですから、有言実行します。その答えを、新型『5シリーズ』で表したのです。それが、今回のラインアップに隠された意図なのです」と御舘さんは語る。

つまり、BMWはこれまで「5シリーズ」のリーダー的な存在であった直6のPHEVモデルから、今後は電気自動車の「i5」が新たな「5シリーズ」の象徴になることを見据えて、「550e xDrive」の導入を見送ったのだ。

また、「i5」は価格にもこだわっていると言う。「先代のPHEV(825万円から)に性能差、装備差を加えるとこの価格(998万円から)になりますので、フェアな値付けです。決して、バッテリーが高いからといったコストアップなどではありません」と話す。

EVの導入で走行安定性も飛躍的に向上

また、御舘さんは走りに関しても自信を見せる。

「サスペンションコントロール技術がとても向上しています。電気自動車の課題のひとつが、クルマが重くなることですが、スタートダッシュは、電気モーターによってすぐに最大トルクを発揮しますし、静的な重量配分で言えば50:50にできます。ですが、動的な重量点の移動(加減速時やコーナーリング時など)に対しては、やはり難しいんですね。それをコントロールするためには、サスペンションコントロール技術を(内燃機関車よりも)1段も2段も高める必要があるのです。そこで、『i5 M60 xDrive』では特にこだわり、『インテグレーテッドアクティブステアリング』(後輪ステア)と、『アダプティブMサスペンションプロ』を装備させました。特に後者は、スタビライザーに電動アクチュエーターを使っていますので、動的重心点の変更を極力抑え、常にクルマの挙動をドライバーの意図したものにできます。特に、電気自動車では使える電圧レベルが高くなり、同時に制御レベルも上がりますから、電気自動車のネガを完璧に潰すことができました」と説明する。

「i5 M60 xDrive」には、電子制御スタビライザーを含む「アダプティブMサスペンションプロ」が標準装備されており、ダイナミックな走行性能と快適な乗り心地を高い次元で実現しているという

「i5 M60 xDrive」には、電子制御スタビライザーを含む「アダプティブMサスペンションプロ」が標準装備されており、ダイナミックな走行性能と快適な乗り心地を高い次元で実現しているという

走りに関して、御舘さんはなぜここまで自信のある説明ができるのか。実は、彼はBMW社内でも走りに関して相当なうるさ型なのだ。本国でも、実際にテスト走行した御舘さんが言うには、「アウトバーンを200km/hで走らせても、ワインディングを走らせても、驚きを隠せないほどに走りが変わっています。2030年に、50%電気自動車の販売割合を達成したとき、7年前に出た『i5』がゲームチェンジャーだったのだなと、思い返すことでしょう。それほど高い完成度です」と語っていたのが印象的だった。

「シャークノーズ」が復活!

新型「5シリーズ」のデザインについても、少し触れておきたい。初代から3代目まで採用されていた「シャークノーズ」が今回の新型で復活したのだ。

前方へ突き出すようなフロントフェイスのデザイン「シャークノーズ」は、「5シリーズ」では初代〜3代目まで採用されていた。画像は初代モデル

前方へ突き出すようなフロントフェイスのデザイン「シャークノーズ」は、「5シリーズ」では初代〜3代目まで採用されていた。画像は初代モデル

キドニーグリルが縦に伸ばされ、前方へ突き出た「シャークノーズ」が採用されている、新型「5シリーズ」の特徴的なフロントフェイス

キドニーグリルが縦に伸ばされ、前方へ突き出た「シャークノーズ」が採用されている、新型「5シリーズ」の特徴的なフロントフェイス

「シャークノーズ」は空力的に不利であったことから、4代目以降は採用されなくなっていた。だが、今回「シャークノーズ」が再び採用されることで、「格式と車格感を高めています。『シャークノーズ』によってボンネットが長く取れますので、ロングボンネット=高性能パワートレインがそこに入っていると想起させるといった高級感も十分に演出できます。もちろん、空力もCD値0.23とセダンとして非常に優秀な値です」とのことだ。

また、「ジッカライン」と呼ばれるフロントからドアハンドルを通ってリアに抜けるキリッとしたプレスラインが、今回の新型「5シリーズ」では省かれている。「これまでは、鉄板をシャープに折り曲げることで精緻さとスポーティーさを表現していましたが、新型は鉄の塊を削り出したかのような重厚感を持ち合わせています。つまり、面の表情をうまく使って、ひとクラス上の印象を与えているのです」と述べた。

新型「5シリーズ」のサイドイメージ。先代モデルにあった、ドアハンドル付近の左右に伸びる特徴的なプレスラインが新型では無くなっている

新型「5シリーズ」のサイドイメージ。先代モデルにあった、ドアハンドル付近の左右に伸びる特徴的なプレスラインが新型では無くなっている

「5シリーズ」こそBMWを象徴したモデル

新型「5シリーズ」は、BMWが電動化へ向けたゲームチェンジャーとして登場させたことは、前述の話でおわかりいただけたことだろう。そこへ、もうひとつ重要なポイントが加わる。それは、「BMWのど真ん中のクルマとして、存在感を高めることです」と御舘さん。

その思いの裏側には、販売台数がある。「日本において、『5シリーズ』の販売台数はそれほど大きくないのが現状です。どうしても、『3シリーズ』の陰に隠れてしまうためです。BMWは、駆けぬける歓びと高級車らしい快適な乗り心地の両方を妥協せず、高めるために持てる技術を導入し、走り込みをするブランドです。そして、世界のスポーツセダンのベンチマークである『3シリーズ』よりも広く快適で、フラッグシップとしてラグジュアリードライブの頂点を極めた『7シリーズ』に対して、オーナードライバーズカーとしてスポーティーな『5シリーズ』が存在するのです。そして、この『5シリーズ』こそがまさにBMWと思えるのです。走りも、SUVよりもセダンのほうが、着座位置が重心点に近いことからクルマと一体になれますし、ハッチゲートがないぶん、静粛性と快適性が担保されます。そう考えると、BMWが最も作りたいのは『5シリーズ』セダンだろうというのが私の考えです」と、「5シリーズ」についての想いを語ってくれた。

新たに電気自動車が加わった新型「5シリーズ」は、走りや静粛性、快適性がさらに向上。まさに、BMWの方向性そのものを表したクルマだ

新たに電気自動車が加わった新型「5シリーズ」は、走りや静粛性、快適性がさらに向上。まさに、BMWの方向性そのものを表したクルマだ

日本では、「3シリーズ」と「7シリーズ」の間に挟まれて、いまひとつ影が薄かった「5シリーズ」。しかし、実は「M3」よりも「M5」のほうが先に登場しているし、さまざまな先進技術もいち早く搭載されてきた。つまり、今のBMWらしさが最もよく表れているのが新型「5シリーズ」なのだ。

(写真:内田俊一、ビー・エム・ダブリュー)

内田俊一
Writer
内田俊一
1966年生まれ。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を生かしてデザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。長距離試乗も行いあらゆるシーンでの試乗記執筆を心掛けている。クラシックカーの分野も得意で、日本クラシックカークラブ(CCCJ)会員でもある。
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桜庭智之(編集部)
Editor
桜庭智之(編集部)
自動車専門メディアで編集者として10年間勤務した後「価格.comマガジン」へ。これまで、国産を中心とした数百の新型車に試乗しており、自動車のほかカーナビやドラレコ、タイヤなどのカー用品関連も担当する。
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